般若の顔した天使
おっぱい回です。
剣護も結構酷いです(知ってた)
まさかの総合評価1000ポイント達成です!
これも応援してくださった皆様のおかげです
本当に本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきますので、よろしくお願いいたします!
「は、初めまして。アリスの友達の相馬剣護です。みんなはアリスの友達って聞いてるんで、年は離れてるけどみんなとも仲良くなれたならなって思います。よろしくね」
カラオケルームの中にいた三人の美少女に対し、俺は無難な挨拶で様子見をする。
きっとこの三人は、アリスが放った刺客だ。
どこまでやるつもりなのか? 何を狙ってるのか?
会話のジャブを繰り出しながら、見定めていく必要がある。
1VS4の今の状況で、何も考えずに突撃したら一瞬で討ち死にはまぬがれないのだ。
一番左にいる腰まで伸びた金髪の美少女は、アリスも含めた四人の中で一番背が高い。中学生と言われても、誰も疑わないだろう。
美しい海のような瞳に、長いまつ毛。鼻も高く、形も美しい。ハーフだろうか?
外国のトップモデルのように出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
白いブラウスに黒のロングスカートという落ち着いた服装も、大人っぽさを際立てる。
自信満々そうな表情も含めて、とにかく惹きつけられる。
容姿だけじゃなく、放っている雰囲気が桁外れだ。
俺が三人の中で一番最初に見てしまったのも、彼女の魅力が飛び抜けていたからだと思う。
真ん中の女の子も、かなり可愛い。
目鼻立ちは整っており、特に切れ長の目と左目にある泣きぼくろが色っぽい。
隣が美しすぎるせいでちょっと目立たないけど、クラスにいたら男子の半分が好きになるレベルだ。
身長はアリスと同じくらいで、髪型はセミロング。
水色のTシャツとチェック柄のミニスカートがよく似合っている。
三人の中では一番俺に興味を示しているというか、なんだか品定めされてるような視線が向けられている。
一番右のツインテールの女の子は、とにかくでかい。
でかいのは身長じゃない。胸だ!! むしろ身長は、四人の中で一番低い。
顔もほかの三人ほどではないけど可愛い。大人気ロリアイドルになれそうなくらいに。
でもおっぱいのインパクトがすごすぎて、どうしても顔の印象が薄くなる。
俺が今までリアルで会った人の中で一番大きいのは、おそらくだけど桐生さんだ。
でもこの子の胸は、それに匹敵してる気がする。
さすがに桐生さんのがでかいと思うけど、本当にそん色ない。
まあ二人とも服の上から見た限りでの批評だから、もしかしたらこの子のほうが脱いだらすごい可能性もあるけどね。
そのピンク色のワンピースの中に潜む果実は、いったいいかほどのものなのか!?
