021
何だかね……疲れたね……
俺は奴隷商に行って、妙に体力を使ったかがする。
「シュカ、ちょっと軽いものでも食べないか?」
屋台の多い地区に近づいて、ふと、そう思ったことをシュカにいった。
「………ん………あれ」
俺の言葉にうなずいて、屋台を見渡し、鼻を動かして匂いを嗅いだ。
シュカが指さしたのは、甘い匂いただようクレープ屋。
一つ、銅板7枚ね。
まあ、ちょっとした贅沢みたいな値段だ。
数人の子連れの女性たちが並んでいた。
子供たちの表情は、まだかまだかと、そわそわとした印象を受ける。
これは間違いないな。
それを見て確信する。
俺とシュカも最後尾に並んだ。
若い店主は、手際よくクレープ生地をプレートに流し込み広げる。
焼き色をついたところで、ひっくり返す。
裏面は表面がちょっと固まる程度で、プレートから上げ、裏面を上にして台の上に置く。
生地が冷えない内に、果物をカットしていく。
リンゴのような果物に横回転をかけて投げ、落ちてくる果物の表面に優しく刃を当てて、回転の勢いを使って一瞬で皮をむく。
並んでいても、店主を見るのが楽しい。
子供たちが多いので、待ち時間が苦に感じないように工夫をしているのかも知れないと、俺は思った。
シュカも流れるような作業に見いっている。
俺にもできるかな?
シュカを見て一芸くらいできた方がいいかなと思った。
クリームを生地にかけた。
ポイップクリームのあれがある……
俺はちょっと感動した。
ビニールではないさそうだが、何だろう?
果物をのせ、生地をまき最後に生地に焼きごてを使い、開かないようにする。
しかも、店のロゴだと………できるな……
気遣いとさりげない店のアピールがあった。
俺たちの順番が来た。
シュカはたくさんの果物がのせてチョコかけたもの、俺はプレーンと言うクリームだけのものを。
「お客さん、通だね?」
「また来ます」
俺は銀貨二枚をわたし、銅板6枚を受け取った。
俺とシュカはクレープを食べながら、冒険者ギルドへむかった。
完璧に近い味だった。
シュカも大変満足していた。
表情はあまりないが、喜色は見ればわかったので、道の歩いている人がつまずいたり、ボーと歩いて魔灯にぶつかったり、恋人の肘を受けるなと結構な影響が出ていた。
つくづく恐ろしい………成長した時の光景を想像するのが、怖い……
後、彼女さん肘はやめてあげましょう。
屈強そうな外見してても、予知しない攻撃は痛いんですよ。
俺は苦笑いを隠しつつ歩いた。
その後、数分間歩くと目的の建物についた。
冒険者ギルドの外形はかなり汚かった。
奴隷商と比較するのがおこがましいレベルだ。
まあ、いいや。
取り敢えず、旅をするなら冒険者になっているのが、都合がいい。
登録するだけだから、とやかく気にすることじゃないなと思い中に入る。
雑多と喧騒に包まれていた。
五月蠅いし、臭いな……
俺は顔をしかめる。
煙草のようなものや汗、血、受付の方からする香水、それらが混ざり合い、慣れていないもの………なれるもの嫌だな……にとってはきつい臭いだ。
人の目を気にせず、鼻でもつまみそうになる。
臭い系をどうにかできる魔法を使えるようにならないとキツイな………
臭いの分子って結構大きいて、聞いたことがあるな。
呼吸に使うものよりもはるかに大きいから、極微細の網を作るって弾くような感じでできないだろうか?
………いや、待て、意識的に嗅覚を落せばいいんじゃないか?
