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シャンプーにしてみた

「う〜ん、今日もよく寝たな」


ここ最近しっかりと眠れているおかげか、体の調子がすこぶる快調だ。


ベットから起き上がるとお腹の上で寝ていたマタタビを布団とともに薙ぎ払う。


「なんニャ、もう朝かニャ」


目をこすりながら寝ぼけ眼でマタタビが目を覚ました。


「よし、行くぞ」


「ちょっと待つニャ」


服を着えて一階へと下りると、マタタビも急いで支度を整え一階へと下りてくる。


「アミールさん。おはようございます」


「おはようございます。ハルさん」


テーブルに置かれたスープからいい匂いが漂ってくる。


どうやら、いつも通り先に起きていたアミールが朝食を用意してくれていたようだ。


「マタタビさんもおはようございます」


「おはようニャ〜」


目を細め、今起きましたという顔をしながらマタタビも席へとつく。


「いつも朝食、用意してもらってすいません」


「いいんですよ。お料理するの好きですから」


用意された朝食はパンとスープそれに目玉焼き、異世界といえども食べものは以前いた世界と大差はない。


呼び名は違えど、ほとんどのものが前の世界にあったものが大半で、主食はパンがメインで米はたまにといった感じだ。


その他に塩、胡椒、お酢、マスタード、調味料なども充実していた。


「そうだ、マタタビさん。今度マタタビさんがご飯作って下さい」


「え、マタタビがですか?止めといたほうがいいんじゃないですか」


「マタタビさん私なんかよりお料理上手なんですよ」 


以外な言葉にマタタビの顔を見る。


(こいつが作る料理か、なんかとんでもない物をつくりそうだな)


「なんニャ、その顔は?疑ってるのかニャ。こう見えてもオイラは前の世界ではコックさんをしていたニャ」


心を見透かされたかの発言に驚いたが、マタタビがちゃんとした料理を作れるのかとやはり、疑問に思えた。


「お前がコック?以外だな」


「以外とはなんニャ。ちゃんと資格も持ってるニャ」


マタタビは首にかけていたペンダントを見せてくる。


「これが、資格の証ニャ」


ペンダントには文字が刻まれていたがこの世界の文字ではないのか読むことができなかった。


これがコックの証と言われても何ともいえなかったが、本人が証だと言うのならば信じる他はない。


このあと他愛ない会話が続いたが、その中でどうして俺が、この世界に来たのかという話になりアミール達と話す流れになった。


「多分、原因は前にいた世界でAIスピーカに異世界に行きたいと言ったのが原因なんだろうな………」


「エーアイですか?」


「なんニャ、それ?」


AIスピーカの説明を二人に説明するのには少し骨が折れたが、なぜだかアミールの表情を見ると浮かない顔をしていた。


「ハルさん。あの、………」


くちごもるアミールを心配したのかマタタビが声をかける。


「大丈夫ニャ、アミール。アミールは何も悪いことはしてないニャ。そんなに心配しなくても平気ニャ」


ぶっきらぼうな言葉ではあったがアミールを気遣うマタタビの優しさを感じる。


「ごめんなさい、ハルさん。ハルさんがきた時にもっと勇気を出してお話しするべきでした」


色々な想いがあったのだろう、アミールの目には薄っすらと涙が滲んで見えた。


「私がハルさんを喚びだしたかもしれない可能性についてですが、きちんと説明します」


涙を拭い、話し出すアミールの姿は何か決意のようなものが見て取れる。


「私は生まれつき魔気の量が多くて知らない間に魔法を使ってしまうことがあるんです。昔は姉のティアに魔気を抑えてもらっていたのですが、今の父に引き取られたあと事情があり、その当時ティアとは会うことができなくなってしまいました」