アリスほどじゃないにしても、それぞれ違う魅力を携えた三人の天使。……じゃない! 天使の皮をかぶった使い魔たち。
危ない危ない。危うく、いきなりチャームの魔法にかかるところだった。
「相馬様。ご丁寧な自己紹介、ありがとうございます。本日は、私のためにご足労いただき恐縮です」
「私のため? ご足労?」
なんのこっちゃ。
いきなり金髪の美少女に礼を言われるが、身に覚えがない。
そんな俺の様子で事情を察していないことに気づいたのか、少し焦った様子でアリスを見る。
「あ、アリスさん。これからどうすれば……?」
「大丈夫です、西園寺さん。まずは、カラオケを楽しみましょう。あ、メールでもお伝えした通り、西園寺さんはトリですから。それまでは、我慢してくださいね」
「忘れておりませんわ。西園寺家のものとして、しっかりと勤めを果たします」
ますます、なんのこっちゃ。
この金髪美少女が西園寺さんで、セバスチャンたちが仕えている相手ということしかわからない会話だった。
今更気づいたけど西園寺って名前、ものすごいでかい会社にあるんだよね。
もちろんあの会社とはまったく接点ない西園寺って可能性もあるけど、あんなにたくさんの人雇ってるんだから、普通に考えたら関係者じゃないだろうか。
そうだろうと確信してしまう風格を、彼女は纏っていた。
その後、カラオケを始める前に使い魔がそれぞれ自己紹介をし、互いの呼び方を決めていった。
金髪美少女――西園寺京華は俺を相馬様と呼び、俺は彼女を西園寺さんと呼ぶことにした。
できれば、様づけはやめてほしかった。が、どうしても自分のために来てくれた俺に敬意を表したいと、かたくなに譲ろうとしなかった。
俺は、俺がなんのためにここにいるのか知らないんだけどね。
とにもかくにもこの短い時間で、頑固な性格が垣間見えた。
ちなみに、やはりあの巨大企業西園寺グループのご令嬢とのことだった。
泣きぼくろ美少女――野中蛍は俺を剣護君と呼び、俺は彼女の強い希望により蛍と呼ぶことになった。
直感で、三人の中ではこの子が一番危険だと感じた。
瞳の奥が、獲物を狙っている猛獣のように鈍く光っているのだ。
やたらとボディタッチもしてくるところも怪しい。
要注意人物だ。
巨乳ちゃん――藤林萌は俺を相馬さんと呼び、俺は藤林さんと呼ぶことに決まった。
この子がなんというか、一番小学生らしい可愛さをふりまいている。(おっぱいは、小学生とは思えんでかさだけど)
この息を抜けない空間において、唯一のオアシス。(おっぱいでかすぎて、目のやり場に困るけど)
こんな妹いたら、毎日癒されそうだなあと思える存在。(こんな妹いたら、どうやったら一緒にお風呂入れるか画策してしまうかもしれない)
たぶん、この子はアリスに協力するために来たわけではない。話していて、そう確信できた。(アリスから守る。この子のおっぱいだけは、絶対に守るんだ!)
「じゃあ、とりあえず藤林さん。これ歌っといてください。西園寺さんは、合いの手でも入れて盛り上げてくれますか?」
「あー! 萌これ好きー」
「わかりましたわ。完璧にこなしてみせましてよ」
自己紹介がつつがなく終わったころを見計らって、アリスが曲を入力する。
流れてきたイントロは、大人気アイドルのヒット曲だ。あまりアイドルに詳しくない俺でも知っているくらいの。
よほど好きな曲だったのか、藤林さんはジャンプして喜ぶ。
バイン! ボイーン!!
「……すげぇな」
「楽しんでいるようでなによりです」
「剣護君。お隣失礼しまーす」
「あふんっ!?」
四方八方不規則に暴れる果実をガン見していると、可愛い二つの声色とともに美少女たちが俺を挟んで座る。いつの間にか、照明もムーディーな感じに変わっていた。
右側に座ったアリスは、すでに俺の股間あたりをまさぐり始めている。
左側に座った蛍も、俺のわき腹と太ももを軽いタッチでさする。
君たちは、いったいなんなの!?
座って即股間とか、いったいどんな教育受けてきたのよ!?
蛍も「お隣失礼しまーす」とか、ドラマで見るキャバ嬢の定番セリフそのまんまじゃん!
「お、お二人さん? せっかくセバスチャンが広い部屋用意してくれたんだから、もっとゆったりと使おうよ?」
この603号室は、十人くらいはストレスなく楽しめそうなほど広い。
たぶんもっと広い部屋もありそうだけど、これでも五人で使うには贅沢すぎる部屋だった。
「何度も言ってるじゃないですか? カラオケに来たら密着するって。それにこの広さを希望したのは、いろいろと動きやすくなるからってだけですから」
「わたしは、わたしの夢のために突っ走るだけだから。お構いなく」
いやお構いなくって、完全に俺に追突事故してるじゃん。
夢がなにかは知らんけど、突っ走りたいだけなら鈴鹿にでも行ってくれ。
なんか妄想してるのか目も興奮気味だし、よだれもちょっと垂れてるし。
予想通り、三人の中でダントツ一番やばいわ。
「うーん。全然反応してませんね。おかしいな」
「ふっふっふ。俺が今日という日を迎えるにあたって、なにも準備せずに来たと思ってるのか?」
「……ま、まさか。剣護さん……?」
「そうだ。俺は昨日抜き尽くした。自己記録を十回も更新するくらい出し尽くした。念のため朝も五回出しといた。今の俺は、ちょっとやそっとじゃ陥落しないぜ?」
俺はこの一週間、ハーレムゲームの本格開戦を前に、入念な準備を怠らなかった。
達也からよりすぐりのお宝集を借り、食事もタンパク質を極力取らず。
そして昨日はアニメをリアルタイムで見ることを諦め、ただひたすらにいそしんだのだ。
結果、今日あきらかに反応してしまったのは、交番近くで「剣護お兄ちゃん」呼びされた一回だけだった。(今考えると、一番危ない場所で反応してたな)
まさに俺は今賢者。大賢者ケンゴなのだ!
「むむぅ」
「ふふん。策士、策に溺れるとはこのことよ」
実際、今日のこのシチュエーションは、かなり助かっている。
最初は美少女四人に囲まれてどうなるかと思ったけど、やはり俺はアリスが好きなんであって小学生が好きなわけではないんだ。たぶん。
その証拠に桐生さんのおっぱいは揉みたいと思うけど、藤林さんのおっぱいは守りたいと感じてしまう。
もしも今日、狭い密室でアリスと二人きり。そんな状態で『剣護お兄ちゃん、エッチなことして』みたいなことを、マシンガンのごとく言われ続けていたら、俺はすでに窮地に追い詰められていたに違いない。
「しょ、しょうがないなあ。じゃあわたしも、もっと大胆になってあげる。えいっ!」
「ちょ、蛍!? 抱き着くな――って、ん? 骨?」
パン、パンッ!
「いった!?」
「乙女の純情を傷つけた報いよ!!」
涙目の蛍にビンタされた。二回も。結構痛い。
「ううう。蛍だって、蛍だって、これから大きくなるもん……」
「だ、大丈夫だ蛍! 俺の幼馴染にも小学生の時、蛍くらいの胸の女の子いたけど、今じゃ立派に育ってるぞ。だから安心しろ」
「ほ、ほんと?」
嘘。彩音ですら小五の時はもうちっとあったし、今も立派には育ってない。
「ほ、本当だ! 俺はおっぱいソムリエと呼ばれる男(大嘘)。女子小学生のおっぱいを一目見れば、瞬時に将来どのくらいの大きさになるのかわかってしまうんだ(超嘘)」
「あぁ。おっぱいソムリエ。ほんとに実在したのね」
なんかいろいろと危険なことを言ってしまった気もするけど、とりあえず蛍の涙が止まったからよし。
もしも大人になって壁のままだったとしても、それがいいって言ってくれる男なんて星の数ほどいるさ。
強く生きるんだぞ、蛍!
「藤林さん! 次はもっと胸を激しく振ってください」
「ふぇっ!?」
「西園寺さんのためです」
「ふぅじ~ばや~しぃさ~ん。がんば~ってく~ださ~いま~せぇ」
「はうぅ」
俺が心の中で蛍を激励していたころ、ちょうど一曲目が終わる。
アリスがすかさず二曲目を入れ、藤林さんに酷な注文を付けくわえる。
巨乳ちゃんは戸惑っていたが、友達のためと言われて渋々ながら頑張り始める。
バイン! ボイン! バイバイ―ン!!
本当に藤林さんはめちゃいい子。君のおっぱいは、俺が絶対に守るからね。
にしても、西園寺さんの合いの手はなんなんだろうか?
一曲目の時も思ったが、タイミングやトーンなど全部が滅茶苦茶だ。
あれじゃあ、盛り下がることはあっても盛り上がらないだろう。
「あっふぅ」
「ふふっ。剣護お兄ちゃんは、藤林さんのおっぱいが好きなんですよね? ちょっと妬けちゃいます」
そんな二人を眺めていると、不意をつく股間アタックとお兄ちゃん呼び。
わずかに反応してしまうが、ぐっと堪える。
ここでのお兄ちゃん呼び。アリスは勝負に出ている。
つまりここを乗り切れば、今日の負けはなくなる。
たしかに俺は、アリスの言う通り藤林さんのおっぱいに惹きつけられている。
彼女のたわわを眺めていると、たいていのことがどうでもよくなるんだ。
落ち着くというか、幸せな気持ちになれる。
おっぱいとは、平和の象徴なのだ。
世界中でご自由に誰のおっぱいでも揉めますって決まりができたら、きっとこの世から紛争なんてなくなるさ。
たいていのことは、おっぱいを一揉みすれば解決する。
童貞だけど、そんな気がしてるんだ。
だがアリス、誤算だったな。
俺にとって藤林さんのおっぱいは守る対象だ。
あそこで巨乳を弾ませているのが桐生さんなら危なかったが、藤林さんなら我慢できる。
「それは置いておくとしても……やっぱり、すげえな――いってぇっ!?」
「さすがに、見すぎです。股間を触るわたしより、藤林さんのおっぱいのほうがいいんですか?」
拗ねた顔のアリスに、背中を思いっきりつねられていた。
爪をこれでもかとたてて。
「わたしは、ハーレムゲームと割り切って我慢しています。でもハーレムの完成が約束されていない以上、かなりの嫉妬心を宿していることだけは忘れないでくださいね」
「安心しろ。俺がほかの子を見ていたとしても、それは可愛いなあって思ってるくらいだ。特別な感情で見てるのは、アリスのことだけだ」
「……うう。頭ポンポンくらいで許してしまっている、わたしのチョロインぶりに驚きます」
「へへっ。アリスの弱点、一つ見つけたり」
「もう。知りません!」
照れ顔で頬を染めたアリスは素早く次の曲を入れると、マイクを持って立ち上がる。
「藤林さん。次はわたしが歌いますね」
「やったー。萌、やっと休めるー」
「いいえ。藤林さんは休まずに、わたしの隣でおっぱいを振り続けていてください」
「そ、そんなあ」
「西園寺さんのためです」
「はうぅ」
「ふっじ~ば~やし~さ~ん。がっ~んば~って~くっだ~さ~い~ませ~」
アリスが歌い始める。
巨乳がバルンバルン揺れる横で。気の抜ける合いの手が入る中で。
それらが気にならないくらい、彼女の声音は美しかった。
「まさに天使の歌声ですねえ」
「……蛍。よだれよだれ」
「おっと、危ない。乙女的にギリね」
余裕でアウトだよ。
「はああぁ。アリスちゃんの歌が聞けるなんて、これは激レアイベントだよ」
「え? 学校で音楽の時間あるだろ。聞いたことなかったのか?」
「……そういえば音楽の時間はあるけど、一度も歌ったことはないかも。楽器ばかりやってるし」
「ええっ!? だって校歌の練習とかどうしてんだよ?」
「校歌も歌ったことないよ。なんか有名な声楽の人たちが歌ってるのを、聞いてるだけ」
「マジかよ……」
今の小学校ってそうなんだろうか?
