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焦燥

完全真面目回です


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読んでいただいた皆様


本当にありがとうございます!


心の折れやすい作者は皆様の応援に支えられております!


これからも応援のほどよろしくお願いします!

「もしもし!? 相馬君!? もしもし!?」


 百合さんの声が、遠くに聞こえる気がした。

 頭が真っ白とは、こういうことをいうんだろうか。

 

 ……アリスが、いない。

 俺はいったい、今までなにをしてたんだ!?

 いや、今は後悔してる場合じゃない。

 今、なにをすべきか考えるべきだ。

 でも、頭がうまく回らない。

 どうすればいいのか、わからない――


「――相馬様!!」

「――ぇっ!?」


 そんな俺を現実に引き戻したのは、あいつのひさしぶりに聞いた気がする真面目な声だった。


「せ、セバスチャン!? おまえ、なんでここに!?」

「言ったではないですか。わたしはあなたのそばで、あなたを見つめていると」

「……あ、あれ、本当だったのかよ」


 なんかのたとえ話とか、冗談のたぐいだと思ってたぞ。

 てか、マジでずっと覗かれてたってこと!?

 なにそれ!? 怖すぎなんですけど!?

 ……だって、俺……ここ数日で何回――


「ご安心ください。映像には残しておりません。わたしの記憶にのみ、しっかりと刻み込ませていただいております。それに、その……回数が多いのは、ハーレム王の資質として重要なことかと」

「それ以上、言うなああああああああああああ!?」


 また、かってに俺の考えを読んでんじゃねえよ!?

 ……てか、死にたい。

 最近、ロリ巨乳に嵌まってるのも見られてるってことじゃん。

 待て待て、そんなことより俺のほうにいるってことは、西園寺さんの護衛はどうなってんのよ!?

 まさかこいつ、サボリーマンのごとく仕事放り出して来てんじゃないだろうな!?


「それも大丈夫でございます。わたしが相馬様を観察――いえ、凝視――いや、ストーカー――違う違う、監視していたのは、奥様の命ですので。京華様は、別のものが護っております」


「……いちいち、ツッコミどころが多すぎんだよ。まあ、おまえ――セバスチャンの暴走で、西園寺さんの安全が脅かされてるわけじゃなさそうでなによりだけど」


「自分のことより、まずは京華様の心配とは。さすがでございます! そして、セバスチャン呼びありがとうございまーす!!」


「いちいち、抱きつこうとすんな! んなことより、なんでここにいる……いや、いつもここにいるのか。なんで、ここに出てきた? 俺は今、おまえの相手してる暇は――」


「お役に立てると思いまして、参上いたしました」


 そう言いながら、セバスチャンは俺にかしづく。

 ご主人様に呼びつけられた使用人がするような、漫画やアニメで見るあの格好だ。

 声音はもちろん全身からにじみ出す雰囲気も、寸前までのふざけた雰囲気から一変した。

 セバスチャンがただの変態ではなく、本物の御付きであると再認識させられる。


「……役に?」

「はい。アリス様の家に、行かれないのですか?」

「……アリスの家」


 そうだ。

 こんなところで、うだうだ考えててもキリがない。

 とにかく今は、百合さんと合流するべきだろ。


「行く! 電車は……まだ始発まで時間がかかるしタクシーか」


 この時間なら混んでないし、たぶん一時間くらいで着くだろう。

 金はいくらかかるかわからないけど、バイト代なら貯まってる。


「ご安心ください。車なら、もうご用意しております」

「よ、用意って――」


「外に出ていただければわかります。さっ、早くお着替えください! わ、わたしもお手伝いしますから」


「着替えくらい一人でできるわ! 貴様の真面目モード、五分も持たないんかい!?」


「今さら、パンツ姿くらいで恥ずかしがらなくとも。相馬様のすべてを、このセバスチャン目に焼き付けておりますよ?」

「……こんのやろう。いつか、覚えてろよ」


 寝間着のズボンを脱がしにかかってくる変態の頭を片手で抑え込みながら、スマホを耳に持ってくる。

 

「百合さん、ごめん。聞こえてる?」

「あっ。相馬君!? 心配したよ。なんか話し声が聞こえてたけど、誰かいるの?」

「いや、ちょっと。協力者が」

「協力者?」

「うん。その協力者のおかげで、今からそっちに向かえそうです」

「そうなんだ。……あのね、相馬君。アリスがいなくなったの、きっとわたしのせい」

「えっ? 百合さんのせい?」


 どういうことだろうか?

