中学生4
俺の母が、俺の進路について話をするようになったのは、俺が中学3年生になった時だった。
それと同時に、親父が小さなクリニックを開業した。
開業と同時に、友達の間で親父のクリニックの話題がよくでるようになった。
話の内容は、俺のじいちゃんが、クリニックに通ってるぜ、だとか、そんなものだった。
けれども、最後に大体必ず、お前があそこを継ぐの?という質問があった。
俺の大嫌いな、俺を決めつけるセリフ。
再び同じクラスになった田中も、同じ質問を何回も繰り返した。
話のネタがなかったわけじゃない。
誰と誰が付き合い始めたとか、あのアイドルかわいいだとか、話すネタはたくさんあった。
けれども、中3の俺たちにとって、関心の大部分は受験に向いてしまっていた。
この時、家はバタバタしていて、家族はいつもピリピリしていた。
開業したばかりのクリニックで、両親が恐ろしく忙しかったせいもある。
だが、家族の中で受験生が2人もいたからもあった。
1人は俺。もう1人は小学校6年生の妹だった。
俺の通っていた中学は、それほど荒れていなかったが、
それでもたびたび、たばこの吸い殻が見つかった、校舎に落書きをするやつがいた、とかで授業は中断した。
母はそういう話を聞くたびに顔をしかめていた。
そして妹と弟に、中学は私立に行ってみない?とたびたび言うようになった。
俺はよほど信頼されていたのか、それともただ放置されていたのか、両親が進学先について何か言ってくることはなかった。
俺の書いた無難な志望校調査票についても、ちらっと見ただけだった。
俺も進学先について両親に何か言うことはなかった。
そもそも両親に何か相談するということ自体皆無だった。
俺は相変わらず、どこの高校に行きたいという希望はなかった。
希望はないのに、塾と学校に行き、言われるままにひたすら勉強していた。
夏休み前だったか、春休み終わりだったか、俺の塾では先生と俺とでの二者面談があった。
俺は中1での説明会参加以降、塾の先生にやんわりとだが、知葉高には行きたくないと伝えていた。
けれども、そうすると県内には同じレベルの私立が一校しかなかった。
少しレベルを下げると、私立で2校。
公立に行きたいなら、さらに下げないといけなかった。
だが俺にはそれでよかった。両親が私立に行ってもいいと言うなら、私立を3校受ければいいと思っていた。
公立は受かったら絶対に行かなくてはならなかった。だから受ける気は全くなかった。
両親は、妹を私立中学に行かせたいくらいなのだから、俺が私立に行くのを認めないわけはないと考えていた。
塾の先生には、私立志望で、3つ受けます、と伝えるつもりで二者面談に臨んでいた。
けれども、俺の考えを先生に言う前に、俺の予想しない事態が起こった。
「清水君は、せっかくだから都内の高校を受けてみない?」
「…え?」
都内に進学するなんてことは全く考えていなかった。周りにそんな奴はいなかったし、
都内に行くなんて、大人くらいだと思っていた。
なぜわざわざ遠くに行くんだ?
面談中の俺は、何度も何度も、その疑問が頭を回っていた。
「県内だと、染谷幕張学園があるけれど、あそこは理系にそんなに強くないんだ。お医者さんになるなら、理系に強い学校がいいよ。
せっかく学力があるなら、都内を受けるのも選択肢の1つだと思うよ。」
俺はそこで初めて理系という言葉を聞いたと思う。(ちなみに俺は医者が理系だということも知らなかった。)