そういえば敗者を作らないために、運動会も競わせない学校があるなんて聞いたことがある。
音痴だっていじめられる子を出さないために、歌をやめる学校があってもおかしくない気もする。
「てか蛍は、自分がなにに巻き込まれてるのか理解してるのか?」
「間奏まで待って!」
「……はい」
手持無沙汰だ。
コーラ飲みながら、アリスの歌をBGMに跳ねるおっぱいでも観察してよう。
「剣護君? なに鼻の下伸ばしてるの?」
「えっ? あ、蛍。な、なに!?」
「さっきの話だよ。わたし、なんとなく理解はしてるよ。さっき言ってた『ハーレムゲーム』ってのに、わたしたちは引きずり込まれたんだよね? 詳しい内容はわからないけど、剣護君を中心としたハーレムをアリスちゃんが目指してることだけはわかる。わたしは、そのハーレムに入りたいと思ってる」
「お、おまえ。それがどういう意味だかわかってるのか!?」
「子供ながらに理解はしてるつもり。剣護君ともセックスするってことでしょ?」
「ぶふぉっ!?」
「ちょっ!? なにコーラ噴き出してるの!?」
「お、お、おまえ……」
「だって、わたしアリスちゃんとエッチなことしたいんだもん。その場所に男が必要なら、受け入れるしかないよね。それに一回くらいは、男ともしてみたいって思ってたし」
「その一回の相手は、選びに選んだほうがいいんじゃないか?」
「アリスちゃんの照れた顔なんて、学校中でわたしが初めて見たと思う。アリスちゃんにあんな顔をさせられる男。それだけで、わたしにはじゅうぶんすぎるの。それに剣護君はかっこ悪くもないし、いい人そうではあるし。だから早くわたしとエッチなことするためにも、ハーレム作ろうね……お兄ちゃん?」
「んなっ!?」
「あはは。ほんとに妹キャラに弱いんだ! さっきアリスちゃんから、聞いた通り」
無邪気そうに笑うと、再びアリスの歌に耳を傾けた。
悪夢だ。ハーレムなんてものに積極的に協力する子、いるわけないって思ってたのに。まさか、アリスとどうにかなりたいって人が参戦してくるとは……。
いや誰が増えようと、俺はアリス以外に落ちる気はしない。
でもいくら小学生だろうと蛍みたいな可愛い子に迫られて、なんとも思わないわけではないのだ。
思春期童貞にとって、これを我慢するのはかなりきついのだ。
「はあ。おっぱい見よ」
癒しを求めて、俺の視線はおっぱいに向けられる。
バイーン。ボイーン。
ああ。落ち着くなあ。
「やっぱり、剣護さんはおっぱいが好き。藤林さん。次は、もっと剣護さんの目の前で振るわせてください!」
「ええぇ。恥ずかしいし、萌もう疲れたよ」
「この曲が終わったら五分休ませてあげます。西園寺さんのためです。頑張ってください」
「ふえぇん」
「ふっじ~ば~やし~さっん~。もう~ひっと~いき~でご~ざっいま~すぅ」
「おい、アリス! さすがに納得してない女の子に、これ以上のことは――」
「おっと。逃がさないよ、剣護君?」
「こっら、離せ蛍!」
俺が零れそうな果実を凝視していたことで勘違い(?)したのか、アリスは次の曲を入れながら完璧なセクハラ要求。
さすがにこれには、『藤林さんのおっぱいを守る会会長』として黙っていられなかった。
立ち上がって抗議しようとするが、蛍が体全体を使って邪魔をする。
「はうぅ。あんまり、見ないでえ」
「あ、あんまり見るなと言われても……」
眼前で飛び跳ねる二つの大きな球体。
ほとんど視界を覆っているので、見るなと言われても難しい。
それにしても、いったいなんなんだこの状況は。
聞いたこともないような美しい歌声。
聞いたこともないような下手くそな合いの手。
記憶にないような、骨しか感じない胸部。
そして初めて経験する、目の前で暴れ続けるおっぱい。
俺は時空の歪みに吸い込まれて、異世界に飛んできたのかもしれない。
ふと視線をずらすと、ある状況が視界に入る。
ここまでずっと頑張って、体を動かし続けた藤林さん。
その頑張りの証として、今にもずり落ちそうになっているのだ。
肩紐が。
伝えるか? いや、もうそんな余裕はない!