 でも自分のせいと感じてるということは、きっとなにか心当たりがあるってことだ。

 やはりまずはアリスの家に行って、百合さんから事情を聴こう。


「そうなの。わたし、わたしね――」

「百合さん。とりあえず、その話は俺がそっちに着いてからにしましょう。たぶん、電話越しじゃないほうがいい」


「……わかった。そうだね。……わたし、もう一回近所を探しながら待ってる」

「はい。着いたら、連絡します」


 百合さんの言葉が気になりつつも電話を切り、セバスチャンを部屋から追い出して速攻で着替える。

 財布とかスマホとか最低限のものだけ持って部屋を出ると、真面目モードに戻ったセバスチャンの誘導を受けて玄関を出る。

 そこには、黒塗りの高級車が止まっていた。

 運転手らしき初老の男性が、後部座席のドアを開けている。

 

「……も、もしかして用意した車ってこれ?」

「はい。さあ、さっさと乗ってください。わたしがお隣に座りますから」

「お、おう……」


 普通にタクシー呼んでくれてたのかと思ったぞ!?

 まさか、こんな高そうな車に乗ることになるとは。

 やっぱり西園寺家だと、これが当たり前なんだろうか。


 社長室にある椅子のような座席に座ると、運転手さんがドアを閉めてくれる。

 セバスチャンは自分で開けて、隣に乗り込んできた。

 なんだよこの座り心地。

 よすぎて、逆に落ち着かねえ。

 初老の男性が運転席に腰をおろすと、静かに発進する。

 車としての乗り心地も、いつも乗ってる自家用車はもちろん、たまに乗るタクシーとも比べ物にならんな。


「相馬様。おそらく京華様には、もうアリス様の行方がわからないことは伝わっております」

「えっ? まだ、こんな早朝にすらなってない時間なのに!?」


「昨日アリス様がロインにいらっしゃらなかったので、京華様はご心配されて、なにかあったら起こすようにと命じられてました」

「……なるほど」


 昨日は五人のグループロインでも、アリスが現れないことが話題になっていた。

 蛍たちは最終的に、出かけると言っていたのできっと忙しいんだという結論を出していた。

 でも、西園寺さんはなにか引っかかりがあったんだろうな。


 試しに西園寺さんへ個人ロインで、『もう、アリスのこと聞いた?』と送ってみる。

 すると即座に、『報告を受けております! すでに私で動かせる限りの人員で、捜索や情報収集を始めております』と返ってきた。

 

