019
ふと気づくと日の高さが最高になっていた。
俺は馬車の横を走っている時に影の形で気付いた。
昼には休憩を取ると言っていたから、そろそろ休憩の時間だな。
向こうの世界の馬よりも力が強いらしく、温存して軽く走っているようだが、自転車と同じくらいの速さにはなっている。
数時間このペースで走っているが、特に疲労感は感じていない。
護衛をしている戦士たちも同じだ。
ふと、もう少し進んだ場所に広場のようにスペースを作られたものがある。
おそらくそこで休憩するのだろう。
そこから十数分後その広場に到着した。
「それじゃあ、休憩にしようか」
移動商店のまとめ役ロドリグさんが馬車を止めそう言った
護衛の人たちは、見張りと休憩をするものの二つに分かれ、ステータスカードより弁当や水筒を取り出し、軽い食事を取り始める。
あ……俺、弁当持ってないじゃん。
時間がかかると言うのは、聞いていたのだから用意してないのは自分の所為か………
まあ、いいや休憩しよう。
俺は地面に腰を下ろし、意識的に広げていた〈心眼〉の監視範囲を普通の状態に戻す。
この世界にスキルと言うものは、つくづく便利なものだと思う。
気配を読むのはこちらに来る前からできていたが、〈心眼〉と言うものを得た今は比では、無い程の距離と精度になっている。
移動中、魔物はいたが、この人数を見て襲ってくるようなものはいなく、脱兎のごとく逃げていった。
グエンさんと戦い〈心眼〉と多くの〈理法〉を得た今なら、あの熊とも多少は戦えると思う。
だから、この周囲にいる魔物は、恐れることはないだろう。
気を付けなければいけないのは人間だろうが、耳のいい獣人が護衛をしていて俺の〈心眼〉を潜り抜けて不意打ちをするのは、無理に等しいのでそちらの面でもあまり心配はない。
俺は目をつぶり木々のこすれる音を聞きながら身体の力を抜いてリラックスする。
シュカが馬車から出て、俺の方へむかってくる」
「………お疲れ」
シュカはねぎらいの言葉をかけ俺の隣に座る。
「………ん」
ステータスカードから、弁当箱と水筒を取り出して、俺に勧めてきた。
「ありがとう」
ふむ、シュカが持っていたから、俺には何も言って来なかったのか。
弁当箱を受け取り中を見た。
お弁当箱の中には、葉野菜と肉が入っていた。
俺とシュカが食事をしていると、移動商店のまとめ役のロドリグさんと、護衛のまとめ役のロランさんが近づいてきた。
「ふふ、羨ましいですね」
「ああ、村でシュカを狙っていた奴が見たらと思うと……面白そうだな」
ロドリグさんは柔和そうに笑って隣にいるロランさん言い、ロランさんは自分の村にいた、シュカに話しかけられもしなかった子供たちの子と思い出し、ニヤリと笑って言った。
「そう言われると、まるで恨まれているように感じますね」
「う~ん」
「ふっ」
俺がそう言うと、ロドリグさんには唸られ、ロランさんには鼻で笑われた。
二人は顔を合わせて、ロドリグさんが話そうとする。
「子供の頃の恋愛とは、たいていは失恋で終わるものです。
そこで、世の中は思い通りにはいかないと、考えたり、感じたり、思ったりもするものですね。
ですが、それが急に現われたものに横からさらわれては、なかなか気持ちの整理がつかず、終わらないと言うものですよ」
「そうですかね?」
「まあ、全員が整理がつかないと言う訳ではありませんよ。
本当に、純粋に、一途におもっていれば、そうなる確率は高くなるでしょうね」
ん~、そうなのかな……
俺にはあまりピンとこない。
何故かと考えたが、自分がそのような感情をもったことが、ないからかと思った。
「二人そろって分からないって顔してんな」
ロランさんは俺とシュカを見てそう言った。
俺とシュカをそう言われて見合う。
そして同時に首を傾げる。
二人は俺とシュカのその動作を見て、くすりと笑った。
「そうそう、ハヤテさんあなたは、どのようにあのような力を得たのでしょうか?」
ロドリグさんは俺の強さの素に興味があるようだ。
ん~、幼少の頃からの訓練と家庭環境だろうか?
