第13話 一回戦・第一試合 ジル vs エドガー
くくく……
……こんなことになるんじゃないかと思ったんだ。
エドガーはまた、笑った。
「そ、そこまで! 勝者、ジル選手!!!」
「びょ、秒殺ー!! 魔族を退けたというその実力は本物だー!!」
「ジルつよーい……!」
審判は思わず言葉を嚙み女性スタッフが驚きの声を上げ、アリスはジルの予想以上の圧勝に口を手で押さえている。
ジルは、真正面からエドガーの首に木剣を当てていた。
開始後、10秒も経たずに決着はついた。
試合前のエドガーの笑みは、自嘲的な笑みだった。
◆
試合開始直後、ジルは迷いなくエドガーに突進。
エドガーはここだというタイミングで一歩踏み出し、構えていた剣を真っ向から振り下ろす。
ジルは冷静にその剣の腹に横から自らの剣の腹を当て、横に吹き飛ばした。
比喩表現ではない。
エドガーの両手からも離れる程に、完璧なタイミング、適切な当て方。
エドガーの木剣はリングの外まで吹き飛ばされた。
◆
「俺の稼いだ勝ち星も、お前が剣を始めた頃に稼いだやつだもんなぁ……半年前くらいから負け越し始めて、今じゃ五戦やったら五敗。んでこれだよ。さらに強くなってやがる。何が“今回は”だ。ふざけやがって」
ジルは剣を下げ、真正面からエドガーの目を見て話し始める。
「僕がここまで強くなれたのも、エドガーさんや他の冒険者の方々のご指導のお陰です。本当に、ありがとうございました!」
ジルは深く頭を下げた。
エドガーはフンッと鼻を鳴らし、リングを後にする。
「……今日は飲みにでも行くか……」
その小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。
◆
「……あたしは選手紹介の時に気付いたけど……」
キャンディは真面目な表情で続ける。
「試合中のはケーキも見えた?」
「見えました。おそらく微弱な強化魔法? ですよね」
「うん──」
「──白い、淡い光のような魔力」
「皆の反応からして見えたのはあたし達だけ……つまり魔族にしか分からない魔力。それからあの微弱な強化に全然見合わない、消去不能って確信しちゃう魔力の質。勇者や高位魔族でも簡単には消せないでしょあれ。あのジルって男の子の魔法じゃないわね」
「しかも他人にかけた強化ですら魔族にしか見えないとなると、その気になれば本体の魔力は魔族ですら見えない可能性がありますね」
「うーん、そんな化物がこんな地方の町にいて、その割には微弱な強化をあの男の子にって意味不明だわ。別の線の可能性が高いわよね……こうなると町を襲った魔族を撃退した話? とかもなんか秘密あるわね。ケーキどうせ準決勝当たるでしょ、突付いて来て!」
「えぇ……一回戦私勝つ前提じゃないですか……」
「え? 勝つでしょ?」
「まあ勝ちますけど……」
客席でそんなやり取りが行われている内にジルは二人から離れた客席に上がり、アリスの隣に座っていた。
アリスはニッコニコの表情でジルに話しかけていて、ジルは嬉しそうにしている。
スタッフが進行を進める。
「さあ続いて第二試合、エヴラール選手対ケーキ選手!! 両選手ともにリングへお願いします!!」
「あ、呼ばれましたね。行ってきます」
「サクっと勝ってきなさい!」
──ケーキの魔族・ケーキ。
キャンディから安直に『ケーキ』と名付けられた彼女は貸し出しの服を借りておらず、メイド服のまま客席を降りてリングに向かった。
『食の魔族』の眷属種の内の一体、菓子の魔族・キャンディのさらに下。
菓子の魔族の眷属種の内の一体がケーキの魔族である。
眷属種は上位種に崇拝じみた感情を抱き、付き従う性質がある。
割と砕けたやり取りをするキャンディとケーキの関係は実は結構珍しい。
様々な種類があるスイーツの一種でしかないケーキへの欲望や好意から生まれた彼女は、魔族として誕生できるギリギリの魔力量しか持たず、魔族の中では最弱の部類に入る。
「この試合、どっちが勝つと思う?」
「微妙だなー。ケーキちゃんは魔族だけど、エヴラールも腕のいい槍使いだぜ」
「キャンディちゃんはともかくケーキちゃんってレベル3、つまりオークとかと同格だろ? エヴラールがちょい優位ぐらいじゃね?」
客席でそんな会話がされている中、エヴラールとケーキは相対した。
男性審判がジル達にしたように勝利条件の再確認を始める。
エヴラールは三十代前半の男性冒険者で、先端が丸い貸し出しの木槍を所持していた。
ケーキは親指を除いた右手の各指の間に借りた木製フォークを三本挟んでいて、左手でも一本フォークを握っていた。
さらにメイド服の腰の辺りに細長い袋を二つ留め、フォークをたくさん入れてすぐ取り出せるようにしている。
ジル達からは見えないが、メイド服のスカート裏の両横側にも予備のフォークを留めていた。
「あのケーキっていう人、フォークで戦うんだね」
「あの子、魔物との戦いでは金属のフォークを投げて戦ってたって周りの人が話してたよ。ジル、ケーキちゃんが準決勝に上がったら食器をそんな使い方したらダメって教えてあげて」
「ははっそうだね、分かった」
ジル達がそんな話をしている間に審判による勝利条件の説明が終わり、エヴラールがケーキに話しかける。
「魔物どもとの戦いでは世話になった。だがそれとこれとは話は別。その綺麗な顔を傷つけることになっても責任は取れない」
「──調子に乗るなよ三下」
キャンディ相手には決して出さない、低く威圧的な声。
エヴラールは驚いて目を見開く。
最中、女性スタッフがジルの試合の時と同じようにカウントダウンを始める。
「試合開始まで、じゅーう! きゅーう!」
「貴様など眼中に無い。さっさと沈めてやる」
「……ハッ、言ってくれるね」
キャンディとの会話からは想像もできない鋭い言葉のフォークに、エヴラールは笑って応え槍を両手で携えた。
「さーん! にーい! いーち! ファイトー!!」
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