031
剣を持ち向かってくる醜鬼士たちを自分の間合いに入った瞬間、払いを打ち首や胴を両断する。
醜鬼士たちは俺のやりに反応もできずに切られていく。
俺がなぜこんなにも無謀な攻撃をしてくるのかと思っていると、頭上から俺の体を丸ごと飲み込みそうな程の大きさの炎球が、十数個俺たちに向かって飛来してきた。
炎球の機動と周囲にいる醜鬼士との位置を把握。
ここにつくまでに試して習得した特殊スキル、オルガの使う飛燕と同じく魔力で作られた斬撃を飛ばす〈閃刄〉を使う為、槍に魔力を流し込み魔力を薄く………薄く圧縮する。
炎球を十分に引きつけ、刹那の内に十数の斬撃を繰り出し、刃先から極薄の魔力の刃が放たれる。
刃先より生み出された〈閃刄〉は、空間を切り裂くがごとく。
空より迫る炎球に荒い網目状の閃が走り、込められた魔力を相殺し粉々に尽くし、炎球を火花となるまで散らした。
その光景は祭炎が巻き上げ、火の粉が地に落ちるものに似いていた。
魔法で作られた炎球は、込められた魔力が芯となりそれが散らされれば後は、焚き火より舞い上がったものと同じだ。
すぐに熱が分散されて消える。
俺が空に〈閃刄〉を放ったその隙を突き、醜鬼士が三方向から間合いを詰めてくる。
俺は〈心眼〉で進行方向を読む。
俺はそれを読み切ると瞬間的に体勢を低くし、その体勢移動から生まれる勢いを槍へ伝え水平に槍を薙ぐ。
先頭の醜鬼士とそのすぐ後ろにいるものもろとも、防御に為に間に置いた武器を叩き切り、胴体を両断か半場まで切り裂いた。
さらに一歩踏み込んで、初撃の勢いで捻られた体を捻り返し、半場まで切り裂かれた場所をもう一度切り、さらに後ろにいるものを切断。
同じように、一振り、二振り。
一振りごとに四から七の醜鬼士が切られる。
その集団の中央にたどり着いた俺は、その場で体をコマのように回転させ、円級を切ったときとよりも多くに魔力を槍に纏わせ〈閃刄〉を放つ。
槍の先端が嚥影を残し振るわれ、刃先から極薄の斬閃が飛び、果実へ包丁を落とした時のような音を残し、醜鬼士たちの胴が分断される。
斬閃は円を描くように飛び、五メートルほど飛んだところで消える。
舞のような一連の動作で合計三十七の醜鬼士たちを斬殺した。
俺が醜鬼士を屠っているうちに再び詠唱を完了させた醜妖鬼が、魔法を放とうとしてきたので槍に魔力を流し込み刃先に圧縮、〈閃刄〉を使用し四度の突きを放つ。
二十数メートルの距離を瞬きよりも短い時間で魔力の刃の到達、醜妖鬼は額に指先大の穴が空き絶命した。
一息ついて後方へ飛んでシュカたちの元へ戻る。
俺が後方へ戻ると同時に背後から先ほど切り裂いた炎球よりも倍以上の大さの焔球が飛んでいき、空中で数百へ拳大の大きさに分散、前方でディートリッヒ、ロドス、エマと戦っている六体の醜将鬼たちへ殺到、一体十数の炎弾が頭部手足胴体へ飛翔し、彼らを援護する。
その隙を突いてディートリッヒとロドスが一体ずつ、エマが二体もの醜将鬼を葬った。
さらに、それらの残りが俺たちに向かって来ていた周囲の醜鬼士たちへ一体につき三から四発の炎弾が、頭部、首、胸部いずれかへ飛んでいきどれか一つが命中し絶命。
それを確認し俺も前に出た。
加速、重力操作の理法、〈空歩〉を使いこの状態で出せる最高速まで速度を上げ、魔力を槍へ流し込み〈魔刃〉を発動。
最後の一歩で天地を逆とし、石突きの部分を持って速度を余すことなくのせた槍を反応もできないほどの速さで振るい二体の醜将鬼の首を飛ばした。
通り過ぎると空中で反転、地面つく直前から減速の理法を使い徐々に速度を下げる。
地面をえぐりながら数メートル地面を滑り止まった。
「ちょっと、ハヤテ。
僕の獲物を取らないでもらえませんか~。
それに後ろにいるんじゃなかったのですか?」
俺が残った二体の醜将鬼を殺すとエマが近寄って来て文句を言ってくる。
「さっきの魔法で他のものは全滅だよ。
それにさっきのは俺が動くのが一番確実に倒せる」
俺にそう言われたエマは周りを見て本当に全滅していることを確認する。
なおかつ完全に自由になった俺が、先ほどの炎弾で怯んでいた醜将鬼を攻撃するのが、確実であると理解したのか黙った。
それにしても、上位の階級の魔物に命令されると同種の下位の魔物は逆らえないのだろうか?