何と言えばいいか、こちらの世界での貴族と言うものは良く分からんが、想像通りの特権階級はいるのだから、大きな間違いはないだろう。
「そうですね。家は国の軍のようなものへ特殊な技能を持った人間を出すことを目的に、いくつもの道場がある家でした」
自衛隊は、まあ、軍でいいだろう。
海外からは軍って見られてるし。
……とは言え、行動の形式がポジティブリストだったからそれを考えると、軍と言うよりも武装警察なんだけどね……
まあ、家から出ていく連中は、完全に裏口入隊してインテリジェンスみたいなことしてるっていう話だから、一概にも言えない気がするが。
「武家と言うことでしょうか?」
ロドリグさんが聞いてきた。
「そうとも言えますね、でも、必ず全員が何らかの武術をすると言う訳ではありませから、どちらかと言えば教育機関を国の委託を受けて家が運営していると言う感じでしょうか?」
うん。自分でも中々旨くまとめられた気がする。
さらにその後に各道場の関係、皆伝位についての説明をした。
「成程、長い歴史と各群の磨きあいですか……よく考えれてますね。
ハヤテさん」
「はい」
「貴方はもしかして、執行官の養成機関の出ですか?」
「執行官?」
ロドリグさんは俺の目を真正面から見て聞いてきた。
執行官が何かは知らないが、この世界のものだろう。
グエンさんたちも俺の素性を広める気はないようだ。
「知らないのかい?」
「はい、聞いたことのない名前です」
「そうですか……」
「あの執行官って何ですか?」
「執行官と言うのは、神律教の………まあ、暗部みたいなやつらさ」
ロランさんが俺の質問に答えた。
神律教、確か俺らを召喚した国が信仰している宗教だっけ。
「どうして、そう思ったんですか?」
「今、ハヤテさんが言ったような場所で訓練されたものが、執行官と言われているものですから。
まあ、ハヤテさんがそこに出でも、神律教と出ないことは分かりますが、彼らは異教徒を人間と思いませんから」
へぇ、こいつらがクノの言っていた、会ったら瞬殺されるって言う奴か…………
いや、それにしても、異教徒を人間扱いしないとか、何だ?
何か古代のカルト人類宗教みたいだな………
召喚者とか、転生者とか、迷い人とかいるのに、そう言うのがなくならなかったのか?
いや、待てよ……召喚者は多分、自分に実害がなくて、目の前にいるものは助けられるから、根本を正すことを頭にも浮かばないのだろう。
後者二つは、その執行官とやらに殺されている可能性が高いな…………もしくは、そっち側になっているか。
まあ、小説みたいに能力が高ければだけど。
そうでなければ、影響力皆無で、結局狂人とされて、普通に死んでるだろう。
「ん?」
俺はこちらに結構な速度でむかってくる四つの物体を察知した。
「ロランさんどうします?」
「目的が分からんが、確保してからでいいだろう」
俺とロランさんは立ち上がり行動を始めた。
ロランさんが何人かにハンドサインで状況を伝える。
読み取ると俺とロランさんで倒すから、逃がさないようにしろか。
俺とロランさんが気配を殺して走りだした。
俺はロランさんの先行について行く。
ロランさんが走って来るものたちの前に出て、気を引いた所に俺はなんかちょっと前にも、やった気がするが樹を蹴って相手の頭上から攻撃をし、二人の意識を奪う。
残ったものたちも俺の攻撃するべきか、ロランさんを攻撃するべきか、仲間を持って逃げるべきか、迷っているうちに残る二人もロランさんに意識を奪われた。
「何かから逃げているような、印象を受けましたね」
「そうだな」
〈心眼〉を使ってあたりを探ってみるが何もいない。
ん~、相当、恐怖を感じていたように感じたけど、何もいないし。
まあ、いいか。
俺が〈心眼〉を使ってあたりを確認している内に、気絶しているものたちを縛り終えていた。
「どうします?」
「取り敢えず、街の方まで持っていって、犯罪者なら奴隷として売る、でなければこっちを襲ったとして罰金を請求する」
「できるんですか?」
「護衛依頼を受けているから大義名分がある」
逃げている途中に鉢合わせて、意識を奪われて、罪があれば奴隷になって、無くとも罰金を要求されてか………
俺は予想を超える世の厳しさに苦笑いをした。
俺が男たちを運ぼうとすると、とんでもないと言われて運ばせてくれなかった。
大した労力も使わないだろうからまあいいか。
俺はそう言うことにして、ロドリグさんたちのところへ戻った。
「お疲れ様」
ロドリグさんが俺達にねぎらいの言葉をかけていた。
運んできた男たちを俺が捕まえた人攫いと同じ馬車に入れている。
「ハヤテがいるおかげてかなり楽だった」
「ありがとうございます」
俺はロランさんの言葉にお礼を述べて受け入れる
「さてと、少しアクシデントがあったけど出発しようか」
「ああ、そうだな」
二人はそう言いあって、移動を再開する準備を始める。
「あ、シュカ、お弁当ありがとね。美味しかったよ」
「……ん」
ちょっと笑って最初に乗ってた馬車に戻ろうとした。
「また、よろしくね」
シュカがこちらをむく。
「…………ん」
頷いて、直ぐに背を向けて馬車へ向かって歩いて行った。
頭上の耳がピンとのびていた。
馬車が動き出した。
一時間ほどして森を抜けた。
足場も多少平らになり速度が上がった。
