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【短編】病弱短命令嬢は隣国の神官と結ばれました

作者: Misty

誤字脱字等ありましたらご指摘お願いします。汗

思い付き兼処女作兼五時間クオリティ。

「婚約は破棄だ、リゼ」


王太子の執務室にて二人きり、深刻そうな顔をした我が国の王太子ヴァンス・ニックスは静かに告げた。最近流行っている婚約破棄イベントは大体が卒業パーティーで行われているが、私たちの場合はこの部屋らしい。


「詳細を詳しく教えてください。……何となく察せてはいますが」

「すまない。箇条書きだがここにまとめたから、順を追って説明する」


王太子の話を聞きながら、彼の愛する聖女ベリンダを思い浮かべた。今回の発端であろう聖女ベリンダ。彼女は優れた聖女で、太陽属性と月属性の二つ持ち……正に聖女に相応しい女性だった。


属性も分からない短命な私とは異なる彼女を伴侶にしたい殿下の気持ちは痛いほど理解できる。


「魔力石の廃棄法は……どうにもなりませんものね」


リゼ・ウォーベック公爵令嬢として環境省上官にさり気なく提案したものも「現実的ではない」と却下され、我が公爵家は頭を抱えていた。上官に“あの神官”の研究だと言っても取り合ってもらえなかった。


「国樹も年々魔力が落ちている、聖女の力を頼るしか方法はない」


「ええ、十分に理解しております」


国樹は太陽属性と月属性の二つの魔力を備えた特別な木で、己の魔力量が少ない私は毎日国樹から魔力を貰っていた。私から魔力を奪われた国樹は当然弱る。だが、ウォーベック公爵家が産出する魔力石を肥料にすると、国樹の魔力は忽ち回復した。


「父上とウォーベック公爵は渋々だが頷いた」


「ふふ、お父様が納得するような取引をされたのですね。……では私からは何も言うことはありません」


あの厳しい父が首を縦に振ったのなら仕方ない。諦めて私は帰ることにした。座り込んでいたせいで立ち眩みしてしまったが、どうってことはない。これから更に悪化するのは目に見えていた。


「では、明後日の卒業パーティーで会いましょう」


王妃教育はもう打ち切りだろうかと考えつつ、慣れた礼をして王宮から去った。







幼い頃から王宮に出入りしなければいけなかった私は、王太子と婚約することになった。これで王宮通いの理由が成立し、大人たちの懐も潤う。


ウォーベック公爵は娘の魔力回復のために王室契約として低額で魔力石を提供し、王室はウォーベック公爵の確固たる地位と娘リゼの王妃の地位を約束した。



あの日の晩、父からは「気にするな」とだけ言われた。それからずっとあの発言の意図を考えるも、全く分からなかった。あの父が「気にするな」とは……この世が終わるのかとさえ思った。


「やり過ぎよ、イビー」


侍女を注意すると、彼女は悪びれもなく飾ることをやめなかった。卒業パーティーでここまで張り切る必要はないはず。肌を出している部分にラメを乗せて、首筋をシャドウで撫でられる。気が付けばもう入場の時間だ。控え室から出て登場口の前に立った。最後から二番目、いや三番目の入場。


「リゼ・ウォーベック公爵令嬢!」


意を決して踏み出す。周りから注がれる視線に、丁寧に一礼した。


視界の端に何か……。


「王太子殿下……と聖女ベリンダの入場です!」


私がホールに降りたと同時に彼らが入場した。王太子の隣には聖女ベリンダが彼と腕を組み微笑んでいた。が、私と目が合った途端震える。


「ヴァン様、私怖いですっ」


聖女ベリンダの言葉を無視して階段を降り始めた王太子。仕方なく彼女は彼に合わせて下に降りる。


「……リゼ・ウォーベック公爵令嬢」


王太子は私に真っ直ぐ目を合わせて深呼吸した。少し期待していた展開でもあるため、思わず息を呑む。


「私は貴方との婚約関係を解消し、聖女ベリンダと結婚することとなった。……よろしいか」


「はい。聖女が国の母であると、より我が国を栄えさせるでしょう」


いはやは、彼女の笑みは何だ。ほくそ笑んでいる聖女ベリンダの表情は私にしか見えてないと思っているのだろうか、いや実際そうなのか。既定の言葉を言い終えると、聖女ベリンダが声を張り上げた。


「ヴァン様っ! わたしはリゼ様にイジメられていたのです! それなのにリゼ様は反省の色はないなんて……酷過ぎます!」


「リゼは社交のマナーを指摘したのだと何度も言った。騒ぎ立てるな」


「ですが!」


周囲の視線が刺さる。私がベリンダを過剰に注意していたこともあながち間違っていなかった。理由は……将来王室と関わりを持つだろうから、その保険だ。マナーがなってないと王宮ではやっていけない。のと、私の婚約者に色目使わないで欲しいから口うるさくなってしまった。


「ベリンダ様、聖女は貴族と同等の扱いを受けるのです。その聖女がマナーがなってないとなると、印象が悪くなり反感を買ってしまいます。私の指摘を、私の精一杯の誠意として受け取っているはずだと思っていたのですが……」


