第1章「奇妙な夢」4
待ちに待った夜がやってきた。こんなに心がワクワクするのは何年振りか。
健は布団の中に潜り込み、目を瞑った。初めは興奮してなかなか寝付けなかったが、次第に......。
「......健くん。健くん!」
「ん......?」
気がつくとそこには、ナツが立っていた。
「どうしたの?急にボーっとして」
健は周りを見渡した。周りには昨日見た夢と同じ光景が広がっていた。
これは......昨日の夢の続きだ!
「よしっ!何度も祈りながら眠った甲斐があったよ」
「何言ってるの。ほら、行くよ」
ナツはさっさと歩いていく。
「はいはい」
健はナツについていった。
10分ほどして、街に下りることができた。街には色々な人がいた。人々の髪は黒色、茶色、黄緑、金色、銀色、白色、水色、赤色と、人それぞれ違った色をしており、服装もかわいらしかったりシックであったり、とても個性的だった。
「もうすぐで友達の家に着くわよ」
ナツはこちらを振り向いて、前方を指差した。
「......なぁ、友達ってどんな奴なんだ?」
「凄く強い人よ。その人は生まれつきすごい魔法を持っててね、威力も相当なものなの。すっごく太い木を一瞬で木っ端微塵にするくらい」
「すげーな......ていうか、ここの人間って皆魔法使えるの?」
「うん、みんな何かしらの魔法は使えるわよ。でも能力は人それぞれ。その中でもラッドはかなり強い魔法の持ち主ね」
「ラッドって?」
「その太い木を木っ端微塵にした人......ほら、着いたわ」
ナツは小さな2階建ての家を指差して言った。
「ここがラッドの家」
「へぇー......」
ナツはドアをノックした。
「ラッドー!ナツよ」
しばらくして、中から大柄な赤毛の男が出てきた。
「よう、ナツ......ん?コイツは?」
「あぁ、えっと......」
ナツは健にチラッと目を向けた。
「……あ、どうも。大東健です。えっと......ソ、ソ......」
健はナツにチラッと目を向け、小声で言った。
「俺を襲った連中の名前、なんだったっけ?」
「ソクロス族」
「あぁ、そうそう。ソクロス族に襲われて逃げていたところを、ナツさんが助けてくれたんだ」
"ソクロス族"という名前を聞いた途端、ラッドは顔色を変えた。
「ソクロス族だと!?お前、ソクロス族に狙われてるのか!?」
健は頭をかきながら言った。
「そうみたい……です」
「この子、外国から来たみたいなの。近くにある森で散歩してたら急に現れたもんだから、ビックリしたわ」
「……とりあえず、入れ」
「ありがとう」
健とナツは、家の中に入った。
「今、コーヒーを入れるから待ってろ......砂糖はいるか?」
「あ、じゃあ……2つで」
「2つだな。ナツは?」
ナツは腕を組んで、強気に言った。
「私がブラック好きなこと、知ってるでしょ?」
「ははは、そうだったな。じゃあ待ってろ」
ラッドは奥の部屋へ入っていった。
健とナツは、椅子に向かい合わせに座った。
しばらくして、ラッドが二つのカップを手に戻ってきて、カップをテーブルに置いた。
「ほら、飲め」
「ありがとう」
健は一口飲んだ。なかなか美味しかった。というより、夢の中なのにちゃんと味がすることに驚いた。ラッドは健の隣に座った。
「改めて......ラッド・タウロスだ。よろしく」
「こちらこそ、よろしく」
ラッドは真剣な表情を浮かべて言った。
「もう一度訊くが……お前、本当にソクロス族に狙われてるのか?」
「ああ......」
「だとしたらまずい。おそらく奴らはまたお前を殺しにくるだろう。奴らはいつ襲ってくるかわからない。もしかしたら、もうここにいるということもバレているかもしれない」
「マジかよ……」
怖気付く健に、ラッドは胸をドンと叩いて言った。
「だが、心配するな。いざというときはこの俺が助けてやる」
健は、ラッドがとても頼もしく思えた。
「ありがとう」
ラッドは、恥ずかしそうに頭をかきながら言った。
「どうってことねぇよ」
「ま、ラッドに任せておけば心配いらないわ。相当強いから」
ナツはそう言って、コーヒーを一気に飲んだ。そのとき、明らかに苦そうな顔をした。
「あれ、もしかして無理して飲んでるんじゃ?」
健がからかうと、ナツは頬を赤らめた。
「そ、そんなわけないでしょ!ごちそうさま。じゃあ私たちはこれで。ほら健くん、行くわよ」
ナツは立ち上がった。
「ん?どっか行くの?」
健はナツに訊きながら立ち上がった。
「他の友達に会いに行くの。みんないい人だし、それにもしソクロスたちが襲ってきたときにも頼りになると思うから、健くんにも会ってもらおうと思って」
「あぁ、うん。わかった」
すると、ラッドも立ち上がった。
「そうか。じゃあ一応、俺も一緒に行こう。万が一ソクロス族が襲ってきたときのために、な」
ナツはうなずいた。
「それがいいわ。じゃ、行きましょ」
ナツと健とラッドは、家を出て、外に出た。
「じゃあまずはルビヤの家に行こうかしら」
「ルビヤ?」
「うん、ルビヤ・バルトルディ。凄く優しい子でね、困ってる人がいたら助けずにいられないの。それでルビヤはね、怪我をしたり、呪いをかけられた人を治療することができる魔法の持ち主なの。もし健くんがソクロスたちに襲われたときには役に立つかもしれないわ」
「へぇー、すごいな」
しかし、ラッドが困った表情を浮かべて言った。
「確かにあいつの魔法は大したもんだが、ソクロスは相当な魔力を持っている。もし健が奴に魔法をかけられたとして、奴の魔法をルビヤに解けるかどうかは正直わからない」
健は一瞬不安になったが、すぐにその思いは吹き飛んだ。ここはあくまで夢の世界。攻撃されたり、魔法はかけられても、さすがに死にはしないだろう。ついでに痛みも感じなかったらラッキーなのだが。
しばらく歩くと、商店街に着いた。あちこちから、店の店主の呼びかけが聞こえてくる。「あなた、コインは持ってる?」
ふと、ナツが話しかけてきた。
「コイン?」
「持ってないか。この国ではね、「コイン」を使って物を買うの。そうね、せっかくだから......」
ナツはポケットから一枚のコインを取り出して、健に差し出した。
「はい、1000コイン。無駄遣いしないでね」
「いいのか?」
「うん」
「ありがとう、ナツ」
ナツは頬を赤らめた。
「う、うん」
「ははは。得したな、健」
ラッドが笑って言った。