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屋上への経緯

3月、曇りだ。

高校一年、もう少しで2年になる。

早いことに。

場所は誰もいない学校の屋上で。

ぽつんと一人。

俺は空を見ている。

呆けた面構えで空を見ていた。

無感情とまではいかずとも。

それが傍から見たらこいつ馬鹿だわと明らかに言われても言い返せない。

空は青空が見えず、どんよりした雲だけがある。

空の西側で今、橙色が発光している。

そこまでその景色が幻想的というわけでもない。

当たり前に存在する奴だ。

もう5時という訳か。

それは俺に素早く時間を知らせた。

今の俺の気持ちはこの曇った空と同じ。

その雲は雨を降らせるかもしれない。

本当にそうなのかもしれないが、どうだろうか。

ただ俺と今日の空模様は似ている。

似たもの同士とまではいかないが。

俺はこの空模様のせいで気持ちが暗くなっているかもしれない。

何をやるにも興奮は沸かない。

興味がない。

楽しいとか嬉しいとかじゃない。

憂鬱、怒り、悲しさだ。

この俺の気持ちの暗さはどうも空のせいで無いようだ。

うっかり何かのせいにして自分だけ楽にしようとする欲望が顕になる。

昔の事で俺はまだ引きずっているだろう。

今思えば何でこうなったんだろう。

俺が悪いのか?

恐らくそのせいで今、暗い気持ちになっていただろう。


けんかした

言い争いした

軽蔑の目で嫌われた


だからそこで起きた場所に居づらい訳で屋上に一人でいるのは。

俺は空を眺めながらあの日を思い出した。

忘れたいことだったが頭から離れない。



ある学校の日だった。


「あー、マジつまんねー。あいつがいると最悪だわ。」


ふとそんな事が耳に入って来た。

それは嘲笑った顔で言った。

またか。

またかと言うものの最近、どうもそいつは俺に対し何かと文句か悪口を言う。

だからこれも俺に対した言葉何だろうとすぐに知る。

今までは聞き流そうと思って聞き流そうしていた。

だけど今日はこれに反応しよう。

いつまで経ってもそんな事言われるのもストレスが溜まって良くない。

俺はそいつの言葉の後に言うことにした。


「おい、そんな事言うじゃね。」


とっさにこの言葉がでた。

言葉を選ばず、頭でふと思いついた事を口にする。

そして奴を見る事にした。

先程の嘲笑った様子はなく、俺を睨む。

それからすぐに返答した。


「お前何言ってんの?」


そう言われるのも当たり前だと思う。

そう俺は何言ってんの?

いやそいつの発言がクラスの輪を乱す事になる。

だから俺は言い返したのだ。

言いなりが嫌な俺の意地だ。


「お前だからそれは俺に対しての発言か?どうなんだ!」


「は?だからなんでそうなるの?お前じゃないかもしれないのにお前だと思っている時点で被害妄想激しすぎだろ。」


「だからそれは俺に対しての発言だったか聞いてんだろ。」


言い争いに発展していく。

正直、埒が明かない。

明らかに俺に対してそいつはあいつがいると最悪と言ったのだ。

そうでなければわざわざ口にする必要もなく、俺を見て言う必要もない。

俺は彼に対し怒りでぶつける事しか出来ないだろう。

俺は彼に彼自身が言った事に対し、再認識させたいだけだった。

だけど言葉選びを間違えた。

相手を間違えた。

よりによって普段から話をしない彼に言ってしまったのだ。

彼は何かと俺と喧嘩になりそうになる事がある。

だけど今までは俺は避けていた。

しかし俺の我慢が限界を達したのだろうか。

だから言い争いになったのだろうと。


「つうかさ、お前俺にでも恨みあんの?俺がお前に対し恨みでもあんの?」


恨み?

それならあるかもしれない。

彼の俺に対する態度に俺は言いたい。

それは恨みという感情と密接な関係があるのかどうなのかよくわからない。

俺は彼に対し恨みはないはずではある?

しかし彼との言い争いでその恨みは蓄積されていったのだろうか。

そしてその言い争いは思わぬ方向へと傾いていく。


「だからお前の俺に対しての言葉を取消せよ。そしたら俺も何も言わねえから。」


「は?だからお前じゃないかもしれないだけど?」


かもしれないという部分にはやはり何かしらの意図があるのだろう。

かもしれないにはそれを俺も対象にしているということになる。

だったら俺が彼に対し言い返した事には間違いない。

だけど解釈が悪かったか、それか俺に非があったわけか。

それはさらに酷くなっていく。


「は?おかしいだろう。なんでお前に俺が悪いみたいな感じで言われなければいけないの?」


「いやいや、お前が勝手に俺の発言に口挟んだからだろ。つうかさ、正直言わせてもらうけど俺らクラス全員お前に対し最悪だと認識してるから。」


とため息混じりで彼は答えたのだ。

そんなはずがない。

なんでそれにクラス全員が?

俺が悪者?

違うよな?

俺は周りにいる奴らを見た。

俺が見た瞬間、彼ら彼女らは顔をそっぽ向くか、睨むかという行動に移る。

ならこいつが言った事が正しいという訳か?

ふざけるな。

そんなの俺が認めるか。 

多分そいつに皆、口止めされていて本当の事が言えないだろう。


「わかったか?お前は皆から嫌われている事に。」


「だから何なんだ。俺はお前らに嫌われようがどうでもいい。」


「だったら俺らに関わるな。一々輪に入ろうとするな。」


そいつは憎悪に満ちた顔で俺を見ていた。

俺は正しい事を言ったはずなのにどうして。

俺は彼に対し言いかけようとしたその時。


「おい、お前ら席につけ。授業始めっぞ。」


ちょうどその頃先生が来た。

先生は今、入って来たから先程までしていた言い争いは知らないのだろう。

俺は結局、何も解決がなく授業をする事になる。

その日以来からだろうか?

