表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/18

君に決めた!

あらたにブックマーク登録していただいた皆様

評価をしていただいた皆様

読んでいただいた皆様


本当に本当にありがとうございます!


皆様の応援で、作者は支えられております


これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

 ごくりとつばを飲み込んで、緊張気味にノブに手をかける。

 当然、なにが起こるかわからないハーレムゲームに対して、神経質になっている部分もある。

 でもそれがなかったとしても、ここはアリスの部屋の前なのだ。

 この扉を開くと、大好きな女の子の部屋に入るのだ。

 この世に、緊張しない童貞なんているわけないと信じたい。

 もしもいたとしたら、そいつは心が壊れてるか、本当に好きな子の部屋じゃないと思う。

 じっとりとした手汗を感じながらノブを下げ、ゆっくりと押し開く。


「いらっしゃいませ。相馬様、野中さん」

「おはようなの、野中さん。そ、それと相馬さんも」


 中から出迎えてくれたのは、金髪の美少女と巨乳の少女。

 西園寺さんは少し頬が赤い気もするが、カラオケの時同様、堂々とした風格を漂わせている。

 藤林さんは耳まで顔を真っ赤にして、もしもこれが二次元キャラなら汗を飛ばしていそうな状態だ。

 やっぱり、前回おっぱいを揉んでしまったことが原因かな?

 俺としては懸命に守ってたつもりなんだけど、結果として揉んでた事実は変わらない。

 人工呼吸で人命救助したつもりだけど、結果としてキスしてしまったのと同じことだ。


 というか、ようやく藤林さんの顔を思い出せた。

 西園寺さんの歌で気絶したせいだと思うけど、どうも記憶に一部障害が出てしまっていた。

 藤林さんの顔を思い出そうとしても、おっぱいしか頭に浮かばなくなったのだ。

 この一週間、俺にとって藤林さんの顔はおっぱいだった。

 でも、ようやくこれで解決だ。

 そうだった。藤林さんは、こういう可愛らしい女の子だった。


「相馬様。先日は私の歌でご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」


 金髪のお嬢様が優雅で無駄のない動作で、心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 俺は彼女を安心させようと、これでもかと口角を上げて歯を見せる。


「誰にだって、苦手なことはあるよ。完璧な人間なんて――」

「いくら計画上いたしかたのないことだったとしても、私の歌声を普段から芸術に触れられてないかたに聞かせてしまうのは、やはりやりすぎであったと。冷静になってみると気を失わせるだけならば、田中に任せたほうがスマートでした。でもひさびさに歌えるということで、つい舞い上がってしまいましたの」

「……はい?」


 ど、どういう意味だ?

 いろいろと、突っ込みたい部分が多すぎる。


「あ、あの。西園寺さんの歌って……」

「ええ。どうやら芸術的感性がない人が耳にしてしまうと、脳の理解が追いつかずに遮断してしまうそうですわ。アリスさんたちは毎日のように、私の声という芸術に触れておりますから、予想どおり大丈夫だったのですけれど」


 たしかに西園寺さんの普段の声は、透明感に凛とした雰囲気もあって、力強く場を締めるような音色を奏でている。

 でもそれがアリスたちを助けたかと聞かれたら、全力で否定せざるを得ないよ。

 アリスたちは、耳栓かなにかしてたから大丈夫だったんだよ!

 それでもかなり苦しんでたけどね。

 もしかして自分の歌に集中しすぎて、周りの様子が視界に入ってなかったのか?

 ずいぶんと、気持ちよさそうに歌ってたもんね。


 というか、どういうことなの?

 芸術的感性? そんな馬鹿な。

 どんだけポジティブな解釈をしたら、そういう結論にいたるの?

 どう考えても、ただただ西園寺さんが大音痴なだけだよね。

 君の歌の破壊力、MAP兵器レベルだよ。


「……ん?」


 俺が頭大混乱で困惑した表情を浮かべていると、くいくいと袖が引っ張られる。

 蛍だ。

 彼女は声は出さず、目を中心とした顔の動きでなにかを訴える。

 どうやら、『話を合わせとけ』と伝えようとしているみたいだ。


 ……なるほど。

 おそらく西園寺さんは家族や使用人の人たちから、そういうふうに説明され続けたんだろう。

 芸術に疎い人は、気を失ってしまう。

 だから、滅多なことでは歌うなと。

 お前の歌は、好意的な意味合いで特別なんだからと。

 彼女はそれを信じ切っている。一ミリも疑ってなどいない。

 いまだに心の底から申し訳なさそうな顔を、俺に向け続けてくれている。

 そんな彼女に現実を突きつけるなんて、俺にはできない!


