029
街の門より約一、二キロ程の地点に、街の外壁をそのまま拡大にしたような扇状にキャンプが作られていた。
集められた冒険者たちをいくつからのグループに振り分け、ここから魔物を狩りに行くもの、前のものたちの狩り漏れを警戒し討伐するもの、いざとい言う時のための予備兼休憩をしているものがいる。
と言っても、全てのものがここに留まる訳ではなく、休憩中のグループは希望すれば一旦街に戻ることもできる。
俺はそれを以前聞いたときは、外壁もあること長期に渡っても耐えられるくらいの物資はあったから、慎重に対応しているのだと思っていたが、迷宮ができていることを聞くと、冒険者たちをそちらに向かわせないためではないかとも思ってしまう。
俺、シュカ、エマはルカたちに連れられてここに来た。
てっきり、ギルドと関係ないとしていたのでそのまま迷宮に向かうと思っていたのだが、さすがにそうもいかないようだ
ここの規模は大体千数百人ほどでここ自体が小規模な町のようになっている。
歩いてると休憩中のグループを見かけた。
そこではジョッキをぶつけ合い酒を飲み、豪勢とは言えないが大きな肉にかじりついている。
ここの責任者に会いに行く道中、彼ら彼女らは程度の差はあるとは言えど、このグループも同じようなものだった。
仲間と生き残ったことを喜び合い、次の戦いに備える。
無論、仲間が死傷したものたちもいるだろう。
感情を押し殺しているのが外側から見ても十分わかる。
しかし、そうしたものたちでも同じように酒を飲み大きな声でお互いを鼓舞する。
人は死ぬときには死ぬ。
あの場での怪我は即座にしに直結するだろう。
それは誰であっても変わらない。
勿論俺でも変わらない。
戦場に立てばそれだけで死神の鎌は振るわれる。
それを掻い潜れるかは、本人の能力や精神状態もあるが運の要素もある。
だが、俺はそれでも戦場に立つ。
この世界で生き、さらに目的を達成するためには、自らを高めるために戦い続けなければいけない。
俺にはそれくらいしかできないのだから………
そう思いながら歩いていると、周囲のものと比較するとひときわ大きく、入口に護衛が立っているテントにたどり着いた。
「ルカ・ノーサンバースランドです。
ギルドマスターの命令により参上しました」
「ご苦労様です。どうぞ」
護衛はルカの手のステータスカードを確認すると敬礼をして俺たちを通した。
俺たちはルカに促されてテントの中に入る。
これは………
中に入ると外から見る大きさよりも内部の空間が広い。
俺は外から中の音や気配を感じることができなく、このテントより魔力を感じていたので何かあると思っていたが、まさか空間が拡張されているとは思ってもいなかった。
大体倍の広さになっていて温度も適温に保たれている。
俺はそれらのことを中に入り数秒ほどで確認した。
奥に長机で書類仕事をしている線の細い眼鏡を男性が、左右に護衛をおいて座っている。
次に机の前で立っている者たちを見る。
昨日あった銀翼のリーダー、ディートリッヒ・ファルツ、副リーダー、リュエ・シャリン、筋骨隆々の戦士ロドスだった。
中に入ってきた俺にロドスが気づくと驚いた表情を作りその後、睨みつけてくる。
しかし、場所も場所である為、この場でどうこう言ってくる気はないようだ。
言ってくる気がないのなら、初めから睨みつけてくるなと思う。
俺はその程度かと、彼に対する興味もなくなっていく。
ルカは俺たちのことには気づいていないようで線の細い男性の前に出る。
「ギルドマスター報告へ参りました」
「彼らが協力者かい?」
「はい」
「そうかい。それは良かった」
ルカのその答えに満足したように笑った。
「しかしね。
ギルドとしても君たちには死んでもらうわけには、いかないのでこちらからも人を付けたい」
「申し訳ありませんが、それは結構ですといったはずでは」
「そういう訳にはいかないですね。
腕はたつだろうが、彼らは低ランク冒険者だ。
君たちが個人的に依頼をしているとは言え………いや、寧ろ個人的な依頼だからことこちらとしては、あなた方の安全のために気をさかないといけません」
「自分たちの引き際くらいわきまえていますが?
