表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき3

快適空間

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくじゅうはち。

 


 申し訳程度の小さなクラシックが耳朶を叩く。


 ぼんやりとした暖かさに包まれて、ほんの少しの眠気が襲う。

 それすら心地いいと思える快適な空間がここにはあった。

「……」

 人の歩く音。

 紙のこすれる音。

 ときおり聞こえる電子音。

「……」

 久しぶりにここに来たが。

 記憶の中にあるこの場所と、あまりに変わりがなくて驚きすら覚える。

 何年も前の記憶のはずなのに、こんなにも変わらないものかと思った。

「……」

 少し外れたところにある、図書館。

 町で唯一というわけではないが、大抵図書館と言えばここが出てくる。

 蔵書も多いし、どこからでも行きやすいし、何より場所が分かりやすい。

「……」

 幼い頃はよく来ていた。

 長期休みなんてほとんど毎週のように来ていたように思う。

 宿題をしにではなく、家にいたくないからという理由で。

 それはなくとも、読書は昔から好きだったから、図書館という場所は心落ち着く場所ではあった。

「……」

 長期休みではなくとも、土曜日なんかは毎週来ていたから、司書さんに覚えられたりもした。

「きみはよく来るねぇ」なんておじさん司書に言われたときは、正直行くのをやめようかと一瞬思ったりもしたものだ。他人の記憶に残るのはあまり良しとしたくない年頃だったのだろう。―どんな年頃だ。

「……」

 大人になって、自分で使えるお金を手にするようになったことで、借りる必要性が無くなり、ここに来なくなっていった。

 単純に、そんな時間が無くなっていたのもあるが。

 年明けのここ数ヶ月はまぁ、時間はあったのだが……図書館に行くと言う発想がなかった。本なら家に十分あるし、買いに行けばいいしと……。

「……」

 ならばなぜ……というと、まぁ。

 図書館に来る人の理由なんて大抵そうだろうと思うが……本を探しに来たのだ。

 書店に売っていればそれでよかったが、探してみた限りなかったので、借りればいいかという発想にいたった。

 通販で探してもよかったが、通販そのものにいい思い出がないのでしない。

「……」

 その探している本というものが、英国文学のもので。

 かなり古いものらしいのだが、ここにあるだろうか。

 館内の本の検索もできのだが、丁度入ったタイミングで別の利用者がいたので遠慮した。

 二台設置してはあるが……距離が近すぎて使う気になれない。

「……」

 実は数日前に読んだ本の中に、その英国文学が登場して。

 それをオマージュしたと言えばいいのか…まぁ、そんな感じの登場の仕方をして。

 それの元の作品を読んでみたいと思ったのが始まりだった。

 最近読み物の偏りも気になっていたところだし。

「……」

 昔から同じような作品ばかり読んでいたものだから、当然のように家にあるものは同じジャンルのものだ。他も挑戦してみようと購入したことはあったが……手につかなかった。

 たまには他のものも読むべきなのかなぁと思っていたところに、これだったので、丁度いいと思い至った。

「……」

 しかしそれだけを探すのももったいないので、なんとなく館内を散策する。

 館内は大きく二か所に分けられ、児童向けのものが置いてある場所と、そのほかのまぁありていに言えば大人向けのものが置いてある場所という感じだ。

 大人向けと言うと少し御幣を生みそうだが……まぁ児童書以外の本という感じだ。

「……」

 探している英国文学の本は、児童向けのコーナーには無いだろうから、入り口すぐの本棚から眺めていく。

 気持ち的には、あちらの児童向けのものも気にはなるが……私が幼い頃に読んでいたものとかも置いてあるから、なつかしさに浸りたい気分もあるのだ。

「……」

 入り口すぐのところには、若者向けのライトノベルが中心になって置いてある。ミステリーなんかもこの辺りに置いてある。文庫本サイズのものは全部ここだな。

 その後から五十音順に日本人が作者訳者のハードカバーの本が並んでいく。

 少し奥に行けば、宗教や神話などのジャンルに分かれて雑誌なんかも並んでくる。

「……」

 この辺りの神話の本なんかは、昔興味がひかれて読んだことがある。

 日本神話がやはり一番面白かった。他のケルト神話やギリシャ神話…あぁ、ほんの少しだが北欧のこの辺りも読んだ。

 あの頃は単純に面白いか否かで読んでいたから、今読んでみるとまた感想が違うんだろう。

「……」

 その隣に目的の英国文学が並んでいる。

 棚自体は、英国というよりは外国文学でまとめられている。

 さて……探しているものがあるかどうか。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 ………ん。

「……」

 ………。

「……」

 ……ないなこれ。

「……」

 ……んーーーー???

「……」

 ……うん?あー。

 これか…?

「……」

 作者はこの名前だが……んー。

「……」

「……」

 あ。

「……」

 あった。

「……」

 なるほど。

 一冊のものとしてではなく、作品集みたいな形のものに集録されていた。

 これはこれで、他のも読めるからちょっとしたお得感がある。

「……」

 とりあえずは、これを借りて。

 あと、は。

 これと、この神話のも気になるから借りて。

「……」

 よし。

 これだけあれば2、3日は外に出なくていいかもしれない。

 借りる前にカードの更新とかも必要な気がするが……まぁ、そのあたりはカウンターで。

「……」

 正直言うと、図書館で読んでから帰りたいが。

 これからの時間学生が多くなりそうなので。

 さっさと帰って、我が家の快適空間で読書に勤しむとしよう。





 お題:きみ・図書館・英国

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