数時間後、十数メートル以上の高さの石で造られて外壁が見えた。
門から長い列ができている。
俺はそれを見て長くなりそうだ何と思った。
最前にいる商人は馬車の中身を確認され、一人一人のステータスカードを多分チェック用の魔法具で確認されている。
「お疲れ、馬車に乗って休んで」
ロドリグさんが俺に言った。
「分かりました」
俺は頷いて護衛の方々が休むようの馬車へ行こうとした。
「ここで休みなよ。シュカちゃんもこっちにいるんだし」
「………ん、こっち」
ロドリグさんとシュカが他の馬車に行こうとするとそう声をかけてきた。
「分かりました」
俺は馬車の中に入った。
中に入ると広めのキャンピングカーのような広さと内装だった。
「お疲れ様」
ロドリグさんがコップにジュースを入れて出してくれた。
「ありがとうございます」
お礼をいってコップを受け取る。
……冷えてないな。
俺は減速を使ってコップ内の液体の温度を奪う。
一口飲んで喉を湿らせる。
「君が捕まえてきた男たちのことなんだけどね」
「あ、はい」
「彼らは、門番にまず犯罪行為を犯しているか、チェックを受けた後、証明書が発行されるんだよ。
それを奴隷商に持って行けばその分の代金を受け取れるんだよ。
それで代金を受け取れるのは、捕まえて来たものだけなんだ」
「ええと、自分で行かないといけないと言うことですか?」
「そうだね」
門番さんが代わりに、そう言う所に持っていってくれるようだけど、お金は本人が行かないと渡してくれないのか。
できることなら、奴隷商とやらには、近づきたくはなかったが仕方ないか、ロドリグさんにそれをさせる訳にもいかないし。
俺はロドリグさんから、この国の奴隷制度について細かく聞いた。
俺が行くのは、街の認可を得た合法的な奴隷商と言うことだ。
大体が犯罪者、借金の担保で売られたものと言うことだ。
「でも、認可を受けていない奴隷商もあります」
「受けていない?」
「こう言っては何ですが、お金が回ることは国にとって都合の良いことです」
「非合法でもですか?」
「非合法と言っても、残念ですが需要の方があるんですよね。
貴族や冒険者………まあ、大半が冒険者ですね。
彼らが都合よく使える人材を欲しがっている」
へぇ、貴族じゃなくて冒険者の方なのか。
「彼らは国にとって使い易い人材なのですが、彼らも使い易い存在を求めています」
まあ、そうだろう。
ある意味、荒くれ者を報酬で釣って、魔物の素材や盗賊の討伐をさせる。
もちろん、軍とかを持っていて、それらもそう言うことはしているが、素材集めをしていると倒す量は下がって、効率が落ちる。
戦力を保つと言うことに関してはマイナスだろ。
故にそれは他のものに委託する。
なんの取り柄のないものでも、ある程度の武器を用意すれば最低レベルの魔物は倒せる。
それが倒せれば、最低ランクの生活は送れる。
まあ、そんなもんでは、満足のできる生活は送れないだろう。
だから、ちょっとづつ魔物を殺して、能力値を上げてもっと強いものを狩れるようになる。
冒険者とかの稼業は金がかかる。
武器やそれらの整備、薬と言った彼らくらいしか買わないもの、極めつけは奴隷か。
自分の命令を聞かせることができる。
それは今まで上のものからの命令を受けるだけだった。
そんなものが、命令を出せる立場にうつる。
快感なのだろう。
本当によくできているシステムだ。
まあ、デメリットもある強制依頼があったり、ほとんどないようだが徴兵があったり、これはメリットかも知れないが、上に行けば行く程優遇を受けられ、完全にそこから抜けられなくなる。
それでも、一部の成功者は大きく知れわたる。
故に、若いもの親から仕事を受け継がない、下の子供が大量に冒険者になる。
魔石や魔物の素材と言った生活の基盤を作っているものが、なくなればかなり大変なことになるだろうが、軍隊の方が最悪の場合変わればいいだけだろうから、待遇改善を要求することもできないのだろう。
ギルドは世界中、隅々まであって、一般的には国に指図を受けないと言われているが、魔石の値段を決めているのは国だ。
何故かと言うと、常時出している依頼は、国からのもので討伐を示すものは魔石だ。
討伐の成功金額は直接魔石の代金と取ってもいいだろう。
しかも、国の出しているものなら、税金も自動的に落とせる。
住民税などは払わなくてもいいそうだが、ちゃんとそこら辺で調整されているのだろう。
それ以外の素材もギルドが仲介して売れるそうだ。
しかも、魔石はまずギルドの売らなくては、ならないことになっているらしい。
完全にこれは国が魔石を管理して行ってことだよね。
もっとも金になるものの値段を握られているのだから、表はまだしも、裏では指図受けてるだろうね。
「それって、彼らは分かっているのでしょうか?」
「高位ならね。でも、低位はそんな余裕はないだろう。
ちゃんと普通の生活ができるランクになれば、徴兵をされるランクさ」
えげつないね………
でも、一定のランクを超えれば、徴兵の強制は免除になるらしい。
そうは言っているが、直接依頼と形が変わっているだけで、何が違うのだろうと思う。
本質は何も変わってない。
世知辛いね。
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