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トゥルク王国の王都ヴィロラ。国王ヴェイニ=ベルグストロームによって治められていた直轄地だ。
かつては首都圏の人口およそ百五十万人を擁する、シェレフティオ六王国最大の都市だった。あらゆる文化と物資が集まり、ヴィロラで手に入らないものはなく、あらゆる夢を実現させるのに一番近い場所だと言われていた。
中央に広大な王宮を設け、その正門の広場から伸びた道は全ての都市へと繋がる街道が集まっていた。
しかし、今や勇者と魔王の戦いの余波を受けて壊滅した都市だ。
王宮があった中央部は完全に消え去り、残っているのは南側の三割と北側の二割くらいで、残った場所もかなりの被害を受けていた。
中央部からかなり離れた場所でも屋根や壁かが半壊したのか、どの建物にも修復箇所があった。材料のない中で突貫工事をしたのか、きれいに直っている場所はどこにもない。
道路の端には廃材や日常ゴミが高く積まれており、廃棄された様子も、廃棄される様子もない。
中央部に近づくほど破壊された跡は色濃く残っていたけれど、再建は中央部から始まっているのか、取り壊された建物が多くなってくる。
俗に破滅の光球と呼ばれる光はヴィロラの中央に幅が三キロ以上はある真っ直ぐな傷跡を残していった。今は海や川から水が入り、長大な川を成している。しかし水流は非常に弱く、対岸が見えないせいで、まるで海が横たわっているかのように見えた。
「これは……。これじゃ復興なんて無理よ。見てよ、この川って言って良いのか分からない水たまり。対岸に橋を架けるだけで大変じゃない」
ヴィロラ南側の現状を見て回っていると、そのあまりの惨状にティアがげんなりとしていた。
元は大陸一の活況を誇った都だ。壊滅状態とはいえ人の往来はそれなりにあるものの、活気があるとは言いがたい。皆下を向き、重そうな足取りで歩いていた。
被害の大きかった川岸の整備は進んでいた。とにもかくにも港が必要だという事で、重点的に整備されたのだろう。この状況でも港を作り上げたのは、流石建設技術も進んでいたヴィロラと言うほかない。しかし、それでも橋の建設は難しいのか、一本すら架かっていなかった。
対岸に渡る船は頻繁に行き来しているようで、中には馬車ごと運べるほど大きな船も渡っている。
「このあたりで船便を営んでいると聞いたのだが」
馬車を降りる際にアイリとシルヴィにオウルへ行く旨を伝えると、道案内のつてがあるとの事で、昼も中頃から運送業者の事務所を回っていた。運送業を営む者は多いらしく、中々見付からないし、同業他社については聞いても教えてくれないので、もうすぐ太陽が隠れる時間にまでなってしまった。
「リータは先に宿を確保した方が良いんじゃないかと思います」
いい加減みんな疲れているし、そろそろ空腹を訴えかけてくる時間だ。見付かる、見付からないに係わらず宿を確保した方が良い。
「そうだな。今日は最後にあそこに寄って、いなかったら宿を求めよう」
そこは大きな建物だった。大半は倉庫となっており、片隅に事務所が設置されていた。
事務所に入ろうと近づいていくと、倉庫の中から声をかけられた。
「おい! そこにいるのは暴風姉妹じゃねえか?」
「その謂われのない呼び方は止めろ。ヤスカ」
倉庫から出てきた男が入り口に寄り掛かって立つ。あごに蓄えた無精髭のせいで四十歳くらいに見えるが、白髪などはないので実際はもう少し若いのかも知れない。
「どうした、こんなとこに来るなんて。俺に何か用か」
「なに、ヤスカが運送業をやってると聞いてな」
ヤスカと呼ばれた男は安っぽい笑顔をしていたけれど、アイリはいつものように無表情だった。
「よくここを見付けられたな。商売用の名前で看板を出してるから、聞いてもわからなかったろ」
「なるほど。だから苦労したのか」
「一件ずつ当たったのか? バカ正直なお前らしいな」
「では、他に方法が?」
むっとした様子のアイリにヤスカは平然と答える。
「ないな。で、用って何だ」
ヤスカはアイリをからかいながら倉庫の扉を閉める。扉が大きいので動かすのが大変なはずなのに、そんな素振りは全くない。
「道案内と情報が欲しい」
「確かに俺の所に来たのは正解だが、俺に聞くと高く付くぜ。それでもいいなら何でも聞きな。でもその前にそっちのお嬢さん達はなんだい」
アイリの要求にヤスカは冗談めかして言いながら、興味はティアとリータに向いていた。