004
俺は次にどう切り出そうか考えている。
ここが何所だか分からないし、彼女………なんていえばいいか分からないけど彼女と俺の様な普通の人間………人族というのかなこれはステータスカードにそう書いてあったからあっていると思うけど、それとの関係性も分からない。
俺を見る目が警戒心に染まっていないのは、助けたからなのか元々さっきのようなやつはまれで関係は良好なのかそれとも真逆なのか………
真逆なら多少なりとも警戒は解かないか……これは希望的観測か?
俺は最初の言葉を言い終えた。
その直後に再び意識を加速させて違和感のない言葉を探そうとする。
しかし、この状態の時点で違和感がないなど無理ではないかと思えて来る。
俺は最終的に誤魔化そうとしてもそれをする最低限の知識もないので、正直に何も分からないことにしておくべきだろうか?
まあ、彼女から聞けない状態になったとしても最悪は今延びている連中から聞き出せばいいか……断片的な事しか聞いてないが、人を売ろうとしていたやつらだ。
ちょっと手荒なことをするとしてもそこまで抵抗はないな。
俺はそう結論づけた。
失敗したとしても次善案はあることだから気楽にいくか。
「ねぇ、君ってこのあたりに住んでる子だよね?」
「あ、はい。そうです」
「よく分からない内に気付いたらこんなところにいたんだ。よかったらそこまで案内してくれないかな?」
「道に迷っていたということですか?」
「まあ、そういうことになるかな……」
少し違うけどそう解釈してくれるのならそういうことでいいかな。
「ところで何で君はこの人たちに追われていたのかな?」
「ええと………」
「いいにくいことだったかな?」
「お母さんが怪我をしてしまったので森に薬草を取りに来たんです。薬草を取り終えて気を抜いたところで彼らに見つかってしまいまして……」
俺はそれを聞き終えたが、薬草なんて持っているようには見えなかったので不思議そうにしていると、少女が手のひらを出すとそこに一枚のカードが現れた。
それは少し前にクノと名乗った神にわたされたステータスカードと同じものだと思う。
驚いたが俺は何でもないふうを装ってみている。
強い反応を示すと怪しまれる可能性がある。
「これです」
そういうとカードから少女の手に収まるくらいの草が現れた。
俺はこれには驚いてしまった。
「あ、もしかしてお兄さんも私が森の奥にいくのが信じられなかったんですか。力は弱いですが見つからないように動くのは得意なんですよ」
「え、別にそういうつもりはないけど」
俺が驚いているのは、ステータスカードにそんな使い方ができたのだということと、そこから出された草が何やら光っているように見えたからだ。
「本当ですか………村のみんなも外にいくのは危険だって言うんですよ。ですから、柵を跳び越えてこっそり出て来たんですよね」
………実際危険だったのではないだろうか、明らかに危険そうな男たちに追われていたのだし……思い出さない様にしているだけか?
それなら指摘する必要もないか。
というか、それは本当にコッソリなのだろうか?
それとステータスカードにそんなことができると知れたのは収穫だったな。
「ところでこの男たちはどうする?」
「ええと、今、村に移動商店さんが来ているので、そこの人に頼んで大きい町に運んでもらって売るのはどうでしょう?犯罪者なら合法で売れると聞いたことがあります」
少女はそういいながらステータスカードから長いロープを取り出して俺にわたした。
何でそんなものを持っているか、少し気になることだけど……まあ、高いところにのぼる為に使うのだろう。
「へぇ、移動商店か」
俺は考えを顔に出さないように返事をしながら男の手足を縛っていく。
その人に頼めば近くの町に行けるかな?
「あれ、でも、移動商店なんかが来てるのなら、そこから薬を買えばよかったんじゃないの?」
「薬って治療薬のことですか?高すぎて買えませんよ。だから、その材料を取って来て村で〈調薬〉ができる人に頼むんです」
ふむ、傷の大きさは分からないが、怪我の治りを早くする為のものはあるのか。
「こいつらを売ったとするとそれでどれくらい買える?」
俺は気絶している男たちを指さしながらいった。
自分でいっておいてなんだけどこういって大丈夫だったか?
