016
本日五話目です
俺はグエンさんの真剣な視線を正面から受け止める。
このような真剣な話がされることは、食事中及び食後に酒が出ていなかったので予想していた。
俺は今朝の時点から、されるのではないかというものが一つあった。
「シュカちゃんのことですか?」
「そうだ」
「俺の職業、称号のこと聞いていますか?」
「ああ、カミラから聞いた」
さっきまでのグエンさんとガウルさんのいいあいの時に、すでに俺のスキルのことを知っていたのではないかと、普通の時であればからかいのようなことをいえるかもしれない。
だが、今、そんなことをいえるような雰囲気ではない。
「それで何でしょう?」
「まず、面倒な説明は抜きだ。お前の旅にシュカを連れていってくれないか?」
予想していたが、俺は何故と思うと同時に目を細める。
「シュカちゃんを追い出す。そういうことなのでしょうか?」
俺は〈心眼〉を発動させた。
「そうではない。
ここにいる全員はシュカのことを愛している。
そのようなことでは、断じてない。
これはシュカの意思だ」
嘘をいっているような反応はない。
それよりも、感じるのは、俺の遠慮のない言葉に対する怒気………いや、さっきの一歩手前。
「すいません。訂正します」
俺はそういって頭を下げ、シュカちゃんの方に顔を向ける。
「本当に?」
「はい」
即座に頷いた。
「………」
分からない。
ふらっと来たようなヤツに、何でそんな信頼しているんだ……
まだ、出会って半日だろうに……
俺はシュカちゃんが肯定するとしても、うんというか、頷くかをするだけと思っていた。
即座に頷いて、はいとまでいってくる。
それ程、本気だということか……
「………安全を保障できませんよ?」
「おいおい、この世界で安全なんてどこにいても、保証できないさ」
グエンさんはそういった。
ドライだな。
まあ、納得はできる。
「………」
「それに、お前さんなら、どんなことがあっても守るだろう」
守れるだろうではなく、守るだろうか……
しかも、本当にそう思っている。
〈心眼〉を使うまでもなかった。
…………何故。
俺の侮辱に対して、本気で怒るそれ程、彼はシュカのことを気にかけている。
…………颯、気を付けて行ってきなさい。
「予言……」
俺は母さんの言葉を思い出し、ふと頭にその単語が頭に思い浮かんだ。
そして思ったことを口から出しす。
そして、その言葉にその場にいる全員が反応した。
俺は視線をカミラさん、マルタさん、パティちゃんへと順にむけた。
そしてグエンさんへ戻す。
「………」
「………」
俺とグエンさんは無言で視線を合わせ続ける。
「ふっ、本当にお前は何というかな。
まさか、そこまで行き付くとは……」
グエンさんは苦笑いをしながら、カミラさんへ視線を送り、彼女が頷くと俺の方へ戻し話をつづけた。
「お前のいっていることは、ほぼ正解だ」
ほぼ、何か間違っていることがあったのか?
「いや、それは間違ってもしょうがないものだ。
まあ、それ以前にお前の出した結論までいくのも、飛躍が過ぎると思うがな。
この世界には有名な予言があってな。
三代目勇者【占星】が、残した異界から現れる【魔王】の予言だ」
………………ああ、何だかクノの介入は本当に助かった意味たいだね。
召喚も異界からくるってことだろうし、そこで俺の職業、称号がばれたら、えらいことになっただろうね。
今朝、カミラさんに【勇者】のことをざっと聞いた。
今代が十代目で。初代勇者【閃光】、二代目勇者【災禍】、三代目勇者【占星】、四代目勇者【司書】、五代目勇者【料理】、 六代目勇者【城砦】、七代目勇者【剣神】、八代目勇者【聖女】、九代目勇者【地縛】。
聞いた時、二つ程、勇者と思えない二つ名のものが混じっている気がするのだが………と思った。
二代目【災禍】と五代目【料理】って明らかにおかしいよね。
【災禍】ってどっちかといえば【魔王】よりだろと思う。
【料理】いたっては戦争にも魔王討伐やこれといった魔物討伐の記録も残ってない。
二つ名通り、この世界の料理文化を相当上げたっていうだけだ、本当にありがとうございます。
さらに、他の【勇者】は何らかの形で、死亡が確認されているのに、一人だけ行方不明っていう謎の人物だ。
噂では、未開の地でいまだ生きているのではと、憶測もあるくらいだとカミラさんはいっていた。
魔力が高いか、魔物を殺し続けていると際限なく寿命は延びるそうだ。
というか、死亡が確認されるとか、全部謀殺か飼い殺しにされたようにしか思えないのだが………
まあ、【勇者】たちは平均的に二百年近く生きたっていうし、別に元の世界よりも生きたし、むこうの世界では味わえないタイプの楽しみを味わっただろうから、かわいそうという思いは抱かなかった。
ちなみに、召喚の空はばらつきがあって、一から六代目まではほとんど、間を開けずに召喚されている。
それ以降は、五から六百年の間がある。
それらと一緒に来たものもいるが、それらのものたちのことはほとんど伝わっていないようで、知らないといっていた。
「それで、それらはどんな予言なんですか?」
「【占星】の予言は全て、的中し、外れたことがないといわれている」
それは聞いた。
【勇者召喚】は彼女の予言を元に時期を決めているらしいね。
まあ、呼ばれて来るものがどんな人物かは、この世界の外のことだから分からないのだろうとも聞いた。
だったら、【勇者召喚】をするものに【料理】について、もう少し警告くらいあっただろうし
「だが、この予言は、他の予言に比べ起こるといっている時期に幅がある。
現れたところを迎え撃つように【勇者】を召喚しようにも、いつ現れるかは全く分からなかったというしましだ。
そして、それがどんな被害を出すのかも、不明。」
そうはいっているグエンさんに聞いてるガウルさん、カミラさん、マルタさんは今にも笑い出しそうだ。
かくいう俺もそうだ。
その予言を聞く限りでは、俺がこっちの世界にきてしまうことは、決定時このような気がするけど、それを早めたのは【魔王】の存在を恐れたものたちだし、そもそも論でいえばその者たちに恐怖を抱かせた【占星】だ。
「でも、それは、俺を信用する理由には、なっていませんよね?」
「まあ、そうだな。
お前は分かっているような顔をしているが、カミラ、マルタ、パティは【巫女】だ。
こいつらが、お前が来るということは予知していたし、そしてそれについて行くことが、シュカにとってプラスになるとも出ていた」
「…………」
あー……なんか、そういわれると、昨日からの出来事で都合が良かったなあと思っていたけど、が何だか納得できることがあるな。
「シュカはいずれこの村から出ていく気だった。
ハヤテ。お前といれば遥かに安全だし早く出ていける」
「…………」
俺はシュカちