第4章 最弱でも最強でも
謁見から一週間。ついに合否発表の日がやってきた。僕は気を引き締めてその場所へ向かった。
僕は向かう途中、ふと先日のことを思い出した。叔父上こと国王陛下とのやりとりを。
新しく入った騎士が何者かに襲われていると。そして、それは僕にもあり得る話だと。
そんなことを思いつつ、すたすたと歩いた。やっとの思いで掲示板の前についた・・・のだが、何だか妙に人の数が多い。なにかあったのだろうかと周囲を見回すと、リラが僕らに気づいてこっちへ向かってきた。
「おはよう。アレン」
「うん。おはよう、リラ。」
走ってきていたのか息切れを起こしている。
「ねえ、これっていったい何が起こっているの?私が来た時にはすでにざわざわしていたけど」
「さあ?僕らは今来たばっかりだから何が何だかさっぱり。」
「うむ。どうやら騎士狩りの予告状が貼られているみたいだ。内容までは見えんが。」
「「「すごい!!!」」
「え、あ、いやなに、別段驚くことではないさ。騎士としてならこれぐらいは・・・」
「いや、そこがすごいんだよ!!!」
これはお世辞ではなく、本音なのだが・・・どうやらエクスにとってはこれが当たり前らしい。
というよりは、彼女みたいな聖剣・魔剣はこれが普通なのか?
「そうだよ!私たち、まだ見習いだけどそこまでのスキルは持ってないよう」
リラが目をキラキラ輝かせながら言い放った。エクスもまんざらではない顔をしている。
あれ?なんか一瞬だけ可愛く見えたぞ。
そんなやり取りをしているうちに、人の数が減った。今のうちだと思い、掲示板を見てみると。
・・・え?
そこには僕やリラの名前は載っているもの、大きく赤い文字でこう書かれていた。
『新人騎士諸君!君たちの運命はここで終わる。楽しみにしているといい。』
運命はここで終わる・・・だと?冗談じゃない!ふざけるな!!何が楽しみだ、馬鹿にしているのか。
今までにない感情が膨れ上がってくる。何かに支配されるようでされず、自我が保たれているようだ。
僕の顔を見た二人はギョっとして一歩引いた。
「ア、アレン?!どうしたんだ、君らしくもない顔をして!」
「そ、そうだよ。一体どうしちゃったの?」
「わ、分からない。ただ、これを見たら急に腹の奥底から膨れ上がってくるものが・・・」
「それは『怒り』だよ。」
「い、怒り?」
「そうだ。許せない、冗談じゃない、馬鹿にして、と相手に対しても、自分に対してもムシャクシャしたり、不満が爆発した感情だ。君はそういったものに関しては無頓着だったのか?」
怒り。これが・・・たしかに爆発したような感じだけど、なぜかむなしい。
「それは騎士になるものであればあまり必要のないもの。騎士とは、常に冷静でいなければならない。
この言葉の意味が分かるな?君たちは。」
そう。エクスの言うとおりだ。騎士とは常に冷静でいなければならない。
どんな時でも・・・そう、大切な人が目の前で失っても。
僕はリラを、リラは僕をチラっと見て、すぐに顔を伏せた。
そんな様子を見ていたエクスは、バツが悪そうな顔をして、頬をポリポリ掻いた。
「ま、まあそれは戦場での話だ。先の話をしたって今の君たちにはよほどのことがない限りは起こりえないだろうし。とりあえず、帰ろうか。」
そうだ。ここでこんな話をしていたっていますぐといったわけじゃない。
けど・・・なにか引っかかるような気がするんだが。まあいいか。
「そうだね。ひとまず帰ろう。あ、そうだ。忘れてた。」
「え、なに?」
「リラ。しばらくは僕と一緒に帰ろう。騎士狩りが現れるんだ。一人だと危ないだろうし。」
「えっ、そ、そう、だね。一人じゃ危ないし。一緒に帰ったほうがいいよね。」
僕はポケットからハンドベルを取り出した。それをチリンチリンと音を鳴らすと、王宮から馬車がきた。
実はこのハンドベル、先日の話で叔父上が念のためにと渡してくれたもので、どうやらこれはある特定の場所にのみ音が聞こえるという魔道具だった。
馬車の車輪がカラカラと音をたてながら、こちらへ来る。到着して、一人の男が顔を出す。
「ご用命により、参りました。アレン様。エクス様。」
「いつもありがとうございます。カロンさん。」
カロン・ウェンディ。王宮で庭師をしている人だ。年齢は24と歳は離れているものの、物腰が柔らかいため、王宮だけでなく、市街の人たちにも好印象をもたれている。とても素敵で頼れる大人のお姉さんといった感じの人だ。
「アレン様。そちらのお嬢様は?」
「紹介します。僕の許嫁のリラです。」
「は、初めまして。リラと申します。」
「これはこれはご丁寧にどうも。カロン・ウェンディです。」
「あ、あの・・・」
「はい、なんでしょう?」
「カロンさんて、子供が好きなんですか?」
え?なにぶっちゃけた質問してんのぉ!?
