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あやかし荘  作者: おーとまた
1章 『迷い路地』
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第四話『一反もめん』


「助けようとした女の子を堕とそうとしてどうするのよ馬鹿火男」

「…仕方ねぇだろ。魂の波長が母さんにそっくりだったんだから」



所変わってお姉さんの部屋。

頭にたんこぶを拵えたお兄さんが、如何にも不機嫌ですと言わんばかりに眉間を寄せ、抱えたクッションに顔を埋めていた。

あの後「大丈夫!?」と両肩を掴み揺さぶるお姉さんをやっとの事で宥めた所、廊下じゃ寒いから中で話しましょうと部屋まで案内されたのだ。

片手で服を掴まれ引き摺られていたお兄さんには静かに手を合わせておいた。


お姉さん曰く、先程の意識の揺らぎはお兄さんの力によるもので、危うく彼方側…人成らざるモノに堕とされる所だったらしい。

お兄さんも無意識だったのか、申し訳なさそうに頭を下げてくれた。



「さっきは悪かった、改めて自己紹介しとくな。俺の名前は紅月(こうづき)。さっき話したから何となく分かると思うが…カグツチの力を授かって産まれてきちまった人間モドキだな」



先程のシリアスな出来事が嘘かのようにけろりと話したお兄さんは、いつの間にか出されていたお茶をずず…と啜っている。

内容が内容だけに非常に気まずいですお兄さん。



「あ…えっと、よろしくお願いします…」

「半人間、半神様って中途半端よねぇ…。

私も自己紹介しとくわね。名前は神喇(かむら)。一反もめんは分かるかしら?」



さらりと煽るお姉さんもお姉さんですよね。

殺気十分にメンチ切ってるお兄さんが般若のようなので、是非ともやめて頂きたい所です。

こくり、と頷けば、お姉さんは嬉しそうに笑ってお菓子を勧めてくれた。饅頭美味しい。



「私は一反もめんなの。妖怪だけれど、人間を襲う奴はこの馬鹿以外ここには居ないから安心して頂戴ね」

「ンだコラやんのか阿呆タオル」

「上等じゃない。返り討ちにしてあげるわ馬鹿火男」

「あああッあの!ここってなんなんですか…!?」



バチバチと音が聞こえそうな程睨み合う紅月さんと神喇さんに慌てて話題を振る。

多分この二人は頗る仲が悪い。放っておくと喧嘩が始まる事はまず間違いない。

案の定私がいる事すら忘れていたような顔できょとんと此方を見た二人は、ごめんごめんと手の上にあった炎と布を消した。



「此処はね、人の世と妖の世の狭間。

私たち人成らざるモノ達が住んでいる……そうね、アパートみたいなものかしら?」

「どっちかっつーとシェアハウスみたいになってっけどな」

「確かに。皆部屋に居ないものね。因みに、いつもは管理人の七緒さんが人間が入らないように結界を張ってるんだけど…」



最近多いのよね、お嬢ちゃんみたいに入っちゃう子。と頬に手を添えながら溜め息を吐く神喇さん。

思い当たる節は…ある。

二人して何でだろう、と首を傾げる姿にあの、と声をかけた。



「多分、噂が原因かと…」

「「ウワサ?」」

「はい。えっと…最近この街で流行りの話題なんですけど、迷い路地って噂で、それを検証したい友人と来たんです…」



こんな異空間でも電波はあるようでほっとしながら、スマホで検索した例の掲示板を見せる。

一連の流れを読んだ二人は盛大な溜め息を吐いて項垂れてしまった。



「こんな噂流した馬鹿は誰よ、もう…」

「俺はクソニートが犯人に一票…」

「取り合えずこの事は七緒さんに報告しておくとして……お嬢ちゃん、もうこんな危ないことはしちゃ駄目よ。今回だって危うく死ぬところだったんだから」



ぽふぽふと頭を撫でる手はとても優しい。

本気で心配してくれているのだと少し目が潤んでしまった。

頬杖をつきながら暫く此方を眺めていた紅月さんは、そうだ。と立ち上がったかと思えば、徐に壁に手をつき大きな声で話し出した。



「おらクソニート!テメェ何か知ってんだろ、出てこい!」

「……あれは何をしてるんですか?」

「家鳴を呼び出してるのよ」

「家鳴?」

「この家自体を物理的に管理してる自他共に認めるニートね」

「ニート」



お嬢ちゃんは気にしなくて良いわよ、お団子も食べる?なんていう神喇さんの誘惑に負けながらお団子を頬張っていると、私のすぐ後ろからはぁ…と溜め息が聞こえてきた。

…待って、後ろって、壁……



「なあなあ、なんで旦那あんなに怒ってるワケ?俺なんかした?」



目。

目だ。

後ろの壁に目がある…ってなんてデジャヴ!!

いくら非現実的な出来事を見てきて耐性はついたとはいえすっかり気を抜いていた私は、またしても声にならない悲鳴を上げてしまった。



「ちょっとじゅった、この子が怯えるから普通に出てきなさいよ」

「この子?……ああーッ!こんな所に居たの、アンタ!ちょっと七緒さんに報告しに行ってる間に居なくなるからすっごい探したんだけど!」



一度ぱちりと目を閉じたかと思えば、煙と共に現れたのは少し猫背のお兄さんだった。

紅月さんのように背が高いわけではないけれど、座ってるおかげで見下ろされる形になって少し怖い気もする。

ちょこんと左側にだけ結ばれた三つ編みは可愛い。けど、待って。着ているTシャツが気になりすぎて何も話が入ってこない。

あれは…某魔法少女アニメのマスコットキャラクターではないか。一時幼馴染みがハマっていたっけなぁ…。



「おいコラクソニート」

「ゲッ、紅月サン……」

「全部説明しろ。分かってんな?」

「お手柔らかにオナシャス…」



私がTシャツに気を取られてる間に、家鳴さんの背後に回っていた紅月さんがガシッと家鳴さんの頭を鷲掴み、強制的に座らせていた。

長くなりそうだから、と家鳴さん用のお茶を淹れに席を立った神喇さんに着いていきたかったなぁ…と現実逃避をしながら、凍りそうな程冷えきった空気の気まずさに、私はずずっとお茶を飲んだのでした。

……冷めてる。





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