「……そ、そうだね。俺、全然芸術に興味なかったから」

「相馬様も、私とこうして会う機会が増えれば大丈夫ですわ。いつかきっと、私の歌を最後まで聞けるようになります」

「ま、待ちきれないなあ」


 ごめん、西園寺さん。

 それだけは、ノーサンキューだ!


「……でさ、そもそも計画ってなんだったの? 俺を気絶させたかったことは、わかるけど」

「覚えていらっしゃらないんですね。アリスさんのおっしゃっていたとおりですわ」

「……えっと、どういう意味かな?」

「い、いえ。こちらのことですの。申し訳ございません。今はまだ、明かすことはできませんの」

「えっ? なんで?」


 もう一つの確認せずにはいられない問いを投げかけると、金髪のご令嬢は意味深なことを呟き、また頭を下げてしまう。

 ハーレムゲーム開幕戦の帰宅時。

 電車に揺られながらぼんやりと、なんで俺は気を失わされたのか思案していた。

 その時に出た結論は、あのサプライズ的な膝枕からのパンツコンボを成し遂げるためというものだった。

 そのために最終兵器的な意味合いで、西園寺さんが巻き込まれたんだと思った。

 でも西園寺さんの様子を見ると、その推理は見当はずれだったのかもしれない。

 なにより気になるのが、『覚えてらっしゃらない』という一言。

 藤林さんの顔がおっぱいになってしまった以外にも、俺は忘れてしまったことがあるんだろうか?

 なんなのだろうか。頭に、もやがかかったみたいだ。

 

「わ、私がどうしたいかの結論をしっかりと出した時、お詫びとともに説明させていただきますわ。それまで、どうかお待ちいただけないでしょうか?」

「……う、うん。わかったよ。よく、わからないけど」

「感謝いたしますわ、相馬様!」


 喜び、笑顔の花を咲かせるお嬢様

 そんな西園寺さんを見たとき、少しだけ記憶の霧が晴れた気がした。

 そうだ。あのカラオケの日も、彼女の同じような表情を目にした気が……。

 ……だ、だめだ、思い出せない。

 これ以上思い出そうとすると、アリスの黒い三角地帯が前面に蘇るだけだ。


「お待たせしました。って、まだこんなところに立っていたんですか?」

「――っ!? あ、アリス」

 

 俺が素晴らしい黒の記憶に思考を支配されていると、背中から可愛らしい声がかけられる。

 振り向くと、天使が廊下にちょこんと立っている。

 彼女の両手には、人数分の紅茶と皿に盛られたクッキーを載せたお盆。

 紅茶からは、湯気が立ち上っている。


 エロい妄想をしていた相手にいきなり声をかけられて、つい動揺してしまった。

 背中、ものすごいビクッってなってたろうな。恥ずかしい。

 

「アリスさん。申し訳ございません。まずは歌のことについて、お詫びしようと思いまして」

「ふふっ。どういう状況なのかは、なんとなくわかりました。でももっと中に入ってから、ゆっくりしてもよかったのでは?」

「そのとおりですわ。どうも、気がはやってしまったようで……」

「気持ちは、わからなくもないですけどね」


 俺は部屋に入ってすぐの場所で、西園寺さんから謝罪を受けていた。

 なので俺と蛍で、部屋をふさいでしまっている状態だ。


「……剣護さん。どうかしましたか? 早く、中に入りましょ」

「えっ!? い、いや。なんでもない、なんでもない!」


 あっはっはと笑いながら、ぎこちない動きで足を動かす。

 直前まで、黒の布を思い出していたからだろうか。

 どうも目を引き寄せられてしまった。アリスのスカートに。

 

 今日も黒なのだろうか?

 今日は白なのだろうか?

 それとも、スケスケ!?

 ま、まさか履いてない!?


