魔族との戦闘
奴の笑い声とダズさんの声が聞こえる中、俺の横に誰かが駆け寄って来る音が聞こえる。
既にボンヤリとしか見えない目で音のする方を見ると泣いてるミーヤさんの姿がボンヤリと見える。
直後俺の身体を暖かく包み込むような感覚がする。
徐々に薄れていた意識がハッキリし始める。
「もう!無茶したらダメだよ!本当に死んじゃうかと思ったんだから!」
目の前には泣きながら叱りつけてくるミーヤさんの姿。
どうやらミーヤさんが回復魔法をかけてくれたようだ。
「てめぇ!よくもヒロを!ぶっ殺してやるよ!」
急に怒鳴り声が聞こえて、声のする方に視線を移すとブチ切れたガッツさんが奴に斬りかかる所だった。
「あははっ、そんなに怒ってどうしたのさ?」
奴はガッツさんの攻撃を軽く躱しながら笑顔で話している。
「ヒロ!大丈夫か⁉︎」
真横から声がして振り向くとダズさんが俺を見下ろしていた。
「はい、助けてくれてありがとうございます。
もう大丈夫です。」
俺は立ち上がろうとするがフラフラして上手く立つことが出来ない。
「無理するな!血を流し過ぎたんだ!今は休んでろ!」
俺は素直にダズさんの言う事を聞く事にした。
「はい。」
ダズさんは俺の顔を見て頷くと奴の方へ歩いて行く。
「ガッハッハッ!俺がここまでブチ切れるのは久しぶりだ!」
ダズさんは笑った後にドスのきいた声で奴に話しかける。
「儂も久しぶりじゃな、ここまで腹が立ったのは。」
バルドさんも奴に向かって歩いて行く。
「私もそうねぇ。」
バルドさんの横にはカヤさんが歩いている。
「私はいつもガッツにブチ切れてるよ!」
俺の横にいたミーヤさんも皆とは違う言葉を口にして奴に向かって歩いて行く。
そこからは目で追うのがやっとの戦闘が始まった。
ガッツさんが手数で押して、カヤさんが弓矢、ミーヤさんが魔法で上手くフォローする。
奴が隙を見せればダズさんの大剣やバルドさんのバトルアックスが命を刈り取ろうと振るわれる。
フレンドシップは奴を押していた。
このまま行けば危なげなく勝利出来るだろう。
そこで奴の口から意外な言葉が飛び出す。
「これは、僕も本気で行かないと危ないかな。」
その言葉で俺とは遊び程度の戦闘だったのだと思い知った。
悔しいが今はまだ奴の方が俺よりも遥か高みにいる。
「ハッ!本気じゃねーてのか!負け惜しみ言ってんなよ!」
「じゃあ試してみるかい?」
ガッツさんが奴に向かって叫ぶと、奴は涼しそうな顔で言い放つ。
そこから一気に奴の雰囲気が…いや雰囲気だけじゃ無い、全てが変わった。
奴の身体中の筋肉が盛り上がり、角や爪は太く、肌色は毒々しい紫色へ変化した。
そこからは急な出来事に連携がずれたフレンドシップが逆に押され始めた。
「その程度かい?ほらほらもっと僕を楽しませてよ!」
「クソッ!何なんだよこいつは!化け物じゃねーのか⁉︎」
戦いながらガッツさんが悪態を吐く、するとバルドさんから答えが返ってきた。
「こやつは!魔族じゃな!なぜ魔族がこのような場所におるのじゃ!」
「なんですって⁉︎魔族なんてとうの昔に滅びたはずよ!」
バルドさんの言葉にカヤさんが反応する。
どうやら奴は魔族らしい、だがカヤさんの言葉でわかる通り俺もバナーさんとした勇者物語の話で魔族は滅んだと聞いた。
そこでダズさんが叫ぶ。
「今はこいつの正体はどうでもいい!戦闘に集中しろ!」
そこからは双方互角に戦っていた。
