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「黄金姫の憂鬱」 第九話

 ”黄金の世界、銀の焔”・番外編「黄金姫の憂鬱」 第九話


 「…………それ、使えないだろ?」


 いつも通りの巫山戯(ふざけ)た口調に戻った安瀬日(あしび) 緋音(あかね)の掲げた右手に握られた、俺には非常に見覚えのある”金属製のアタッシュケース”には……


 俺の”唯一”と言っても良い”装備武器(アーマー・ウェポン)”が入っている。


 「そうなのよねぇ、色々試したけどぜんぜん機能しないのよ……(はがね)くん、”焔鋼籠手(コレ)”にどんな迷惑な施錠(ロック)かけてるのよぉ!」


 「迷惑……」


 ――他人(ひと)の研究品を盗んでおいて、図々しくも()も当然という抗議の視線を向けて来る中々な(ツラ)の皮の女だが……


 確かにその”装備武器(アーマー・ウェポン)”には個人特定施錠(パーソナル・ロック)が掛かっている。


 ファンデンベルグ帝国技術少佐、ヘルベルト=ギレ博士制作の”機密保存庫(シュランク)”……()の化物染みた天才科学者が例の”(はこ)”に施した生体認証(バイオ・メトリック)には到底及ばないが、師弟関係であった俺のモノもそれなり”のセキュリティだと自負出来る代物だ。


 「盗人猛々しいな、安瀬日(あしび) 緋音(あかね)。けどお生憎様、それなら奪った意味もないだろ?」


 「そうでもないけど?こっちが使えなくても現に装備の無い(はがね)くんは無力でしょ。ちゃぁんと美人で有能なお姉さんはそこまで考えて動いているんだから!」


 俺への返答として偉そうに胸を張って笑う女であったが……


 「そうか?……そうでもないぞ、例えば……」


 俺は右手を顔の高さまで上げる。


 ガチャ!ガチャ!


 「穂邑(ほむら) (はがね)っ!動くなと言っているだろうっ!!」


 途端に、俺を囲んだ兵士達が一斉に自動小銃(アサルトライフル)の引き金に掛かった指先を緊張させる。


 「いや、そうは言ってもなぁ……早く戻らないと雅彌(みやび)の機嫌が悪くなる」


 俺は向けられた銃口をまるで見えないかのように無視して、上げた右手に装着した金属製の黒い時計……に見える機械の盤面部分を左手の人差し指で二度ほど軽くタッチする。


 ピピピッ!


 「き、貴様っ!」


 安瀬日(あしび) 緋音(あかね)には確か”南雲(なぐも)”?とか呼ばれていただろうか?


 恐らく兵団の部隊長であるだろう男が怒声をあげ、それに呼応する様に兵士達も一斉に引き金を……


 ――だがもう遅い!


 そう、穂邑 鋼(オレ)の準備は既に整っていたのだ!


 ガコンッ!


 「う、うわっ!」


 ガコンッ!ガコンッ!


 「おおっ!?」


 コンクリートの地面に幾つか設置されていた鉄板の部分……


 下水施設か何かの開閉口かと誰もが気にも留めていなかっただろうが、その鉄板が地下からの圧力で一気に弾け飛び、そしてその空いた空洞からせり上がって姿を現す謎の鉄塊(てっかい)


 シュオォーーン……


 不気味な排気ガスを部分部分から吐き出す、体高二メートルはあろうズングリムックリとした白銀全身(ボディ)の無機物。


 シュオォーーン、シュオォーーン……


 それは辛うじて人型を模しているが、人なら関節に当たる部分の隙間などからピコピコと何色(なんしょく)もの光を明滅させ、同時に奇妙な電子音を漏れさせた異形の存在。


 「な、なんだ、これは!?」


 巨大卵の様な体型から伸びた二本ある蛇腹状の腕には、巨象をも一刺しで絶命させそうな鋭利な四本の鉤爪が光り、


 「ロボッ……ト!?」


 キュイィーーーーン!!


 首無しの頭部らしき部位には、二つの円形状で双眼に似たレンズを赤く光らせる!


