冒険者
翌日、隣で寝ているダズさんとバルドさんのイビキで目が覚めると既に朝になっていた。
「ふぁー、眠い。」
このままテントの中にいると二度寝をしてしまいそうなので、テントの外に出て深呼吸をし、背伸びしてラジオ体操みたいにストレッチをして体を解す。
「スゥーハァー、スゥーハァー、んー!空気が美味い‼︎」
「おう!おはようヒロ!朝から元気だな‼︎」
「あ、ガッツさん、おはようございます。
ガッツさん早起きですね。」
「俺は夜間の見張りだからな!よく眠れたか?今日は一日中移動になるからな!朝はしっかり食っとけよ!」
考えてみたら、こんな魔物がいる世界で見張りの1人も用意せずに寝たら危ない事など明白だった。
ガッツさんが淹れてくれた紅茶みたいな飲み物を受取りながらそんな事を思う。
「はい、おかげさまで良く寝れました。
…あの、見張りって俺もやらなきゃいけなかったですよね?すいません。」
「何言ってんだ?しなくていいぞ、そんなもん!ヒロは装備無いじゃんか!」
それもそうだ、防具も着けてない、武器すら持っていない俺が見張りを出来るはずがない、でも見張りの間だけ誰かに武器を貸して貰えれば出来そうだ。
そんな事を考えていたら、他の皆も起床したみたいで女性用のテントからミーヤさんとカヤさん、男性用からダズさんとバルドさんが出てきて各々挨拶し始めた。
「みんなおっはよー!今日もいい天気だねー!」
「みんな、おはよう、ヒロは朝早いのね」
「皆!おはよう!飯食って片付けしたらアイリーンに出発するぞ‼︎」
「皆の衆おはようじゃ、ヒロは若いだけあって朝から元気みたいじゃの」
「皆さん、おはようございます。」
「おう!皆おはよう!腹減ったから飯作ろうぜ‼︎」
その後みんなで簡単な朝食を作る。
朝は干し肉を炙った物と保存用に作られた硬いパン、それに少し塩分濃いめのスープ、デザートにドライフルーツだ。
パンはスープにつけて柔らかくしてから食べるみたいだ、ドライフルーツはベリー系とリンゴみたいなやつだった。
俺は食事をしながら話を切り出す事にした。
「あのー、俺も出来れば夜間の見張りやりたいんですけど、武器とか貸してもらえませんか?」
ダズさんは難しい顔をしながらも答えてくれる。
「なんで見張りがやりたいんだ?少なくともアイリーンまでは俺たちが面倒を見るつもりだったんだが、理由があるなら聞くぞ。」
「はい、皆さんに助けられて、その上何もしないで街まで一緒に行くのが申し訳無くて、だから少しでも役に立ちたいんです。」
これは俺の本心だ。
まだ会ってから少ししか経っていないが、フレンドシップの皆が優しい人達なのくらい俺でもわかる。
だから皆にただついて行く行為が、なんか皆をいいように利用してるみたいで嫌なのだ。
「なんだ、そんな事か?それなら気にするな、態々危険な見張り役をする事はない。
俺たちが好きで助けたんだからな、それでも納得出来ないなら、街に着いてからお礼の事を考えても良いんじゃないか?」
「そーだよー、無理したらダメだよ?」
「昨日言ったじゃろ、余り無理をしていると直ぐにおっ死ぬぞと、街までは儂等が連れて行くから安心せい、なーに、この辺りの街道は余り強い魔物も出んし、何回も通った事のある道じゃから危険も少ない。ダズが言う通りそれでと納得いかんなら街に着いてから考える事じゃの」
ダズさん、ミーヤさん、バルドさんが優しい言葉をかけてくれる。
やっぱり皆優しい人だ、ダズさんやバルドさんが言う通り街に着いてからお礼の事を考えよう。
何より、これ以上話を続けても一向に進まないと思い、お言葉に甘えさせてもらう事にした。
「ありがとうございます。街に着いて自分で生活出来るようになったら必ずお礼します。」
「んーまぁ、どうしてもって言うなら止めはしないけど、もし私達に気を使っているなら、そんなの気にせず自分の好きなようにしなさいな、ダズが言ってたけれど、私達が勝手に助けたのだからお礼なんて必要ないわよ?」
「な!俺も見張りなんてやらなくて良いっていっただろ⁉︎しっかり五体満足で街まで連れて行ってやっから、大船に乗ったつもりでいな‼︎」
「はい!頼りにしてますので、街までよろしくお願いします!」
「皆飯は食い終わったか?少し聞いてくれ、アイリーンまで急げば今日の夕方には着ける。