「そうですね………犯罪奴隷ですから一人金貨一枚くらいになると思います。
治療薬は一本銀板一枚ですから金貨四枚で四十本くらいは買えるのではないでしょうか?」
説明が好きなのだろうか?
俺の都合がいいくらい細かいことを教えてくれている気がする。
そう思いながら俺は最後に一人を縛り終えた。
「あ、俺の自己紹介が遅れたね、俺の名前はハヤテ、よろしくね。それじゃあ、君の村までの案内お願いね」
一段落付いたところで俺はすっかり忘れていた自己紹介をした。
「すいませんすっかり忘れていました私の名前はリリといいますこちらこそよろしくお願いします。でも、一人で大丈夫ですか?」
俺の自己紹介を聞いて少女……リリも忘れていたようでハッとした様子で自分の名前を言った。
そして四人全員をひこうとしている俺の身体を見てそういってきた。
そんなにひ弱そうに見えるのだろうか……
「大丈夫だよ」
軽く引っ張ってみたところ、腕の力だけでもある程度動かすことができたので、自身の体重を使って動かせば余裕だろう。
そして腕力も相当上がっていることが自覚できた。
そして不思議なことに、その力を持て余すことなく制御できていることに対し首を傾げた。
とはいえ、急に腕力が上がるなんてことは経験した事がないので何ともいえないが………
俺は少女の後をたどって歩き出した。
「わ、本当ですね」
しばらく歩くと俺のほうを見てそういってきた。
「見かけによらず結構力持ちですね」
「そんなに貧弱そうに見える?」
自覚はしているが自分はかなり細いのでつい反応してしまう。
「そうですね……パッと見た感じならガラの悪い人なら絡んでくるくらいではないでしょうか?」
「そう………」
ということは俺は絡まれやすいやつとして見られるのか、それは少々過ごしにくいだろうな。
「お気に障りましたか?」
「自覚はしていたけどはっきり言われると少しね……」
笑いながらそう返した。
特に自覚していることを強調しながらいった。
恐る恐る聞いてきたリリは、猫のような耳がシュンとしてちょっとかわいかった。
その後数十分間ほど歩きリリの村についた。
村の周りには二メートル半ほどの高さの柵がぐるりと囲っていた。
少し村から出ると人攫いのようなやつが出るような場所なのだから当然なのかもしれない。
村の入り口の扉に近づいた。
「ガロおじさんただいま~」
手を振りながら、門番をしているのであろうレザーアーマーを着た顔をまるで虎のような毛でおおわれいてる人物に話し掛けた。
「リリちゃんどこへいっていたのかな?
………ところでそっちの人は?」
リリの前の所為か笑っているが少々というよりも、かなり警戒してるような声色で俺のほうへ視線を向けてきた。
若干、持っている槍を握っている手に力が入っているように見える。
向けられる視線とその手を見て俺も何時でも動けるように相手を見る。
「ちょっと待って、ガロおじさんハヤテさんには、ハヤテさんがひいてる人たちを襲われている所を助けてもらったんだよ」
リリがそういうとガロと呼ばれた男は、完全には警戒をといたとはいえないが俺に対する敵意は少し小さくなった。
「そうかすまなかった。リリを助けてくれてありがとう」
そう俺にお礼をいってきた。
ここから見える感じでもそこまで大きな村でないことが分かる。
子供を大事にしているのだろう。
「リリちゃんお母さんは心配しているから早く帰りなさい。颯くんといったかな君は村長の所へ連れていきたいのだがいいかな?」
「ええ、大丈夫です」
「では、君が引きずってきた者たちを拘束しなおした方が良さそうだろう。まずは、この村の牢へ行くのでついてきなさい」
リリには随分と和やかい声で対応しているが、俺に話し掛ける時には随分と高圧的な印象を受ける。
「リリちゃん案内ありがとう助かったよ」
「いえ、助けられたのはこっちです。よかったら村にいる間に家にきて下さい」
「それじゃあ、お邪魔させてもらうよ」
「はい、まってますね」
リリはそういってお辞儀した後、自分の家の方向へ向かって走り出した。
そして姿が見えなくなったところで俺は、ガロの方へ振り返った。
俺は内心で罪悪感を思えた。
