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パーティーの準備

「それにしても、バタバタしちゃいましたね香辛料を買いに来ただけだったのに」


アミールの言葉にハッとして思い出す。


「あ、いっけね!香辛料ガーゴイルに投げつけてぶちまけちゃったから、また買わないと」


「でしたら、私買って来ますよ。そしたらハルさん、フォルトゥナさんとフェンちゃんを連れて先に行っててください」


そう促されフォルトゥナとフェンを連れ、店へと戻ると、帰りの道中フォルトゥナが立ち止まり話しかけてきた。


「ハルさん。こんな所で申し訳ないのですが、もう私の正体にお気づきですよね」


突然の言葉に驚きながらもとっさにお茶を濁す。


「な、なんのことでしょう。実はフォルトゥナさんが踊り子ではなく吟遊詩人だったとか?」


「隠さなくても大丈夫です。アミール様はすでに私の正体にお気づきになられていたと思います」


アミールがすでに正体に気付いていたと言われ隠し通せるものでもないと思い、知っていることを告げた。


「分かっていたのなら隠す必要もありませんね。はい、アミールさんからフォルトゥナさんのことは伺いました」


「やはり、アミール様は気付いておられましたか。色々と事情がありまして、すいません」


顔を伏せるフォルトゥナにフェンが声をかける。


「フォルトゥナ、せいれい、ひと、どちらでも、かまわない。フォルトゥナは、フォルトゥナ」


フェンにとってフォルトゥナはフォルトゥナであり精霊か人間かは関係ないようだ。


「そうだな。フェンの言うとおりフォルトゥナさんはフォルトゥナさんだな」


「フェン、ハルさん。ありがとう」


暗い顔が続いていたフォルトゥナの顔に笑顔がともる。


「でもなんでまた、踊り子なんて言ったんですか?」


「はい、旅をしていても不自然じゃない職業だと思いまして踊り子と言いました」 


「確かにそうかもしれませんね。でもフォルトゥナさんのイメージは踊り子って感じではない気がすると思いますよ」


笑いながら思ったことを伝えると、


「そうですね、考えが浅かったようですね」


少しはにかみながらフォルトゥナは笑った。


「それでは詳しくはアミール様もいらっしゃる所でお話しいたします」


フォルトゥナはそう言うと再び歩き始める。


詳しい話しはパーティーが終わったあとで聞くことになった。


店の前に着き扉を開け中に入ると、


「遅いニャ!一体、香辛料を買うためにどこまで行ってたニャ」


帰るなりマタタビの怒りが炸裂する。


「すまん、色々あったんだよ」


時計を見ると四時を回っていた。


「まったく、新入とアミールが買い物にいくといつもこうニャ。ん、後にいる二人はだれニャ?」


知らない二人の顔を見てマタタビが尋ねてくる。


「はじめまして、私はフォルトゥナと申します」


「おれ、フェン」


「オイラはマタタビニャ、よろしくニャ。」


お互いに挨拶を交わすと、マタタビに手招きで呼ばれ、近づくと耳元でひっそりと話し始めた。


「で、新入。こいつらはなんなのニャ?」


二人についてマタタビが問いかけてくる。


「買い物の途中で色々あってな」


ことの経緯をマタタビに伝えると、


「まったく、余計ことに首を突っ込んで。まあ事情は大体わかったニャ」


事情を説明し終わると扉の開く音がする。


扉の方を見るとアミールが布袋を手に帰ってきた。


「ただいま帰りました」


「おかえりなさい、アミールさん」


アミールはそのままマタタビがいるカウンターへいき香辛料の入っている袋をマタタビに渡した。 


「ごめんなさい。色々ありまして」


「話しは新入から聞いてるいるニャ」


店の中を見渡すとテーブルの上にはすでに何品かの料理が置かれ、マタタビがパーティーの準備をしていたことが分かる。


入口付近に立っていたフォルトゥナとフェンをカウンター横に持ってきていた椅子に座らせた。


「マタタビ、ありがとうなパーティーの準備してくれて」


「まったくだニャ。ティアもまだ起きてこんしニャ」


ティアはこの時間にもかかわらずまだ寝ているとのことだった。


「姉さんまだ寝ているんですか?」


「オイラが起こしにいってもいっこうに起きる気配がないニャ」


ティアの話しをしていると、まるでそのことを察知したのかティアがあくびをしながら二階から下りてきた。


「あ〜よく寝た」


「姉さん、今までずっと寝ていたの?」


「あ、アミールおはよう」


ティアの自堕落な態度にアミールが物申す。


「おはようじゃないわよ!いったい何時だと思っているの」


「ごめん、ごめん。昨日なかなか寝付けなくて」


「何言っているの、昨日横ですぐに寝てたじゃない!」


怒るアミールとは対象にティアは悪びれることなく話し出す。


「パーティーの準備、順調みたいね。ちょっと一口」


テーブルに置かれていた料理をしれっとつまみ食いをするさまを見てアミールは呆れているようだった。


「はぁ〜、やっぱり、姉さんには何を言っても無駄ね」 


自由奔放なティアにアミールはため息をつきながら下を向いてうなだれている。


「そういえば、そこの二人はどなた?」


フォルトゥナとフェンを見てティアが尋ねてきた。


