『みんな仲良くなろう! マスの指示には絶対服従だよ剣護さん? すごろく』 前編
思ったよりも長くなりそうなんで、すごろくは前後編に
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「じゃあ、さっきのテーブルの時と同じように座りましょう」
丁寧に広げたすごろくの四隅に図鑑を置いたアリスが、腰をおろしつつ口を開く。
この図鑑は、たぶん重石代わりだろう。紙がぐしゃっとなったり、破けにくくなる。
すごろくの上部にはでかでかと、『みんな仲良くなろう! マスの指示には絶対服従だよ剣護さん? すごろく』と書いてある。さっき、アリスが公表した名前だ。
そのタイトル名以外は、たくさんのマスが書いてあるだけだ。
イラストなどは描かれていない、シンプルなデザイン。
マスの上には白い紙が貼られてあり、そこになにが書いてあるのかわからなくなっている。
「アリス、このマスは?」
「そこに止まった人が、はがしてください。どんな指示が書いてあるのかは、それまでのお楽しみです」
妖美な笑みをたたえる彼女からは、楽しみよりも胸騒ぎしか感じない。
いったい、どんなハチャメチャな要求が飛び出てくるのか。
「はい。剣護さんから振ってください」
アリスの言うとおりに先ほどと同じ並びで座ると、アリスがサイコロを渡してくる。
あの有名なキャラメルの外箱だ。面が白くて、目が赤いほう。
スタート地点には、赤、青、緑、黄、紫。五色のおはじき。
好きな色を選んで、それを駒に使うということだ。
念のため使いたい色はあるかとみんなに確認したけど、何色でもいいと返された。
「……よっし。じゃあ、行くぞ!」
普通のすごろくなら絶対に必要ないレベルの気合を入れて、サイコロを上に投げる。
すごろくの上で一、二度跳ねてコロコロ転がる。
止まった目は『5』だった。
よし。幸先いいぞ!
……いや、止まったマスになに書かれてるかも知らないんだけどね。
なんとなく青のおはじきを手に取って、「1、2、3、4、5!」と声に出しながら進める。
べつにいちいち声に出す必要ないけど、なんかすごろくだと自然と出ちゃうよね。
一回深呼吸して、少しだけ震える手でマスの上の紙をつまみ、思い切ってはがす。
そこに書かれていた指示は――
『大当たり! 今すぐこの場で全員とセックス!!』
「ぶぅううううううううううううううううううううううううううっ!?」
なんでスタートからたったの5マスで、こんなクライマックス的な内容なんだよ!?
こんなの、ゴール直前にあるべき指示だろ!!
いやゴール直前だったとしても、遂行したらタイーホ確定だけどな。
「剣護君どうしたの――って、セックス……!?」
「ふ、ふええええええええええっ!?」
「まあ、素敵!」
俺のリアクションに何事かと、アリスを除く全員がマスを覗き込む。
そりゃそうだよ。全員とセックスなんて、驚き桃の木でしょうよ。
……って、なんか一人だけ、あきらかに反応がおかしくないかい?
「さ、西園寺さん? 今なんて……?」
「素敵ともうしましたわ!」
「す、素敵!?」
「ええ。素敵ですわ。タッグマッチですわよね?」
「……タッグマッチ」
聞き間違えではなかったらしい。
西園寺さんは手を合わせて、うっとりとした表情で妄想にふけっている。
たしかに五人が入り乱れてくんずほぐれつ、ひっくり返したり重なり合ったりするさまは、タッグマッチと表現してもいいかもしれない。
でもどういうことなの?
西園寺さんも、すでにハーレム歓迎派だったの!?
十分前に、君を仲間にするとした俺の決断はどうすれば?