そして、真剣な面持ちで続ける。 


「不安にかられ数日が過ぎたころ、増えすぎた魔気が暴走してしまいその結果、意図せずマタタビさんを喚び出してしまったんです」


話を聞くとマタタビを喚び出したのは事故のようなものだった。


魔気が暴走してしまった理由として魔気が増えすぎてしまったこともあるが精神的に不安定になっていたことも理由の一つだとアミールは言う。


そして幸か不幸か、ぐうぜん喚びだしてしまったマタタビはティアとは違う方法だったが魔気を抑えるすべを持っていて、今はマタタビに魔気を抑えてもらっているとのことだ。


「私のせいで、マタタビさんには取り返しのつかない迷惑をおかけしてしまったのですが、そんな私をマタタビさんは笑って許して下さいました」


マタタビを魔気の暴走によって喚び出してしまったことがあり、俺がこの世界に来てしまった原因が無いとは言い切れないとアミールは語った。


きっと、自分が喚んでしまったのかもしれないという申し訳なさと、黙っていた罪悪感を抱えたままこの数日を過ごしていたのだろう。


「知らなかったとはいえ俺もすいませんでした」


「そんな、ハルさんが謝ることなんてひとつもないですから」


「いえ、アミールさんの気持ちも考えず突然ぶしつけな質問をしてしまって」


暗くなる雰囲気の中、マタタビが口を開く。


「朝っぱらから暗くなるのは止めるニャ。ご飯は皆で楽しく食べるものニャ」


「確かにその通りだな。たまにはいいこと言うな、マタタビ」


「たまにとはなんニャ。オイラはいつもいいことしか言ってないニャ」


「そうですね、………ご飯は皆で美味しく食べなきゃですね」


胸のつかえが下りたのかアミールの顔に少し笑顔が戻った気がする。


少し気まずい感じは否めなかったが、気を取り直し、昨日の石鹸についてどうするか話を持ちかけてみた。


「それにしても、昨日の石鹸どうしますかね?」


「そうでしたね。すいません本当に」


「まあ店で売るしかないんじゃニャいか」


マタタビの意見はもっともだと思うが、店で売るには、やはり数が多すぎる。


「なにかいい手はないかな」


頭のうしろで腕を組み考えていると、


「そういえばアミール昨日のお風呂少しぬるかったニャ」


「ごめんなさい、魔製具の調子が悪かったもので」


会話の中に聞き慣れない言葉が聞こえてくる。


「魔製具?」


「あ、そういえばまだハルさんに魔製具のこと教えていませんでしたね」


アミールの口から魔製具の説明を聞く。


「魔製具というのは簡単にいってしまうと魔法の効果を作り出す道具のことです。ただ魔法と違う点は魔気やマナを使いません」


さらに細い説明を聞くと魔製具はマガと呼ばれるものを使い作られるという。


魔製具には明かりを灯したりお湯を沸かせたりするものがあるとのことで、考えてみれば確かにお風呂を沸かす時に火をくべているようすなどはなく、夜も部屋には明りが付いていた。