「はい。大、大、大好きですよぉ。」
カロンさん。あなたもあなたで真面目に答えないでください!と心の中で叫んだ。
「実は、お二人に相談がありまして。」
突然、仕事をするときの顔になったカロンさん。
「リラ様も、もしよろしければの話ですが。」
「構いません。どのみちそれは私にも関係のある話なのでしょう?」
「ええ。詳しい話は馬車の中で。ではどうぞ。」
彼女に促されながら馬車の中へ。僕とリラを隣り合わせ、エクスとカロンさんは向かい側に座った。
「では、始めます。最近新人の騎士、それも優秀な者ばかりが狙われているのはお耳入っておりますね?」
「「はい。」」
「そのことなんですが、実は・・・殿下が関与しているとのうわさがありまして。」
「なっ!?そ、それってどういう・・・」
「それが、宮殿内のメイド達が夜な夜な殿下が王宮の外へ外出しているとおっしゃっていたので、その可能性は極めて高いと。あまり信じたくはありませんが。」
「それで、僕たちにどうしろと?」
「国王陛下からの勅令が下ります。それも明日に。内容は騎士狩りの正体、及びそれに関与していると思われる人物の身柄の拘束。報酬は10万。さらに内容次第では、可能な限りその者の要求を一つだけ承諾するというものでして。自分の子供が関与しているにもかかわらず、です。」
「確かにな。そうでもしなければ、騎士狩りは一向に収まらないだろう。」
エクスの言う通りだ。しかし、また何かが引っかかっている。まてよ。一つだけわからない点がある。
「カロンさん。殿下が関与していると仮定した場合ですが、なぜ騎士狩りをする必要があるのでしょうか?少なくとも僕が知っている限り、殿下は才能に恵まれているお方のはず。昔はああではなかったとお聞きしていましたが。」
「そ、そうだよ。それに、殿下は儀があるんでしょ!?なんで・・・なんでそんなことをする必要があるの?!」
言われてみればそうだ。兄上は確かに立太子の儀が控えている。何か事情があるのか?
だとしても、これは許されない行為だ。騎士とは、この国で最も名誉があり、最も危険な職種なのだ。国を防衛し、市民の盾となり、自らの命をかけるものだ。騎士狩りとは、それらを無下にするのと一緒だ。そうこう話しているうちに、僕らはヴェルネンス家に着いた。リラはお隣さんなので僕の家で降ろしても大丈夫だといった。
「では、アレン様。エクス様。リラ様。お休みなさいませ。」
「「お休みなさい」」
僕は伸びをしたときに、エクスが考え込んだ後に言った。
「アレン、リラ。君たちはこれから危険な目に会うかもしれない。だから、私が君たちに、剣を教えてやろう。自分の身は、自分で守らなければいけなくなる時のために。」
その考えに異論はなく、僕らは喜んでその提案を受けた。
「例え、君たちに才能があろうとなかろうと、私は一切妥協しない。いいな?」
そうして、地獄の訓練が始まった。