 こんなことが脳みその中を占めていた。

 俺はいったい、どんな顔を晒していたのか。恐ろしくて、考えたくもない。

 少なくともエロいことを考えていたことは、きっとアリスにはバレている。

 ブラックアリスの微笑みが、それをにょじつに物語っていた。


 部屋の中に入ると、西園寺さんたちにならうように、丸いテーブルを囲んで腰をおろす。

 テーブルはガラス製で、六人くらいなら肩をぶつけることなく囲めそうな大きさ。

 そのテーブルの上に、素早い手つきで紅茶の入ったカップとクッキーを盛った皿が並べられた。

 

 俺を起点に右回りで、アリス、藤林さん、西園寺さん、蛍という並びで座っている。

 アリス大好きな蛍なら、その天使の横に無理やりにでも入りそうなもの。そんな彼女が俺の横を選んだということは、まず間違いなくアリスの指示だろう。


 クッキーを口に運びながら、部屋をぐるりと見まわす。

 大きさは十畳くらいあるだろうか? 俺の部屋よりも、かなり広い。

 とてもオタクのものとは思えない、いっぽうで小学生の女の子らしくもない、落ち着いた飾り気のない部屋だった。

 部屋にあるものはこのテーブルと、ベッド、本棚、小型のタンス、それと机くらいだ。


 ベッドは重厚そうで、上にかけられている布団はシンプルなデザインの白。ヒラヒラみたいな飾りもついていない。

 本棚に並んでいるのは、ほとんどが図鑑や有名小説家の全集。漫画も見当たらない。

 オシャレなタンスの上にも小さい観葉植物が置いてあるくらいで、女の子が好きそうな小物はない。

 机の上も綺麗に整頓されており、椅子に掛けられた赤いランドセルが唯一、この部屋は女子小学生のものであることを訴えている。

 

 当然のごとく、エロゲーやエロ本も目につかない。

 小学生だとわかったとき、エロゲー大好き的なキャラはとしを隠すためのカモフラージュではないかと考えた。(というか、なんとなくそうであってほしいと思っていた)

 でもネット上で何回確認しても、『本当にエロゲーもエロ本も両方持ってる! 腐るぐらいに!!』の一点張りだった。

 でもここには、その形跡はひとかけらも落ちていない。

 ……クローゼットだけは、絶対に開かないほうがいいかもしれないな。


 ちなみに、窓にかかっているカーテンは黒だ。今は開かれているが、一度閉じてしまえば光を完全に遮断してしまいそうなくらい分厚いものだった。

 ……もしかして、黒が好きなんだろうか。


「……そんなにジロジロ見られると、さすがに恥ずかしいです」

「え!? あっ! ごめん。そうだよね」


 あぶねー。

 また黒の三角地帯に思考が向かいそうになった瞬間、アリスの漏らした声で現実に呼び戻される。

 あの黒い布。どんだけ俺の脳に、強く刻み込まれてるんだ!?

 藤林さんのおっぱいを触らないようにするだけじゃなく、黒のイメージとアリスを結びつけるのにも気をつけなくてはいけないとか。

 ハーレムゲームのNGワードが、どんどん追加されてしまっている。

 ……それにしても、照れてるアリスはほんと可愛いなあ。


「……相馬様。もう一つお詫びを」

「えっ? まだあるの」


 アリスを見て心を癒されている俺に、再び西園寺さんが心苦しそうに口を開く。

 もうなにも思い当ることないけど。

 まさか俺の知らないところで、とんでもないことに巻き込まれたとかじゃないよね!?


「今日のことですわ。アリスさんと相馬様。二人で過ごされるはずでしたのに……」

「ああ。そのことか。田中さんに、バレちゃったんで――」

「なぜでずがああああああっ!? ぞうばざば(相馬様)あああああああああああああ!?」

「うわああああああああああああああああっ!?」

「た、田中!?」


 そんなことかと、ほっとため息をつく暇もなく。

 気づくと真正面から抱き着いて、セバスチャンが泣きわめいている。

 こいつ、いつの間に!? 初めて会った時も驚かされたけど、ほんと忍者みたいな人だな。


「なぜ、なぜでず!? なぜ、ゼバズジャンと呼んでぐれないのでずぅううううううううう!?」

「田中!? あなた、なにをしているのですか!? はやく、相馬様からお退きなさい!!」

「ご、ごめんごめんごめん!! こないだカラオケで扉開けてくれなかったから、一回意地悪してやろうと思っただけ! 俺が悪かったから、もう離れてセバスチャン!」

「ぞ、ぞうばざばああああ。や、やばりあなだは、わだしのぞうばざばでずうううううううう」

「わ、わかったから。わかったから、もう泣き止んでくれ! 二度と田中さんなんて呼ばないから! 服がぐちゃぐちゃになっちまう」

「ぞうばざばあああああああああああ。うれじいでずうううううううううううううう」

「田中!! いい加減になさい!!」

 

