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密会

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本当にありがとうございます!


作者は皆様の応援に支えられております


これからも応援のほどよろしくお願いします!

 俺は今、とあるカフェの個室でお茶をしている。

 目の前にいるのは、金髪の美少女。

 彼女は優雅な所作で、紅茶をたしなんでいる。

 

 ここだけを文章で伝えると、きっとデート羨ましい!

 リア充死ね!! なんて、思ってしまう人もいるだろう。


 でも現実はどうだ?

 目の前にいる美少女は小学生。

 さらに、その隣には興奮した顔を抑えきれていない変態が同席してるんだぜ。


 今日は、火曜日。

 昨日桐生さんに勇気づけられた俺は、さっそくその夜から動き出した。

 まずは百合さんに、さらに詳しくアリスの両親について話を聞いた。

 ご両親がどんな人物なのか、少しでも多くの情報を手に入れるために。

 

 さらに、西園寺さん個人へのコンタクトを試みた。

 五人でグループを作ったロイン上ではなく、セバスチャンにメールを送る。

 カラオケの日、個室に閉じ込められた俺にメールを送ってきたアドレスへだ。

 西園寺さんの都合もあるだろうし、返信まで時間がかかるかと思いきや、数分後には了承の意を伝えるメールが届いたのだった。

 しかも、指定されたのは翌日。

 つまり今日だ。


 ということで放課後、俺は西園寺側から指定されたこのカフェにやってきた。

 とあるテーマパーク付近に建つ、商業施設の一角。

 西園寺グループが経営する店の、西園寺の関係者しか入れないこのVIPルームに。

 西園寺京華という、ハーレムゲームの最高の協力者を得るために来たのだ。


「――それで」


 西園寺さんが、ゆっくりとカップを皿に置く。

 美しい双眸を、こちらに向けた。


「そろそろ、本日私を呼んだ理由をお聞きしてもよろしいですか? 大事なお話があるとのことですけど」

「あ、ああ。俺もタイミングを、見計らってたんだけど……」


 ちらりと、西園寺さんの左で『はぁはぁ』息を漏らし続ける変質者を見る。

 指をそいつに向かってさした。


「こいつが消えたらと――」

「ぞうばざばぁあああああっ!?」

「……セバスチャンが、いなくなったら話そうかと」

「そ、相馬様ぁ! 一生ついてゆきますぅうう!!」

「百面相か!? おまえは!!」


 俺がセバスチャンと呼ぶかどうかで、表情をコロコロと変えていく。

 ……厄介なやつに、気に入られてしまった。


「……田中。そろそろ、さがりなさい。相馬様と、大事なお話をいたします」

「いやです」

「なんと言いましたか?」

「いやです、ともうしました」

「なんですって!?」


 西園寺さんが、怒りをあらわに立ち上がる。

 君の気持ち、わかるよほんと。

 だってセバスチャン、ずーっとニヤニヤしてるんだもん。

 もうちょっと真面目そうな顔ならまだわかるけど、ずっとニヤついてんだもん。

 俺が西園寺さんの立場なら、きっと躊躇なく殴ってるよ。


「わたしがここに同席するのは、奥様から同意をいただいております」

「お、お母様。……な、なぜそんな不可解なご判断を……」


 へなへなと力が抜けたように、椅子に座るお嬢様。

 呆然とした表情を、カップの中の紅茶に映している。


「……まあ、どうせどこにいても聞かれるんだろうし、最悪いてもいいんだけどさ」

「ありがとうございます」

「なんで、そんなにこだわるの? いつもどおり、どこかから見守ればいいじゃん」

「こうして、相馬様とお話しするためです」

「……は?」

「こうしてお話しできる場所にいないと、なかなかセバスチャンと呼んでくださらないじゃないですか?」

「……それだけ?」

「はい!」

「……お、お母様。もしかして、田中に毒でも盛られたのでは……?」


 西園寺さんは、ついには頭を抱えてしまった。

 まあ、そりゃそうだよな。

 御付きがそんな理由で姿を現し続けてるうえに、お母さんもそれを承認してるんだもんな。

 にしても西園寺さんのお母さんって、きっとロックな人なんだろうなー。

 ロックの使い方、あってるか知らないけど。


 盛大にため息を吐いて、変態のことは気にせずに、頭を抱えるお嬢様に向き直る。


「じゃあ、もうこい――セバスチャンは気にしないで、話そうと思うんだけど。いいかな?」

「あっ! え、ええ。とんだ家の恥を晒してしまい、申し訳ございませんでした。もう大丈夫ですので、お話しください」


 気を取り直して真剣な眼差しを向けるお嬢様へ、俺はアリスとのこれまでのことを語り出した。


 アリスとネット上で、出会ったこと。(アリスの趣味については、触れていない)

