自分にできること
完全真面目回です
というか、一部(一巻的な意味合い)の終わりまで真面目回が続きます
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西園寺さんに、ハーレムゲームへの協力を頼んだ日から数日が過ぎた。
あれから、俺の日常は少しだけ変わった。
その少しだけ変わった部分とは、西園寺さんとの関係だ。
関係が変わったといっても、もちろん友達から恋人になったとかではない。
かといって、ハーレムゲームの協力者になってくれるという承諾をもらったわけでもない。
ネット上でのやり取りが少し……いや、かなり増えたってだけだ。
先日、今後のセバスチャン地獄を回避するためにおこなった、西園寺さんとの個人ロイン設定。
西園寺さんはすごろく時に5人で作ったグループではなく、その個人のほうを多く利用する。
とても楽しそうに今日こんなことがあったとか、今度こんなことをするなど教えてくれる。
ほかには俺への質問も結構多い。
毎日の学校でのアリスの様子も報告してくれるので、とてもありがたいのだけど、五人のほうでもいいんじゃないかと思える話題もそこそこあるのだ。
ということでアリス、西園寺さんとの個人ロイン、小学生五人でのグループロインと忙しい。
さらには小林兄妹からもメールが来たりするので、てんやわんやな時間帯がたびたび訪れた。
でも、西園寺さんが積極的に連絡してくれるのは素直に嬉しい。
もちろん協力者になってくれる可能性が高まっていそうという、打算的な気持ちもある。
だがそれ以上に、どんどん彼女と親しくなれていそうなことに心が躍るのだ。
俺は西園寺さんと、仲のいい友達になりたいと思っている。
たぶん、互いに信頼できる間柄になりたいんだ。
達也や彩音と同じくらいに。
そんなちょっとだけ忙しい毎日が過ぎ、今日は日曜日。
俺は、二週連続でアリスの家に来ている。
もともとの予定では、今日はアリスに用事があるということで、会う約束はしていなかった。
でも金曜日の夜、アリスから個人ロインでメッセージが届いたのだ。
『やっぱり、少しだけでも会いたい。だめですか?』
即座に『俺も会いたい』と返して、達也に出かける時間を午後にずらしてもらったのだ。
穴埋めとして飯をおごらされることになったけど、なんてことない。
それでアリスに会えるなら、そのくらいの出費どうでもよかった。
今はアリスの部屋で、彼女がお茶の用意をしてくれるのを待っている。
俺も手伝おうかと声をかけたんだけど、部屋に行っててと言われてしまった。
手持無沙汰に、部屋の様子をぐるりと眺める。
先週とほぼ変わらない、赤いランドセルだけが女子小学生の部屋だと主張している光景。
そんな中一つだけ、印象に残る場所があった。
先週は綺麗に整理整頓されていた机の上に、今日は無造作になにかが放置されている。
長方形の、紙でできた袋のようなもの。
……あれは、現像した写真が入れられるものだろうか。
「剣護さん。お待たせしました」
「……ん、んーん。全然待ってないよ」
もうちょっと近くで確認しようかと思っていたら、アリスがお茶とお菓子を載せたお盆を持って入ってきた。
今日もアリスは可愛い。天使。
今日の彼女は、いつもよりもおめかししてる感じだ。
べつに化粧をしているわけじゃない。
服装がよそ行きの、ちょっとおませな感じなのだ。
アリスによると、今日のお出かけ先的に、これを着たほうがいいと百合さんに言われたそうだ。
しぶしぶながら、それに従ったらしい。
そんな百合さんと、俺は今日会えていない。
すでに出かけてしまっているらしい。
今日も寝ているのか、お母さんとも会えていない。
……そういえば、おめかしして出かけるって誰とだろう。
さすがに一人ってことはないだろうし、お母さんはありえそうもない。
やっぱり、百合さんだろうか?
