夕食の唐揚げ
俺は先生からの説教をされてから帰宅する事になる。
もう夜だったな。
職員室で怒られていた時間が長かったわけだからそうだろう。
というのも当たり前だろう。
そもそも屋上にいる時点で夕方だったから。
外を歩いていて気づいた。
車のライト、それからすっかり暗くなっている空。
人気が少ない道。
少しながら曇っている様子は見れる。
やはり雨は降るのか。
しかしさっきのは先生からの説教だけで良かったかもしれない。
場合によってはさらに罰が足されると思っていたんだけど。
まあ良い。
喜ぶとなると罰が当たりそうで今はそう思っておこう。
とりあえず今度からは屋上には逃げ込めないという事だし。
しかしなんで屋上の鍵閉めなかったのだろうか?
誰かしら鍵を持っているらしく、それが返されていない。
全くおかしな話だ。
立ち入り禁止にするなら本来鍵をかけとくべきなんだけどな。
かと言って無断で入ってしまった俺も悪い訳だし。
もう逃げるのもこの辺が潮時なんだろう。
これは逃げるなという合図とでも思っておこう。
逃げてばかりでは何もできないという事は俺自身が理解しているはずだ。
良し、こうしちゃいられない。
そういつまでもグジクジ蹲るしていても始まんないしな。
とりあえず明日考えよう。
今は何も変わらない。
変わらないなら明日考えよう。
そうしてみんなとよりを戻す事ができれば良いけど。
家に着いた。
やっと家に着いた感じだ。
こんなにも長い間、家に来ていない感じがした。
不思議だな。
学校行くだけでここまで時間が長く思えるとは。
それだけ学校でいた時間が長く、そして憂鬱だった。
その憂鬱さが嫌いだった。
だから俺は授業中もずっと時計の針を眺めていた。
時間が早く終われば良いのにと思いながらじっと見ているわけだ。
カチカチと動くその針はいつもと変わらないはず。
でも今日は長く感じる。
今日に限らずいつもかな?
針がカチカチがコツンコツンというか。
何かオノマトペだな。
この連続して動く針はそうやって規則正しく動き、時を俺達に教える。
ごく当たり前の事が不思議と感じてしまうように、ふと気が抜けるとそう思ってしまう。
しかし俺はその時計の針のように規則的ではない。
俺が見ているその針は規則的とは思えない。
不規則。
型にはまることのない存在だ。
あの日以来、世界とのズレが激しく見えるようだ。
明らかにそれは俺自身が錯覚しているように思える。
そんな考え事した後でふと肩の力が抜け落ちる。
ここなら安心できる。
ここなら学校奴らはいないから。
家だから。
まあ先生から説教受けなければこんな夜に帰って来ることはなかっただろう。
全く運が悪い。
この際運を悪くしているのは俺の方である。
俺の行動一つですべてを不運にしているだけなんだと。
「ただいま。」
と俺は扉を開く。
今日は疲れた事だしゆっくりしようと思い、玄関へと靴を揃えているときだった。
「おかえり!」
と玄関の方から妹が現れた。
それから唐突に思いっきり俺の腹の方を殴った。
正直、痛くない。
軽い拳があたっただけだった。
それは痛くない。
「つうか、なんで帰ってそうそう殴るの?俺、疲れているんだけど。」
「うん?そこに殴りやすそうなサンドバッグがあったから?」
サンドバッグって。
格闘か何か見ていたわけなのか?
というか俺の扱い酷すぎ…
もう少しマシな待遇のしたがあるはずだ。
いやもうされていたりして。
とにかく帰って来たやつに対し殴るという暴行は俺でも嫌な気持ちだ。
まあ妹のパンチ食らった位で痛いとは思わないけど。
「痛い。」
俺はわざと痛い素振りを見せた。
本当は別に痛いというわけでもなく。
これが妹に対しての優しさみたいなものだ。
「やった!ついに兄に勝った!」
なぜ喜ぶ?
俺に勝った位で。
そしてなぜ嬉しそうにしている?
「はぁ、とりあえず夕食にするから。行こうか。」
「いや、ないけど?何食べれると思ってんの?」
「え?本当にないの?」
まあそんなのは嘘だと分かっているが。
今日は騙されてやってもいいかな。
何かクタクタに疲れているから。
「嘘だよ。兄、一緒に夕食食べよう!」
「はいはい。」
妹は笑顔で言った。
全くお前ってやつはかわいいな。
妹に引っ張られながら俺は台所へと向かった。
妹はいつもこんな感じだ。
俺とは正反対の性格で、友達多いしな。
それにスポーツできるし。
俺も部活やっているがそれほど強くない。
妹が高校生になったら、俺より強くなるんじゃ?
