第二章 最強と最弱は騎士になる・・・?
―聖天歴2020年4月1日―
アレンとエクスカリバーが出会ってからおよそ一週間。ターニアス聖王国では、国が公認する騎士になるための試験が行われる。今日がその日である。
しかし、アレンは何やら浮かない顔をしている。彼が周りを見回すと、みんながみんな腰に剣をさしている。自分だけ剣ではなく、「人」の形をした剣、『エクスカリバー』が常に自分の横にいるのだ。いくら彼が召喚したといえど、普通は人の姿で現れるわけがないのだ。少なくとも、今まで騎士になった者の中で、自分の剣が人の形をしているという文章を見たこともないし、聞いたこともない。だからこそ、不安なのだ。そう考えていると、彼女が心配そうに彼を見つめる。
「どうしたアレン。何か不安があるのか?」
あの日以来、エクスカリバーは彼の顔色を頻繁にみている。出会ってすぐに泣いてしまったのだ。心配されるのも無理はない。見つめられたアレンは少しドキッとして、彼女の顔をみて、考えた。
エクスカリバーの見た目は、金色でストレートの髪に、瞳の色は若草色に近い碧眼を持っていた。
傍から見ると、10代後半、それも顔の形と体のラインがくっきりとしているため、美少年と言われても仕方がないくらいに綺麗である。ちなみに隠れ巨乳である。
アレンの見た目は、まだ10歳というより、8歳か7歳、へたをすれば、5歳児と見間違えられるくらいに、身長が低い。だが、紺色に近い黒髪に、明るい紫色の双眸を持っており、これまた整った顔立ちをしていた。そんな二人が並んで歩くと、姉弟に見えるのか、横を通った人たちからも、お店にいた人たちからも「良い姉弟だね」、「かわいい子供を連れているね」なんていわれる始末である。
不満がある、というわけではないが、「姉弟じゃない」と強く主張できないし、かといってそれを言ってきた人たちの落胆する顔を見たくないのである。つまるところ、アレンは誰に対しても優しいのである。しかし、それだけではなく、ほかにもあった。
「僕はエクスの主に相応しいのか、時々思うんだ。だって、僕は、ほら、その、身長低いし・・・」
あれからいろいろあって、アレンは彼女のことを、「エクス」と呼び、また彼女も、「アレン」と呼ぶことにしている。お互いの信頼関係を構築するためにも、まずは名前だけでも、と思ってそう名付けたのだが、彼女はハハハと笑った。もしかして嫌だったのかな?
「『エクス』って、安直すぎるにも程があるだろう!ハハハハハ!」
そこかよ。ま、まあ嫌じゃなくてよかったと思っている。
なんだかんだ彼女はその名前をだいぶ気に入っているようだったし、少しホッとしている。
さて、そろそろ国王が待ち構えている城、「ターニアス城」へとやってきた。
門番の人に試験証と、名前を伝えて城の中に入っていく。
この世界では、名前は時として本人であることを示す、いわゆるキーワード、パスワードになっていて、
偽名を使うと、たとえ血の繋がりがあったとしても、戸籍からは抹消され、またそれが世界に知られることになるというなんともいえない、というか結構きつい処罰である。
だからこそ、この世界で、「名前」というものは非常に重要なものになっている。
「試験者の方ですね。どうぞこちらへ、ご案内いたします。」
そういって現れた試験官が、彼らを案内し、付いた場所は、「聖王の間」と呼ばれる国王が鎮座する部屋に来た。白一色に染まっており、清潔感と気品溢れるような場所だ。
ここへ来た他の試験者は、それぞれ打ち解けているのか気軽に喋っていた。
「あら?あなた・・・アレン?」
「あ!リ、リラ!?リラなの?」
「久しぶりね。元気にしてた?」
「うん。ずっと元気だったよ。」
「そう。えっと・・・そちらの方は?」
「私はエクスk・・・エクスだ。よろしく、リラ」
彼女の名はリラ。リラ・ヴォーレン。アレンの幼馴染で、彼より1つ下ではあるがしっかりした子。
髪の色は、マゼンタのようなピンクで、瞳は朱色。実はアレンとは許嫁でありながらも、とても仲がいいことから、他の人たちは、彼らをうらやましそうにしている。
「こちらこそ。ところでアレン、あなたも聞いた?」
「え?なにを?」
「最近なんだけど、この時期に入ってくる人がなんだかすごいらしくて」
「へえ」
「なんでも剣を腰にさしてないんだって」
「へえ」
「へぇってあなたね」
ゴーン。ゴーン。ゴーン。ゴーン。
「なんだ?この音は?」
「ああ。この音はね、試験開始の合図だよ。」
「ほう」
「国王陛下がいらっしゃる。皆の者、忠誠の礼を。」
近衛兵の一人が言った。そう、もうすぐでこの国の王、「フェムト・マスキュリアス・ターニアス七世がいらっしゃる。忠誠の礼とは、この国はもともと、一つの村だったらしく、初代国王がまだ旅人であったころ、その村では、村特有のはやり病があったそうだ。初代国王の名は、「ガブラス・マスキュリアス・ターニアス」という。
彼がはやり病の病原を突き止め、それを払った。それを見た村人は、あなたは正しく神の使いだといい、彼を尊敬し、崇めた。その後、彼は国を作りたいと村人に相談したところ、村人たちは大賛成。
彼を初代国王とし、みんなで力を合わせて、それから十数年後、ついにこの国ができたのであった。当時の村長の娘、「アリーシア・カッソル」と結婚し、初代国王の妃、初代王妃として彼女もまた国王とともに国を治めたという。村人のほかに、遠いところからやってきた人がいたらしく、当時の村長は国王補佐官となり、国を共に治めていたという。彼に忠誠を誓う者として、何か作法を思い、下記の通りにすることで、この国と、初代国王、並びに初代国王妃に敬意を表すものとした。
・膝をつき、右手を左胸にあてる。
・左手を自分の腰にさしている剣の柄に置く。
・そのまま、頭を下げる。
これを行うことで、この国への忠誠と建国の父、民草の母への祈りと将来を見届けてくれるらしい。
現国王が参った。皆一斉に礼をとり、国王が鎮座する。
「面を上げよ。」
一斉に顔を上げる。
「皆、よくぞこの国の騎士になりたいと志願してくれた。国王として礼を言う。今期の試験者は347名全員が出席しているという報告を受けた。本当に感謝する。だが、皆も知っての通り、騎士とは民の為に自らの命を張って守るという義務がある危険なものだ。それを承知でここにいるとみてよいな?」
『ハッ!!!』
そう。騎士とは、常に危険と隣り合わせである。今の国王は政治や国民のことを第一に考えると聞いていたが、その言葉は事実だった。
時が夕暮れに入りかけるころ、ついにアレンの番になった。
「試験番号177番、アレン。前へ。」
「はい!!!」
国王の前に立った。とても緊張する。そして・・・ついにこの時がやってきてしまったと半分ほど落ち込んでいる。
「おぬしの剣を見せよ。」
「・・・・・・」
「?どうした。剣を持っていないのか?そうであれば失格とみなして・・・」
「まて。」
その声に一斉に振り向いた。エクスであった。
近衛兵が怒鳴る。
「貴様!国王陛下に向かって何たる口の利き方だ!!!」
彼女は、その声を無視してアレンと国王の前に向かって歩き、国王を含む周りの人たちに宣言した。
「私がこのアレンの剣、『聖剣エクスカリバー』だ!!!」
『な、な、な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?』
デジャヴだ。そして頭が急に痛くなった。
2話目、投稿させていただきました。ぜひコメントをお願いします。