今、ルカとオルガが相手をしている醜王鬼が同じように術師を殺せと言うと、最後の一体になるまで攻撃をしてきたからだ。
「エマ君はそう言ってましたけど助かりましたよ」
ディートリッヒは笑顔を浮かべて俺にそう言ってくる。
額にうっすらと汗を浮かべているが、まだまだ余裕がありそうだ。
彼は重力弾を撃ってロドスとエマのサポートに終始していた。
しかし、シュカの炎弾の隙を突いた時の攻撃で証明させたが、やはり彼は醜将鬼の外皮を切り裂き、命を奪う攻撃を持っていた。
「どうも。
ルカとオルガの援護に行きましょう」
「必要ですかね、あれ」
着地をしたところから見ていたがルカとオルガ、醜王鬼の戦いを見ていた。
醜王鬼は俺の倍以上の身長に三倍以上の肩幅、大木のような腕に、神殿を支える支柱のような足、二メートルを超える巨剣を枯れ枝を振るうように軽々と振るう。
オルガは醜王鬼の正面から斬りかかり、深紅の髪を振り乱しながら、嵐のように振られる大剣の側面を大太刀で逸らし、体をねじり込み胴へ斬りかかる。
一瞬たりとも足を止めずに、斬りかかるオルガを振り払おうと距離を取って、薙ぎ払いを打とうとするとルカが内側に潜り込み、全身の関節を狙い剣を突き出す。
醜王鬼は、魔力の鎧を纏いルカの建を弾き、大剣を水平に薙ぐ。
ルカは身をかがめ大剣を回避し、醜王鬼の体の下に潜り込み跳躍。
すれ違いざまに肋骨の隙間を狙って剣を振る。
醜王鬼は体を回し回避し、その勢いで側面より大太刀を振ろうとしていたオルガに大剣を向かわせ。続けて魔力を纏わせた後ろ回し蹴りをルカへ。
オルガは体に中に走る紋章にさらな多くの魔力を送り込み、身体能力を高めスイングスピードを上げる。
醜王鬼の大剣とオルガの大太刀がぶつかる。
二つの大質量体がぶつかり合い、肌に感じるほどの振動を空気に伝え拮抗し大剣を止める。
大剣を止められ、勢いの殺された足の上に羽のように着地し首へ、向けて剣を突き出す。
鈴の音のような澄んだ音が響いた。
音源はルカの持っていた剣。
醜王鬼は自らの角をそれに向け叩きおっていた。
ルカは手に持っていた剣を即座に破棄、新しい剣を作り出す。
醜王鬼はルカのいる方へ体勢を倒し、蹴りを放った足を地面につける。
オルガを抑えつつ、空いた手の大剣を二人まとめて同時に両断すべく大剣を振るう。
ルカはさらに剣を作り出し、両手と膝から出した剣を軌道上に置きオルガを巻き込みつつ後方へ飛ばされた。
追い打ちをかけようとした瞬間。
「火華槍」
ベアーテが魔法を発動させ六本の火槍が飛来し醜王鬼に命中。
火槍がその瞬間に爆発し火の花を咲かせる。
その間にルカとオルガは空中で体勢を整え着地。
「助かったぞ」
「ふんっ」
ルカは礼を言うがオルガは機嫌が悪そうに見える。
「ルカよ。
面倒だ〈鬼化〉を使わせろ」
「はぁ……
この状態から使ってどうする。
力を誇示する様はことはする必要はないだろう。
周囲のものは倒され、数の利はこちらにある後は囲めばいいだろう」
オルガはルカへいらだちの原因だろ制限を無くせと言うが、ルカはそんなことをするまでもなく倒せると言って取り合わない。
まあ、オルガは最後に見せた炎を背負ったあれのことなのだろう。
ちなみにルカも自分にそれをかけているのだろう。
ルカもオルガも息さえ切らせていない。
醜王鬼は息も絶え絶えで疲労を隠しきれていない。
………これは援護する必要はあるのだろうか?
