~第1章~ 1・夢と目覚め
燃え上がる炎。次々と攻め入る暗黒軍。そこに一人戦う剣士。
その剣術はでたらめではあるが、モンスターや暗黒剣士をも上回る。
跳躍して切り刻む彼に抵抗できる者はいない。……だが。
―-心は落ち着いているはずなのに。
手の震えが止まらない。なぜか力が入らない。
そして。なによりも。
あの頭領?らしき人物の黒きオーラ。それは未だ味わったことのない恐怖をもたらす。
そうか。俺は……怖いのか。
戦いながらそんなことを考えていた彼だったが、その時。
彼の剣が、折れてしまった。
そして次々とモンスターが彼を襲った。肉をちぎり、骨をかみ砕く。その姿はまるで殺し屋。
憎悪に満ち溢れたおぞましいものだった。
目の前で自分の体がえぐられていく姿。そして激痛。すさまじい勢いで噴き出す血。
「や、めろ! う、うわああああああああ!!」
と、そこで目が覚める。と同時に鈍い痛み。彼はベッドの上から床に、頭から落ちていた。
彼――センラ・キルバスは若々しい剣士である。17歳でありながら、城の剣士として、王の元に
ついていた。
この今、目の前でシャチホコみたいな格好の男が。
話はもどり、その時。下の階から可愛らしい声が聞こえてくる。
「兄さ~ん?なんかすごいゴスッていう、鈍い音が聞こえたんだけど大丈夫?」
「ッ……ああ、なんとか」
「それならいいんだけど……ところで早く起きないと。今日は大事な日なんでしょ?」
「……?大切な日~?」
寝ぼけたような間抜けな声でセンラは問う。
「……王様に呼び出されたでしょうが。会議に出席してほしいって」
会議……会議?
「うおおおおお!!!そうだったああああ!!!」
ここ南の国、カルバンは鉱山業が特に発達した武装国家である。
そびえ立つ巨大な城。その周りに広がる城下町。そして四方八方に広がる山や川、他の国。
近くには、美しい海もある。
城下町には、商店や家が連なっており、質のいい品物がたくさん売られていた。
キルバス家はそんな城下町のはずれにあり、良質の武器を売る《武器屋》を営んでいた。
城と鉱山に近いため、王国や城の武器は基本的にここから輸入している。
キルバス家は3人の家族構成(両親は抜く)になっている。
長女のサクラ・キルバス、二男のセンラ・キルバス、そして三女のシルク・キルバスである。
サクラの説明はおいておこう。
まず、センラ・キルバス。17歳の剣士。茶髪で目は透き通った金色をしている。
おもにロングソードを使うトールマンで上位剣士の一人である。
ちなみに城は国王を中心とし、戦士は弓兵、剣士、槍兵、魔法使いの四つに分かれ、さらに最上位、上位、中位、下位、見習いに分布している。
全身は、胸、肩、すね当を付けており、ベルトに剣をぶら下げて歩いている。
身長はトールマンの中でも低く175センチ。町でも有数の美貌を持つ少年だ。
ちなみに、剣は白金と合金、そして魔銅製である。
次に、シルク・キルバス。15歳の上位魔法使いで、センラの妹ある。常に杖を手で持ち歩くようにしており、青い服で全身をそろえている。運動神経も良く、学力も高い、美しい顔立ちの美少女である。身長はセンラよりやや低めの小柄な体格で、こちらも目は透き通った金色である。
おっとりした優しい性格だが、兄・センラにはしっかりした態度を取っている。
そして、この家族の両親は、とっくの昔に死んでいた。
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今日の天気は晴れで、心地のいい光が差し込み自然と笑みがこぼれる。
城下町は今日もいつも通り、質のいい物が沢山並んでおり、様々な人種(モンスターも含む)でにぎわっていた。
近くの酒場からは笑い声が、商店街からは意気のせりが、そして和やかな会話が聞こえている。
――ああ、なんて気持ちの良い日だろう。
そう思いつつ、大きく伸びをする。
ゆっくり歩くこと5分、二人は城門の広場へとやってきた。
城の兵士が並んでいたり、旗がかかげてあったりと広いスペースになっている。中央には噴水があり勢いよく水が噴き出している。
その奥に、鎖で繋がれた橋がかかっていた。橋の横には水車がついており、そこに目がけて小さな滝が流れ落ちている。
連なる塔。その中心に石のレンガで出来た天守閣があった。そしてその高こそ、この国がどれだけ素晴らしい技術を持っているかを物語っていた。
「城内に入ろう」
と、その時、目の前に二本の槍が交差してセンラ達の足を止める。
「待て、何者だ?」
重々しい声が響く。城の門番であった。
「城剣士のセンラ・キルバスだ。国王様に呼ばれてきた」
「あと、城魔法師のシルク・キルバスです」
「ふむ……入門許可状は?」
「……!?しまった!!忘れ―――」
「はい、兄さん。忘れ物をするなんて、大丈夫?」
そう言いながらシルクが門番に入門許可状をわたす。
「…………すみません…」
本気で妹に心配されるセンラは、ただただ肩をすくめるしかなかった。
「……通れ」そういうと、門が音をたててゆっくりと開いていった。
城内は金色に輝いていた。入ってすぐ、左右に階段があり、正面に大きな扉がある。
脇には二人、門番が立っている。
他にも《宝物庫》などの看板のかかった扉があったが、それよりもひとまわり大きい。
巨大な扉……この奥に国王様がいるのだろう。
そんなことを思いながら門の前まで歩く。
と、再び。「止まれ」と声をかけられる。
「このあと、王と大臣たちの大切な話し合いがある。中に入れるわけには……」
「……いや、この子たちもきっと王に呼ばれたのだ。そうじゃろ?」
背後からの声にふりむく。そこには。
「おお、これはゾト戦士長。……会議へのご出席ですか?」
「うむ。このふたりもそうじゃ」
「それは失礼しました。どうぞお通りください」
そういって門番は扉を開けてくれた。重々しい音をたて、巨大な扉が開く。
「……ありがとうございました」
扉を通り過ぎた後、センラ達はすかさずお礼をいう。
「いやいや礼なんぞいらんよ。それよりも会議へ急ごうじゃないか。」
その男……ゾト戦士長は輝くような笑顔を向けてきた。
ぱっと見は白髪のおじさんである。しかし、体からはただならぬオーラをはなち、よく透き通った緑色をしていた。ワイルドな風貌で、センラ達より頭一つ程背が高い。
ふと腰に目をやると、センラと同じ材質の剣をつけていた。
「……じろじろ見られると恥ずかしいのだが」
「ふぁッ!!……す、すみません」
注意された。まぁ、大丈夫だろう。一瞬殺気が見えたがきっと大丈夫だ。
長い廊下を抜けた先に太陽の光が差し込む広い部屋が見えた。多数の階段状に並んだ椅子の中央に半円形の卓上があり、その中心に王の玉座がどっしりとかまえていた。
そして、国王様が座っている。国王様――カルバン王はゆっくりと口を開き、
「おお…来たか。待ちわびたぞ、ゾトよ。」
「これは国王。元気そうでなによりですぞ。」
「うむ。センラ達もよくぞ来たな。ではさっそく会議を始めよう。」