俺は陰湿ないじめを受ける事になるとは。


「おっと、水がこぼれてしまった。すまんすまん。」


奴は勢い良く、バケツの水をかけた。

それで俺はずぶ濡れになる。

またか。


「良いぜ。こいつ。俺達がこうしても何も言わねぇからな。」


「なら殴っても良いか?」


「良いんじゃね。こいつどうせ殴っても来ないし。」


「って、おい。待てよ。」


「あいつ、逃げたんじゃね?」


俺はその場から逃げるようにして教室を出た。

なぜ俺がこんな感じでいじめを受けるようになってしまったのかよくわからない。

ならば喧嘩相手の奴も俺と同じ事が起こるはずだ。

しかし奴のところにはそういった報復みたいなものはなかった。

被害者として皆が奴を認識したのだ。

全く笑える話だぜ。

俺が悪役。

俺だけが悪役。

面白い。

だけどお前らに一言言いたい気分だ。

ふざけるなお前ら。

と声を大にして言おうとしたが、結局はしなかった。

だけど俺は決して怯むことはしない。

それをせいに不登校にもなりたくないのに。

そして気づいた時にはここは俺の場所がないと錯覚する訳だ。

ここに居ても嫌な気持ちだけが残る。

仕方ないとどこか俺一人になれる場所を探し始めた。

誰もいないところでずっといたいものだ。

もう、そいつの声を聞きたくない。

皆の声なんか聞きたくない。

一人でいたい。




そして今に至る。

あの口喧嘩以来、クラス全員と顔を合わせづらい。

完全に俺が悪いみたいになっている。

確かに反応してしまった自分が悪い。

俺はあの日以来から教室へは居づらくなり、昼休み放課後、一人でいることが多くなった。

それに対し誰も心配することはない。

俺がそういう奴だと認識しているからだ。

そして屋上が今の拠り所。

今は放課後というわけだ。

それは空の夕日が物語っている訳だし、俺の行動が時間を知らせる。

拠り所へと来る本能的な何か。

ここには誰も来ることはない。

静かで孤独だ。

ここは来てはいけないところで見つかったら先生達に怒られるだろうな。

怒られたくないよな。

見つかりたくねよな。

だけどそんな悪い行い、思想は今はどうだっていい。

そう思うくらいここが静かで誰もいなくて、学校内で落ち着ける場所だ。

教室にいたところで結局、いつものいじめに発展すると俺は危惧する訳だし、解決にも持ち込めないと思う。

まだ俺はそんな事に恐れているのだ。

あの日と同じ事が起こる事を恐れている。

あの時からもう数カ月経っているのにな。

情けないとしか言えねぇ。

俺の心の弱さ何だろう。

あいつがいると最悪。

なら、俺さえいなければいい。

だから休み時間とかできるだけ人と避けて、3階、4階へと上がり、屋上に来る。

今日はいつもどおりだ。そう思っていたらふと、何かを見つける。

変哲のない手紙だ。

かと言って飾り気のない白だ。

それもおかしな事に俺の名前が書いてある。

という事は俺以外にもここへと来る奴がいるのか。

となると俺は別の場所を拠り所にしなければならない。

俺が人を避けたいと思うからだ。

今度はどこにしよう。

図書館?それから校庭?

もしかしたら屋上以外に場所がないかもしれない。

唯一ここだけが人がいない場所だからな。

俺にはここしか居場所がない。

まあまだいても問題ないかもしれない。

多分一人だけなら。

さて、俺宛の手紙は一応貰っておこう。

そう思い、ズボンのポケットへと手紙を押し込む。

さて帰ろう。

そう思った瞬間、最悪な場面に出くわす。

そうなぜか先生が屋上にいるのだ。

これは完全に怒られるな。


「おい、こんな時間まで何している?それにここは立ち入り禁止だぞ。」


大きな声が聞こえた。

先生は怒った顔でいた。


「あ、すみません。もう出ます。」


「いや、見過ごせんな。とりあえず一緒に職員室に来い。」


結局、職員室送りになってしまった。

仕方ないか。

すぐに済ませて今日は帰ろう。

そう思いながら先生について行くことにした。



俺は職員室で屋上に居た理由を説明する。

ただ屋上から外の景色を見たかったという嘘をつく。

本当は一人で居たかった訳だけど。

それを言うといじめられていると思われるからだ。


「お前がなぜ屋上にいたか大体理解した。」


「そんなんで理解できるんですか。」


「だが屋上に行くことは良くない。危険すぎるからな。」


「いや、ちょっと待ってください。どうして屋上は開放されているのですか?」


屋上が開いていたら誰かしらそこに行くことができる。

立ち入り禁止にするなら鍵をかけるべきだ。


「お前に言っておくが、たまに屋上の鍵を借りる先生がいるわけだ。返してもらってない。だから鍵はかけていないというわけだ。」


「だったら鍵を誰か管理しなければいけないですよね。」


「はぁ、とにかくお前に言っておくが屋上には来るな。」


「分かりました。」


俺は渋々、先生の忠告を受け止めた。

これ以上言うと先生に何かしら罰をくだされると思ったからだ。


「失礼しました。」


そうして俺は職員室を出ていったのだ。


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