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あやかし荘  作者: おーとまた
1章 『迷い路地』
2/6

第一話『日本家屋』


「さてさて、本当に迷い路地はあるかなー!」

「楽しそうで何より…」



午後5時より少し前。

十分な夕方であるこの時間も、夏特有の日の長さからまだ昼間のような明るさだ。

この明るさなら何かあっても大丈夫。…いや、何も無いのが一番なのだけれど。


半田舎町の四ツ谷町で最も活気がある四ツ谷南駅前だけど、一度裏路地へと足を踏み入れれば、人一人すら居ないような閑散とした空間が広がっている。

あまりの人気の無さに『裏路地に入ると神隠しにあう』だなんて話すらあるようで、迷い路地のようなオカルト染みた噂話が立つのも頷ける。


本当に人の姿は何処にも見えず、不気味な肌寒さに背中がざわついた。



「…ねぇ、律。帰ろうよ」

「んー…おっかしいな、この辺りなんだけど…」



携帯片手にきょろきょろと辺りを見回す律は大体の場所も把握しているらしい。

首を傾げながらあーでもない、こーでもない、と足を路地の奥へ奥へと進めていく。



「律、もう」

「あ…れ、?」



帰ろう、と再度かけようとした声は律の驚いた声に遮られる。

どうかしたのかと私も顔を上げれば、目に飛び込んできたのはとても綺麗な日本家屋だった。

決して小さくはない、大きな二階建ての家屋。

側の立て札には流れる様な綺麗な文字で『一期一会』と書かれている。



「ねぇ…律、此処って」



どこまでも綺麗な風景は見惚れるくらいなのに、何故かとても嫌な、身体中を這い回る悪寒に目眩がする。

ぐらり、揺れる身体ですがるように律に手を伸ばしたーーー筈なのに、何故か私の手は空虚を掴んだ。



「……………え?」



律が、いない。


さっきまで隣にいた筈なのに。

そこまで狭くないが開けたこの辺りなら、隠れてもすぐに見つかるだろう。

でも、音すら立てずに律の姿は消えてしまった。

…何処に?


不意に頭を過る掲示板の文字。


“戻れ”

“モドレ”




「………いや、いや…嫌嫌嫌ッ」



耳を塞いでしゃがみこむ。

何も見てない、何も聞いてない、何も言ってない



「これは、ぜんぶ、ゆめだ」




そう、呟いた瞬間虫の声が止んだ


…何?

涙で歪む視界で、恐る恐る辺りを見回す。


昼間のような明るさが、いつの間にか夕暮れの赤へと変わっていたようだ。そんなに、長く此処に居ただろうか。

耳を塞いでる筈なのに、何処からかリン、リン、と鈴の音が聞こえた気がした。



「…あれ?こんな所でどうしたのお嬢さん」





不意に聴こえた優しくも凛としたその声が、私にはとてつもなく怖かった






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