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タバコ

作者: 蜜聴



満員電車のなかであなたの寝癖を今日もぼーっとみてた。


後ろから3両目、反対側のドア付近にもたれかかってダルそうに欠伸をしている。少しだけ背の高いあなたはすぐにわかった。いつの間にかその横顔を眺めるのが毎日の退屈で窮屈な満員電車の唯一の楽しみだった。


4月に上京しもう気付けば湿気が鬱陶しくなってきた。東京に来てすぐ始めたバイトは慣れてきた。ただ東京はどこか冷たい気がして孤独を感じていた。私の唯一の友達はこのピンクのギター。家の近くにある公園の大きな木の下にもたれかかり大好きなバンドの曲を口ずさむ、そんな平日の昼下がり。なんとなく暖かくて今日はお昼寝でもしようかなとそんなことを考えてを止めると拍手がきこえた。ふと顔を上げると満員電車で見ていた寝癖の彼が拍手をしていた。

「えっ」

目の前の光景に驚いてしまい目を丸くし固まってしまうわたし。

「いい曲だね、今の曲。なんて言うの?」

なんて普通に会話を勧めて来る寝癖の彼。

それから毎週木曜日彼は何も約束をせず私に会いに来るようになった。ある日彼は、ギター教えてよと。直ぐに彼はギターを弾けるようになった。寝癖の彼は歌がすごく上手い訳でもないし、声が良い訳でもないけど優しく人を引き込む力があった。いつしかわたしは彼に惹かれていった。公園で会う機会も増え、ギターのお礼にと、お互いの家でゲームしたり、近所の居酒屋で酔っ払ったりオシャレなカフェも連れていってくれるようになった。いつもの様にコンビニでブラックコーヒーとミルクたっぷりのカフェオレを買いに2人並んで歩いていた。こう言う小さな幸せが続けばいいのにと考えながら、周りから見たらカップルに見られてるかな、いや、兄弟に見られるのかなと歩いていた。ふとその時彼は優しく手を握って微笑んでくれた。一緒にいると孤独なんて感じる暇なく時間は過ぎていった。彼の部屋で微かなシャンプーの匂いを感じながら眠りにつく。起きると彼はいない、そして嫌いだった煙草の匂いが部屋には漂ってた。もう仕事に行っちゃったのね。いつの間にか彼の部屋には黒いアコギが飾ってあった。最近聞いてないな、彼のオト。


彼にいつの間にか依存していた私がいた。でも気付いてたんだ。彼女がいること。毎月第3の土日彼は必ず休みを取ってどこかに行くの。その日が近付くと彼の機嫌はとても良くて、私は嫌だった。


早く私のことを嫌いになってよ

さよならなんて言わなくていいから、嫌いになって欲しい。そう思うようになってしまった。


第3土曜の夜、私の携帯に一本の電話がきた。それは病院からだった。彼が事故にあったと。

私はなにも考えることが出来ず家から少し離れた病院へ向かった。なんでこんな場所に?なんでわたしに連絡が?


彼はまるで今にも話出しそうなほど綺麗で眠っている様だった。そして彼は私の前から消えた。

彼は私に驚かせる様、私の地元の友達と連絡を取り動画を撮っていたと、結婚を考えている大事な人だと少し時間が経ってから知った。事故にあった時も今から帰るとわたしに連絡するところだった。


なんでたくさんさよならをしようとしてたんだろう。こう会えなくなるのは違うんじゃない?

大好きだったあの笑顔はもう見れないんだね。

あの下手くそな歌もここなら聞こえてくるかな、今日はまたひとりで大きな木の下で彼の好きだった唄を口ずさむよ。

帰ってきたら、おかえりなさいのハグで迎えるから。





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