二人と醜王鬼の状態を見て俺はそう思ってしまう。
と言うか、できることなら手の内は晒しておいて欲しいから、俺としては是非あのまま〈鬼化〉と言うものを使って欲しかったりするし、ルカもそのまま手札を晒して欲しい。
手札云々を言えるほどモノがない俺にとっては、隠す程のモノがあるのは羨ましい。
「GAAAAAAAAAAAA」
炎に包まれていた醜王鬼が、咆哮を上げ体から魔力を発した。
これは………
俺はこの魔力の動きに覚えがあった。
グエンさんとの戦いの最後の見せたものと同じだ。
しかし、グエンさんと違い体から吹き上がる魔力を制御しきれていないように見えるし、そもそも感じる魔力は小さい。
「ルカ」
「仕方ない。
温存して無理にリスクを上げる必要もないな」
オルガはルカから了承を得ると、深く息を吸い体の奥底から重々しい魔力が溢れ、紋章にそれが流れ込むと炎が吹き出す。
昨日のあれか………いや、それよりも炎は弱いか。
俺がそう思っているとルカが俺に視線を送ってくる。
おそらく、早く倒すから入って来いという意味だろう。
前衛の戦いに入って援護するのは、相手の呼吸や癖を読んで呼吸を合わせる必要があって大変難しいのに入ってこい伝えてくるのは、俺を信用しているのか合わせる自信があるのかはわからないが、よくそれを選ぶな。
まあ、余力を残しているのと、余力を残していない時の予行演習見たいなことと考えられるな。
オルガと醜王鬼が同時に地面を蹴る。
緋色の残光を残し振り上げられた大太刀と戦闘機の尾翼のように水蒸気の残線を引く大剣がぶつかる。
ぶつかり合い音が俺たちのところまで届く前に次撃を打つ。
醜王鬼は乾燥した針葉樹の葉が燃えるように苛烈に大剣を振るう。
その動きからはせめて一人。
と自らの命を捨ててでも斬ると言う鬼気迫る勢いで防御捨て大剣を振るう。
「早く行く」
俺がそんなことを考えていると、ベアーテがジトーっと碧眼を向けてくる。
表情に出ていたようで、早く行けと視線で示してくる。
俺は頷いてオルガとルカに近づいていく。
「僕も行きますよ~」
エマが俺ついてこようとすると。
「過剰戦力」
と言ってベアーテは、エマが戦闘に加わることを止める。
その時、ベアーテはエマの持つ大鎌を見ていた。
その視線はそんな長物では、一体の敵を相手にする時は、連携なんてできないだろうと言ってくるように見える。
ロドスとディートリッヒに視線を向けると、ロドスは俺から視線を外しディートリッヒはそれを見て苦笑している。
まあ、ロドスはあれ以上隠している手札がない限り、あの戦闘に加わるのは厳しいだろうな。
て言うか、俺が行かずにベアーテが援護すればいいのではと思うが、ここは言うことを聞いておけばいいか、魔力は温存した方がいいのだろうし。
オルガと醜王鬼双方体制を落とし、内側から外側へ居合いの大勢から放たれる水平切りをぶつけ合った。
その瞬間、大剣を覆っていた魔力がオルガの魔力に押し負けけり裂かれ、さらに大太刀を受け続け摩耗していた大剣を両断。
醜王鬼は即座に斬られた大剣を捨て、同軌道をなぞり大剣を振る。
オルガは僅かに角度をつけた水平切りで大剣の腹を大太刀の鎬地でなで、さらに踏み込みはばきで大剣を後押しし醜王鬼の体勢を崩す。
オルガが大剣を受け流し、ルカが攻撃へ移るのに合わせて加速。
