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兄妹勇者の冒険記!  作者: 鳥山隼人
7/7

~第2章~  1・森と食事

お待たせしました!


カルバン国の東周辺には《 人なき森 》が広がっている。

と言っても、最近では野生の魔物や動物も増えた。木には果実が実り、葉は緑で染まり、その森の全てが輝いていたのだ。

中央には木々を縫うように透き通った川が流れている。

ではなぜ、人なき、なのか。

かつてこの森には、ある集落があった。

その集落は、当時貴重な資源であった銅が沢山採れることで有名になり、次々と発展していった。

……ある種族に侵略されるまでは。

この世界での最下位種族であり、常日頃から飢えているモンスター。

そう。ゴブリンである。

彼らはその飢え故に次々と生物を襲い、食らい付いた。

そしていつしかその集落へたどり着き、滅亡させてしまったのである。

その後、彼らはこの森に住み着き、道を通るものを襲うようになったのだ。

よって、《 人なき森 》と呼ばれるようになったわけだが……。


「これは、ひどい……」

センラ達は目を疑った。

その道は、木々は力なく倒れ、木の実や葉は腐りはて、岩は砕かれ……殺伐とした風景があった。

「あいつらはこの道を通って来たのか……」

センラ達はその道を慎重に歩いていた。

輝く森の中に一筋だけ、こんなにも腐り果てた道があるのだから。

それにここはただでさえ森。いつどこでどんな魔物に襲われるかなど分かりもしないのだ。

「……とはいえ」

エレナがため息をついた。

「朝一からずっと歩きっぱなしだと流石にこたえるな……」

「……そんなこと言われてもなぁ……歳には逆らえないだろ……」

「いやそういう意味じゃなくてってか私はたぶんお前と同年代だぞ……少し休ませて欲しい……喉も渇いたし腹も減った」

「……まじか。まぁ確かに疲れたな。ここらで休憩を取ろう」

「……す、すまないな……」

センラは何気なく笑いながらそう言ったが……

エレナは顔を赤くしていた。

改めて言うが、センラは普通の人よりかなり美形である。

それ故に、歳がどうのと言われても、彼の笑顔を見ては何も言えないのだ。

ちなみにセンラはそれを見る暇などなかった。

後ろにいるシルクの殺気がセンラに向けて放たれていたからなのだが……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


しばらくして、水場に近い程良いスペースを見つけた。

「ここらで少し休憩するか」

暗黒軍が通った跡も無いため、木々には食べられそうな木の実がかなりなっていた。

「へぇ……アメギじゃないか。こんな近場にもこんなものがあったんだな」

「アメギ……? 」

「なんだ、知らないのか? カルバンで有名なアメギ焼きってあるだろ? あれの原材料だ」

アメギ焼き……そう言われてハッとする。

アメギとは木や実の見た目はリンゴに近い果実で、生で食べると強烈な酸味があり、ソースにすると肉料理によくあうため、料理店では重宝されている。

アメギ焼きは、そのアメギに砂糖をかけ、オーブンで焼いて作る簡単かつ上品なお菓子の一つである。焼くことで甘みが増すため、それを絞って作ったジュースやお酒もある。

何より、この果実は魔力とスタミナの回復にとても役立つ。

普段から魔力を良く使う戦士達にとっても、ありがたい一品である。

「でもなぜこんなところに? 」

実はこの果実、あまり自然界では育たないという特徴がある。

この果実は栄養分として魔力を用いるため、魔力が充満した場所ではないと育たないのだ。

「多分、ここら一帯は魔力を多く含んだ土になっているんだよ。それで環境も良いから育った。最近じゃこの森には人がいなくなったみたいだし、近くに川もあるから水には困らないはず……それに確かアメギは動物やモンスター達からは食料として見られていないことが多いから……って、どうしたの? 」

まるで当たり前かのように、シルクが言う。

「よ、良く知っているな………やっぱり自慢の妹だ」

「……本当だな、センラ。………魔力を含んだ土があるなんて普通気付かないぞ」

「いやいや…………兄さんは戦士学校で習ったでしょ………」

「確かにアメギなら勉強した気もするが、俺は寝てたぞ……あの頃は体育と魔法しか興味が無かったし……」

センラはバツが悪そうにそう呟いた。

「い、いや別に落ちこむことじゃないでしょ」

あわててシルクが慰める。

「…………? んん? これって……」

「……どうかしたのか? 」

「い、いや! なんでもない。それよりもこんなところで収穫できるのは大きい。必要な分だけ持っていこう」

明らかに何か見つけたようだったエレナだが、それを特に明かそうとする様子はない。

なんにせよ、アメギは貴重な食料。それなりの量採っていっても損はないだろう。



「いただきまーす」

食事の準備も終わり、切り株や石に腰をかけながら俺らは今後について話し合うことにした。

「むむむ……! 美味い! そこらで売っているアメギ焼きとはまるで違う……! こんな甘さ普通じゃ出せないぞ! それになんだ、このソースは!? 酸っぱさと甘さ、そして程良いしょっぱさ……これは肉が美味くなる!」