この異世界にきて目の前のことに必死になりすぎていて回りのことに全然気が付いていなかなかったようだ。


「言われてみたら、そうですよね電気もついてたし」


「電気?」


「あ、すいません。俺がいた世界の明かりを灯す道具のことです。さっき話したAIスピーカも磨製具みたいな物だったんですね」


総括すると魔製具というものは自分のいた世界の電化製品と同じような物のようだ。


「そうだ、あとでハルさんに魔製具の使い方お教えしますね」


「はい、お願いします」


「魔製具の説明はもういいニャ、それよりも風呂の魔製具をなんとかするニャ」


「お前、猫のくせに本当、風呂好きだよな」


「だから、猫じゃないニャ!なんかい言わせるニャ」


マタタビとのくだらない会話の中でひとつ妙案が閃いた。


「そうか?風呂か。アミールさんこの町に大衆浴場てありませんか?」


「はい、ありますよ」


「よし、これだ!」


二人はピンとこないようだが、思いついたことに対してアミールが尋ねてくる。


「なにかいい案を思いついたのですか?」


「はい、銭湯じゃなかった、大衆浴場なら石鹸たくさん使いますよね」


「あぁ、なるほどそういうことでしたか」


「ん、どうゆうことニャ?」


「つまり、大衆浴場に石鹸を買い取ってもらえばいいんだよ」


ようやくこちらの意図を理解したのかマタタビが話し出した。


「そうニャ。オイラは、はじめから分かっていたニャ。そのことを新入に気付かせるためにお風呂の話題を振ったのニャ」


発案できなかったのが悔しかったのか、分かっていたことにしようとした。 


「さっきまで首かしげてたくせしてなに言ってやがる」


「そうですよ、マタタビさん。嘘はいけませんよ嘘は」


さすがに人がいいアミールもマタタビの発言は嘘だと分かったようだ。


「う、嘘じゃないニャ。オイラ分かってたニャ」


バツが悪くなったのだろうマタタビは食べ終わった食器を片付けそのままそそくさと二階へと上がっていってしまった。


「じゃあ朝食も食べ終わりましたし、早速、大衆浴場に売り込みに行こうと思います」


「それなら、マタタビさんを一緒に連れていって下さい。場所はマタタビさんがご存じなので」


二階に上がったマタタビをアミールが大声で呼ぶ。


「マタタビさーん、一緒にハルさんを大衆浴場まで連れていってあげて下さい」


マタタビからの返事はない、どうやらいじけているようだ。


「まったく。マタタビさんにも困ったものですね」


少し困り顔のアミールを横目に………


「大丈夫ですよ、俺ひとりでも。では大衆浴場の場所教えてもらえますか?」


アミールに大衆浴場までの地図を書いてもらいシエラお婆さんの石鹸を持って大衆浴場を目指す。


「では、行ってきます」


「はい、いってらっしゃい」


書かれた地図を見ると、この間の孤児院よりももっと遠いようだ。


地図を頼りに歩くこと約一時間、ようやく町の中枢へと着いた。


(このへんはまだ来たことなかったな)


以前、案内してもらった場所とは反対側に大衆浴場はあるようだ。


区画によって町の雰囲気もだいぶ違って見える。


目的地の近くまでさしかかり近くにいた人に大衆浴場の場所を尋ねてみる。


「あの、すいません。大衆浴場てこの辺りでしょうか?」


「あぁ、大衆浴場なら大きな赤い門があるから見ればすぐに分かるよ。このまま道なりに真っ直ぐだ」


「ありがとうございます」


大衆浴場の場所を確認し歩みを続けると斜め右手に赤い門のようなものが見えた。


正面に着くと門ではなく、大きな鳥居がそびえ立っている。


(これ、門じゃなくて鳥居だな)


異世界に鳥居があるとは思っても見なかったが、赤く塗られた鳥居はどこか神秘的なものを感じさせていた。


その大きさに圧倒されたが、なにはともあれ石鹸を売るためにここまで来たのだ、意を決し鳥居をくぐり抜け建物の中に入る。


ガラガラガラと音をたて引き戸の扉を開けると。


「いらっしゃいだワン」


扉の向こうには犬の姿をした生物が番台に座っていた。


(い、犬が喋ってる!)