穂先を引き、石突きで膝を破壊。
醜王鬼はルカの攻撃へ集中していたところで予想外の攻撃を受けるが、目の前に迫るルカの攻撃から目を離すわけにもいかずそれを躱す。
俺はついでに刃先を振り上げ手首を壊し大剣を手から落とさせる。
ルカはそれを確認して、さらに一撃。
醜王鬼は壊された腕でそれを防御する。
しかし、俺たちに意識をさいたことによって自由になったオルガが下段からの突き上げで、顎先から大太刀が侵入し脳髄を貫く。
刀身より熱が内部に流れ込み、煙を上げた黒い血が口や眼球、耳や鼻から流れ出した。
オルガが大太刀を抜くと醜王鬼は膝から崩れて俯せに倒れ込む。
体を覆う炎が消え肌に浮かび上がっていた紋章が消えると、ステータスカードから布を取り出し、大太刀にこびりついた血を落とし鞘へ収める。
「ハヤテなぜ手を出した。
あと数合もあれば奴は倒せていた」
「そうですかね?
そうだとしても、こちらはほかのものは倒していたので援護するのは当然ではないかと。
それに最悪のことが起こらないとも言えないですし、この後もやることがあるのでそうなってもらっては困ります」
俺は内心では数合もあれば醜王鬼を倒せると確率としては、俺が言っていることよりも高いだろうが俺が言ったことも無い訳ではない。
こいつのことだろうから、俺が何かを悪ことと認めれば、そこから再戦の話へとつなげていくだろう。
戦ってもいいのだが戦うのなら俺が何か譲歩を引き出す方向で話を進めたい。
まあ、それに今回のことはルカから来いとサインを送られ、ベアーテからいけと言われているので自己正当化も容易だろう。
「あの状態から失態を晒すなど有り得ん」
「命を捨てる気で向かっているものとの戦いでは、それが起こる可能性が高くなります」
「捨て身ほど御し易いものはない」
「そう思っている時ほど失敗するのでは?」
俺とオルガはグチグチと自分の言い分を言い合う。
心の底から不毛な言い合いだ。
完全な平行線でお互いに妥協する気がない為、二人で言い合うと着地点がない。
「オルガ、あれは私が頼んだのだ。
それにあれは長時間もたせられぬだろう。
この後にそれは使う時がくる。
今、使い切られては困る」
と言って、ルカが俺たちの仲介をしようとする。
自分が悪いと言っているのは、おそらくだがオルガの考えていることを読み取ったのだろう。
「くっ」
ルカに言われオルガは言い淀む。
オルガはどうにかして、ルカの来る前に俺に謝らせたいのだろう。
「醜王鬼たちは、迷宮から出て来たばかりだった。
おそらく数時間は魔物がでてくることはないだろう。
昼食と休憩をとったら迷宮の探索を始める」
そう言ってルカは息絶えた上位種の魔物を回収し、回収しないものは胸を切り開き魔石を取り出す。
ちなみに迷宮の周辺は、魔素を迷宮が吸い続けているので魔物は近づいてこない。
迷宮都市と言うものがあり、迷宮のその特性を使っていて外壁の工事の手間が省けるらしい。
迷宮から魔物が溢れてくる危険はあるが、迷宮より取れる富を求めて様々人間が集まる為、意外なことに上に都市が作られた迷宮から魔物が溢れ出て来たことはないようだ。
俺の考え通りの理由だったのだろうオルガはすんなりと引いて休憩を始めた。
俺はできる限り多くのお金が欲しいので回収作業に付き合ってから休憩した。