「ありがとうございます! 始めて作るものだったのでお口に合って良かったです」

猛スピードで食事にありつくエレナ。そしてその様子を見て喜ぶシルク。

そんな二人のやり取りに少し安心する。

今日のお昼は道中狩ったウサギの焼き肉、アメギ焼き、そして荷物の中にあった野菜の盛り合わせである。

シルクは数少ない食料の中、バランスの良い食事を短時間で用意してみせた。

まったく、どこまで完璧なんだろうか。お兄ちゃん惚れちゃいそうです。

………気持ち悪いな。やめよう。

でも、短時間の割にちゃんと凝っている。

度々、妹は城魔法戦士ではなく料理店をした方がいいと思ってしまう。しかし、なぜかシルクは「兄さんは私がいないと何もできないでしょ」といって断られてしまう。

俺はどんだけ信頼が無いんだろう……。

「でも……一応兄さんも料理上手ですよ」

前言撤回。信頼されていました、お兄ちゃん。ちょっと嬉しい。

「へぇ。センラも料理が出来るのか」

「……あ、おう。一応家では交代制で飯作ってるからな」

なにやら俺が妄想に浸っている間に俺の話になっていたらしい。耳をすませると結構俺の話が出ている。

「じゃあ、三人交代制で料理をしていくのはどうだ?」

「あ、いいですね! 兄さんはどう思う?」

「……………………マジ?」

「…………何か問題でも?」

「あ、いえ。なんでも」

まじか。エレナも料理出来たのか。あんな恐ろしい動きするのに手先まで器用とは、こっちはこっちですごいな。

「じゃあ決まりだな。順番はシルク、私、センラで良いか?」

「はい」「ああ、いいぞ」

「じゃあ今日の晩御飯は私だな。見てろよ~? うまい飯作ってやるからな」



「マジで料理できるのな……」

素早い動きで野菜を切っていく。どうやらこの手の料理には慣れているらしい。

あの後、更に五時間以上は歩き、今晩のベースキャンプを決めた。こちらもまた、川辺の少し開けた場所である。

そしていよいよお待ちかねのエレナの料理だが……


これまた非常にクオリティの高い、おいしそうな料理を作っていらっしゃる……!


それも、この世界ではなかなか珍しいドワーフ料理。

ドワーフ料理とは、炒め物を中心とした料理で主に濃い甘辛の味噌味なのが特徴である。あまり食べることが無いため、貴重な機会である。

この香ばしさ、なかなかそそられる。うまそう。

「あとちょっとでできるぞ~。皿持って待ってろ~」

そう言うとエレナはフライパンに、ちょうど同じくらいの大きさの皿をかぶせ、手で抑えた。

「え? よそわないの?」

シルクがエレナに問う。

「ドワーフ料理はみんなで一つの皿を囲んで各自自分の料理を取る、という習わしがある。簡単に言うとバイキング方式ってわけ」

そう言うとエレナはゆっくりとフライパンを裏返す。

そしてゆっくりとフライパンを開ける。

すると―……


………ぐるるるるるうぅぅ…………


思わず腹が鳴った。そして直感する。

―――これ、絶対美味いやつや………!―――

今、センラは必死に平常心を保っていた。

しかし、本人も分かる位の鼻息と腹の音。

楽しみにしていたのも分からなくはないだろう。何せ約六時間にも及ぶ探索をしたのだ。

時間的にもかなり腹の減るものだった。

隣のシルクもいつもと違い、うっとりした眼で料理を見ている。

「お? なんだ? 腹減ったか」

「はい……早く……」

「よし。じゃあ食うぞ! いただきます」

「いただきます!」


シャキシャキシャキシャキ……

シャキシャキシャキシャキシャキ……

ジューシーな肉。キャベツ。ニンジン。そして味噌。

全ての食材が互いのうまみを引き出し合い、奇跡と言っても過言ではないすばらしい味を作り出している。噛めば噛むほど濃厚な肉汁が染み出す。

野菜本来の味が出る。新鮮で、身の詰まった立派な野菜たちのイキイキとしたパワー。

そして何よりごはんと合う!