これがこの村全体の雰囲気だとはリリを見れば思え無かったが、もしリリが例外であるのなら自分の印象を良くしようとわざとあのような話題を振った。
「おい、聞いていただろうまずは牢にいってから村長の所にいく。誰か先の村長の所へいっていくことを伝えてくれ」
そう門の横にある小屋に向かっていった。
返事が返って来た。
一人の男がおそらく村長の家がある方へ走っていった。
それを見るとガロは無言のまま俺に向かって来いと視線で促した。
俺は歩きながら村の規模を確認しようと周囲を見た。
できる限り自然にきょろきょろとすることもチラ見をするようなこともせず、むしろ堂々とそして暇なので景色を見ている感じに見えるように。
ざっと見た感じでは多分百人ちょっとくらいの小さな村だ。
村の端には川が見えた。
おそらくあれが生活用水だろう。
川の向こう岸にも柵が作られており、柵の切れ目にはガロと同じ様な見張りがいた。
「それで何故お前はこの森にいた?」
俺が見張りをしている者たちを注視しようとした時、ガロから声をかけられた。
あまりにもタイミングが良かったので内心でドキッとした。
「分かりません」
流石に俺を警戒をしている相手に異世界から召喚されてきたとはいえなかった。
とはいえ、これも同レベルな気もするがこれは事実だ。
こちらを見透かそうという目で見てきて、さらには耳でも嘘をついているか判断をしようとしているのだろう。
「それはどういうことだ?」
「いった通りです。気付いたらあの森にいて自分がなぜあそこにいたか、何も分からないのです。ですので、森を出る為に森を探索していたら、悲鳴が聞こえかけつければリリがこいつらに襲われていたので助けに入り、大きな町へ行くためにまずこの村に案内して貰いました」
「そうか………リリがいったのだろうが、移動商店の馬車で町までいくつもりだったのか?」
「ええ、こいつらを連れてきたのは、町にいけば売ればお金になるとリリから聞いたので、今は恥ずかしながら完全に無一文なので……」
ガロは少し考える様な素振りを見せた。
「リリからはお前に警戒は無いに等しかった。完全に信じるわけではないが、受けた恩を返すのが我ら亜人、獣人の掟だ」
「………」
俺はその発言に少々人族に対して良くない感情があることを感じ取った。
だが、これは匂わせている程度であるから、反応しない方が得策だろう。
「ほら、ついたぞ。ここだ」
しばらく歩くと村の牢屋といっていた場所についた。
ハッキリといえば、唯の一軒家でしかもほとんど使われている形跡がない。
こういう小さい村では、こういう所へ入られるようなことをするような者はいないのだろう。
小さいコミュニティ内では、一度外れてしまうと戻ることができないのがほとんどだ。
俺はその小屋に男たちを入れ、そこにおいてあったロープを使ってより厳重に縛った。
ガロが俺の縛り方がゆるくないかを確認して小屋から出た。
とはいえ男たちは怪我までしているので本当に簡易的な確認だった。
「それでは村長の家に向かう」
そういってガロは歩きだした。
連れて来られたのは周りのものと比較して二周りくらい大きな家だった。
先程、連絡に走っていった男が扉の前にいた。
ガロを見て会釈すると扉を開けて中にいるように促した。
ガロに案内され村長がいるという客室の中へ入った。
動物の毛皮を正方形にしてそのまま使っている大きな絨毯にソファーとダイニングテーブルのような机が置いてあった。
壁にはいくつもの動物のはく製がつけられていた。
絨毯に使われているものとはく製に使われているものの中には、元の世界では見たことのないような色や模様であって、さらに見たことのないような特徴があった。
一番目をひかれるのは絨毯であった。
何故かは分からないが、光っているように見える。
瞬きをした時にもその光のようなものは見えた。
「ほう、見る目があるな」
俺がじっと見ているとガロがそう話しかけて来た。
顔上げてガロの方を見ると得意そうに説明してくれた。
「こいつは村長が討伐した最大の大きさの魔物で元々この森の主と呼ばれていたやつだ」
それを聞いてふと思い浮かんだことがあった。
「もしかしてここに飾ってあるものは全て今の村長が討伐したもの?」
