小学生3
俺の両親は、俺が高校生の文系か、理系かの選択する時まで、
将来の話を俺とすることはなかったと思う。
軽い世間話程度ならあったかもしれないが。
勉強しろって言われたことも皆無に近い。
放置されていたとは思わないが、長男の俺と、妹、弟への扱いが違うんじゃないかと何度も思った。
別に両親と仲が悪かったわけじゃない。長期休みのたびに1泊2日くらいで家族旅行をしていた。
でも実際は母は看護師、父は医者で忙しすぎたんだと思う。
母が家に帰ってくるのが遅かったから、習い事は他の友達よりも多くしていた。
習字にに水泳、ピアノ、バレエ、塾。どれも嫌いじゃなかった。けれど、夢中になれるものはなかった。
俺の小学校の卒業式では、1人1人卒業証書を受け取って、そのあと卒業証書を胸に抱いて、壇上で将来の夢を発表していた。
俺はなんて言ったか覚えていない。公の場だったから、おそらく何かの職業であるのは間違いない。
俺が小学校の卒業式で覚えているのは、2人の同級生の言葉だった。
1人は「将来は水泳でオリンピックに出て、金メダルを取りたいです。」
もう1人は「バスケットボールでプロになって活躍することです。」
俺はこの2人の顔をまったく覚えていない。けれどもこの言葉は覚えている。
鮮烈だった。衝撃を受けた。俺のように適当に言うこともできたはずなのに、
その言葉は、その声音は本気さを俺に伝えた。
水泳で金メダル取りたいって言ったやつは、市内の大会でいつも優勝していた。
バスケのプロになりたいって言ったやつは、学校中にバスケのうまいやつってことで知られていた。
すげーよな。プロとか目指すなら、小学生とか、もっと小さいころから練習するんだろう?
有名なプロ野球選手は毎日素振りをしていたって言うし。
なんで目指せるんだろうな?他にもスポーツならたくさんあるじゃないか。
スポーツに限った事じゃない。世の中にはたくさんのプロがあるじゃないか。
棋士もそうだろ?囲碁だってチェスだってある。
なのになんで、たった1つに決められるんだ?環境?運命?
もしそうなら、俺には運命がなかったってことか?まぁ、それなら、仕方ないか。