~第1章~ 1・夢と目覚め(続き)
「ではまず、今日の会議についてだが……今の状況はどんなものだ?」
「ハッ。北のソイノ帝国と暗黒軍の接触を確認しております。今は休戦中のようですが、少しずつソイノ帝国が削られており、いずれ暗黒軍はこちらへ攻め入ってくると思われます。又、東南にも暗黒軍が確認されており、もう二日もすれば、この国へ到着すると思われます」
「うむ。ごくろう。というわけで、近々戦争が起こりそうなのだ」
カルバン王は重々しい声で伝えた。
そのとたん、あたりが、
「何!?」「暗黒軍だと!?」「……始まったか!」
といったような声で埋め尽くされる。
と、その時。
近くの席からとてつもない殺気が流れ込み、あたりには一瞬で静寂が訪れた。
「……王よ。続きを」
その殺気は1度感じたことのある……ゾト戦士長のものだった。
(やっぱり慣れないな、この人の殺気は)とセンラは思った。
「あ、ああ。分かった。」
1、2回咳ばらいをした後、王は話を続けた。
「……というわけで、皆に問いたいのはソイノ帝国から加勢の要求が来たことと、東南の暗黒軍についてだ。何か意見があったら教えて欲しい。」
王がそう切り出し、会議は始まった。
まもなく多数の意見が出た。
全面的に戦う派や、出来るだけ戦争は避ける派などの様々な声が上がった。
「………………」
……話をしづらい。
王は「静粛に!!」と声を掛けているが、あたりはうるさくなりっぱなしな上、ゾト戦士長は
「……チッ…………」
と舌打ちをしたきり、口を開けずにいる。どうしたものか、と頭をかきむしる。
……と、その時、センラの脳裏に1つの素朴な疑問が浮かんだ。
――――――なぜ、俺達が呼ばれたのだろう。――――――
普通なら数十人の最上位戦士やゾトなどの戦士長達、そして大臣達によって会議は開かれるはず。
なのに今日は大会議室にただの上位戦士……中には中位戦士までもが集まっている。
何か嫌な予感がするが……。
センラが不可解な悩みに思考を回していると、シルクがこちらを見てきた。
「……?どうした?」
「…………いや、なんでもない」
「なんだよ。なんか気になることでもあったか?」
「……そっちは?」
「…………こっちも気になることはあるが……」
「なんで今日は中位戦士も集まってるのかってこと?」
「……相変わらず察しがよろしくて」
どうやらシルクも同じことを考えていたらしい。
「な~んかおかしいよね」
そんなことを話していると、いきなりカルバン王が立ち上がり、
「静かにしろと言っているのが分からんのか!!!」
と叫んだ。
……あたりがシーンと静かになり、そしてカルバン王は淡々と口を動かす。
「……うおほん、ではソイノ帝国に加勢しつつ、東南の暗黒軍は戦闘の意思があるのであれば対応する、ということでよいか?」
そう王が問うと、皆、異議なしと拍手をした。
……まあ直前の出来事で、それしか出来なかったのだろうけど。
「それでは、これで第一次会議を終了する。何か質問はあるか?……ないようだな。それでは第二次会議に移る。中位及び上位戦士は会議室から出てくれ。……そうだ、センラとシルクは残れ。では、解さ――――――」
――――――「失礼します。」――――――
王が会議を閉めようとしたその時だった。
ふと声の方……真後ろの扉を見る。
そこには金髪の凛々しい女が立っていた。背はセンラより少し上。首にネックレスを付け、腰に合金製の剣をぶら下げていた。良く透き通った金色の髪をした20歳の女戦士。
なぜそんなに知っているかって? 決まっている。
その女はセンラたちの姉―サクラ・キルバスだったからである。
「姉さん!?」
「おお、サクラ・キルバス隊長。……そんなに息巻いて、どうされましたかな?」
「突然入って来るとは無礼な!!」
あまりの出来事にあたりがどよめく。
センラが
「どうしたんだよ」
と小声でたずねると、なにも言わずにウインクをしてきた。
「すみません。しかし一刻を争う話があります」
「ふむ。申してみよ」
そう国王が言うと、サクラは一礼をして、
「はい。向こうの山のふもとに暗黒軍が通ったと思われる跡が確認されました。少しずつではありますがこちらに向かって来ます。注意が必要かと」
『な!!??』
サクラが危機的情報を伝えるとあたりは騒然としている。
「二次会議は一時的に中止とする!! サクラ・キルバス隊長は、最上位、上位、中位、下位を連れて戦闘待機せよ。見習い・その他の者には住民を避難させろと命令をだせ!! できるだけ被害を少なくするのだ!! 解散!!」
王がそう言い放つと同時に、その場にいた全員が『ハッ!』と言ってそれぞれの仕事へ向かって行った。
「早く行けお前達!剣を持って待機していろ!」
ふと見ると、サクラはあたりに命令を出していた。
「おい、姉さん!そんなことって……!」
「さっきは言い忘れていたが、ものすごい殺気があった。それは見過ごせないだろう?」
「……分かった。いくぞ、シルク」
「う、うん……姉さん、気を付けて」
「……ああ、分かってるさ」
こうして、二人は戦闘待機することになったのである。
一方。会議が行われている頃。
森ではある異変が起きていた。
黒く、おぞましい殺気を放つ者達が森を進行していた。
殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!
その者達……暗黒軍の一団がカルバン王国へ向けて進んでいたのだ。
暗黒のモンスター……アサシン・モンスターや暗黒戦士が歩いた道。そこは、葉は腐り、木は力なく倒れ、道はえぐれ、動物は殺され……暗黒軍の……いや、暗黒に渦巻いた殺気の恐ろしさを物語っていた。
殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!
全てを破壊するその邪悪な軍団は少しずつ、しかし確実に足を進めていた。