魔族はガッツさんの目にも留まらぬ斬撃を避け、カヤさんの放つ素早い矢を掴んで投げ返し、ミーヤさんの高威力の魔法は跳ね返し、ダズさんやバルドさんの重い一撃は受け止める。
これだけだとフレンドシップが不利に見えるが、魔族も真面な攻撃を出来ないでいる。
俺は加勢しようとするが未だに足に力が入らないし、魔法を放とうにも上手く集中出来ない。
いつまでも続くように感じた攻防も、フレンドシップのスタミナが減ってきた所為で徐々に魔族が押し始めている。
そんな状況なのに俺はただ見てる事しか出来ないでいる。
俺は必死に考える、加勢する方法を、只々必死に、そこで俺は自分の最高の攻撃手段を思い出す。
高威力の魔法でも無い、拳で粉砕する格闘術でも無い、俺の最高の攻撃手段、それはゴーレムだ。
俺は街の防衛に回しているゴーレムを各5体づつ、計15体呼び出す。
ゴーレムが此方に向かっている途中もフレンドシップは消耗し続けている。
早く、早く来い。
俺は念じる事しか出来ない。
その時街の外壁を越えてゴーレム達がやってくる。
俺はゴーレム達に魔族を攻撃する様に指示する。
「な、なんだこいつらは⁉︎ゴーレムなのか⁉︎」
流石の魔族もゴーレムには驚いているらしい。
見て分かるほど焦りが出ている。
「お前か‼︎」
魔族が此方を見ながら今までの口調と全く違う言葉を吐く。
俺はその、あまりにも強烈な殺気に思わず竦んでしまう。
「ヒロ!逃げろ!」
ガッツさんの叫び声が聞こえる。
魔族はフレンドシップとゴーレム達の攻撃を躱しながら此方に近づいて来る。
俺は恐怖に飲み込まれて何も考える事が出来ない。
それほどまでに魔族の殺気は濃密で強烈で、まるで生き物全てが死に絶えてしまうような殺気だった。
いつの間にか魔族が俺の目の前に立っている。
魔族は手を振り上げながら冷たい声音で言う。
「見逃してやろうと思ったが、お前は予想以上に厄介な男らしいからな。
ここで死んでもらう。」
「あ…あ」
俺は強がりを言うつもりが上手く口が動かない。
「最後の最後でみっともない男だ…死ね」
魔族の手が振り下ろされる瞬間、何かが俺の視線を遮る。
「ガッツ!」
ミーヤさんの声が聞こえる。
俺が視線を下に向けると、目の前には血の池に沈むガッツさんがいた。
そうか、ガッツさんが助けてくれたんだ。
俺が気づいた時には、また魔族が手を振り下ろす瞬間だった。
「邪魔が入ったね、改めて死んでもらうよ。」
俺は上の空だった意識を無理矢理手繰り寄せて、振り下ろされた魔族の手を自分の手をクロスさせてどうにか受け止める。
「貴様ぁぁぁ!死ねぇぇ!」
遠くでミーヤさんが魔法を放とうとしているがカヤさんがそれを止めている。
「ミーヤ!止めなさい!ヒロにまで当たってしまうわ!」
ミーヤさんはカヤさんの声が聞こえて無いかの様に魔法を放とうとしている。
俺の所為だ、俺が中途半端な覚悟で加勢したから、魔族の殺気に飲まれてしまった。
その結果、ガッツさんが目の前で倒れてる。
全て俺の、俺が偽物の覚悟で挑んだから、俺が…
俺が俯きながら後悔していると、ふとガッツさんの屍が視界に入る。
ガッツさんの背中はほんの少しだが、確かに上下して呼吸をしていた。
それを見た瞬間、俺は自分の身体に力が漲るのを確かに感じた。
まだ…まだ間に合う。
「うおぉぉぉぉ‼︎」
俺は気合を入れる為に叫びながら魔族を睨む。
いくら踏ん張っても力が入らなかったはずの足に力が入る。
確りと自分の足で立ち上がる。
魔族は元の軽い感じで言う。
「おや?そんなに睨んでどうしました?