 『二度と田中さんと呼ばない』という言葉に感激したのか、今度は感涙が止まらなくなるセバスチャン。

 結局、十分くらい俺の胸で泣き続け、落ち着いたあとようやく風の音とともに消える。


「剣護さん。洗濯しましょうか? 乾燥機もありますし」

「そ、そうだね。じゃあ、お願いしようかな」


 セバスチャンの涙と鼻水でとんでもないことになったTシャツを見て、アリスが両手を広げてくれる。

 その提案に、ありがたくうなずかせてもらう。

 ちょっと申し訳ない気もするけど、これをこのまま着ているのもどうかと思ったのだ。


「「「――わぁっ……!」」」


 Tシャツを脱ぎアリスに渡すと、天使以外の三人が感嘆気味の声を漏らす。


「えっ!? な、なに?」

「ふふっ。西園寺さんたちは、剣護さんの上半身に驚いたんですよ」

「そ、そうなの? 筋トレちょっとやってるくらいだし、べつにそんなすごくもないと思うけど」

「みんなたいらな同級生や、たるんだ父親のばかり見てるでしょうから」

「でもプールとか海とか行ったら、もっとムキムキな人たくさんいるでしょ」

「身近な男性だと、感じ方も違いますよ。わたしもカラオケで見たときは、ギャップに驚いて惚れ直してしまいました」

「ほ、惚れ直したの?」

「はい! じゃあ、これ洗濯してきますね」


 可憐な微笑みを残して、パタパタという足音が遠くに離れていく。

 カラオケの日に見たって言ってたけど、もしかして膝枕の時だろうか。

 褒めてもらえたのは嬉しいけど、知らぬ間に触られてたりしたのかなと思うと、なんだかこっぱずかしい。


 アリスが出ていったドアから、部屋に残った三人の美少女に視線を移す。

 個人差はあるものの、みんな頬を染めてチラチラとこちらを見ている。


「ご、ごめんね。こんな姿」

「そ、そんなことございませんわ。素敵だと思います」

「うん。剣護君、かっこいいよ」

「はうぅ。も、萌も……いいと思います」

「そ、そう? ありがとう」


 照れくさくなって、ごまかすように後頭部を少しかく。

 暇つぶしであろうと、筋トレしといてよかった。


「それよりも相馬様。このたびの田中の失礼な行為。アリスさんとの時間をお邪魔してしまった今日のことと併せて、お詫びさせていただきます。申し訳ございません」

「い、いいって。頭を上げて! セバスチャンは、俺が意地悪しちゃったせいだし。それに俺も西園寺さんたちと、また会いたいなって思ってたから。だから、気にしないで。ね?」

「そ、相馬様。……私、そんなふうに言っていただけで、本当に嬉しいですわ」


 頬を染め、少しだけ瞳を潤ませて、顔をほころばせる。

 素直に、美しいなと思ってしまった。

 きっと心も美しいから、こんな表情ができるんだろう。

 さっき今日のことを謝ろうとしたきっかけも、俺がアリスに見惚れているのを目にしたからじゃないだろうか。

 そういう時間を邪魔してしまったと。自分自身を責めていたのかもしれない。


 俺はこの時決めた。

 西園寺さんを意地でも説得し、俺の協力者になってもらおうと。


「お待たせしました。剣護さん。これ着てください」

「あ、ありがとう。アリス」


 俺が一つの決心を固めたと同時に、アリスが一着服を手に持って戻ってきた。

 広げてみると、俺でも着られそうな大きさのTシャツだった。

 ……でもこれ、女物なんじゃ……?


「アリス、これ着ていいの?」

「はい。着潰しちゃってください」

「いや、丁寧に着るけども」


 おそるおそる、伸ばさないように首を通す。

 俺が頭を出すと、アリスがなにやら紙を床に広げている。

 大きさは、有名な家電量販店のチラシくらいだろうか。結構、でかい。


「アリス。これは?」

「わたしが作った、すごろくです」

「すごろく……?」


 『わたしが作った』という言葉で、俺は理解してしまった。

 ついに、始まるのだ。

 ハーレムゲームの第二戦が。


「はい! その名も、『みんな仲良くなろう! マスの指示には絶対服従だよ剣護さん? すごろく』です」

「なんだよ、その嫌な予感しかしないすごろくは……」


 こうして、『みんな仲良くなろう! マスの指示には絶対服従だよ剣護さん? すごろく』が開始されたのだ。 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも楽しんでいただけたなら幸いです


次回もよろしくお願いいたします!


次は、すごろく回です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