第20話 決勝 ジル vs キャンディ 1
「さ、さあ決勝開始のカウントダウン始めますねー! じゅーう! きゅーう!」
リング上はピリついた雰囲気のまま。
女性スタッフはキャンディが巨大ペロペロキャンディを生成した後、すぐ逃げるようにリング外に降りてカウントダウンを始めた。
キャンディの表情にこれまでの相手を舐めた様子は無く完全に戦闘モード。殺意すら感じる表情。
本気でジルを潰す気である。
下手をすれば死ぬ。そういう戦いになるとジルは確信していた。
「ふーっ……」
ジルは深呼吸をする。
その様子を見たキャンディが言い放った。
「安心しなさい。全身の骨折るぐらいで済ませるから。多分」
「……それは嬉しいな……」
ジルの頬を冷や汗が伝った。
「にーい! いーち! ファイトー!!」
試合開始の合図とともに、今までと違いキャンディが突進する。
少女はダッシュしつつ、右手一本で巨大ペロペロキャンディを振りかぶる。
お菓子といえど自身の身長より長く、飴部分は自身の胴体の長さ程ある生成物。
それを片手で難なく持ち上げているのは能力による補助と魔族ゆえのパワーだろう。
人外の速さの攻撃だったが、殺意に任せた大振りだったこともありジルは問題なく後ろに跳んで躱す。これほどの巨大生成物を木剣で受けられるのか怪しいというのもあった。
振り下ろされた巨大ペロペロキャンディがリング上に激突する。
ドガッと石の床が砕ける音。
キャンディがすぐ武器を持ち上げると飴部分も少し砕けていた。だがそれはあっという間にキャンディの能力により修復されていく。
石をも砕くお菓子ってなんだよ。
いやそうか。巨大にしただけじゃなく、飴を濃縮圧縮して強度を上げているんだ。
ジルが一瞬の間に考察を済ませていると、キャンディが左手人差し指をまっすぐ向けてくる。
「? っ!」
その行動の意味を察したジルはすぐに横っ飛び。
瞬間、先程までジルがいた位置に円錐の槍型チョコレートが飛んでくる。矢のような速度。
回避に成功したジルにまたスッと左手人差し指が指され、ゾッと死の匂いを感じたジルはキャンディに対し横に全力で走る。
次の瞬間にはまたボッと空気を貫く音と共にチョコの円錐槍。そのまま連続で放たれていく。
次々と聞こえる空気を裂く音。
リング外の地面にチョコの槍が刺さる。もはやまったくお菓子の体を成していない。
だか、急にピタッと攻撃が止まる。
「審判さん、邪魔」
射線に審判がいる位置まで走っていたようだ。
キャンディもさすがに試合の相手でもない人間に危害を加える訳にはいかない。最悪の場合、フラーシア王国での自由は無くなり討伐対象である。
「ふぅっ……」
ジルはようやく一息つきつつ考える。
(そっか……これは試合だ、戦闘じゃない。闘技場のルール上でなら勝ち目がある)
ジルが考えている間に審判は邪魔にならないよう、さっきまでジルが走っていた方向の逆側に小走りで移動する。
それを見たキャンディはまたスッと人差し指をジルに向けるが、ジルはまた審判の位置を確認して射線に入るように、そしてキャンディに接近するように斜め前に走った。
「は!? ずるい死ねっ!」
「ごめんっ正攻法だと勝てる気がしない!」
キャンディの罵倒に謝りつつもジルはキャンディに素早く接近。
すぐにお互いの近接武器の射程に入る。
ジルは小さく木剣を、キャンディは大きくペロペロキャンディを振りかぶった。