「西園寺さん、セックスをプロレスのようなスポーツだと勘違いしてるよ」
苦悩する俺に、熱い吐息をともなってそっと耳打ちしてくれる。
泣きぼくろの美少女だ。
こうして近くで見ると、くちびるも色っぽい。
俺も蛍にならい、耳に近づき小声で応じる。
「プロレス?」
「うん。複数人プレイをタッグマッチだと思ってる」
「どんな道を歩いてきたら、そんな世間知らずなお嬢様に……」
いや、ちょっと待てよ。西園寺さんは、まだ小学五年生だ。
一瞬彼女をおかしいと思ってしまったけど、それは俺の感覚が麻痺してるだけじゃないか?
年齢考えたら、全然知らなくてもおかしくないんじゃないか?
「西園寺さんのお父さんが、そういう知識から遠ざけてるみたい。ちなみに、プロレスって勘違いしたのは――」
「アリスのせいだろ?」
ため息を吐いて、不敵に笑うアリスに向き合う。
「剣護さん、最初はどうしますか? ベッドに行きますか? それともこのまま床で? まさか初めてから、青姦なんてことは……」
「答えは全部NOだ! アリス、このマスの指示は放棄させてもらう」
「……剣護さん? このすごろくは、マスの指示には絶対服従。言葉でも伝えましたし、わかりやすくここにも書いてますよね?」
小悪魔は、すごろく上部のタイトルを指でさす。
そこには、『みんな仲良くなろう! マスの指示には絶対服従だ――』って、もういいっちゅうねん。しつこいよ。
「さ、さすがにセックスなんて横暴だ! なあ、二人とも!?」
なんとかこの状況を打開するには、自分と同意見の人を増やすしかない。
自分の世界に入り込んだ金髪お嬢様は置いといて、残りの二人にかけたのだが……。
「いや。わたしはその、……アリスちゃんや剣護君とならべつに」
「も、萌は……萌は……はうううぅ」
「なんで、そんな反応!?」
大失敗だ。
いやね。蛍はなんとなくだけど、そんな気はしてたよ。うん。
君は、アリスの絶対的な協力者だもんね。
小五で初体験はちょっと……みたいな展開を、ほんの少しだけ期待しただけさ。
だから、まあ蛍はいい。彼女は、手遅れだって再認識もできた。
大誤算は君だよ。藤林さん。
なんで頬、赤くしちゃってるの?
いやそれだけなら、ただ恥ずかしいだけかもしれない。
なんで瞳潤ませて、モジモジしちゃってるの?
なにゆえ、まんざらでもないみたいな空気出しちゃってるの?
現代の小学生の性は、そんなに乱れちゃってるの?
お兄さん、完全に四面楚歌なの!?
い、いや。まだいる。
俺に味方してくれそうで、しかもこの場で一番武力的に強そうな人物。
そう。セバスチャンだ!
このまま大事なご令嬢が、俺みたいな馬の骨に喰われるのを黙って見過ごすはずが――
「わたしは、相馬様が本当の旦那様になってくれるならば大歓迎です。バンバン、孕ませちゃてください!」
「人の心を読むな!! ってか、声だけ聞こえると気味悪いんだけど! いったい、どこにいんだよ!?」
「わたしはいつでも相馬様のそばで、相馬様のことを見つめております」
「ストーカー、こええよ」
というか西園寺さんの御付きとして、こいつ完全に失格だろ。
こんなふざけたやつが、能力的にはかなり優秀そうだなんて。
世の中って、本当に不条理だ。
「ふふっ。どうやら反対意見は、剣護さんだけのようですね。もう観念したらどうですか? わたしはまだ生理きてないんで、ゴムなしでやりたい放題ですよ?」
「え、エロそうな顔でそんなこと言っても、俺の意思は折れないぞ! …………ほ、ほんとだぞ! だいたい西園寺さんは、ただ騙されてるだけで……」
そ、そうだ。彼女は勘違いしてるだけなんだ。
この認識を正しく矯正すれば……って、だめだ。
蛍は西園寺さんのお父さんが、わざと性的なことに触れさせないようにしてるって言ってた。
俺が本当のセックスは刀を鞘におさめる行為だなんて教えようとしたら、セバスチャンが妨害してくるはずだ。
きっとセックスの知識を与えるつもりならば、同時に孕ませないと許さないってスタンスなんだろう。
やつは狂ってる。
くっそ。どうすればいいんだ………………っ!