「俺が守る! 藤林さんのおっぱいは、俺が守るんだああああああああああああああ!!」
「ふええええええええええええぇっ!?」
「ちょ、ちょ、ちょ剣護君!? なにちょとだけかっこいいこと叫びながら、思いっきりおっぱい鷲掴みにしてるの!?」
「ち、違うんだ蛍! よく見てくれ。肩紐が落ちて、ワンピースがストンと行きそうになってるんだ!」
「とか言いつつ、しっかり揉み続けてるじゃない!」
「えっ!? あっれ、おかしいなあ」
きっと男はDNAレベルで、おっぱいに触ったら揉むようにと刻み付けられてるんだろう。
俺は悪くない。神が悪い。
「はぅっ……はぁん」
「とりあえず、誰でもいいから早く肩紐直してくれ――っ!?」
揉みつつ、アリスにでも助けを求めようと視線を向けると、彼女は不敵に笑っている。
まさか藤林さんの肩紐に気づいてて、俺の目の前でやれなんて言ったのだろうか。
あの小悪魔なら、むしろそう考えたほうがしっくりくる。
「さあ、西園寺さん! ナニチャンスです!」
「まあ! 本当ですの!?」
笑顔のアリスが、喜ぶ西園寺さんの手を引いてこっちに向かってくる。
なんだよ、『ナニチャンス』って?
おっぱいを守りつつ(揉みつつ)小首をかしげる。
「ほら。ここ、膨らんでるでしょ? これが、ナニです」
「まあ! たしかに、なにかが膨張してるようですわ。これが、ナニ……」
「いったい何見て……って、どうわぁ!?」
アリスの指さす先、西園寺さんの視線の先には、やや反応してしまっている下半身があった。
な、ナニってナニのことかよ!?
くっそ、さっきまでは我慢できていたのに。
やはりおっぱいの実力は見てるだけじゃわからない。揉んで初めてわかるということか!?
「剣護君……なんか、すごいね」
「とか言いつつ、おまえはつつくなぁっ!」
「な、中は? 中はどうなっていますの!?」
「どうもなってない! どうもなってない――って、なにズボン脱がそうとしてんの!?」
「わ、私はナニに直接会うために、今日この場を用意したのです! 一日休業。予約のお客様を全キャンセルし、近くの店舗への無料送迎。補填のための、料金無料サービス。数百万を使って、ナニに会いに来てるんですのよ!! あなた、支払えますの!?」
「俺の知ったこっちゃねえよ!」
前言撤回だわ!
蛍なんかより、この子のほうがよっぽどやべえ。
目が完全に逝っちゃってる。
数百万って、どんだけ俺の息子を見たいんだよ!?
藤林さんのおっぱいを守りつつ(揉みつつ)、俺は下半身を懸命にくねらせて必死の抵抗。
ベルトをしっかり締めていたこともあって、なんとか御開帳を防げている。
「さすがは剣護さん。しぶといですね。しかたありません。これはできれば使いたくなかったですが、背に腹は代えられません。西園寺さん。トリ、お願いします」
「ついに、私の出番ということですわね」
「はふぅ……萌、萌、……なんかふわふわしてるのー」
アリスが曲を入れて、西園寺さんがマイクを持つ。
前奏が始まると、アリスはポーチから何かを取り出す。それを自分の耳、藤林さんの耳に入れ、蛍にも渡して耳に入れるように促す。耳栓だろうか?
そしてアリスが頭を抱えてしゃがんだ刹那――
ボエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ
俺は意識を一瞬失った。
何かに頭をぶつけた衝撃で意識を取り戻し、霞むまなこで状況確認。
そこには気持ちよさそうに歌っている金髪少女と、頭を抱えて苦しむアリスたち三人の姿があった。
俺は失いそうになる意識を、頭を振ってなんとか維持。
よたよたとドアの前までたどり着き、ノブを回すが開かない。
カラオケの部屋のドアって、鍵なんかついてたっけ?
