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6 デート中の違和感



 今日はルーク様と約束していたデートの日だ。

 デートと言っても護衛も侍女も付いてくるので、2人きりになることは無いが。



『俺に思い出を下さい』



 そう言ったルーク様の表情がとても苦しそうで、いけないと分かっていたのに受けてしまった。


 でも、これが終わったらもうルーク様が現れることはなくなる。私にとっても良い思い出になるだろう。

 これで後悔せずに修道院へ行けるはず。



「リリアーナ様、如何でしょうか?」


「素敵だわ。ありがとう」



 髪や服を整えてくれていた侍女に声を掛けられて、意識をそちらに戻す。

 感謝を伝えると、丁度ノックの音がして「ホーネスト様がいらっしゃいました」と扉の外の侍女が声を掛けてきた。



「直ぐに行くわ」



 私は椅子から立ち上がると、ルーク様の元へと向かった。



「お待たせしました」



 ノックをして応接間に入ると、緊張しているのか、ぎこちない動きのルーク様がお茶に口も付けずに待っていた。



「い、いえ!全然待ってません!」



 私の姿を見ると、ルーク様は勢い良くソファから立ち上がる。

 噛んでるし、声は上擦っているし、いつも愛の言葉を恥ずかしげもなく叫んでいるのに、こんなやり取りでそこまで緊張するなんて……。ルーク様は面白い方ね。



「ふふ、緊張されてるんですか?」


「す、すみません……」



 思わず笑みをこぼすと、ルーク様は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 それを微笑ましく見ているとルーク様と目が合って、彼の顔に朱が差す。



「ルーク様?」


「あの、リリアーナ様……とても綺麗です」



 不思議に思って首を傾げていると、ルーク様は照れながらも、着飾った私を褒めてくれた。


 髪と瞳に合うように、私が着ているのは首元の詰まった深みのある青色のドレスだ。

本当は冷たい印象になるから寒色系の色は苦手なのだが、それが一番似合うからといつも侍女に押し切られてしまう。


 ルーク様の不器用だが真っ直ぐな言葉は、素直に受け入れることが出来た。

 苦手に思っていたけれど、少しだけ寒色系のドレスが好きになれた気がするわ。



「それでは参りましょう!」


「はい」



 緊張しているルーク様は、お茶の存在も忘れてしまったらしい。

 私の隣へ立ち、エスコートしようと腕を差し出してきた。


 その腕にそっと手を乗せて、私はルーク様と馬車へ向かった。



 馬車には私とルーク様だけではなく、2人きりにならないために侍女がいた。

 私たちは気安く会話出来る間柄でもなく、侍女も空気のように存在を消しているので、何とも言えない沈黙が落ちる。


 ルーク様をちらりと見ると、彼はまだ緊張が解けていないようで俯いていた。


 沈黙を紛らわすために、私は俯くルーク様をこっそり観察することにした。

 今日の彼は紺色のスラックスと同色の上着をかっちりと着ていて、その色合いのためか赤髪がよく目立っている。しかし、いつも元気に逆立っている髪が丁寧に撫で付けられていて何だか変な感じだ。



(――あら、跳ねてるわ)



