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第10話 菓子の魔族 キャンディ

 菓子の魔族・キャンディ。


 彼女の誕生は13年前。


 フラーシア王国全国のお菓子が集められたパーティのようなイベントがあった。

 そこで大量のお菓子がひとりでに寄り集まり混ざり合ってやがて少女の姿を成し、菓子の魔族が誕生したと記録されている。


 キャンディはフラーシア王国各地のお菓子を食べるために旅していて、5日前にこの町に到着、スイーツ店を漁ったり町の子供達と遊んだりしている。

 お菓子をくれるため子ども達から大人気で、子ども達やその親からは親しみを込めて『お菓子の魔族』とか『キャンディちゃん』とか呼ばれている。



 

 ──そもそも魔族とは?


 人間やその他知能の高い生物が強い感情を感じる度に、その生物が持つ魔力の一部が外に漏れ出る。


 何かへの好意、嫌悪、崇拝、恐怖、欲望、殺意。


 そういった感情を感じる度に漏れ出る魔力。

 そして同じ性質の魔力はやがて一つに寄り集まり凝縮し、魔族として生を受ける。

 たまにキャンディのように何かを依り代にして生まれることもある。

 魔族として生まれた後も、同じ性質の魔力は魔族に集まり続けてエネルギーとなるため、大怪我をした時以外は何も食べずに生きていくことができる。



 好意的な感情から漏れ出た魔力が凝縮して生まれた魔族は、人から好意を持たれる見た目で生まれやすいことが知られている。

 さらに生まれた後も、自身への好意の感情から漏れる魔力が力になるため人間に敵対することが少ない。


 お菓子への好意や欲望から生まれた菓子の魔族・キャンディがいい例で、端から見るとやんちゃな少女そのものである。


 

 恐怖等、負の感情から生まれる魔族は全てが逆。

『熊の魔族 ウルスネグル』がいい例で、そういう魔族はほとんどが魔界で誕生している。


 

 ちなみに人間側の味方についた可愛い魔族、イケメンの魔族に恋愛的な意味でアプローチする人間はたまにいるが、報われることはほとんどない。

 魔族は生殖能力が欠落していて、恋愛に関する情動も個体差が大きいが薄かったり無かったりする者が多く、価値観もまず合わないからである。


 代わりに、ほとんどが自分一人で何かを産み出す能力を持っていて、魔物を生み出したり物を作り出したりする。

 ウルスネグルが熊のような魔物を生み出し従えていたり、魔刀『黒雪』を刀の魔族が作り出したのがいい例である。




 話は闘技場のジル達の視点へと戻る。



「これで一回戦で負けたりしたら許さないから!」

「じゃあキャンディ様と一回戦で当たったら終わりじゃないですか……どうせ自分でリングの外行って負けろとか言うんでしょう」

「当然よ!!」


 キャンディはメイド服の白い髪をした選手にまだギャーギャー言っている。

 ジルは教会に逃げている最中にその名前を聞いたことを思い出した。


「あの子がキャンディちゃん……」


 ジルが眺めていると、遅れて客席に入ってきた冒険者達がキャンディ達について話すのが聞こえてくる。


「見ろよあの子、俺らと一緒に戦った魔族だぜ! めちゃくちゃ強かったよな」

「メイド服の子もいるじゃん。あの子の援護もマジで助かったよな」

「人間の味方の魔族ってほんとかよって思ってたけど、魔族の見方変わったわ」

「祝勝会にも来て欲しかったよなー」


 

 先日の戦いで、この辺りには本来現れないレベル4の魔物5体に冒険者達は重傷者を何人も出し大苦戦していたが、キャンディ達が駆け付けてからは形勢が逆転。

 キャンディは熊のような魔物5体の内2体を葬り去り、此度の魔物討伐に大きく貢献した。


 ちなみに菓子の魔族・キャンディのレベルは4。

 熊のような魔物達と同格であり魔族の中では弱い方だが、魔物達はキャンディの戦い方にまったく対応できず、一方的にボコボコにされていたとその場にいた冒険者達がギルドへ報告している。




「ふんっ! あ、マイク返すわ!」


 キャンディがメイド服の選手に一通り文句を言い終わった後、マイクを女性スタッフに手渡した。

 スタッフはすぐに進行を再開する。


「さーて8人目、最後の選手紹介ですが、ここで客席や外の方々にお知らせします!」


 スタッフが客席を見渡すようにして話を続ける。


「出場選手の一人が体調不良のため急遽欠場しました! なので出場選手枠があと一つあります! 誰か参加しませんかー! 今回は優勝賞品にあのアストリのオリジナルショートケーキ4種2個ずつセットがつきますよー!!」


 えぇ……

 まさかその場の人々に参加を呼びかけるとは……

 まあこういうのはその場の盛り上がり重視なのかもしれない。

 客席の冒険者達がどうしようかとザワザワしている。

 うーん……まあたまたま優勝賞金と賞品が欲しい理由はあるけどどうしよう……




 ……?


 ふと横からの視線に気づく。



「私──」


 アリスが期待の眼差しを、こちらに向けている。



 

「ジルが出て優勝するとこ、見たいっ」




 こうしてジルは即決した。



「すいません!! 僕、出場します!!!」

「おお!? 若い男の子の参戦だー!!」


 

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