「おお、良く分かったな」
「見たところ全て新しい感じがしたので」
「まあ、こういう所にある村っていうのは強いやつから村長は選ばれる。外敵も多いからそういうやつでなければやっていけない」
ガロの口調からは村長への尊敬が感じられた。
これは相手をたてた方がいいと思った。
ソファーに座り少し待つと扉が開いた。
隣に居たガロは村長の座るだろう対面のソファーの後ろへ移った。
中に入ってきたのは、身長が二メートルを超えるガロと同じ様な獣人でいいのだろうか?だった。
身長が高いとその分細く見えるのだが彼はそんなことは無かった。
しっかりとバランスの取れた戦う為の筋肉がついてる。
この重量のありそうな身体で扉を開ける寸前まで足音が聞こえなかったし、足から伝わる振動は無いに等しかったことにも驚いた。
つまり、高いレベルで身体を操作できているということだろう。
まあ、猫科って言う感じだからしなくて当然かという思いもあるが、リリからはしっかりと感じだしそこら辺は本人の能力次第っていうことだろう。
「お前さんがリリを助けたっていうハヤテか?俺はグエンという。今日は俺の村のものを助けて貰って感謝する」
どうやらここに来るのに少し時間が掛かったのは、先にいかせたやつから俺のことを多少聞いていたのだろう。
それにしても、毛におおわれていても分かるくらいにかっと笑って俺の前に手を出した。
「はい、そうです。ハヤテといいます。目の前で襲われていたら助けるでしょう?それにあの森から出る案内をしてもらおうという下心もありましたし」
「面白いやつだな」
俺の言葉を聞きそういった後、グエンは大笑いをした。
俺とグエンはお互いに握手をし、歩く姿をほんの少しだが見たことからお互いの能力をある程度予想していた。
「所でお前さんは移動商店のやつに頼んで街に行くっていうことでいいのか?」
「はい。確認しなければならないことがあるので」
「そうか。だが、移動商店のやつがこの村をたつのは二日後だ」
「……………」
「そんな顔をするな。確認したいことというのはお前さんにとってよっぽどか」
さてどうするか、街の方角を聞いて走るか………いや、それをしても動いていると錯覚できるだけで非効率だ。
自己満足をするくらいなら、この世界の特有の法則が俺に適用されて、身体能力が上がっているようだから他にできることを探ってみる方がいいか?
いや、それも、今動かないことに対するいい訳か………
俺は考えをまとめられずにいた。
何方を選ぶにしても、最終的に堂々巡りになってしまうからだ。
「この村は森の中を通るから土地勘の無いものが動くのは無理だと思うぞ」
グエンはまるで俺の思考を読んだかのような、そして絶妙なタイミングでそういってきた。
「そうですか………」
俺の考えはとどまるという方へ傾いているが、その選択は正しいのだろうかと訴えて来る声も内からわく。
だが結局は選択肢がないということで二日後を待つことにした。
「ところでお前さん随分強そうだなどうだ明日あたり戦わないか?」
「え……」
俺は言われるとは全く思っていなかったことだったのですぐに返事をすることができなかった。
「おいおい、目の前に強そうなやつが現れたら戦ってみたいと思うのは当然だろう」
「そうなんでしょうか」
そんな事を思ったことはないし良く分からない、それともこれがこの世界では普通のことなのだろうか?
「ハヤテ、グエン様は大変好戦的な方なのだ。付き合ってくれ」
あ、別にこれが普通っていうことじゃないのか。
内心で本当にほっとしていた。
だが、ガロ。その羨ましそうな目はやめて欲しいのだが………
俺は表に出さないように気を付けて内心でげんなりとした。
「どうだ?」
グエンはニヤリとしながら俺に話しかけて来る。
本当に好戦的な笑みだと思う。
俺の流派の皆伝位の中の一人のもこのような笑みを浮かべていたな……
一番俺に歳が近くて、とはいえ一回りくらいは年上だが。
そして最も勢いを重視した戦い方をするやつだったな。
「自信は無いですが………まあ、戦うことなら」
「よし、それじゃあ明日だな」
それで話は終わりとなった。
大きな声で笑いながら客室から出ていった。