それに彼らも重要な戦力なのでは」
「いえいえ、彼らも仲間が負傷し、ちょうど手も空いています。
あなた方につけていた方が、有効活用できるのですが」
こういう話は聞いていて、嫌になるな。
彼はルカたちの安全のためと言ってはいるが、おそらく銀翼の彼らをつけたいのは、いち早い迷宮内の情報かつ彼らが自分の勢力圏内でルカ達が死傷し、自分に責任とならないようにすることだろうか。
さて………俺としては、銀翼の彼らがどう動くか分からない為、危険もあるが安全もある。
おそらく、ルカはギルドマスターの提案を受けるだろう。
ルカとギルドマスターはその後、すり合わせをしその提案を受け入れた。
・・・*・・・*・・・*・・・
ギルドマスターが使っているテントをあとにした後、一人三本の魔法薬を受け取った。
これは魔法薬の中でも高級品らしく、切断されたりした手足をつなぐことも可能だという。
果たして、こんなものがあるのに銀翼の負傷者は、それでも治せないほど大きな怪我を負ったのだろうか?
絶対にNOだろうな。
はぁ………昨日、ロドスやその他が機嫌悪かったのって、負傷したこと以上にこれなんだろうな。
さらに、保存食も渡される。
アンリさんから多くもらってはいるが、持ってることに損はないので受け取っておく。
だが、これがまずいことは食べなくても分かる。
ステータスカードに入れられるものも量は、魔力によって決まるのだろうから、このようなものも需要はあるのだろう。
物資の受取を終えた俺たちは、お互いの名前と戦闘スタイルを簡単に話すこととなった。
「まずは私から」
おそらく迷宮の攻略を仕切ると思われるルカが声を出した。
「私はルカ・ノーサンバースランド。
主に斥候を担当する。
武器はこれを使う」
ルカの使う武器のことは、言葉で説明するよりも見せた方が早いと考えているのか、手に出して見せた。
手のひらに魔力が集まり、空気が押し固められ両刃のショートソードが作られた。
昨日と同じで透明だが、その両刃のショートソードは微細な振動をしており、空気を動かしているのと魔力によってそこのあると分かる。
エマやシュカ、銀翼の三人も魔力を感じることができたようで、皆そこに強力無非なる武器が現れていることは分かったようだ。
ルカは皆がそれを分かったことを確認すると手のひらからをそれを消した。
魔力と押し固められた空気が霧散する。
オルガに視線を送り促す。
「次は私か、私はオルガ・ヴィトゲンシュタイン。
使う武器は刀と自己強化用の紋章魔法、前衛を担当する」
オルガはルカと同じく自分の使う武器を出す。
ステータスカードより大太刀を出し鞘より抜く。
陽光を反射し冷たく刃が光る。
大太刀を抜ききる刹那、自分の前を交差せるようにそれを振るい、流れるような動作で鞘に戻す。
どうやら銀翼の三人は一連の動作を目で追いきれなかったようで驚愕の表情を浮かべている。
自分の横にいるベアーテに視線を向ける。
「ベアーテ・ダンジャルマイア。
精霊魔法、後衛。
護身用、細剣も使う」
ベアーテは短く簡潔に告げると四色の宝石が付けられた細剣取り出しす。
何をするのかと思ってみていたら、彼女の周囲に魔力が集まり火と水、風、土の球体が作られた。
三人はそれを見てまた驚愕する。
精霊魔法のことがよく分からない為、俺は何がすごいのか分からない。
それよりも魔力が集まり火と風ならまだわかるのだが、水と土が作られるのか知りたい。
まあ、知ったところで出来るかどうか分からないのでどちらでもいいが。
その後、彼女が俺とディートリッヒに視線を向けたので、俺はディートリッヒにお先にと視線で表す。
「私はディートリッヒ・ファルツクラン銀翼のリーダーです。
武器は刀と拳銃、重力属性も持っています。
役目は中衛の遊撃です」
彼も自分の武器を出す。
取り出された刀は片手でも両手でも振れるものとなっている。
「この銃で重力属性の魔力弾を打ちます」
見たところ弾を込めるための仕組みを見つけられなかったので、どういうことかと思ったらそういうことか。
つまりあの銃は魔法のアシストをするための武器ということなのだろう。
それ以上にこちらには銃まであるのか………
俺は向こうの世界で中の対処法も学び、実際に対峙したこともある。
さらにこちらに来て身体能力も上がり魔力というものも使えるようになったことにより、対処することは向こうの世界の物のままなら対処することは難しくないだろう。
しかし、こちらの世界でどのように進化しているか分からない。
俺がこれほどまで魔力を持っているのは、別の世界から来たためではと思っている。
つまり魔力があれば使えるというこれはクラスの連中にも当然使え、容易に使える武器があるということは命を奪うハードルを下げるのではないかと俺に思わせる。
これはおそらく【勇者】が伝えたものだろうから、当然クラスの連中がいる場所にもあるだろう。