本当に俺も妹みたいに強気でいきたいものだよ。
こんな感じで日常が続く。
俺の現実はここだ。
ここにしか俺の現実の居場所はない。
妹と母が俺のいる現実の住人だ。
たった二人だけが分かってくれる。
俺が唯一信じることができる人だ。
「あら、おかえりなさい。」
母は帰って来た俺を出迎えた。
その手迎えに俺は答えた。
「ただいま。遅くなってごめん。」
「良いのよ。」
母は少し心配した様子で話しかけて来た。
あまり心配かけたくないものだ。
父が単身赴任で都会へと一人行った訳で、家の事はすべて任せている状態だ。
だから学校で起きた出来事は俺はひた隠しする。
心配かけたくないからだ。
心配かけて、悲しそうな目を見るのがいやだから。
何でもやりそうな母だ。。
いじめがバレて直接先生のところに直談判されては困る。
「今日は部活でもあったの?」
「そういうわけじゃないけど?」
「そうなの…」
母はこれ以上は言って来なかった。
それを見て、俺はテーブルの料理を眺める。
一汁三菜の料理だ。
それは一般的な料理だけど。
今日は唐揚げだ。
俺も母さんも妹も大好物だからな。
今日は何かと特別いい日ではないはずなんだけどな。
まあかと言って毎日唐揚げというわけでもない。
じゃあこうしよう。
今日は俺が決意を新たにした日と。
そんな祝日があるわけでもないけど。
そんな感じで勝手に決めていっても悪くはないだろう。
「いただきます。」
俺は早速その唐揚げをいただくことにした。
「うーん。この唐揚げ美味しいよお母さん。」
「あらそうかしら?」
と妹は興奮しながら美味しさを表現しようとする。
全く美味しそうに食うやつだ。
確かに母さんがつくったものは美味しいけど。
俺は妹のようにオーバーリアクションは取らない。
というかここまで大げさには行動は取らない。
普通に美味しいとだけで表現する。
まあ正直味が気にならない。
いや、味がしない。
無味なのかと疑ってしまうくらいだ。
いつもならこの唐揚げの肉汁がマッチして美味しいはずなんだけどな。
そういやいつからだったっけな。
料理がまともに美味しいと感じなくなっていったのは。
「兄、全然食べないね。私がそれ食べるよ。」
流石に食うスピードが遅すぎたわけなのか。
しかし俺もたくさん食べるわけでもない。
「はいはい、いるならあげるぞ。」
「やった!ありがとう。」
「でも太るぞ。」
そう言うとなぜかぷぅーと顔をふくらませる。
完全に涙目だ。
流石に言い過ぎか?
「お母さん、兄が酷い。」
「あらあら。私も太るかしら?」
「いや、本当すいませんでした。俺が悪かったから。」
と俺はいつもどおりすぐに謝る。
まあ何となく。
別に誰に非があるわけでもないけど。
「もういいわ。唐揚げの事。」
「えっ、どうしたの?」
「知らない!兄の唐揚げ何か知らないわ。」
と言いながら妹は再び唐揚げを食べ始める。
なぜ唐揚げでそこまで大げさすぎるのか?
はあ、全く俺もデリカシーないかもな。
こんな妹なんだけど結構スリム体型だし。
運動部な訳だし。
それに母さんも。
自慢の母と妹だよ。
俺はつい妹に対して言い過ぎた部分あったけど。
まあこれはいつもの俺の食卓だ。
まあちょっと壊しかける時が来るかもしれないが、それはすぐに終わる。
だから妹もこのことはすぐになかったことにする。
「ごちそうさまでした。」
と言い、食事を済ませた。
それから食器洗いを妹と二人でする。
あまり母さんに負担をかけないためだ。
「二人ともいつもありがとうね。」
と母は声をかけた。
「まあいつも事だから気にすんな。それに今日は母さんはゆっくり休んでくれ!」
「じゃあデザート食べて居間でゴロゴロしようかしら。」
「いや、何かそれだと俺達の行動と母さんの行動の振り幅凄過ぎるから。まあ母さんの自由にしてもらっても良いんだけど。俺達が言えるわけないし。」
あまりにも長いツッコミをした。
「あらそうかしら。じゃあデザート食べておくね。」
結局デザートは食べるんだね。
母は冷凍庫からデザートのアイスを取り出して、食べている。
とても美味しいそうに食べている。
そして食うスピードが早い。
やはりこの二人は大食いに向いている。
「はぁ、さてお前の方もそろそろ終わりそうか?」
「うん。何でも出来る妹だから。」
何でもできるは全くもって言い過ぎだな。
まあ妹は本当に何でもできそうだしな。
「自意識過剰だな、おい。さてあとは任せていいか?」
「えっ、兄もお母さんみたいに?」
「いや、しねぇよ。」
「えっ、アイス食べないのかしら?」
「だからなんで母さんは反応すんの?」
母さんは本当におっとりした性格で周りを和ませてくれる。
それでツッコミが入るのだ。
だからと言ってアイスは食べる。
それも事を済ませてからな。
絶対後で食べる!
強い願望だ。
俺は食器洗いを妹に任せて自室へと向かう。
自室の机に座り、それからゆっくり背伸びする。
やっと落ち着ける。
別に母さんと妹の態度が疲れさせるわけではないけど。
さてあれを取り出そう。
そう思い、ポケットに入れてあった手紙を机の上に置く。
俺はそれをじっと不思議そうに眺める。
それは唐突で怪しいものだったから。
名前は葛城日向と書かれている。
俺の名前だ。
差出人は不明だ。
一体誰がこんな事を。
そう思いつつ、早速手紙を読むことにした。