「……西園寺さん。残念だけど、ここでセックスをするのは無理だ」
「まあ。なぜですの?」
「五人でのセックスには狭すぎる。家具とかに頭ぶつけたら、命の危険もある」
「……たしかにプロレスのようなものと考えたら、ここでは狭いし危険もありそうですわ」
「それに、どうしたって大きな音が出てしまう。さっき百合さん――アリスのお姉さんが言ってたんだけど、今お母さんが寝ているらしい。西園寺さんはそんな場所で大騒ぎできるような、非常識な子じゃないよね?」
これしかない。
西園寺さんは、基本常識人だ。
そして、とても心の優しい女の子だ。
セックスをプロレスと勘違いしてるなら、逆にそれを活かせばいいだけじゃないか。
「相馬様のおっしゃるとおりですわ。ここでセックスなんかしたら、アリスさんのお母様の睡眠の妨げになってしまいます」
「そうだろ? 俺たちのセックス音で、お母さんが起きちまうんだ」
「でもマスの指示は絶対が、このすごろくのルールですよ? ルールを破るんですか?」
「うう。それも、そのとおりですわ。私、どうすれば……」
「そんなに、悩む必要なんかないんだ! 五人でセックスって指示が、現実的じゃなかったんだから。そんな指示の時点で、無視してもルールを破ったことになんかならない!」
「そ、そうですわよね。さすがに、ほかのかたの迷惑になるようなことは――」
「西園寺さん。どこかほかの場所に移れば、できるんじゃないですか?」
「そのとおりですわ! 私が、場所を用意すればいいではありませんか。田中にどこか広いところを……ドームでも確保させて……」
「どんだけ、大規模な話にするつもりなの!?」
西園寺さん!
ドームなんかでセックスしたら、数万人に君の初体験を観戦されることになるんだよ!?
さすがの俺も、見られて興奮する性癖はないよ。たぶん。
というか、君はどこまで生真面目なのよ?
そして、純粋すぎるのよ?
お兄さん、いつか君がとんでもない詐欺にあうんじゃないかと心配だよ。
でも今回は、その性格を利用させてもらうよ。
アリス残念だったな!
ここまでの展開は、予想の範疇だ。
俺は、ほくそ笑む。
「西園寺さん。それはできないんだ。ほかに、移動することはできない」
「なぜですの?」
「ここに、書いてあるからだよ。『この場で』と!」
俺はドヤ顔で、マスを力強く指さす。
そこには、『この場で全員とセックス!!』の一文。
そう。指示を完璧にこなすとするなら、ドームになんか場所を移せないのだ。
「たしかに、この場でと書いてありますわ!」
「どうだ、アリス。これだと、ほかでのセックスは選択肢から外れる」
「ふふっ。今回は、剣護さんに一本取られてしまいました」
「文章にインパクトをつけるためにこの場でと書いたんだろうけど、それがあだになったな」
完璧だ。完璧な論破だ。
ようやくアリスに、一泡吹かせることができた気がする。
「でも何もなしに終わるのは、ちょっとずるいと思うんです」
「あ、アリス。なに言ってるの?」
「だからせめて、みんなのお願いを一回なんでも聞く。これをセックスをしない代わりにしようと思うんですけど、どうですか?」
「待て、待て、待て」
「わたしは、それでいいよ」
「ほ、蛍?」
「も、萌も……それがいいと思う」
「藤林さん? どうしちゃったの?」
「わ、私も、それでいいと思いますわ。これなら、相馬様のプライドも傷つきませんし」
「いやべつに、俺にそんなプライドは――」
「わたしも、それがいいと思います。相馬様に、なにお願いしよう」
「おまえは関係ないだろ! 黙ってろ、セバスチャン!!」
「はああぁ。そんな強気な相馬様。わたし、濡れてしまいそうですぅ」
呼吸を乱しながら大声で、どこにいるかもわからないセバスチャンに突っ込みを入れる。
なんか気になること口走ってるけど、今は無視だ。
なんで、こんなことになった?