ガチャガチャやっていると、スマホがバイブする。
『申し訳ありませんが、ドアは開けられません。わたしのためにも、生きて帰ってくださいね。あなたのセバスチャ――』
途中で閉じる。
やっぱり、お前の仕業かセバスチャン!!
というか、俺のアドレスどこで知った!?
次会ったときは絶対に『田中さん』と呼んでやることを決意し、苦しむ三人の美少女を床に集める。
俺がアリスも蛍も藤林さんのおっぱいも守るんだ!
ボエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ
無理やり表現すればそうだけど、でもこの世の言葉では完璧には言い表せない音が鳴り響き続ける。
ドアのガラスの部分にヒビが入り、テーブルの上の皿もガチャガチャ震える。
俺は少しでも彼女らをこの地獄から遠ざけようと、ジャケットを脱いで三人にかぶせる。
そして守るように上から体を重ねて抱き寄せた。
だんだんと気が遠くなる。
視界が薄くなる。
周りが白くなる。
意識を失った俺を天から迎えに来たのは、般若の顔をした天使だった。
夢を見ている。
四人の可愛い妖精が、ある植物に集まった。
一番可愛い妖精が、この植物を育てようと誘う。
その一番可愛い妖精が、育て方を教える。
金髪の妖精は、興味津々に育てる。
涙ぼくろの妖精は、積極的に育てる。
巨乳の妖精は、顔を真っ赤にしつつも愛おしそうに育てる。
植物は四人の懸命の育成によりぐんぐん成長。
ついには、花が開きそう。
そんなときに一番可愛い妖精が、これ以上は危険だと三人を止める。
三人はしぶしぶそれに従って、その植物から離れていった。
もう少しで花を咲かせそうだった植物は、しなしなとしおれてしまった。
「……んんっ?」
「剣護さん。起きましたか?」
「……アリス?」
徐々に覚醒する。
視界が明るくなる。
目を開くと眼前に、この世で一番愛おしい顔が微笑んでいた。
「あ、あ、あ、アリスぅ!?」
「はい。あなただけのアリスです」
「な、なあ。こ、こ、こ、この状況はもしかして!?」
目の前に、俺を覗き込むように見ているアリスの顔。
頭には、柔らかいなにかの感触。
こ、これは、都市伝説と思っていたあの……?
「はい。膝枕です!」
「うおおおおおおおおおお!!」
「しかもスカートめくってますから、生足です」
「うひょおおおおおおおおおお!!」
「ふふっ。さらにオプションです。スカートめくってるってことは、今顔を倒せば見えるかもしれませんよ。ぱ、ん、つ」
「もう、死んでもいい」
ああ。あの酷い地獄から生還したら、そこはこの世とは思えない天国だった――
「――って、そうだ。みんなは!? 特に蛍と藤林さん(のおっぱい)は?」
「大丈夫です。みんな剣護さんのおかげで無事です」
「そ、そっか。よかった」
ほっと胸をなでおろす。
俺はアリスも蛍も藤林さんのおっぱいも守れたんだな。
「それで、みんなはどこに?」
「もう帰りました。みんな大興奮……じゃなくて、大満足だったみたいです」
「楽しめたならよかったな……あれ、俺なんか忘れてるような? たしか、ナニが――」
「そんなことより、わたしの膝枕を心ゆくまで満喫してよ。剣護お兄ちゃん?」
「ぶふぉおっ!? く、黒……」
アリスに頭を倒させられた先にあったのは、黒の三角地帯だった。
俺は鼻血を出しながら、今度は幸せな気分で意識を失う。
こうしてハーレムゲーム開幕戦は、アリスの優勢で幕を閉じた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです
次回もよろしくお願いいたします
次は剣護の学校回です