人の何十倍の嗅覚を持っている動物たちも、そのようなことができたと聞いたことがある。
俺は集中の亜種のような任意の感覚遮断に慣れてきた。
…………………………………できた。
(スキル・特殊〈悪臭耐性〉を入手しました)
ふぅ……
俺は息を吸った。
早いところ用を済ませて帰ろう。
呆然として立ち止まっていたので、中にいるものの何人かがこちらを見てきていた。
俺はシュカの方を見て動くように促す。
五月蠅いのが嫌なのか、耳がペターンとなっていて、なんか癒された。
「本日は何のようでしょう」
ああ、香水臭い。
むこうの臭いが強いせいか、こっちも強い。
「ギルドの加入に来ました」
「そちらの子もですか」
「………ん」
「分かりました」
そう言って奥へ行って門番で使っていた犯罪のチェックの魔法具を持ってきた。
俺とシュカはそれにステータスカードを置いた。
しっかりと、見られてはいけない情報を隠匿するのを忘れない。
「はい。ステータスカードに冒険者が記載されているか、確認してください」
ステータスを表示する。
称号の欄に〈冒険者F級〉と会った。
「ありました」
「………(コク)」
俺とシュカはうなずく。
「何か聞きたいことはありますか?」
「昇級について教えてもらえませんか?」
「昇級は自分と同じ級の依頼を十回こなし、D級以上は全てのギルド支部で受けられ試験をA級以上はある一定の規模の支部で受けられる昇級試験をパスすれば、上の階級に昇級できます」
「徴兵や緊急依頼について教えてください」
「ともに、D級以上で受ける義務があります。
A級以上で双方の義務は免除されます」
「試験は強制ですか?」
「え?試験を受けない人なんているんですか?」
よし、ないならいい。
内心でガッツポーズをした。
それなら試験を拒否すれば、徴兵と緊急依頼はしなくてすみそうだ。
昇級しると色々と金銭的な優遇はあるそうだが、金の為に命を危険にさらしたくはない。
いや、誰かに使われたくないだろうな。
戦う時は基本的に自分で決める。
「そうですね。そんな人いませんよね」
俺は日本人特有の何を考えているのか分からない笑みを浮かべていった。
ギルド内で木製の何かが、粉砕する音が響いた。
「ああ!?なめてんのか餓鬼が!?」
「そんなつもりはないですよ~」
「はあ!?俺たちのことを臭いだとか、五月蠅いだとか言っておいて、なめてないだ?ふざけてんのか?」
「五月蠅いですよ~」
「またか、コラ!?」
ぼさぼさの金髪で目元が隠れている子と筋肉だるまが騒ぎを起こしている。
皆がその方向へ一切に顔をむけた。
俺とシュカを除いて。
「あ、そうだ。階級ってどれくらいあるんですか?」
「え、ええ」
「………」
俺がとっとと言えよと、言う視線を向け続ける。
まあ、何が起こっているかは〈心眼〉で視てたから知っているし、今でも確認してるからどうでもいいし。
シュカは本当に興味なしと言う感じに、見向きもしない。
「ええと、FからSです」
「AとS級って、どれくらいいます?
「ええ、A級がこの国では百人くらい、S級が三人です」
「ありがとうございます。じゃあ、シュカ行こうか」
興味ないし、関わりたくもないし、巻き込まれたくもないからと、とっとと帰ろうとした。
「………」
シュカが俺のコートの裾を掴む。
「いや、放っておいていいと思うよ?」
「………何故?」
「絡まれている方の子、あの子強いよ?それは分かるでしょ?」
「………死ぬよ?」」
「え、不味いですよ。ギルドないで殺しは」
受付嬢が五月蠅い。
「ええ、死ぬのはあっちの男だからいいじゃん」
「………」
シュカがじぃと俺を見て来る。
「目立ちたくないんだけどね……」
「………強そう……面白そう」
まあ、そうだけどね。
確かに、仲間にするとかすれば、都合よさそうだし、明らかに面白そうな奴だけどさ。
さっきまでの話聞いていると、彼の方にも問題がありそうなんだよね。
俺はともかくシュカと合うだろうか?
とか言う、ニュアンスを込めてシュカを見たが。
「………知ってる……聞いてた」
「まあ、それなら………」
俺は取り敢えず、引き受けた。
「ああ、くそ、うるせえんだよ」
金髪の子の方に絡んでいた男がステータスカードを取り出し、そこから剣を出し鞘から抜いた。
襲われそうになっている金髪の子は、顔を伏せた。
周りは金髪の子が自分の言葉を後悔しているとでも思っているだろう。
だが、〈心眼〉を使える俺は、その金髪の子の口元が大きく裂けている。
ああ、ほんとにもう………
同じように〈心眼〉によって、その金髪の子の袖もとにナイフが隠されていることを知る。
男が剣を振ろうとすると、金髪の子供は足に力を込めた。
力の込め方から、前方に飛び出して、ナイフで首筋をはねる軌道をしてた。
「じゃあ、シュカ。クレープ屋台の前で」
周りに聞こえないように耳元で呟いた。
「ん」
俺は合流する場所をシュカにいって、頷いたことを確認した。
俺は〈空歩〉を発動させ周りの野次馬を飛び越え間に入り込み、袖口に隠していたナイフを取り出して、その金髪の子のナイフと男の振り下ろした剣を受け流す。
突然の乱入者に周囲がさらに湧いた。
絡んでいた方も野次馬も五月蠅いが、無視。
特に絡んでいた方は、今、殺されそうになったことに気付いてもいない。
「しっ!!」
金髪の子がナイフを投げてきた。
俺が避けると丁度、男たちの急所に当たるコース。
俺がこいつら味方とでも、思ったのか?