ヒロがいるから安全第一で進むが、野営よりも街で休んだ方が安全だから今日中に着けるように移動する。
それじゃあ片付けをして出発だ!」
フレンドシップのメンバー+俺で朝食と野営に使った物を片付けている時に皆が触れただけで物が消えるのを見て驚いて訊いてみる。
「なんで触れた物が急にきえるんですか?」
俺の質問にガッツさんが答えてくれた。
「これはアイテムボックスってんだ!生き物以外なら何でも入るんだぜ!入れられる量が多くなればなるほど値段も高くなるから稼いでないと手に入らないぜ!」
「そんな物が有るんですね、俺もいつか欲しいです。」
俺の質問に答えてくれた後、皆が装備を着けて動きを確かめる様子を見ながら、今後の事を考える。
ダズさんが言うには今日中にアイリーンに着けるらしい、冒険者になろうと思っているので、それまでに冒険者について色々訊いておこうと思う。
その他には魔物の種類や特徴を訊いて出来るだけ覚えておく事にする。
どうやら準備が終わり出発するようだ、ダズさん、ガッツさん、バルドさんが前を歩き、それに俺とミーヤさん、カヤさんが付いて行く形だ、出発して10分くらい経ったところで話を切り出す。
「カヤさん、質問いいですか?」
「うん、いいわよ、移動中は暇だからなんでも訊いて、あ、スリーサイズは教えないわよ。」
どうやらこうして黙々と歩くのは暇で暇でしょうがないらしい、色々と訊きたい事があるので好都合だ。
「あ、いえ、スリーサイズは教えないで大丈夫です。
冒険者の事なんですけど、正確にはどんな事やってるんですか?」
「あら、釣れない返事ね、まぁいいわ、冒険者の事ね?。
まず冒険者達を統括、管理している組織、冒険者ギルドに登録すれば誰でもなれるわ。
冒険者達はそのギルドに来た依頼を受けて色々な事をするの、例えば多くなり過ぎた魔物や凶暴で人を襲う危険な魔物の討伐、危険な場所の調査や薬草採取、魔物から採れる素材の回収、果ては街の中の雑用まで冒険者ギルドでは様々な依頼を受け付けているわ。
ここまでは大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ説明進めるわね、ギルドの依頼はランクで分けられていて誰でも受けられる訳ではないわ。
ランクは上から順にS、A、B、C、D、E、F、G、Hね。
Sランクは世界に3人しか居ない人外レベルの人達よ。
Aランクは超一流の冒険者、世間一般ではAランクでも十分に人外レベルだわ。
Bランクは一流の冒険者って認識で差し支えないわね。
ここまでのS、A、Bランクは上位冒険者と言われていて、その理由はBランクとCランクの間には努力と才能、両方持っていないと越えられない壁があるからなの、高難易度の依頼は大体上位冒険者が受けるわね。
次にCランクは大抵の事は経験していてベテランって感じね、普通の人ならCランクが最終目標って人も多いわね。
Dランクは一人前の冒険者が少し経験を積んで成長した感じよ。
Eランクは下位から脱却したって感じ、この頃になるとやっと一人前と認められるようになるの、ここまでのC、D、Eランクは中位冒険者って言われていて、魔物の討伐が依頼の主体になってくるわ。
次にFランクは初級の魔物討伐を経験して冒険者としての下地を作っていく段階ね、ここで初めて武器を手にして戦う事になる子も多くて、たとえ魔物でも殺めるのが嫌で辞めていく子もいるわ。
Gランクは薬草採取や街の外での依頼を受け始めるの、ここで街周辺の地形などを覚えてFランクで経験する魔物討伐をスムーズに出来るように準備させてる感じね。
Hランクはギルド入りたての新人ね、右も左も分からずに何していいか困ってるイメージね、ここまでのF、G、Hランクは下位冒険者って言われていて、簡単な依頼をメインで受けてるわ。
ちょっと難しかったけど、上手く説明出来たかしら?」
首を傾げながら笑顔でカヤさんが訊いてきた。
「はい!分かりやすかったです!」
「それはなによりだわ。」
俺は先程から気になっていた事を訊いてみる。
「フレンドシップの皆の冒険者ランクは幾つなんですか?」
「それは私が教えてあげるよー!」
今日も元気ハツラツなミーヤさんが答えてくれた。
「ダズとバルドとカヤはAランク!私とガッツはBランクだよ!」
Aランクって事は、ダズさん、バルドさん、カヤさんは一般人から見たら人外に見える程強いのか?