「いらっしゃいだワンお客さん。入浴料は六百グレイスだワン」


さすがは異世界、突然のことに驚いたが、マタタビのことを考えたらありえない話ではないかと思い、気を取り直して要件を伝える。


「す、すいません。わたくし、リサイクルショップアミールのハルと申しますがこのお店の店主様はいらっしゃいますか?」


「リサイクルショップ?」


リサイクルショップという言葉が通じないことは分かっていたが店の名前を広めるためにもあえて名乗ることはやめなかった。


「あ、えーと、丘の上にあるアミールさんがいるお店の者ですが」


この言葉に以外な返答を返される。


「あ、マタタビくんのいるお店の方ですかワン」


「え、マタタビをご存じなんですか?」


「マタタビくんとは同郷ですワン」


「マタタビと同郷と、いうことはあなたも」


「そうだワン。ぼくも違う世界から来たワン」


まさか、こんな所にも異世界からきた者がいるとは思いもしなかった。


「あ、すいません。今日は商談のお話しがありまして店主様は今いらっしゃいますか?」


「店主?親方ならいるワン。ちょっと待ってるワン」


犬の店員は番台から下りて親方なる人物を呼びにいく。


しばらくすると店の奥からいかにも頑固そうな髪の薄い中年男性が現れた。


「ん、なんだニイチャンなにか用があるのか?」


「あ、はい今日は商談で参りました。申し遅れましたがわたくし、リサイクルショップアミールのハルと申します」


要件を述べ挨拶をすると、


「あー、まどろっこしい。そんなにかしこまらなくていい」


どうやらこの男性はかしこまった対応は嫌いなようだ。


(こういう、オッサンは砕けた感じの方がいいな)


経験則から男性との接触の仕方を決める。


「どうも、今日は石鹸を売り込みに来たんです」


持っていた石鹸を布袋から取り出し男性に見せる。


「この石鹸、泡立ちがよくてすごい肌が綺麗になるんです」


さらに石鹸の良さを説明しようとすると………


「ニイチャン、この石鹸、シエラ婆さんの石鹸だろう?」


思わぬ言葉に時が止まる。


「え、ご存じなんですか?」


「ご存じもなにも昨日シエラ婆さんが売りに来たよ。最初は五千個買えって無茶なこと言ってきたが付き合いもあるし三千個は買ってやったがな」


この話しを聞いて、ことの流れが分かった気がする。


シエラ婆さんはここに石鹸を売りに来て売れ残った石鹸をアミールに売ったようだ。


「マジかー」


「残念だったなニイチャン。うちもこれだけあれば石鹸にはことかかねぇ。諦めて他を探すんだな」


当てが外れて肩を落としていると犬の店員が声をかけてきた。


「お兄さん。こんな時はお風呂に入ってサッパリするワン」


気を使ってくれたのだろう、だかあいにくお金を持っていない。


「ありがとう。でもお金も持ってないし」


「せっかく来たんだ、金はいいから入っていけよ。今なら誰もいないから貸し切り状態だぞ」


豪快な笑顔を浮かべながら親方からも入浴を勧められた。


「いや、そんな」


「いいから、遠慮するな」


「では、お言葉に甘えて」


好意に甘えて入らせてもらうことにする。


「脱衣場はこっちだワン」


案内されて、のれんをくぐると広々とした空間が広がっていた。


(日本の温泉みたいだな。なんか鳥居といい日本の文化的なものも多い気がするけど………)

 

棚に置かれた籠に衣服を脱ぎいれ風呂場の扉を開けると、そこに見えた光景はまさに日本の銭湯そのものだった。


感心しながらも辺りを見渡していると奥にもう一つ扉があり、もしやと思いその扉をゆっくりと開ける。


「お〜〜!」


そこには日本でいう所の露天風呂があった。


石の床に、岩を積み重ねて作られた湯船、塀の外は木々に覆われ外からは見えないようになっている。


日本の露天風呂に勝るとも劣らない出来栄えに感動しながら、早速、体を洗い湯船へと浸かる。


(ふ〜、いい湯加減だ)


湯船のふちに背をあずけ空を見上げる。


こんな大きなお風呂に浸かるのは何年ぶりだろう。


石鹸のことは残念だったが、お風呂に入ったおかげかそこまで悲観することはなかった。


湯船に浸かり充分体も温まった所でお風呂から上がる。


「あ~スッキリしたー」


体を拭いて衣類をまとうと、湯気を体から立ち昇らせたまま入口へと向かう。


「湯加減はどうだったワン?」


「ありがとう。とてもいい湯だった」


「それはよかったワン。そうだ今度はマタタビくんも一緒に連れてきて欲しいだワン」


「分かりました、えっと」


「僕はクーシーのガジュマルだワン」


「ガジュマルくんだね。宜しくね」


「こちらこそ宜しくだワン」


このあと親方にお礼を伝え、そのまま大衆浴場をあとにした。


(それにしても、この石鹸どうするかな)