取り敢えず、俺は飛んでくるナイフを撫でるように受け流して、急所を外して男たちには当たるようにした。
「いただきです」
俺がナイフを受け流しているうちに、金髪の子が背後から振り下ろしを放ってきた。
………〈空歩〉かな?
俺はナイフを逆手の持ち替え、防御をした腕の手首を狙っていた攻撃をナイフの腹で流す。
「やりますね~」
金髪の子が着地すると、男たちから唸り声が聞こえる。
「あれ?お仲間じぁないのですか?」
はじけましたよね?と言う意味合いを込めて聞いてきた。
「違うな」
「狙いました?」
「そうだな」
俺の言葉を聞くとニコリと笑って。
「まあ、いいですっ」
そう言って、地面を蹴った。
一瞬、周囲のものには消えたように見えただろう。
それくらいの急加速。
込めた力と速度が一致していないな、何だろう?
俺は魔力以外のものを感じた。
空中を足場にして、ほんの一瞬と同じ場には留まらず、次々と縦横無尽に攻撃を放ってくる。
ふむ、嫌らしい攻撃をしてくるな。
相手の裏をかき、防御できると思った牽制をして来ていると思ったら、手首を狙った本命の攻撃。
うん、俺と同じ邪道剣技だね。
「好戦的だな」
「あなたが得物を取るのがいけないんですよ~」
まるで周囲に言っているようにも聞こえる様な音量。
その間延びした声が高速移動をしているせいで、俺はいろんな方向から聞こえ、エコーしているように感じた。
受付の奥の方から、数人の職員のようなものたちが出てきた。
「おい、終わらすぞ」
「仕方ないですね~」
俺はほんの一瞬、鍔迫り合いをした間に言った。
何故かは知らないが、こいつはわざと挑発をして問題を起こそうとしていた節がある。
「で、お前何のつもりだ?」
俺が聞くとにっこりと笑って。
「内緒です~」
と返してきた。
後、数秒間くらいか。
「お前、何かできる?」
「めくらましならできますよ?」
「じゃあ、それ頼むわ」
「了解です~」
それらの声は、激しさを増して行った剣劇の音にかき消されて、周囲には聞こえていないだろう。
しかし、こいつやるな。
身体の柔軟性と体幹、ボディバランス。
後、確証はないが、体重の軽減をするようなスキル、技術のどちらか、もしくは両方。
あの家のサバイバル技術の中に、中華系の武術から名前を取った歩法があった。
確か、軽功だったかな。
元々は身体を軽くするって感じの技だったらしいけど、現実でそんなことはできないから、似たようなものにその名前が使われていた………できなかったよね?
まあ、単純にいえば、勢いを殺さない歩法。
高く跳んだり、障害物を飛び越える時、足場の悪い場所を一気に抜ける時に、予めつけておいた勢いを利用すると言うものをそう呼んでいた。
熟練者は結構昔のことだけど、俺の槍の上に一瞬だけ、乗ったことがあったな。
まあ、空中で跳んだ時の勢いと重力の釣り合った瞬間、そう見えたと言うことは分かるんだけど、ちょっとね……疑ってしまう。
それと〈空歩〉が見事にマッチしている。
そう言えば、それが同じように保存されているようなのに、スキルに出てないのは〈脚撃〉にでも入っているのかな?
俺がそう考えていると、金髪の子に手に魔力が集まっていった。
「いきますよ~」
閃光が室内に弾けた。
「こっちだ」
「分かりました~」
ギルドから出た瞬間、地面を蹴って建物の上にのぼり。
屋根を蹴ってシュカと待ち合わせた場所へむかう。
何か、これをやって内心で人を非難したばっかりだな………
さっきまで、剣劇を披露していた金髪の子もしっかりと付いて来る。
「………お疲れ」
俺を見てシュカがいった。
「思いっ切り、目だったがな……」
「………(プイッ)」
俺が視線を送ると、顔をそむけた。
まあ、いいんだけどな。
さて、こいつをどうしよう?
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