「へぇー皆さん上位冒険者なんですね、それじゃあ凄く強いんですか?」
「ガッハッハッ‼︎まぁな!フレンドシップは世界でも少ないAランクパーティだ!まぁ普段の仕事量は中位冒険者と変わらんがな‼︎」
その後も色々教えて貰った。
途中に簡単な昼食を挟んで、アイリーンに向けて、また移動を開始した。
頭が混乱しないように冒険者について聴いた話を纏める事にする。
・冒険者ギルドは世界的な組織で各国に支部が有り、冒険者の情報は常に特殊な魔道具で共有されている。
・冒険者ギルドへの登録は無料でそれさえすれば誰でも冒険者になれる。
・ギルドで受けられる依頼は雑用から討伐まで全てランクで分けられている。
・一般的な依頼の他に指名依頼がある。
・自分より一つうえのランクの依頼まで受ける事が出来る。
・パーティの場合はパーティメンバーの平均がパーティのランクになる。
・基本的に報酬は高難易度なほど高い。
・魔物よりも高位で強い魔獣ってのがいる。
・S、A、Bが上位冒険者で高難易度の依頼を受けれる。
・C、D、Eが中位冒険者で一般的な依頼を受けれるようになる。
・F、G、Hが下位冒険者で殆どが戦闘初心者、一人前になるための準備段階。
・悪い事をするとギルドから強制除名も有り得る。
こんなふうに、頭の中で情報を整理していると、いつの間にか遠くのほうに街が見えて来た。
空を見上げると既に夕方だった。
遠目に見ても解るのは石で出来た頑丈そうな外壁があり、所々半円の筒状に出っ張っている。
あとは門から延びる馬車の列が見える。
「見えて来たぞ‼︎あれが目的地のアイリーンだ‼︎」
あと少しでたどり着ける街を見て俺はついつい早足になってしまう。
街に近づいていくと外壁と門がよく見える。
外壁は高さ5mは有るだろう、縦30cm横60cmに切り出した石で組み上げて有り厚さも1mはありそうだ。
今向かっている正面の門は両開きで、木材が縦に並んでいて等間隔で横向きに金属で補強されているみたいだ、縦は外壁と同じ5m、横5mで、上の方はアーチ状になっている。
街に入るために並んだ列の最後尾に着くと俺は外壁や門への感想をもらす。
「デッカいですねー」
「まぁ、これくらいデカくないと魔物は大丈夫でも魔獣の攻撃には耐えられんわい。
あれでも一時間も攻撃されたら保つか怪しいがの。」
前を歩いていたバルドさんが教えてくれる。
あんなに厚くて頑丈そうな壁なのにな、魔獣ってのはどんな化け物だよと思わずにはいられない。
バルドさんと話していると列は進み俺たちの番が来て門番の人が声をかけてきた。
「はいはーい、身分証を見せてなー、はい、冒険者ね、まぁフレンドシップは有名だから冒険者なのは知ってるけどね、あとそこの君、身分証出して。」
身分証なんか持ってない、俺がどうしていいか分からずに固まっていると、ダズさんが助けてくれる。
「あぁ!悪りぃ悪りぃ!こいつは魔物に襲われてた所を俺たちが助けたんだ。
どうやら荷物とかは魔物から逃げてる途中で落としてしまったみたいでな、仮身分証の発行を頼む!」
「そうだったんですか、君、大変だっただろう?この街にいれば魔物には襲われないから安心しなさい。
では、仮身分証の発行をしますので、名前、年齢、出身地を教えてくれるかな?」
「あ、その事についてなんだがこいつ記憶喪失みたいでな、自分の出身地とか覚えてないんだよ、名前は新しくつけたから大丈夫だし、年齢も見た目である程度わかる、性格は自分誰かを傷付けるような事はしないのは俺が保証するからなんとかならないか?」
「んー、まぁ、フレンドシップにはいつも世話になっていますし、今回だけ特別ですよ?あと仮身分証だといつまでも街にいれないから街に入ったら正式な身分証をつくってくださいね。」
「あぁ、わかった!街入ったら冒険者ギルドに行くからついでに冒険者登録してくる事にする!」
「じゃあ仮身分証は今度街を出る時に返してくださいね。」
「わかった!必ず返却するようにする。」
どうやら話がついたようだ。
「それじゃあ、改めて名前を教えてくれるかな?あと年齢はどうする?十代後半に見えるが。」
「はい、名前はヒロです。
年齢は17にしといてください。」
「わかった、よし!これが仮身分証だ!無くすなよ!じゃあ、アイリーンの街へようこそ!」
俺は皆の後ろについていって門をくぐり、中へ入っていく。
異世界で初めての街、アイリーン、この街でこれからどうなるのか考えてワクワクするのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日22時にもう一話更新予定です。