これは思いすごしかもしれないが、心に留めておく必要はあるだろう。
「次は私ですね。リュエ・シャリンクラン銀翼の副リーダーです。
水と木の精霊魔法を使います後衛です。
ベアーテさんのようにいくつもの魔法は同時には使えません」
彼女はベアーテさんを見て少し悔しそうに行った。
確かにリュエさんはベアーテさんとは違い使える魔法の量は負けているが、彼女はおそらく戦闘は本職ではないのだろう。
木の精霊魔法というのは一体どのようなものなのか気になる。
「俺はロドス銀翼の一員だ。
使用武器はバトルアックス、前衛だ」
俺がそう思っているとロドスが話し始めた。
地震の武器を取り出し、短く告げた。
俺はこれが嵐の前の静けさに感じる。
まあ、これは警戒しておくとして心に留める。
銀翼の三人が自己紹介を終えたので俺たちの番だ。
俺は既に双方に名前を言っているのだがするべきだろう。
名前に自分の使う武器の槍と短刀、魔力操作で身体強化をすることを告げた。
「ハヤテさん。あなたは魔法が使えないのですか?」
俺が自分のことを言い終えシュカに視線を向けた時にそう言った。
「どういうことでしょうか?」
「あなたほどの魔力があれば、何かしらの魔法が使えると思ったのですが、使えないのですか?」
「使えませんよ。
昨日オルガさんと戦った時に使っていなかったでしょう?
使えるのなら使っていましたよ」
「そうですか?」
「まあ、強いて言えばちょっとした便利な魔法は使えますが、戦闘に使えるようなものは使えませんよ」
俺の使う理法は傍から見れば魔法とは見えないものだと思っている。
それに理法は体を動かすことのサポートにしか使っていないのでバレることもないだろうし、バレたとしてもこれは奥の手だとしておけばいいだろう。
明らかにルカも隠しているものもあるだろうからね。
「シュカ。
炎と幻影と付加を使う後衛。
護身程度に短刀も使える」
酒家はその後、炎を幻影を使ってみせた。
ベアーテと同じでかなり簡潔な自己紹介だったと思う。
意外とシュカのように自分のことを簡潔にしか話さないような者も多いのかもしれない。
「僕はエマ・ノーサンバースランドです。
使う武器は大鎌とナイフ魔法は使えません。
ソロが多かったのでよく分からないですが前衛役だと思います」
エマがステータスカードから自分の身丈よりも大きな大鎌を出し、曲芸のように振るとその光景にルカたちを含め驚いていた。
俺もはじめ見たときには驚いたので無理もないだろう。
全員が自分のする役割を言い終え、迷宮に探索する時に必要となるようなものも持ったので、キャンプを発とうとした時、今まで黙っていたロドスが口を開いた。
「ルカさん彼らの実力は信用は、我々についてくるのに足るのですか?」
内容は俺たちの能力を疑っていると言うものだった。
「問題ない彼はオルガと互角に戦えるし、エマの能力は知っています。
シュカさんはベアーテに匹敵する魔力持ち主です」
「しかし、それでも彼らは低ランク。
こちらとしても、背中を預けることはできません」
オルガと互角。
これを言われたことにより、実力を疑う指摘から変えざるをえなかったようだ。
それは先程大太刀を振るった時に見せた彼が目で追えなかった程の剣速だろう。
「ギルドマスターの前では了承しましたが、それを言うのならあなたはついてこないで頂きたい。
彼らは信用に足りますし、あなたのような方がいると戦闘中の連携に亀裂が生じます。
あなた方にはそれに合わせていただきたい」
ルカはドロスから視線を外しディートリッヒ、リュエへ向け淡々と話した。
だが、ふたりを見ている限りロドスを使いルカたちや俺たちが、どのように返すのかを見ている節がある。
ロドスがそれを分かってやっているのなら、たいしたものだと思うがそうではないだろう。
ロドスはまだ何か言おうとしている。
俺は内心でため息をついて言葉を発した。
「ロドスさん。あなたが俺の実力を疑うとなら戦いますか?」
俺の発言が意外がったのか意外だったのか少し驚かれた。
それを見てオルガが動こうとした瞬間、ルカと俺が睨みつけて彼女の行動を止める。
「ディートリッヒさん、リュエさんあなた方もやりますか?」
「いや、確かに能力の有無は気になるが、それはロドスとの戦闘を見れば十分分かる」
とディートリッヒさんは返してきた。
横にいるリュエさんも頷いてディートリッヒさんの考えに肯定をしめした。
「そうですか」
そう答えてロドスに視線を戻す。
「上等だ。やってやるよ」
今、俺たちがいる場所は開けた場所となっている。
それは自己紹介をする時、武器を出すとしていたから予め移動していた。
武器を出すとは言え、それほど開けた場所は必要ないが移動していたのは、ルカもディートリッヒさんもこうするつもりだったからでないからだろうか?