お仲間が死んでからでは少々遅いのでは?」
その言い草にカチンと来るが今は無視する。
俺は自分に身体強化魔法をかける。
この魔法は最大で自分のステータスを2倍まで強化出来る。
だが魔力操作をLV5まで習得している俺は、その限界を超える事が出来る。
その効果は自分のステータスの最大10倍まで強化できる。
ただしノーリスクでは無い。
リスクは強化の倍数に応じてHPが消費し続ける事。
そんなリスクは無視して俺は身体強化魔法を最大の10倍まで使用する。
俺の身体が軋みながら悲鳴をあげる。
俺はそれすらも無視して魔族の腹部にパンチを繰り出す。
パンチは見事に命中して魔族を吹っ飛ばす。
それを見ている全員が唖然とする。
中でも一番驚愕しているのは魔族だ。
「なに?…お前は何者だ…」
「さぁな、自分でも分からねーよ。」
俺は身体に激痛が走る中、無理矢理余裕そうな笑みを浮かべながら魔族に言い返す。
「ミーヤさん!ガッツさんはまだ生きています!早く治療を‼︎」
「え⁉︎う、うん‼︎」
ミーヤさんはハッとしてガッツさんに駆け寄り回復魔法をかけ始める。
「さて、続きをしようか。」
俺は魔族に笑いかけながら距離を縮めて行く。
「フンッ!死にたいらしいな‼︎」
魔族も笑いながら此方に向かって歩いてくる。
2人の距離がお互いの間合いに入ったと同時に戦闘が開始される。
殴り殴られの、格闘術をフルで使った肉弾戦だ。
「さっきは急な強くなったから油断したけど今度はそうはいかないよ!」
「油断なんかしてくれなくても確りとぶっ殺してやるよ!」
2人で言い合いながらも戦闘は続く。
強がりを言ってはいるが正直分が悪い。
先程から俺が押されている。
そこで俺は相手を騙す事にした。
「俺一人との戦闘はお前が有利かもしれんが!俺一人で戦っている訳じゃねーんだぜ!」
魔族はハッとして此方を警戒しながらもフレンドシップの方を確認する。
そこには先程と変わらず立ち尽くすダズさん、バルドさん、カヤさんがいる。
「さっきから彼奴らは戦闘に入ってこないじゃないか…なに⁉︎」
俺は魔族がフレンドシップを見るように誘導したが実際の狙いはゴーレム達に魔族の動きを封じさせる事だ。
魔族は見事に引っかかった。
奴の手足は狼型のゴーレムに噛み付かれ、胴体は人型ゴーレムが羽交い締めにしていて魔族は身動きが出来ない状況だ。
このチャンスを逃すまいと、俺は魔族に駆け寄りながら短剣を抜く。
そのまま突きに体重を乗せつつ魔族の腹部を貫く。
「ガァァァ‼︎」
魔族は痛みに叫ぶがそこでは終わらず、俺は更に火魔法を短剣の刃の部分に発動させ魔族の身体を内側から焼いていく。
「グガァァァァァ‼︎‼︎」
俺は魔族の悲鳴を無視して、短剣を上方向に力を入れて魔族の身体を切り裂く。
声がしなくなり、確認すると魔族は絶命していた。
俺は短剣を鞘に戻し、急いでガッツさんに駆け寄る。
ミーヤさんが回復魔法を使っているのを確認してからガッツさんに話しかける。
「ガッツさん!ガッツさん起きてください!死んじゃダメです!目を開けてくださいよ‼︎」
ガッツさんの瞼が微かに動きゆっくりと目を開ける。
「ヒロ、うるせぇよ、そんな大声出さなくても聞こえてるよ。」
「ガッツさん!よかった!」
ガッツさんは目覚めて直ぐに悪態を吐く、俺の声がよほど五月蝿かったのだろう。
フレンドシップの皆がガッツさんの周りに集まって笑いあう。
周りを見るといつの間にか魔物の群も討伐されており、他の冒険者も一息ついていた。
やっと終わったんだ。
そう思うとドッと疲れが出てくる。
フレンドシップの皆もクタクタの様だ。
「油断したね……」
「ヒロ!」
死んだはずの奴の声が聞こえた次の瞬間、魔族の屍に一番近かったフレンドシップの皆の胸を黒い触手の様な物が貫いていた。
ダズさんの胸には2本の触手が貫通している。
俺に覆いかぶさる様にして庇ってくれたのだ。
痛みを感じて視線を下に向けると、触手はダズさんの胸を貫いた後に俺の腹に突き刺さっていた。
刺さっている触手を視線で辿っていくと魔族の身体から伸びているのが分かる。
なんでだ、奴は死んだはずなのに、なぜまだ生きているんだ。
「まさか、ここまで苦戦するとは思わなかったよ。
僕の方も限界だから今回は大人しく帰らせてもらおう。
よかったね、街を守る事が出来てさ。」
魔族は満身創痍で立ち上がり懐から一つの魔玉を取り出し、地面に叩きつけて割る。
すると地面に魔法陣の様な物が広がり、次の瞬間奴はどこかに消えてしまった。
街を守る?フレンドシップの皆が死んだら意味無いじゃないか。
俺は薄れて行く意識の中で自分の不甲斐無さを恨んだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
日々ブックマーク数が増えるのを糧に頑張っております。
今回の話は如何でしたでしょうか?
なにか不満な点などございましたら感想などで訊いてください。
出来る限り返信いたします。
次回は9/18の21時に更新予定です。
追記
僕の予想通り、今回の話でブックマーク数が減りました。
ブックマーク数が30を越えて嬉しかったのに残念です(T ^ T)
更に追記
後書きを追加してからしばらくしてブックマークがまた30を超えました!この物語に期待してくれて凄く嬉しいです!ありがとうございます‼︎