 そこで交流を深め、ネット上でアリスに告白し、直接会うことになったこと。

 小学生であることに驚いたけど、好きという気持ちは変わらなかったこと。

 アリスから、ハーレムゲームを持ちかけられたこと。

 ハーレムゲームの勝敗の条件。

 ……そして、アリスがハーレムにこだわるようになったのは、家族の不和が原因であること。

 不和について、細かい内容はいっさい話していない。

 ただ、不和であるという事実だけを伝えた。


「……話はわかりましたわ。アリスさんは私たちを、相馬様にハーレムを認めさせるための要員として呼んでいたということでしたのね」

「いいじゃないですか。相馬様を中心としたハーレム。最高に幸せで、淫靡な空間になると思います。ああ、想像しただけでもわたし……っ!!」

「……セバスチャン。なに身体痙攣させてんだよ?」

「はあぅっ!! このタイミングでのセバスチャン呼び!? さすが、ハーレム王の資質……」

「もう、おまえは黙ってろ!!」


 ほんと、なんでこいつの同席を許可したんだよお母様!?

 話が全然進まねえ。


「それにしても、アリスさんがハーレムに傾倒されている理由が、ご家族と仲がよくないなんて悲しいものだったとは……」

「……うん、ほんと悲しいよね」

「それに、ハーレムゲームなんてものが開催されていたとは。私、少しも気づいておりませんでした」

「すごろくの時に、相馬様は言ってましたけどね。勝ったら、祝福のキスをしてもらうって。お嬢様は魂抜けていらっしゃったので、聞こえてなかったでしょうけど」

「……祝福の、キス?」

「……セバスチャン、聞いてたのか?」

「あの距離ですしね。胸を振っていた藤林さんの、耳に届いていたかはわかりませんけど。そして、セバスチャン呼びぃ。はあああぁうん!!」


 たしかに、あそこでの発言は少しうかつだったかもしれない。

 ハーレムゲームなんて、やすやすと口に出していいものでは……。

 ……いや、べつにもうそんなに問題ないか?

 

 今日、西園寺さんはゲームを知った。

 蛍も内容は知らないけど、ゲーム自体に巻き込まれてるのは認識してる。

 あとは藤林さんだけど、伝えることで注意喚起にもつながる。

 まあ藤林さんからの伝言ゲームで、おまわりさんにまで届いた場合は人生破滅しそうだけどな。

 リスクと言えば、たったのそれくらいだ。

 ……かなりでかいリスクか?

 でも、『誰にも言わないでね? お兄ちゃんとの秘密だよぐへへ』って頼んだら、黙っててくれそうな気がする。藤林さん、いい子だしな。


「……西園寺さん?」

「――え? あっ! 申し訳ございません。なんでしょうか?」

「いや、ちょっと顔色悪かったから、気分でも悪くなったのかなって。心配で」


 セバスチャンがすごろくの時の俺の発言に触れてから、どうも西園寺さんの元気がない。

 いったい、どうしてしまったのか。


「大丈夫ですわ。ご心配していただき、ありがとうございます」

「大丈夫なら、全然いいんだけど」

「……あの、相馬様。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「な、なに?」

「あ、あの……」


 そこで、言葉が途切れてしまう。

 聞きたいけれども、聞きたくない。

 声に出す勇気が出ない。

 そんな表情で、口を開いてはうつむいてを数回繰り返したあと、意を決したように力強い視線を向ける。


「相馬様は、なぜハーレムゲームに勝とうとしているのですか?」

「な、なぜって……。普通に考えて、ハーレムなんて現実的じゃ――」

「そういううわべの理由ではなく、相馬様の本心からくる理由ですわ」

「法律的な理由も、じゅうぶんすぎる理由だと思うけど……」


 西園寺さんは、視線を外さない。微動だにしない。

 じっと、俺の答えを待っている。

 