 「あ……あれれ?……これって……どこかで見た?」


 あまりに突然の出来事に兵士達が銃を手にしたまま呆気に取られる中、どこか間抜けな声を発した安瀬日(あしび) 緋音(あかね)が頭上にハテナを浮かべながらその異形をジロジロと見ていた。


 ――まぁ正確には”見た”というより”()っている”が正しい認識だろう


 俺は四体ほど出現した異形の……いいや、穂邑 鋼(オレ)が制作した”機械化兵(オートマトン)”の影に身を隠して、敵の銃対策をとったうえで名乗ってやった。


 「二年前の一件、ファンデンベルグ帝国の狂った天才マッドサイエンティスト、ヘルベルト=ギレ博士の最高傑作であったBTーRTー04べー・テー・エルテー・フィーア()らぬことはないだろう!」


 ――それは、穂邑 鋼(おれ)燐堂 雅彌(かのじょ)を取り戻した戦い


 その時に立ちはだかったファンデンベルグ帝国が脅威の秘密兵器は、同盟国であるはずの日本の支配階級、十二士族の総帥である”九宝(くほう) 戲万(ざま)”に対抗する為に極秘に開発されていた大問題の殺戮兵器だからだ。


 「う……まさか」


 「あ、ありえない……」


 兵士達は一様に青ざめた顔で立ち尽くす。


 ――有り得ない?そうでもない


 なんと言ってもその超兵器開発初期段階には俺も関わっていたんだし、それを言うなら俺は(そもそ)も、ファンデンベルグの狂った天才、あの爺さんの研究を利用して、不死身の魔神として君臨する”九宝(くほう) 戲万(ざま)”を倒す計画だったのだから。


 ――そう、全ては燐堂 雅彌(かのじょ)のため


 ――俺の行動原理は全て燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)なんだよ!二年前(むかし)現在(いま)も……


 「国の中枢に関わる十二士族なら勿論、()ってるよな?BTーRTー04べー・テー・エルテー・フィーア、通称”鋼の虎(シュタール・ティガー)”…………”コレ”はなぁ、それを超・小型化(スケールダウン)して、超・弱体(チープ)化した量産型、BTーRTー07ベーテー・エルテーー・ズィーベン”その名も”鋼の猫(シュタール・カッツエ)”だぁぁっ!!」


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 ――あれ……あれれ?


 俺は見事に敵の虚を突き、完全に場を支配した状況での決めの言葉を放ったはずだが、その兵士(ギャラリー)達の反応の悪さに戸惑っていた。


 「おぉい、聞いてますかぁ?”尖士(せんし)族”の皆さぁん!あなた達、今正(いままさ)に”超ピンチ”ですよぉ?」


 「…………」


 ――だが反応は同じ


 自動小銃(アサルトライフル)を手にした兵士達は、立ちはだかる俺の”機械化兵(オートマトン)”達を唯々眺めて立っていた。


 なんというか……恐怖と言うより、明らかに白い目で。


 「あの……ねぇ、(はがね)くん」


 そして、兵士達の中からズイと一歩前に出た女は面々を代表するかのように俺に問いかけてくる。


 「な、なんだよ?」


 俺はと言えば……大見得切ったのは良いが、相手の少々予定外の反応にちょっぴり不安になっていた。


 「確かにね、驚いたは驚いたけど?こんな国産自動車メーカーや携帯電話会社の作った展示用ロボットの出来損ないみたいなのが数体でなんになるっていうの?こっちは銃火器を手にした一個小隊なんだけど?」


 「なっ!?俺の作品のどこが”ホン○のア○モ”や”ソ○トバ○クのペッ○ーくん”だっ!!コレはあんな愉快で癒やし系な展示物じゃないぞっ!!」


 科学者としてのプライドを傷つけられた俺は大いに反論するが……


 「ぷぷっ!……だってこの寸胴……不細工だし、あははっ!」


 「くっ!この!お気楽女の分際でっ!」


 誰に笑われるよりも、この適当で迷惑千万な女、”安瀬日(あしび) 緋音(あかね)”に馬鹿にされるのが一番腹が立つ!!


 「それにぃ、自分で言ってたじゃない?”超・小型化(スケールダウン)”して”超・弱体(チープ)化”したゴミ同然のポンコツだって!あははっ!」


 ――そこまでは言っていない!


