抱いて抱いて抱いて

”魔道具”

特別な力を宿した道具のこと。科学的な技術とはまた異なった代物である。

世界にはそんな物が人知れずに作り出され、そのほとんどはある人物の趣味によって集められ、バスの車庫並みに広い物置に魔道具が置かれていた。

「掃除をしてください！アッシ社長！」

「要らない物は捨てましょう！」

ここはアッシ社長の家でもあり、会社でもある。

そんなに偉くて、特別な人間でもある人物に対し、女性従業員の２人は手厳しい表情で、掃除道具を手にこの倉庫前にやってきていた。

絶対に。絶対に魔道具を捨てたくない、アッシ社長は倉庫前で迎え撃つ。

「いや、美癒ぴーもＮ＿ＭＨも待ってくれませんか。整理整頓は認めます。しかし、魔道具を捨てる事は許しません！」

「大半、ガラクタじゃないですか！使ってないし！！」

「アッシ社長。捨てるときは思い切りが必要です」

「君達はこの家、この会社をどーしようというのですか！！」

「ロクでもない魔道具を買い付けてたりするからですよ！ここ、タクシー会社ですよね！？物置になっちゃいますよ！」

押されると割りと弱い……。

捨てないでよ。捨てないでよ。そーいう小声をぶつくさ言いながら、倉庫を空けるアッシ社長。

ゴミのように置いているわけでもなく、彼なりに整頓して品物を眺められるくらいにはしている。

「貴重だからね！私のコレクションですから！」

「五月蝿いですね！」

「埃をとったり、衣類など洗えるモノも手洗いでやりますから」

魔道具と呼ばれる代物は、やっぱりというか年季のある感じの代物ばっかり。

壷や万年筆、剣、彫刻、などなどなど。

そんな古い物が並んでいるのにあって、

「！ちょっ……なんですか。この如何わしい抱き枕」

「それかい。美癒ぴー。この間、買ったんだ」

「完全にキモオタグッズじゃないですか。……うわー、ひくわー……」

「勘違いしないでくれ、それも魔道具だ。２つ１セットです」

なんかのアニメキャラクターの裸がデザインされた抱き枕を発見し、正直な感想を言う美癒ぴー。念のため、抱き枕そのものが魔道具であり、抱き枕カバーは別に何でもいい。

使用後を買い取ったため、カバーもそのままにして保管していた。

「とりあえず、洗濯して、汚れを落として、焼却しましょうか」

「いやいやいや！！ＮＭ＿Ｈ！待ってください！！なんですか、最後の！！焼却って言った？言ったよね！ちょっとはその魔道具の話を聞いてもらいたいものです！」

◇　　　　　　　◇

ギュッと強く、誰かを抱きしめたいですか？

眠る夜だからこそ、そーいう物が欲しいと思いませんか？

抱き枕の開発チームはそんな希望を持って、枕の製作を行なった。魔道具は人々の想いから変異することが多く、この抱き枕もそーいう風に作られた。

離したくない思いを形にしたような物。

ギュッと枕を抱きしめ、その人が想い焦がれる人を夢見て眠るとき。この抱き枕は奇跡を起こしたという。

「しずかさぁ～～～ん。むちゅ～～」

眠りの快楽と夢の快楽に心が何も考えられなくなる、その時。

世界中に作られ、配られたこの抱き枕を通じて、人々は強く抱きしめ合えるのだ。

「ん～～～～」

「ちゅ～～～」

アーーーーーーーーーーーーーッ

………………

この抱き枕はその。発売当初は、女性のアニメキャラクターのカバーを付けている事が多くて、その。

なんというか。ストレートに言うと……。

男のオタク同士が夜中に抱き合ってしまうという事案が多発した。

抱き枕が他所の抱き枕と入れ替わるのではなく、抱いている人間と入れ替わるという魔道具。

それって抱き枕が嫌がってるんじゃない？

というのは、内緒である。

魔道具：”カップルピロー”

詳細：♂の枕と♀の枕の２種類有り、お互いが強く抱きしめられると、♂の枕が♀の枕へ移動し、♀の枕を抱きしめた存在は♂の枕の位置に入れ替わる。♂と♀の違いは製造地の違いらしい。

ちなみに値段は２万円ほどだったが、魔道具と判明してから１００倍近くの値になり、現在は製造販売中止となっている。