カルバンは水分を含んだ土地を多く持っている。それゆえに甘く、ミネラルを多く含んだ少し細長い粒の白米がよく取れる。そんなご飯を持参した釜でじっくり焚いたのだ。

ご飯の甘みと料理の甘辛さ。奇跡のバランスである。

「……………」

ただただ、目の前の飯が無くなるまで、沈黙が続く。聞こえる音は箸で野菜をつかむ音、そして三人がアツアツの料理を口に運ぶ音である。

ふと、ぽつりと。

沈黙をかき消すようにセンラが口を開く。

「……幸せだ」

その言葉が、自然とセンラの口から漏れていたとは彼自身も、周りも気付かなかった。

とにかく、その料理はキルバス兄妹にとって大好物になったのは間違いないだろう。

その付近はしばらく静かで、しかしどこか温かい空気がながれていた。



「ふううぅぅ……食ったああぁぁぁぁ………」

満腹と、幸福感に満たされた腹をさすりながらセンラはそう言った。

「うまかったか? 」

「…………今度作り方を教えてくれ」

「……………私もお願いします」

エレナが問うと、センラとシルクは深々と頭を下げながら心からそう願った。

「別にいいが……この料理、作るのには体力が結構必要だぞ。……っていつまで頭下げてるんだよ! そんなに知りたいのかこの料理!」

「知りたい! なんだったら地の果てでもついていきます!」

「知るか! てかお前なら見て作れるだろ! それこそお前らの方が私なんかよりもうまく作れるだろうが!」

「逆になんでそんなに拒むの! 一周回って傷つくでしょうが! そんな子に育てた覚え、お母さんにはありません!」

「シルクはいつから私の母ちゃんになったんだよ! そんなキャラじゃないだろ! 正気になれお前ら!」

ギャー ギャー ギャー ギャー ……

夜の一番静かな時間。

しかしこの一行のいる森はこの後しばらく、おねだりの声が響いているのであった。



その後。三人は後片付けをして、いよいよ就寝に入る。

ちょうどキャンプファイアーの炎も消えかけてきたため、寝るタイミングとしてもいいだろう。

背中の荷物を下ろし、寝袋を準備する。

「なんか二人で寝ないのってこれが初めてじゃない?」

「……! あ、ああそうだな」

「……? どうしたの?」

「いや別に」

見れば分かるが、シルクは自分の親の顔を覚えていない。

なぜなら彼女が生まれてから三年がたった頃、二人の両親は暗黒軍の侵略によりこの世を去ったためである。

センラが丁度5歳、サクラは七歳だった時。この二人に物心がついた頃である。

だから、実際五人で寝たことが何度もあるはずなのだが、センラはその事実を伝えていない。

それは、彼女を傷つけないため。

「お母さんとお父さん、()()()()()()()()()()()()()()()()

そう。実は、シルクは自分の親が死んでいること自体知らない。

十年前、センラは「親は生きている。遠出しているだけ」と嘘をついたのだ。

以来、シルクはその嘘をずっと信じ続けている訳である。

「なんだ、両親は出かけているのか。だから料理も覚えた……」

「エレナ、ちょっと良いか」

割り込むようにセンラが声をかける。

「……? 別にいいが」

センラはエレナを呼び出す。シルクは少し怪訝そうな顔をしたが、二人は気付かなかった。

少し離れたところまで移動し、センラは両親の話が嘘であること、両親は既に死んでいることを告げた。


「……なるほどね。さっきの反応はそういうことだったってわけだ。納得した」

「………できれば妹には言わないで欲しい」

「なんで?」

「嘘だってばれたら、俺の信頼が無くなるどころかシルクがどんな反応をするか分からない。……というかできれば想像したくないしな。なにせ、妹が悲しむのを見るのは俺にとっても悲しいことだ。頼む」

「…………お前、ホントいいやつだな」

「え? 何が?」

「普通そこまで妹の心配をする兄はいないだろ。……まぁ分かった。私も言わないことを誓おう。私だってシルクが泣くのは見たくない」

「ありがとうな。それじゃ、戻るか」

そう言って来た道を戻って行く二人。

そんな二人を待っていた光景は……



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