 西園寺さんは、本当に起きていた。

 彼女はたしかに大人びているところもあるけど、まだ小学五年生になったばかりの女の子だ。

 きっと眠いだろうに、そこまでアリスのことを真剣に心配してくれてるんだなあ。

 なんだか、胸が熱くなる。

 少しこみ上げてくるものを感じつつ、引き続きスマホ画面をタッチしていく。


『捜索とかすごいね。頼りにしてるよ!』

『ですが時間も時間ですし、私で動かせる人数などたかが知れております。相馬様は、どうされるのですか?』


『今セバスチャンに助けてもらって、車でアリスの家に向かってる』

『田中が、そちらに!? なるほど。最近田中ではなく橋本はしもとが私の御付きとして働くことが多い理由が、ようやくわかった気がいたしますわ』


『な、なんかごめん。いや、俺が頼んで来てもらってるわけじゃないんだけど』

『いえ、こちらこそご迷惑をおかけしていないか不安ですわ。でもせっかくの機会なので、どうぞこき使ってやってください』


「はい。相馬様のお好きなようにしちゃってください」

「なんでおま――セバスチャンは、個人ロインのやり取りまでわかってんだよ!?」

「それはもちろん、愛です」

「もうやだ、こいつ」


 さようなら、俺のプライバシー。

 というか、いつか絶対に西園寺さんのお母さんと話し合いが必要だろこれ。

 興奮気味に「はぁはぁ」生暖かい息をかけてくる変態の横で、盛大にため息を吐いていると、西園寺さんから新しいメッセージが届く。


『萌さんや野中さんへは、伝えたほうがよろしいのでしょうか?』


 たしかに、蛍たちへの連絡をどうするかは問題だ。

 とくに蛍はアリスに対して、友情以上の感情を持っている。

 きっとアリスがいないなんて知ったら、どんなに説得しようと学校を休んで探そうとするに違いない。


『放課後に、二人には口頭で伝えてくれないかな。きっとアリスが休みの時点で、学校帰りにアリスの家には寄ろうとするだろうから。それ以上は、隠すことも難しい』


『それまでは、お二人に隠すということですの!? そもそも私は今日学校に行かずに、相馬様とご一緒にお探しするつもりだったのですが』


『それは駄目だ。こんな時間から小学生の、しかも可愛い女の子が外を出歩くとか絶対に許可しないぞ』


 俺が変質者なら、西園寺さん、蛍、藤林さん。

 誰が出歩いてても、見逃さないだろう。

 それくらい彼女たちは、みんな魅力的なのだ。

 ロリコンでない俺でもこうなのだから、真性のロリコンと遭遇でもしてしまったら、R18展開は不可避になってしまう。


『か、可愛いと言っていただけるのは光栄ですけれど、私には護衛のものがおります』


『それでも駄目だ。どちらにしても小学生が昼間から歩いてたら、お巡りさんに補導されるよ。学校休ませるとか、ご両親にも申し訳ないしね』


『補導ですか。たしかにそれは、防ぎようがなさそうです』


『藤林さんはどうかわからないけど、蛍はアリスのことを知ったら絶対に学校を休むと思う。だから、せめて放課後までは隠しておきたい。放課後は、目一杯協力してもらうつもりだから』


『……かしこまりました。たしかに、そうですわね。では放課後になるまで私は、御付きを通じて情報を収集することに徹しますわ』


『うん。それでお願い。アリスの行き先でなにかわかったら、お互いにロインで伝えるってことで』


『了解いたしました。それでは私、なにか情報がないか確認してまいりますので』

『うん。またあとで』


 西園寺さんとの連絡に一区切りつけて、車外を眺める。

 もう距離的に、三分の一くらいは来てるだろうか?

 さすがは早朝と呼ぶにもまだ早い時間帯。

 ほかの車に邪魔されることもなく、すいすいと進んでいる。


 それでも、気持ちがはやってしょうがない。

 ここで俺が焦燥感にかられても、なんの意味もなさないことは理解している。

 わかっていても、やはり簡単に抑えられるものではないのだ。


「……セバスチャン?」


 そんな俺の気持ちを察してか、セバスチャンが手を握ってくる。


「大丈夫です。相馬様。わたしが、全力をもって助力いたします。なにより、西園寺家のご令嬢が動いているのです。きっと、無事に見つかります。絶対に、会えます」

「……サンキュ。セバスチャン。少し、落ち着いた気がする」


 俺は少しだけ安心したことを、少々ぎこちない笑顔で表現する。

 セバスチャンのおかげで少し冷静になれたのか、親になにも伝えずに出てきたことを思い出す。

 急用ができたので学校を休むと、母親へメールを送る。

 スマホから外に視線を移し、アリスの姿を探すがどこにもいない。

 視界には、ただ線のように流れていく街灯の光だけが映っていた。

読んでいただきありがとうございました


少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです


真面目回ではセバスチャンだけが癒し


次回もよろしくお願いします!

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