 ……本心からくる理由、か。

 俺は、ゆっくりと口を開く。

 愛しい少女のことを、思い浮かべながら。


「……そうだね。俺も男だし、たくさんの可愛い女の子と一緒になれるハーレムに、憧れがまったくないわけじゃない」

「それならば、ハーレムゲームに敗北なさればよろしいのでは?」

「それだと、アリスの心が救われないと思うんだ」

「アリスさんの、心?」

「そう。アリスがハーレムにこだわるのは、本物の愛を信じていないから。永遠の愛を諦めているから。俺がハーレムを認めたら、そんな愛なんてないというアリスの考えを肯定することになる。アリスの心は、そういった愛を知らないままになってしまう。そんなの、俺は嫌なんだ。だから、ハーレムゲームに勝つ。勝って、治った本当の心も手に入れる。たぶん、俺は欲張りなんだと思う」


 自分で言葉に出してみて、妙にすっきりした。

 そうだ。俺は欲張りなんだと。

 俺は今のアリスだけじゃなく、百合さんの言っていた無邪気に笑うアリスも手に入れたい。

 そんなアリスと、一緒に末永く暮らしたい。

 俺にとってそれは、たくさんの女の子とセックスするより欲張りな願いなんだ。


「……相馬様のお気持ちは、わかった気がいたします。欲張り、ですか……」

「だから、ハーレムゲームに勝つために。アリスの心を救うために。俺がアリスの本当の笑顔を手に入れるために。西園寺さん。俺に協力してくれないか!?」


 あえて、頭は下げない。

 俺の双眸で、彼女の双眸に訴え続ける。

 これでもかと真剣で、力強いまなざしで見つめ続ける。

 

 どのくらいの時間、そうしていただろうか?

 西園寺さんは俺を見つめたまま、口を開く。


「……もしも、もしもハーレムゲームに勝って、アリスさんが心を取り戻して、それでもハーレムを所望された場合。……相馬様は、いかがなさいますか?」


 その時の西園寺さんの表情は、どこかすがりつくような必死さを帯びていた。

 いつもの凛とした彼女の顔とは、まったく結びつかないものだ。

 どんな心境の変化をきたせば、ここまで表情を一変させるのだろうか。

 彼女の胸中は、彼女にしかわからない。


「……ごめん。その時の選択なんて、実際その時にならないとわからない。でも、きっと俺はアリスだけでいいと思う。初めて出会った時から、ずっとその気持ちは変わらない……はず」

「……そうですか」


 西園寺さんは、息を吸いながらまぶたを閉じる。

 なにやら、熟慮しているようだ。

 いや、その静かで動かない姿は、瞑想していると表現したほうが近いかもしれない。

 数分後、彼女の瞳がゆっくりと開かれる。

 閉じるときよりも、かなりゆっくりと。

 気持ちは、固まったのだろうか?


「相馬様。大変申し訳ございません。今回のお話、持ち帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、も、もちろん! アリスは西園寺さんにとっても、大事な友達だもんね。どうしたらいいかなんて、こんな短い時間で決められるわけないよ」

「……情けないことに、それ以前の問題です。まだ私が、私の気持ちを完全に理解できていないのです。ですから、ハーレムゲームは保険になります。……私の、保険」

「……保険?」


 どういう意味だろうか?

 西園寺さんの気持ちという部分も併せて、まったくわからない。

 でもどんな理由だろうと、この場で決められないのは当然だ。

 とにかく、やれるだけのことはやった。

 あとは、西園寺さんからの吉報を待とう。


 その後、俺に待っていたのは、セバスチャン地獄だった。

 今日この場をセッティングしたお礼として、千回セバスチャンと呼ばされたのだ。

 ようやく解放されたとき、セバスチャンはよだれを垂れ流し、完全に足腰が立たない状態になっていた。


 こんな地獄は二度とごめんだったので、俺は西園寺さんの電話番号を教えてもらった。

 さらにアリスに対して罪悪感を感じつつも、西園寺さんと個人ロインをできるようにした。

 そのことは今後、西園寺さんが協力者になってくれた時のことを想定して、ほかの人には内緒にすることを決めた。

 その時、やけに嬉しそうだった西園寺さんの笑顔は、絵になるくらいにとても素敵だった。

読んでいただきありがとうございました!


楽しんでいただけてたら嬉しいです


次回もよろしくお願いいたします!

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