その場合、仲良くお出かけという感じではないだろうけど。
きっとアリスの行きたいところに、無理やり百合さんが付き合わされるんだろう。
百合さんが家にいないのも、その準備のためかもしれない。
「……どうかしましたか?」
「い、いや。机の上にあるものが気になっちゃって。あれって、写真?」
お盆をテーブルに置きながら、小首をかしげるアリス。可愛い!
俺は素直に机を指さし答えた。
べつに、隠すようなことじゃないよね。
「あっ!? そ、そうです。ちょっと、昔の写真を見てました」
「……へー。てことは、昔のアリスも写ってるのかな? 見てみたいなあ」
「小五のわたしに飽き足らず、もっと小さい私で欲情したいんですか? 救いようのないロリコンですね」
「よ、欲情せんわ! ……ただ、いろんな可愛いアリスを見たいだけだよ」
「……だめです! 今ここでハーレムゲームの敗北宣言をしてくれるなら、見せてもいいですけど」
アリスは写真の入った袋を手に取ると、机の引き出しの中にしまってしまう。
俺は見逃さなかった。
彼女は俺をからかうようにしていたけど、慌てた様子を隠しきれていなかった。
あまり見られたくないものだったのは、間違いないだろう。
……百合さんが言ってた無邪気に笑うアリスの写真だったら、マジで見たかったな。
「……さ。お茶が冷めちゃいますし、座りませんか?」
「そ、そうだな」
写真を、目の届かない場所へしまえたからだろうか?
落ち着きを取り戻したアリスに、そう促される。
俺が先に座ると、ごく自然にアリスは隣に腰をおろす。
広い部屋に二人きり。
普通なら向かい合ってもいいところだけど、俺たちは肩が触れるほどに近くで座っている。
でもアリスが先に座ってたとしても、きっと俺も隣を選んだ。
アリスほど、近くには座らなかったかもだけど。
とにかく俺とアリスの距離は、それくらい近くなっていると互いに認識しているってことだ。
「そういえば、今日ってどこに出かけるの?」
「……ふふっ。秘密です」
「なんか今日は秘密が多いなあ」
「多少の秘密がある女のほうが、魅力的らしいですよ? 安心してください。浮気じゃないですから」
なあ、信じられるか?
これ、女子小学生との会話なんだぜ。
地下にあるバーで、色気ムンムンなOLとカクテル飲んでるわけじゃないんだぜ。
びっくりだろ。
……にしても、いったいどこに行くんだろうか。
百合さんと出かけるなら、秘密にするかな。
「そんなことより、今日は本当にすいませんでした。急に会いたいだなんて」
「なに、言ってんだよ。俺だって会いたかったから、めちゃくちゃ嬉しかったよ。今週は会えないと諦めてたから、そりゃ小躍りしちゃうほどにさ」
「ふふっ。そう言ってもらえて、わたしも嬉しいです。本当に、会いたかったから」
「照れるなあ。あ! そう言えばさ、よく考えたね?」
「考えた、とは?」
「え? いや。金曜の夜に、誘ってくれたよね。二人で会いたいと思って、そのタイミングだったのかなーなんて。ほら、昨日は休みだったみたいだし」
あれ、違ったのかな?
その週の学校が終わったあとに会う約束をすれば、セバスチャンにバレても学校で参加を希望されることは無くなる。
だから金曜の夜に連絡くれたのかと思ったんだけど。
……もしかして、自意識過剰すぎ!?