「ああ、こちらはフォルトゥナさんとフェンです」


マタタビと同じくティアにも二人とのいきさつを説明した。


「ふーん、なんか大変だったみたいね」


このあと三人は自己紹介を終わらせ、みんなでパーティーの準備を進めた。


マタタビとアミールは料理を作り、ティアとフォルトゥナは些細だか飾り付けをしている。


あぶれた自分とフェンは椅子に座りことの進みを見ているだけだった。


「ハル、フェンも、おてつだい、する」


何も役割を与えられなかったのが退屈だったのかフェンが手伝いをしたいと言ってきた。


「そうだな〜」


何かないかと考えてみたがこれといったものは見当たらない。


「フェン、りょうり、したい」


「料理か、でも今は忙しいそうだしな」


台所のようすを覗うと入り込むスペースはなさそうだ。


フェンの顔を見ながら、いい案がないか再び考える。


「そうだ!」


頭の中でいいことを思いついた。そして台所にいたマタタビに聞いてみる。


「マタタビ、牛乳と砂糖と卵てまだありそうか?」


「まだ、あるニャ。いったい何に使うつもりニャ」


「フェンと料理をしたいんだけど」 


話しながらでも手を進めるマタタビにお願いをする。


「ここは、アミールとオイラでいっぱいニャ。やるんなら、そっちでやるニャ」


マタタビから牛乳、砂糖、卵を受け取ると売り場に出していたテーブルの一画を使い料理を始める。


「ハル、なに、つくる?」


フェンの問に得意げに返す。


「それは、できてからのお楽しみだ」


牛乳に砂糖を入れてよくかき混ぜる。


「フェン、まぜる」


よく混ぜ終わったら、次に卵の卵黄を入れて更に混ぜ合わせる。


全てを混ぜた液体を容器に入れて、冬の箱の冷蔵部に入れる。


「これでよし」


「まぜる、たのしかった、また、やる」


フェンも料理ができて満足そうだ。


そんなこんなで淡々と準備は進み気が付けば約束の時間になっていた。


六時ちょうどになるとクリシュナーが娘を連れてやってきた。


先ほどの礼を言って挨拶を交わし、流れで娘を紹介された。


娘の名前はファーといって見た目からして五、六才位だろう。


恥ずかしかったのかクリシュナーの後に隠れてもじもじしている。


「ファー、この方たちがお前の命の恩人だ。きちんとご挨拶をしてお礼を言いなさい」


ファーはクリシュナーに手を引っ貼られ自分たちの前に出された。


「あ、あの私はファーといいます。このたびはお金をだしてくださり、ありがとうございました」


小さいながらもしっかりと挨拶をするファーを見て、やはりクリシュナーの娘だと実感した。 


「元気になって良かったね、ファーちゃん」


頭を撫でて微笑みかける

と、またクリシュナーの後に隠れてしまった。


「申し訳ない。まだ大勢の前に立つのは慣れていないようで」


「大丈夫ですよ。でも小さいのにしっかりとした挨拶ができて、さすがクリシュナーさんの娘さんですね」 


「そう言っていただけると嬉しい限りです」


このあと少し歓談をしていると、マタタビが料理をテーブルに運んできた。


「料理ができたニャ。みんな運ぶのニャ」


言われるまま、ダイニングのテーブルに置かれていた料理を店内に置いたテーブルに運ぶ。


肉、魚、サラダ、それと頼んでいたパステ、リクエストのエビチリ、様々な料理が次々とテーブルに並んでいく。


皆、順当にテーブルの席に付くと各自に飲み物配った、そしてアミールが口を開く。


「では、ハルさん。始まりの言葉をお願いします」


「え、俺ですか?ここはアミールさんの方が」


戸惑っているとティアが口を挾む。


「このパーティーは元々ハル君が商談をまとめたお祝いだったんだから」


「分かりました。では」


ティアに促され挨拶を始めた。


「今日はみなさんお集まりくださりありがとうございます。シャンプーの商談がうまくいって」


話しの途中でマタタビが口を挾んだ。


「新入、長くなりそうだから手短にニャ。せっかくの料理が冷めちゃうニャ」


「そうだな。じゃあ、みんなで楽しくやりましょう!」


テーブルに置かれたグラスを手に取り、


「カンパ~イ」


皆でグラスを合わせると宴が始まった。


マタタビの作った料理はどれも絶品で箸が止まらなかった。


中でもリクエストしたエビチリとパステは群を抜いて美味かった。


「このエビチリはヤバいな。メチャクチャ美味い」


「当たり前ニャ。オイラが作ったんだからニャ」


「それに、このパステも凄い美味しい」


美味しいの言葉にアミールが喜んでいるように見えた。


「それは、アミールが作ったニャ」


「え、このパステはアミールさんが作ったんですか!」


「はい、作り方はマタタビさんから聞いたんですが」


作り方を教わったとはいえ、麺の硬さ、食材の火の通り具合、味付けにいたるまで、まるでプロの料理人が作ったようだった。


「凄いですね、アミールさん。凄く美味しいです」


「本当ですか!良かったです。そう言ってもらえて」


楽しい時間というものは、一秒が一秒を満たさない、そんな錯覚さえ感じてしまうほど幸せな時間だった。

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