第三章 最弱の過去
エクスがみんなの前で聖剣だと言い放った。
(マズい。こんなところで失態を出して騎士失格と言われたらどうしよう。)
そんなことを考えていると、国王が口を開いた。
「・・・フッ。フハハハハハハハ!!!まさか貴公がそこにいる騎士候補生の剣と申すか。面白い。実に面白い!良かろう。私にも非があった。許せ。っと、名前を聞いていなかったな。なんと申す?」
「ハッ。アレン・ヴェルネンスと申します。国王陛下。」
「よい。頭を上げよ。そなたは何も悪いことなどしておらぬ。そう申し訳なさそうな顔をするな。私が悪いのだ。」
「あ・・・ありがたきお言葉。その寛大な御心、誠に恐縮の至り。」
陛下とのやりとりを見た後、他の候補生は後に続いて、膝をついた。
「うむ。他の者もまっすぐな目をしておる。実にいいことだ。合否の発表は後日にするとしよう。今日は疲れているであろう。ゆっくりと、休むがよい。」
「「「は。その心遣い、誠に感謝いたします。」」」
みんなが帰っていく。僕はというと、陛下に残るように仰せつかった。
みんなはうらやましそうな目線を僕に集中させながら、退室していった。
「・・・ふぅ。国王としてお前に接するのはいささか気分が悪くなる。そうは思わぬか、アレン。」
みんなは知らない。いや、正確には僕の家系と許嫁のリラとその家族しか知らない。
僕は、王家の人間ではないが、親戚、最もな言葉であえて言うのなら、従兄弟になる。
僕の母が現国王の姉にあたる人で、ヴェルネンス家に養子として嫁いできたのだ。そのせいもあってか、
王家にかかわっている人間からすると、羨ましいという声まで聞こえてくる。
言い忘れていたけど、僕は、血縁上、国王の甥ということになっている。
だからといって、王家の立場を利用してまで騎士になろうとは思わない。
僕は、ヴェルネンス家の嫡子として、騎士になろうとしているのだ。みんなの誇りを汚すようなことをしたら、本当に王家の顔に泥を塗ることになる。
「・・・いいえ。僕は叔父上の立場はよく理解していますから。いくら血縁者だからといって、僕を特別扱いしないでほしいです。合格でも、不合格でも構いません。自分が目指すものに対して現実と向き合うのが正しいかと思います。」
そうだ。特別扱いなんて、まっぴらごめんだ。母上はそんなものを望んでなどいない。自分の実力を出し切ってこそだ。
「う、うむ。そうだな。そんことをすれば逆に私が姉上にあーだこーだと揶揄されるのだろうな。
昔から、姉上にだけは口喧嘩で勝ったことなど一度もないのだからな、ははは・・・」
そういえば聞いたことがある。母上は口喧嘩ならおそらく国内最強だろうと。
いや、下手をすれば世界最強なんてことも・・・お、恐ろしい。
「ところで叔父上。だいぶずれましたが、話とは?」
「ん?ああ、実はだな・・・。」
叔父上の顔が・・・みるみるうちに曇っていく。世間からは太陽のような笑顔をもった国王といわれていたのだが、そんな顔をする、いや、してしまうのはよっぽどのことなんだろうな。
「実は、合否発表の日に限って、新騎士狩りが相次いでいるという噂を聞いたのだ。それも優秀な者ばかりを狙っていると聞く。お前も、狙われるのかもしれん。気を付けるのだぞ。アレン」
「わ、分かりました。これからの夜道も、注意しながら帰ります。」
「いや、暫くは私の部下に馬車を出すよう命令を下す。お前に何かあっては、姉上が悲しむ。それだけは、それだけは何としても避けねばならぬ。・・・分かってくれ。」
「・・・分かりました。では、僕のほうから母上に伝えておきます。それでは」
「うむ。気をつけろよ。アレン。」
叔父上に一礼して部屋を出ると、扉の傍らにエクスがいた。
「・・・聞いていたの?」
「ああ。主が国王に呼ばれるなどどんなことだろうと思って耳を立てていたのだが、まさか、そんなことになろうとは思わなかったのだからつい、な。」
二人で話をしながら宮廷を後にしようとすると、後ろから、いきなり肩を組まれた。
その顔には見覚えがある。ありすぎる。国王の子息にして第一王子、「ズィール・マスキュリアス・ターニアス」。
僕のことが嫌いな王子だ。現在は15歳でもうすぐ立太子の儀があると聞く。一体何の用だろう。
「よう、兄弟。久しぶりだな、元気にしてるか?ん?」
「お久しぶりです。兄上。兄上もお変わりなくて何よりです。それで、いったい何の御用でしょうか?」
「お前、父上に呼ばれただろう。賄賂でもばれたのか?」
「いいえ。決してそのようなことはありません。おじ・・・国王陛下とは何の変哲もないただの世間話をしていただけです。何なら、陛下に聞いていただいてもかまいませんよ。」
「フン。生意気な。今に見てろよ、お前の本性を公衆の面前でばらしてやるからな。覚えておくがいい。
フハハハハハ!!」
笑いながら宮殿へと戻っていった。
「どうした、アレン。すごく嫌な顔をしているが・・・ああ、そうか。あいつが君のことをいじめていたやつだな。ふん。君がこらえていなければ、私はあいつを切り伏せていたぞ。」
彼女の言うとおり、僕は、あの人にいじめられていた。実は、母上がヴェルネンス家に嫁ごうと思ったのは兄上が関係していた。兄上は母上のことを「妾の伯母上」、「腹違いの分際で・・」など、
使用人を含めた多くの面前でそんな根も葉もない嘘を言いふらしていたらしい。
実際は間違いなく、母上と叔父上は同じ母のお腹から生まれてきた。誰もが知っていることだ。
母上曰く、政治などに向いているのは弟だと。あの子は幼いころから政治に関しては私よりも優れていた。だから王位継承権は彼に譲ったと。
推測ではあるが、自分の父がこけにされたと勘違いして、そんなことを言いふらしたのだろう。
気持ちはわからなくもないが、だからといって、それは許されることではない。
そして、生まれてきた僕のことを、「能無し」、「目障りだ」と言われてきた。
そんな嫌な気持ちを抱えたまま家に帰ると、母上が涙を流しながら待っていた。
「アレン。こんな時間まで何をしていたの?!」
「母上・・・ごめんなさい。実は・・・」
今日のことを話して、自分の部屋に入り、ベッドに横たわった。
そして、いよいよ合否発表の時が近づいた。