「……なるほど。二人きりで会いたいと思った時は、このタイミングで約束を交わせばいい。あとはスマホに連絡が入っても、全部無視すれば完璧ってことですね」
アリスが、ニヤリと微笑む。
あれ、もしかして俺、アリスに塩を送ってしまったんじゃ。
今までなんとかハーレムゲームをしのいできたのは、西園寺さんたちがイレギュラー的に参加してくれたおかげもある。
二人きりになりたいとき。
蛍に協力させたいとき。
こんな感じで完璧に使い分けられたら、一気に追い詰められてしまいそうな……。
まあセバスチャンなら約束なんて関係なく、乱入してくれそうな気もするけど。
「そ、そっか。たまたまだったんだ。俺、二人で会いたいのかなんて思っちゃって。マジで恥ずかしい」
「い、いえ! それはたまたまですけど、二人きりで会いたかったのはあってます。もしも今日、西園寺さんたちから来たいと言われても、断ってました。絶対に」
「そ、そうなの?」
「はい! 金曜の夜に、やっぱり会いたいな。顔みたいなって。我慢できなくなっちゃったんです。……それに」
「それに?」
「……剣護さんに、勇気をもらいたかった」
その時のアリスの顔を、俺は一生忘れないかもしれない。
寂しい。悲しい。辛い。
そう言った感情が凝縮されたような、見ただけで胸が締め付けられるような表情。
アリスは涙を流していない。
でも俺には、泣いているように見えたんだ。
「アリス?」
「……どうかしましたか?」
「どうかしたかって、今――」
「なんでもないです。大丈夫ですよ」
「……俺には、とても大丈夫には見えないよ」
「…………そう、見えてしまいますか?」
「ああ。俺には、そうとしか見えない」
「……そうですか」
「……そうだよ」
「……………………」
「……………………」
「………………なら」
「……うん」
「……なら、少し抱きしめてもらえませんか? そうしてもらえれば、本当に大丈夫になりますから。いつものアリスに戻りますから」
「……わかった」
俺は抱きしめた。
壊れてしまいそうなアリスのことを、優しく優しく抱きしめた。
本当は、もっとアリスの力になりたい。
アリスの心にどんな感情が去来して、あんな表情になったのかを知りたい。
でも、今の俺にはこれしかすることができないから。
まだ、アリスの本心を教えてもらえるほどの存在になれていないから。
だから俺は全力で、優しく抱きしめるんだ。
そばにいるのに、近くにいない。
君の存在を確かめるように。
どのくらい、抱きしめていただろうか。
「もう、大丈夫です」
そう耳元で呟いたアリスの顔は、たしかに笑っていた。
ほかの人が見たら、いつもどおりと感じるような可愛い笑顔。
でも俺からしたら、やっぱり別物にしか思えなかった。
そのあとは、時間ぎりぎりまでたくさん話した。
学校のこと、アニメのこと、バイトの話などなど。
アリスの言っていた『勇気』をたくさん与えるため、ギリギリまで話し続けた。
そうして、俺たちは別れた。
門から出て俺を見送ってくれた彼女の顔は、笑顔だったけどどこか寂しげ。
俺は何度も何度も振り返って、視界に入らなくなるまで手を振った。
そのあと、アリスと連絡がつかなくなった。
ロイン上で話しかけても、いつまでたっても既読されない。
ツブヤイッターを眺めても、なにも呟かれない。
滅多にかけない電話もしてみたけど、電源が入っていないようだった。
あんなにおめかししてたし、今夜は忙しいのかな。
普通なら、こんなふうに思うかもしれない。
でも俺は、見ているのだ。
アリスの、涙を流さない泣き顔を。
妙な胸騒ぎがした俺は、深夜で申し訳ないと思いつつ、百合さんに連絡。
どうやら家にいないらしく、すぐにタクシーで帰ると残して、電話を切った。
数時間後。
もう家族も寝静まった時刻に、スマホが鳴った。
着信画面には、百合さんの文字。
瞬時に、俺はずっと握りっぱなしだったスマホの画面を指で叩く。
「も、もしもし!? あ、アリスは!?」
喉がカラカラに乾く。
声が、震えていた。
「ど、どこにもいないの! アリスが見つからない!!」
俺は心臓が一瞬止まった気がした。
読んでいただきありがとうございました
少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです
一部も佳境に突入です
次回もよろしくお願いします!