第12話 トーナメント表とオッズ
「ジル選手、入場したらまっすぐリング上までお進みください」
「分かりました」
ジルが入場口に向かうにつれ、聞こえる歓声が大きくなっていく。
入場口からフィールドに出ると、相変わらずの明るい昼間の太陽と客席の歓声がジルを出迎えた。
客席のアリスを見ると、大きく右手をぶんぶんと振ってくれた。
「ジルー!! がんばれー!!」
ジルは笑顔で手を振り返す。
前を見ると、他の選手達がフィールド中央の四角い石のリングの周りに集まっていた。試合開始の合図の鐘とそれを鳴らすための男性スタッフもいる。
魔族の女の子二人がいないように見えたが、すぐに客席で二人並んで座っていることに気づく。
これから一回戦。
出場選手はこのようにリングのすぐ近くや客席で試合を見られる特権がある。
第二試合以降の選手は控室で待つか試合を見ながら待つかスタッフに聞かれるのだが、全員が試合を見ることを選択した。
勝ち上がると当たるかもしれない相手の偵察もできるので当然と言える。
長さ20メートル程の正方形のリング上に上がるとマイクを持った女性スタッフと審判の男性。
リングの向かい側には対戦相手。ジルが借りた木剣と同じ剣を持った三十代後半の男性がいた。
その人はたまに剣を教えて貰った冒険者の一人で、ジルは思わず呟く。
「エドガーさん……」
「さあ皆さん! これから第一試合ですが、その前にあちらの魔導スクリーンをご覧ください!」
スタッフが指差しで示した方を見ると、客席の周囲外側の一角に設置されている大きな魔導スクリーンがあり、トーナメント表と選手のオッズが表示されていた。
まず優勝オッズ。
一番人気がキャンディ。
二番人気がジルとフェルディナンドで同率。
三人とも先日の有事の際の活躍で名を上げている。
さらにキャンディがレベル4の魔族というのはギルドに聞けば誰でも知ることができ、その評価を高めている。
ジルはレベル5を退けた実績があるが、逆に言えばその実績しか無く、ジルの実力に半信半疑の者もいたためキャンディの方に賭け金が集まった。
フェルディナンドは町一番の冒険者と言われていて、何本ものショートソードを使う器用で寡黙な剣士だ。
先日の戦いの際には熊のような魔物を1体葬っている。
順当に行けば準決勝でキャンディと当たる。
四番人気はエヴラールという槍使いの冒険者で、彼も魔物1体に止めを刺している。
一回戦で白い髪にメイド服のあの魔族と当たる。
スクリーンに『ケーキ』と名前が表示されているその魔族のオッズはビリだった。
選手紹介の際の、キャンディと当たったらわざと負けることを示唆するやり取りが原因だろう。
全体的にいつもより面子が豪華で、おそらく先日の中止からまた盛り上げる為に招待した選手が何人かいるのだろうと推測できた。
組み合わせを見ると、ジルの一回戦の相手はやはりエドガーだった。
勝ち上がると準決勝でケーキvsエヴラールの勝者、決勝まで行くと順当ならキャンディかフェルディナンドと当たるようだった。
「いや~飛び入りのジル選手が人気ですね〜! 話を聞くと先日魔族を撃退した男の子とのこと! 楽しみです! さて! 皆様お待たせしましたー! これより第一試合、ジル選手対エドガー選手の試合を開始しまーす!」
スタッフはそう言うとリングから降り、審判の男性が両選手に顔を交互に向けながら話し出す。
「ルールは分かっているな? 勝利条件は三つの内のどれかを満たすこと。相手をリングの外に出す、相手の首の手前で剣を寸止めする等の実戦なら命を取れた状況を作る、私がそれ以上は危険と判断とする怪我を相手に負わせる」
「はい」
「分かってる」
「よし。では、両者離れて!」
「ではカウントダウンしまーす! 試合開始まで、じゅーう! きゅーう!」
ジルとエドガーは、同じ木剣を構えた。
すると、エドガーは三十代後半らしい落ち着いた声色で話しかけてくる。
「……剣の稽古じゃ、俺がまだ合計七対三ぐらいで勝ってたよな?」
「……はい。でも今回は、僕が勝ちます」
「ふん……」
カウントが進むにつれ観客も自然にカウントダウンを始め、いよいよという雰囲気を盛り上げる。
「よーん! さーん!」
エドガーは、ニヤリと笑った。
「にーい! いーち! ファイトー!!」
試合開始の鐘が、大きく鳴らされた。