小学生1
俺が一番嫌いだった質問は、将来何になるの?だった。
大概、俺は答えられず、なんて答えようかと考えていると、
質問してきた相手は決まって
医者でしょ?お父さんはお医者さんだもんね、だった。
なんで決めつけるんだ?ってむかついたけど、
他に答えもなかったから、いつもそうだよって俺は答えてた。
本当に本当に俺はこの決めつけた答えが嫌だった。
親が医者だからって、子供も医者になるのか?そんなルールないだろうが。
質問するやつらにもイラついたが、そのイライラをさらに増したのは、
俺が他の答えを持っていなかったからだった。
俺がぼんやりと、「夢」について考えるようになったのは、
将来の夢を作文にしろっていう宿題が出てからだった。
一応記憶では小学校1年くらいだったはず。多分。
で、なんでこんなことを覚えているかというと、
将来の夢が思いつかず、真剣に悩んだからだった。
俺は(自分でいうのもなんだが…)真面目。宿題なんかは学校から帰ってきたら
さっさと済ませるタイプ。夏休みの宿題で、終わらずに焦ったことは皆無。
そんなタイプだから、作文もさっさとやろうとしたわけだ。
作文は楽勝な宿題の部類だった。(今もつらつらと文章を書いているわけだし、原稿用紙2,3枚なんて楽勝。)
その俺の手がまったく進まなかった…と記憶している。
その宿題は、たしか、学校参観日にむけて担任の先生が出したものだった。
作文を書く時間は通常の宿題より多くあった。
でも本当に書けなかった…
で、悩んだ末に、学校の先生って書いたような気がする。
書いた内容よりも、悩んだことが記憶に強く残っている。
それと同時にすごい違和感があった。
俺の夢は「学校の先生」じゃなかった。
けれど、じゃあ本当の夢は?って聞かれると、残念ながら
俺の頭にはなんの職業もなかった。
ただここで、医者って書かなかったのは、多分
周りのやつの決めつけた答えを否定したかったからだったと思う。
それ以降も、小学校の卒業文集の作文には、
将来の夢に医者以外の職業を書いた。
別に親父が医者であることを嫌っていたわけじゃない。
ただ周りの決めつけがどうにも耐えられなかった。