大衆浴場に石鹸を売るという案も不発に終わり新たな手を考えなければならなかった。


帰り道、考えながら歩いていると一軒の店が目に入る。


(このお店ってなんの店だっけ?)


看板には魔製具店と書かれていた。


そして、気になり店の中へと入る


「いらっしゃい」


店に入ると見慣れないものが整然と並び、興味を惹かれた。


「こんにちは、このお店は魔製具の専門店なんですか?」


カウンターにいたヒゲを生やしたダンディーな男性が答える。

 

「あぁ、この店は魔製具の専門店だ。聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてくれ」


店の中を回り品物を見てまわる。


「すいません、この大きな箱はなんですか?」

目にしたものの中でひときわ大きな箱が目についた。


「それは、冬の箱だな」


「冬の箱?」


「なんだ、お客さん冬の箱を知らないのか?」


「えぇ、この世界にきて間もないので」


「なるほどな、お客さん異世界人か」


この世界の人達は違う世界から来たものがそんなに珍しくないのか大して驚かなかった。


「そいつは、冬の箱といって食材なんかを冷やす道具だ。試しに開けてみな」


言われたままに開けてみると箱の中はとても冷たかった。


「あ、これ冷蔵庫だ」


「冷蔵庫?」


「すいません、自分のいた世界の道具の呼び名です」


「そうかい、馴染みがあるんだったらひとつ買っていかないかい?」


話しの流れで購入を勧められる。


「ごめんなさい。勝手にこんな大きなものを同居人に確認しないで買うわけには。それにお金もないですから」


苦笑いをして商談の空気をごまかした。


なにか買わされそうな雰囲気がしたので店からでようとすると、カウンター横にあった楽器が目に入る。


「これは!………」


「お、そいつはこの間、知人からもらった品だ。だが弾き方がわからなくてそのまま置いてあったんだ」


楽器はクラシックギターのようだった。


「弾いてみていいですか?」


「弾けるのか?」


「ええ、一応」


ギターのチューニングを合わせる。


「これでよし」


最後の一弦のミの音を合わせるのに少し苦労したが全てのチューニングが完了した。


「じゃあ、さっそく」


曲といっても歌詞にコード進行を合わせた単純なものだ。


歌は恥ずかしかったので曲だけを弾き続け、曲を弾き終えるとギターを店主に返えした。


「ありがとうございました」


「おぉ、やるね。こんなに弾けるとは思ってなかったよ」


ダンディーな店の男性は思いの外感心している。


「そうだ、よかったらそいつはお客さんに差し上げるよ」


「いえ、そんな悪いですよ」


「気にしないでいいよ。ここに置いといても肥やしにもならないし。その楽器も弾ける人にもらわれた方か幸せだろう。この店の店主である私からのプレゼントだ」


そう言ってギターをそのまま手渡された。


「今度くるときはなにか買っていってくれよ」


ダンディーな男性に厚くお礼を述べて店をあとにする。


(なんか成り行きでもらっちゃったけど。ま、いっか)