 「う……うぅ……それは……”|ヘルベルト=ギレ博士のBTーRTー04《オリジナル》”と比較したらってだけで……(そもそ)も開発コストとか燃料効率とか駆動時間とか諸諸の事情が……」


 「あはははははははっ!!」


 ――くそ、舐めやがって!!


 確かにファンデンベルグ帝国の秘密兵器だったBTーRTー04べー・テー・エルテー・フィーアとは比べ物にならないくらい小さくて、ちょっとばかり簡素化した間抜け……もとい!シンプルデザインだけど!!


 「おまっ!これはな……」


 「それに、こんなポンコツを勝手に地下に埋めてちゃダメでしょ?大家さんに怒られるわよ」


 「ううっ!」


 ――きぃぃ!お気楽女のクセに一般常識なんて猪口才(ちょこざい)()つ痛いところを!忌忌(いまいま)しいったらないっ!


 「俺は……俺は雅彌(みやび)の護衛のために……」


 「(はがね)くんの雅彌(みやび)さんに対する想いって、ほとんどストーカーだよね?」


 「だ、誰がストーカーだっ!!だ、大体、俺と(みや)は相思相愛で、公認の仲……」


 「公認のストーカー?」


 「ちっがぁぁーーう!!」


 「あははははっ!」


 ――も、もう許さん!!


 俺は怒りにまかせ、腕に装着した黒い時計(もど)きのパネルを更に操作した!


 「安瀬日(あしび) 緋音(あかね)ぇぇぇっ!!ペッ○ーくん……じゃなくて!”鋼の猫(シュタール・カッツエ)”の恐ろしさ、思い知れいっ!」


 ギュォォーーン!


 四体の鉄人兵がその信号で一斉に目覚めかけた瞬間――


 バシュッーーーー!!!!


 直ぐ目前を強烈な風が通り抜け、そして同時に……


 「ぎゃっ!」


 「ぐはっ!」


 ドガッ!ガシャッ!


 ガラガラガラァァーーァァン!!


 その場にいた尖士(せんし)族の兵士達は全員木っ端のように吹き飛んで、マンション前の道路を封鎖するように停車していた大型車両四台ともが転がった!!


 「あ、あれ……??」


 位置的な関係から、ひとり難を逃れた女はポカンとしていた。


 銃を手にした兵士達はおろか、ゴテゴテと鉄板で補強(カスタマイズ)され装甲車とも見紛(みまが)う重量(クラス)の四輪駆動車さえもが、まるで台風に煽られた空き缶のように転がりひっくり返る。


 「…………」


 特殊な”衝撃波”……

 それも恐らく威力を最小に絞ったうえ、(わざ)と直撃を避けてこの結果という……


 ――つまりこの”桁違いの暴力”には……


 ――こんな”馬鹿げた力”だからこそ……


 穂邑 鋼(オレ)には勿論、心当たりがあったのだ。


 「あ……あの……ええと」


 俺は恐る恐るその元凶が存在するだろうはずの場所……


 高級マンションの入口付近に視線を移して確認する。


 ――果たして其処(そこ)には……


 「恋人を置き去りにこんな所で何時(いつ)まで遊んでいるのかしら……(はがね)?」


 夜闇の中でさえ存在を際立たせる艶のある美しく長い黒髪で、澄んだ濡れ羽色の瞳の波間に時折ゆれるように顕現する黄金鏡の煌めきを秘めた双瞳(ひとみ)の、高貴さと清楚さを兼ね備えた比類ない容姿で佇む絶世の美女。


 ――燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)


 そう……


 一個小隊を鎧袖一触、装甲車両諸共に軽く”ひと()で”で無力化出来るような強力な衝撃波は……


 そんな最強の”竜爪(りゅうそう)”は、竜士族中でも最強の”黄金竜姫(おうごんりゅうき)”、燐堂(りんどう) 雅彌(みやび)の”雷帝(らいてい)”しか有り得ないのだ。


 「私は聞いているのよ?…………こ・う・く・ん」


 ――そして


 見目麗しき我が愛しの美姫は、氷点下の薄い微笑(えみ)を常備して俺の愛称を囁いたのだった。


 ”黄金の世界、銀の焔”・番外編「黄金姫の憂鬱」 第九話 END 

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