 撫で付けられた髪から一束上に飛び出ていて、頑固な髪質なのがよく分かる。その内全て逆立ってしまいそうで、思わず笑みが溢れた。


 笑い声に反応してルーク様が顔を上げてこちらを見るが、私は知らんぷりを決め込む。



「??」



 不思議そうに首を傾げるルーク様の様子が可愛らしくて、私は笑い声が出てしまうのを何とか堪えるのであった。



ーーーーーー


 しばらくして馬車が着いた先は、歌劇の会場だった。

 ルーク様が選んだのが歌劇だというのが意外で目を瞬く。まるで普通の貴族のような無難な選択肢で、らしくないと思ってしまう。


 実際は彼のことなんてほとんど知らないのだから、らしくないと思うのはおかしいのだけれど。



「お手をどうぞ」



 ルーク様は馬車から降りると、エスコートのために手を差し出してくれた。そして、非常にぎこちない笑みを浮かべた。

 いつものキラキラしたルーク様と違う様子に、又してもらしくないと思ってしまいモヤモヤとした気持ちになる。



「……ありがとう」



 しかし、その気持ちは出さずに私はエスコートの手を取った。

 中に入って通されたのは、貴族などが座る二階の特別席だ。その中でも特に見やすい位置で、席も数席しかなく私たちしかいない。



(今日のためにわざわざこの席を取ってくれたのかしら)



 そう思うものの、ルーク様の表情からは何もうかがい知れなかった。


 歌劇の演目は今流行の悲恋の話だ。

 思い合う恋人が身分の差によって引き裂かれるという話が情感たっぷりに歌い上げられていた。



(流行りとはいえ何故この演目なの……?いや、両想いになったらそれはそれで気まずいけれど)



 フィナーレを迎えてちらりとルーク様を見遣る。

 すると驚く程真剣な表情で舞台を観ていて、どきりと胸が鳴った。


 ――彼は一体何を思っているのだろうか?


 主人公と自分と重ねているのだろうか。

 だからこの演目を選んだ?それとも、私に何かを伝えたいの?




ーーーーーー


 観劇が終わると、今度は貴族御用達のカフェでお茶をした。


 ルーク様はまだぎこちなくて、会話が全然弾まない。

 結果的に、あまり話もせずにお茶やお菓子を黙々と食べるだけになってしまった。



「次は美術の鑑賞など如何ですか?」


「結構です」


 お茶を飲み終わる頃にそう言われて、私は思わず断ってしまった。

 ただでさえ、デートが始まってから会話も少なく気まずいのに、美術鑑賞なんてしたらもっと会話が無くなって気まずくなりそうだから。


 思い出を作るためのデートなのに、これでは思い出すたび苦い記憶になってしまう。

 しかし、私の言葉にショックを受けたのか、ルーク様は顔を青ざめさせて固まってしまった。



「そ、そうですよね。俺って奴は調子に乗って――」


「違います!そうではなくて!」



 項垂れて自分を責め始めるルーク様に、焦ってしまう。

 別に嫌な訳ではないのだ。むしろ私だって思い出を作りたいのに。


 そう思って慌てて口を挟んだが、いざとなると何と言っていいか分からない。


 その時、ふと馬車の中から見えた物を思い出した。



「――そう!ここに来る途中に薔薇園があったのでそこに行きたいのですわ!」


「薔薇園に……そうだったんですね」



 私の提案に、ルーク様は安堵の表情を見せた。そのことに私はほっとして息を吐く。

 これで何とか最悪の別れは回避できた。薔薇園ならこれ以上会話が減ることもないだろう。



「行きましょうか」



 話が纏まると、ルーク様は立ち上がり私の傍へ来た。

 椅子を引いてくれるのに合わせて立ち上がると、そのままエスコートされて私たちは店を出た。


 そのエスコートが、素直で明るいルーク様とは思えないほどスマートで、私はまたモヤモヤとした気持ちになる。



「近いですし歩いて行きたいですわ」


「分かりました」



 店から出ると、私たちは歩いて薔薇園へ向かうことにした。


 馬車の狭い空間で二人きりになるとまた沈黙になりそうで、それは避けたかった。

 侍女と護衛も後ろから付いてくるが、二人で並んで外を歩くのが何だか新鮮で面白いと感じる。


 思えばルーク様と会っても、一方的に愛を叫ばれるばかりであまり会話はしない。

 私が会話することを避けていたからということもあるけれど……。


 会話がないから当然お互いのことをあまり知らない。

 それなのに何故、ルーク様はこんなにも私を好いてくれているのか。

 ただただ不思議に思った。





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