ギターを抱えてリサイクルショップ・アミールへと足を進めると、店に着くころにはまた日が暮れ始めていた。


「ただいま帰りました」


「おかえりなさい」


店の扉を開けると笑顔でアミールが出迎えてくれた。


「どうでしたか?」


アミールの笑顔に申し訳なさをおぼえたが、一部始終を伝える。


「そうですか。残念でしたね」


「まさかシエラ婆さんが先に売っていたとは」


「なにか他に考えるしかないですね」


アミールも少しがっかりしているようだ。


悲壮感漂う中、店の奥からマタタビがひょっこり顔を出す。


「おかえりだニャ、新入」


「あぁ、ただいま」


「で、どうだったんだニャ?」


「どうもこうもない。駄目だった」


マタタビの姿を見ると体から湯気が立ち昇っている。


「お前、また風呂入ってたのか」


「そうニャ、ケットシーはキレイ好きなのニャ」


人の苦労も知らずに能天気に風呂に入っていたマタタビに少しイラッとしたが、自分も風呂に入ってきた手前なにも言えなかった。


「お前は自由だよな」


マタタビの姿を目にしながらおどけてみせる。


「それは、どういう意味ニャ」


「そのままの意味だよ。ん?」


マタタビの姿をよく見てみると毛並みがとてもサラサラしている。


「お前毛並みサラサラだな」


「本当!凄い綺麗でサラサラですね」


「あぁ、これはこの石鹸をオイラ用に改良したおかげニャ」


「改良?」


どういうことかマタタビに詳しく尋ねた。


「シエラ婆ちゃんの石鹸はオイラの毛質には合わんかったニャ。そこで一回石鹸を溶かして、こいつを混ぜてみたニャ」


マタタビが持ってきたものはアロエによく似たギザギザの植物だった。


「このドゥルーンの葉を割ると中にドローとしたもんがあるニャ。こいつを混ぜると毛も突っ張らなくなるニャ」


きっと石鹸の洗浄効果もありマタタビの毛並みはスベスベでサラサラになったようだ。


「なあ、マタタビ。それは人が使っても大丈夫なものなのか?」


「大丈夫ニャ。別に人間が使ってもなんら問題ないニャ」


この時、頭の中で次なる策を思い付いた。


「これ、シャンプーとして売れないかな?」


「シャンプー?」


首をかしげアミールが尋ねてくる。


「はい、シャンプーていうのは頭を洗う石鹸のようなものてす」


今日大衆浴場に行った時も石鹸は置いていたがシャンプーのようなものはなかった。


「一回自分で試してみるか。お風呂まだ沸いてますか?」


「はい、まだ大丈夫だと思いますよ」


マタタビに、使っていた石鹸の液体をもらい試しに頭を洗ってみることにする。


風呂場にいくと液体を適量、手にすくい頭に付けお湯をかけて洗った。


(凄い泡立ちいいな)