俺は油断したのか?
つい一、二分前まで完全勝利だと思ってたのに、気づいたら完全敗北みたいな感じじゃないか?
オセロの石が、一気に全部裏返ったような感覚だ。
「ふふっ。剣護さん。どうしますか? べつに無理やり、セックスすることもできるんですよ?」
「……わ、わかった。みんなのお願いを聞けばいいんだな。その代わり、このマスはこれ以降ブランクだ」
「契約成立ですね」
「っ!?」
その声を聞いた時、寒気が全身を走った。
俺はとんでもない悪魔と、やばすぎる契約を結んでしまったんじゃないか?
「剣護君に、なにお願いしよっかな」
「萌はねぇ、どうしよう」
「もう一度ナニを……って、これはだめですわ。我慢我慢」
「ははっ。あの、お手柔らかにね」
「わたしは、相馬様に――」
「だから、おまえは黙ってろセバスチャン!!」
「はああああああああああああん」
そんな俺らの様子を横目に、アリスがサイコロを手に持つ。
気合を入れた様子もなく、たんたんと振ったサイコロの目は『6』。
紫のおはじきを六マス移動させて、マスを隠す紙をつまみ、流れるようにはがす。
『大当たり! 今すぐこの場で全員とセックス!!』
「ちょっと、待てえええええええええええええ!?」
「あらー。これは困りましたね」
「嘘つけ! アリスは全部知ってるだろうが」
俺は嫌な予感がして、1から4までのマスの紙を全部引っぺがす。
『大当たり! 今すぐこの場で全員とセックス!!』
『大当たり! 今すぐこの場で全員とセックス!!』
『大当たり! 今すぐこの場で全員とセックス!!』
『大当たり! 今すぐこの場で全員とセックス!!』
「……ずいぶんと、大盤振る舞いな大当たりだな?」
「てへ。バレてしまいました」
自分の頭をこつんとするアリス。
可愛い!
可愛いけど、今回はそれでは見逃せない。
「これ絶対、全員一回目はセックスマスに止まるじゃねえか」
「そうですね。でも剣護さんのおかげで、ここはブランクマスになりましたから」
「……い、いや違う。俺がブランクマスにしたのは、俺が止まっているところだ。そこじゃない。だから――」
「さっきのお願いを聞くって約束、無効にしろって言いたいんですか?」
「そ、そうだ! 全員同じ条件なら、まっさらに戻していいじゃないか」
「わたしは、指示どおりにセックスしてもいいんですよ?」
「ぐぅっ!?」
「それに、一度冷静にこのすごろくの名前を読んでみてください」
「なんで?」
「いいから、読んでください」
「……みんな仲良くなろう! マスの指示には絶対服従だよ剣護さん? すごろく……」
「つまりこのすごろくにおいて、絶対服従は剣護さんだけなんですよ?」
「理不尽だ!?」
「そうですか? 当然の救済措置だと思いますよ。それとも剣護さんは嫌がる女子小学生に、『指示に従えよ。逃げられないぜ。げへへ』みたいなことをするつもりなんですか? 鬼畜なんですか?」
「ぐぬぬ」
『ぐぬぬ』なんて、初めてリアルで声に出ちゃったよ。
「さっきの約束。ちゃんと守ってくださいね?」
その妖艶な微笑みを目にした瞬間、すべてを理解した。
『願いをなんでも一つ聞く』
全部これを約束させるための、計画だったのだ。
俺に最初にサイコロを振らせたのも、俺がセックスの指示を切り抜けたのも、そこに交換条件を提示するのも。
このすごろく自体が、それを成すためだけに作られた可能性もある。
もしそうなら、これ以降は消化試合ということだ。
俺はアリスの手の上で転がされている。
その事実が、俺に重くのしかかった。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです
次回もよろしくお願いします
次話は頑張って深夜くらいに投稿したい
もともと、すごろくは一回にまとめるつもりだったんで
皆様、作者にモチベをわけてくれ!!