とは言っても、俺がそれを言い出してくるとは思っていなかったのだろう。
それは先ほど驚いたことから分かる。
シュカとエマ、銀翼の二人、ルカたちは戦いの邪魔にならないように俺とロドスから離れていく。
俺とロドスは約五メートル程の距離を置いて武器を構えた。
彼の武器は柄の長さが百センチ先端についている刃の大きさは六十センチ、全体重量は三、四十キロほどあるだろう。
「いくぞっ!」
ロドスは地面を踏み砕き瞬時に間合いを詰める。
俺はお互いの武器の間合いとなっても動かないし、ロドスに視線を向けてさえいない。
ロドスはそれを見て反応できていないと思っているのだろう口元に笑みを浮かべる。
「はあ!」
上段からバトルアックスを俺の頭に向け振り下ろす。
その一撃からは本気ではないだろうが、手を抜いているような雰囲気はない。
俺はバトルアックスの機動を見切り、自分の頭部に当たる瞬間僅かに位置を逸らし、体を回転させることでまるで表面を滑っていくように見えるように体を動かす。
柳体としてこの世界のシステムに認められた超常の体術を使い後の先を取る。
石突きを体の側面から突き上げるように胸部を打つ。
それはロドスにとって完全に身構えていないところに打ち込まれてまさに予想外に一撃だ。
それは当然だろう。
ほんの一刹那前には振り下ろしが当たると思っていたのだからだ。
「ぐぅう………」
ロドスは苦悶の声を上げる。
意識の外から攻撃を受けたと言うものもあるが、さらに威力としてはクロスカウンターと同じで双方の力を合成したものを体に受けた。
それと違うのは俺には傷一つおっていないということだろうか。
高ランクの冒険者として多くの怪我もおってきただろうロドスも、その一撃は深く衝撃を内部まで通し肺の内部より全ての空気を吐き出させた。
瞬時に膨大な魔力を足に流し込み強化、全身の筋肉を使用しさらに加速の理法を使い頭部へ向かって蹴りを放つ。
瞬時に目にも止まらない速度までに達した蹴りを受けロドスの体は、トラックにはねられたように吹き飛んでいく。
蹴り放った勢いのまま地に足をつけた瞬間、体勢を下げロドスに向かって地を蹴る。
ロドスは直感によるままだろうが、柄を跳ね上げて頭部には蹴りは当たらなかったのに加え自らの意思で衝撃を流した。
流石にこれは高ランクの冒険者であると言わざるを負えない。
できる限り長引かせなくない俺とすれば首筋に刃を添えるのが一番であろう。
槍の届くまでに間合いを詰めた瞬間、残像さえも置き去りになるような速度で突きを放った。
ロドスは完全に体勢を整えたれていなかった。
その為、見ているものたちは止めようとするが間に合わない。
ようやく体勢を多少整えたロドスと俺はその瞬間目が合った。
初撃を殺す気で売っていたことを自覚していたのか、彼は諦めたように死を覚悟するような表情をした。
「な…………」
しかし、その槍はロドスを殺してしまうようなことはなく、首にあたる寸前に止まった。
「これでいいですか?」
俺は槍を下ろしてそうつげた。
「あ、ああ………」
俺はこれほどまでの実力差を見せれば、どうこう言ってくるようなことはないだろうし、できる限り手の内を晒すことなく勝てたので目的は果たしたと言えるだろう。