頭をよく洗いお湯でしっかり洗い流す。


確かに石鹸で洗った時の突っ張り感はなく、このあとよく拭いて髪が乾くのを待った。


そして、数十分後。


髪の毛がサラサラになりツヤも感じられる。


仕上がりを見てもらうため二人がいる店の売り場に向かう。


「どうです?髪の毛の具合」


「凄いサラサラになってますねハルさん」


「ここまで人間の髪に効果が出るとは思ってなかったニャ」


二人の感想はとても高評価だった。


「よし、これなら商品として目処が立つ。マタタビお前天才だぞ」


「そ、そんなこと知ってるニャ」


マタタビは照れながら笑顔を浮かべている。


「ちなみにこの液体、これからはシャンプーと呼ぼう。マタタビ、このシャンプーあとどれ位作るる?」


「そ、そうだニャ〜、さっき渡した量で石鹸一個だから、ニ千個は作れると思うニャ」


このあとさっそくシャンプーの制作に取りかかった。


ドゥルーンの葉なるものはこの店の裏山にたくさん生えていたためすぐに量を確保することができた。


その他にもシャンプーらしさを強くするため香り付けのためにアミールが育ていたミントのようなハーブを使わせてもらった。


使ったハーブは少量でとても香りの際立つものだったので少量で充分だった。


試行錯誤を重ねること数日、やっとのことで試験的にシャンプーが完成する。


「よし、これを持って明日もう一度大衆浴場にいってきます」


「はい、頑張ってくださいね」


「新入、しっかり売ってくるニャ」


「何言ってんだお前もくるんだよ」


「え、オイラもいくのかニャ?」


「大衆浴場にいたガジュマルくんから頼まれてるんだよ」


ガジュマルの名前を聞くとマタタビの顔色が変わった。


「ガジュマル、ニャと」


「そうだよ、お前と同郷なんだろう」


「そうニャんだけど、オイラあいつ苦手なんだよニャ」


どうやら、マタタビとガジュマルには因縁的なものがあるようだ。


「よし、今日はここまでにして明日に備えるか」


「そうですね。だいぶ時間も遅くなりましたし」


「あ〜ぁやだニャ〜」


愚痴りながら二階に上がっていくマタタビを横目に

アミールも店の戸締まりをして一緒に各部屋に戻った。


部屋に入るとベットの真ん中で横たわるマタタビをどかし明日のために寝ることにする。


歩き回って疲れていたのだろう、気が付けば朝を迎えていた。


「あれ?今何時だ」


時計の針を見ると朝の八時を指し示している。


「いっけね、もうこんな時間か」


慌しく着替を終えるとベットの下にうずくまっているマタタビを起こす。


「おい、マタタビもう朝だぞ」


呼びかけるがマタタビに起きる気配はない。


「先に行くぞ」


一階へと下り、洗面所でまず顔を洗う。


ちなみにこの世界の歯みがきはシーと呼ばれる植物の茎を削ってその繊維で歯を磨く。


(あれ?アミールさんがいないな)


いつもならこの時間アミールが起きていて朝食を作っているのだが姿が見当たらない。


(まだ寝てるのかな?後で起こしにいくか)


まだ、寝ているであろうアミールとマタタビのために変わって朝食を作る。


(凝ったものは作れないからサンドイッチでいいか)


魔製具の使い方はこの間アミールから一通り教わっていたので試しに使ってみる。


(えーと、ここに手をかざして強く念じる)


かまどにある魔製具に意識を集中させ強く念じるとかまどの底に火が付いた。


(おー、やっぱ凄いな)


魔製具を使うと魔法を使っているような感動をおぼえた。


ハングドマンの祝福のため魔法は使えなかったが、どうやら魔製具は扱えるようだ。


魔法も使えず、魔製具も使えなかったらもはやハングドマンの祝福は祝福とは言わず、呪いと言わざるを得ない。


(中身はスクランブルエッグでいいか)


温めたフライパンに卵をわり混ぜ合わせる。


出来上がったスクランブルエッグをパンに挟んで、できあがりだ。


(でも、これだけだと味気ないか。そうだマヨネーズでも、作ってみよう)


やはり、異世界といえばマヨネーズだろう。


思い立つと卵の黄身と油をよくかき混ぜ、そこに塩こしょうをしてマスタードで味を整える。


「よし、完成」


マヨネーズをパンに塗りそこにスクランブルエッグを乗せ上からもう一枚パンを重ねる。


均等に切り分けて皿に盛り付け、あとはサラダを添えて完成した。


そうこうしていると、ドタドタと階段を勢いよく下りてくる音が聞こえてくる。


「ごめんなさい!寝過ごしました」


よほど慌てて起きたのだろう、アミールの姿は寝巻のままで頭には寝癖が付いていた。


「おはようございます、アミールさん。もう少しで朝食できますから待っていてくださいね」


まだ目が覚めきっていないアミールを椅子に座らせサンドイッチを乗せた皿をテーブルに置いた。


「今、昨日のスープの残りを温め直してるので」


温め直したスープを皿にすくい、そっとテーブルに置く。


「どうぞ、召し上がれ」


「これ、ハルさんが作ったんですか?」


「そうですよ」


「では、遠慮なくいただきます」


アミールはサンドイッチを両手で持ちそのままかぶりついた。



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