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聖槍

作者: 三屋久 脈

 夕暮れに赤い雨が降りた。


 窮屈なフランデの町には勇猛な冒険者たちの活力を削ぐ知らせが響き渡る。


 松明に火を注ぎ、皆が口をつぐみながら不幸の便りを焼き捨てる中、沈黙にあえぐ聖騎士は失った仲間の遺品をその手に眺めていた。


「もう限界だろう?引退するのか、レイン?」


 血の泡が排水溝に流れゆくのを見つめながら、最終ダンジョンの攻略に失敗した赤い星たちのリーダー、聖騎士レインは未だ悪夢に囚われながらも、返事をかえす「まだ終わらない」と。


 人材は全て使い捨てのような物だった、ダンジョンの攻略はそれほど難しく、いくら金銭を投げ打って犠牲をかんがみなくとも、疲弊していくのはこちらのほう。


 敵は際限なく湧き続けるのにくらべ、こちらは攻略と人件維持の為の資金管理、災厄の王との対峙、災厄の王が放った病魔や魔物たちとの激戦で湯水のごとく冒険者たちは闇へと還っていった。


「希望はまだ失われていない」


 立ち上がったレインは、いまだ仲間を失った傷も癒えぬまま、初心に帰るべく自分が最初に訪れたダンジョンに一人で足を踏み入れた。



 悪の影が災いと共にかすむ。

 ここは奈落の豊穣と呼ばれる。

 黒い稲が辺り一面を覆い尽くすダンジョンで、出てくる敵は聖騎士のレインと好相性のアンデッド達。


 不運にも犠牲となった冒険者や命を落とした者たちが、無念を抱えて行き場なくさまよい続けている。


 俺の仲間もここのどこかでさまよっている。


 常闇に嘆く骨たちに穿たれる悲哀の聖槍。

 飛び散るは散った鋼が巻き上げる紅蓮の火花。


 もはやどちらが取り憑かれているのか判別しがたいほどに、聖騎士レインは、俺は執念を燃やした。


 その灯りは、今宵のフランデの町に小さな希望を灯す。


「赤い星たちはまだ全て落ちてはいない、再び巡る」


 仲間の骸に相棒の聖槍を突き立てると、かつての旧友たちは青い灰になってこの世界ではないどこかへと旅立った。


 とうの昔の俺ならば、心折れてこの骸に泣きすがっただろう。


 俺は彼らの遺品を強く、それは強く、強く握りしめた。


 涙がこぼれる。

 これは再会であり別れだ。


 彼らは決して弱い訳ではない、誰よりも勇敢だったのだ。


 宵も醒めぬ浅き夜に、聖騎士は再び聖槍をとり、赤い星たちを募ったという。


 凛と、燦然と燃える朝日が今日もフランデの町に、赤く差し込んだ。

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