もう演技疲れた。彼女の隣の王太子を見るも、呆れた様子で彼女を宥める気はないらしい。ベリンダの瞳に涙が浮かんだ所で誰かが声をあげた。


「ヴァンス殿下〜、もう良いですか〜?」


「……さっさと来い」


カラフルな波をかき分け、やって来たのは銀髪の青年。


「カルヴィン様? 貴方去年留学を終えて帰ったはずじゃ……」


「や〜、リゼ様の卒業パーティーっすよ? そりゃドレス姿をこの目に焼き付けるの一択じゃないっすか〜」


隣国の神官、カルヴィン・オールストン。彼は三年前に留学生としてうちの学園に通い、昨年帰って行った。今年だけしか通っていないベリンダは彼を知らないようで、王太子に尋ねていた。


「じゃ、殿下……リゼ様は貰ってくっす〜」


「せめてリゼに確認は取れ。お前に興味すらないかも知れないだろう」


王太子とカルヴィンは知らない会話を続け、私に視線を移した。何が何だか分からない私は親しい令嬢たちに視線で助けを求めるも、首を横に振られた。あの男爵令嬢はグッドサインを出して私を見つめていた。


「リゼ様!」


「わっ、カルヴィン様?!」


脇下に手を入れられ、体が浮いた。くるりと二回も回ると、カルヴィン様は目を細めながらゆっくり下に下ろしてくれた。バクバク打つ心臓を抑え、困惑していると彼は目の前で片膝をついた。


「リゼ様、僕で良ければ結婚してください。幸せにします。何なら公爵家丸ごと幸せにできます。僕は貴方が大好きです、特に貴方の性格を愛しています。老後も僕を叱ってくれるのかな〜なんて妄想していた時期もありました。その細やかな所作も性格の表れみたいで、愛おしいです」


私の右手を取り、自身の頬に擦り付けるカルヴィン様は犬のよう。手を凝視していた私だったが、彼の力を抑えて右手を自由に動かす。彼の前髪を払い、綺麗な水色の瞳を覗く。


「良いわ」


手の甲で彼の輪郭をなぞる。人差し指の裏で瞼や頬、唇や耳を撫でる。何となく、体中が浄化されている気がした。


「どうせ、陛下や殿下だけでなくお父様にも打診済みでしょう。……結婚、する?」


「するっす〜!」


彼はまた嬉しそうに私を持ち上げた。大きな拍手が聞こえたかと思えば、密かに鼻を啜る音が聞こえる。気が付けば私たちはホールの真ん中で、私の視線に気付いた殿下はこちらに歩み寄った。


「ファーストダンスの時間だ、構わんなリゼ」


「勿論、お騒がせしました」


王太子が手を挙げて数秒、音楽が流れ始めた。王太子はベリンダの手を取り、踊りだす。私とカルヴィン様も音に身を任せてステップを踏んだ。


「悪役令嬢にはなりきれなかったっすね〜」


「巷で流行ってるからって、実際そうなったら溜まったもんじゃないわ」


「もしもで断罪されたリゼ様の首、僕が貰うって殿下に頼んどいたんで安心してて良かったのに〜」


「神官がそんなこと言ってはいけないのよ」


ずっと悩んでいた父の言葉「気にするな」を理解することができた。カルヴィン様の研究が上手くいった。


「おめでとうございます、カルヴィン様」


公爵家のお荷物である魔力石の処分に困ることはない。加えて咲き遅れの私を貰ってくれるなんて、彼には感謝しかない。


「……リゼ様、僕は真剣です。これだけは覚えていてください」







“真剣”だと唱えたカルヴィンは私の想像以上のことをしていた。


まずは公爵家の課題である使えなくなった魔力石。一度使い切った魔力石は、もう魔力を保持できないため捨てるしかなかったのだが、月属性の中にもっと細やかな属性があったらしい。

新月、上弦、満月、下弦の四つのタイプがあり、それぞれの魔力石に適したタイプの魔力を注ぐことで再度使用することができる。以前は月属性だからと注いでいたが、実際は“魔力と魔力石のタイプ”の相性が重要らしい。


次に国樹の属性やタイプを細やかに調べ上げたこと。太陽属性の国樹は私とは相性が悪いらしい。だから太陽属性を多く有するベリンダの方を好いたらしい。国樹の本当の“タイプ”が判明した瞬間だった。


そして廃棄予定だった魔力石を抱える土地を有していること。大陸中にある魔力石を回収し、新たな力を注ぐのは高位神官である彼には容易いことだった。


「だって僕、うちの国王から大公位を授かったんすからね〜」


しれっと小国を用意し、外交の手札も有していると告げられた時は全身に鳥肌が立った。目を細めた彼の瞳は見えづらい。しかし私の手を取り、自身の頬に擦り付ける様子は普段と変わりなく振る舞うカルヴィンに従って、気にしないようにした。


「リゼは新月タイプなんすから、いつでも僕を頼って欲しいっす〜」


大陸では珍しい月属性の新月タイプ。新月タイプは短命だが、カルヴィンが持つ魔力の中にある新月の魔力はとても強力で、病弱だった私は彼と出会ってみるみる回復していった。


「ありがとう、カール」







ーーー数十年経ってもリゼ・オールストンは超健康体だった。体は勿論健康、長寿も期待されていた。が、最期に流した涙については多くの推測を残している。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


私、溺愛束縛ヤンデレ系嫌いなのでここまで愛されても本当に幸せなんかな?と思って執筆しました。私は王太子がタイプです。なんか淡白そう。

聖女ベリンダはリゼに勝ちたいだけです。それ以外は性格良いです。


これの続編書いてくださる方いらっしゃったら是非お願いしたいです。バッドエンド希望です。性癖なので。

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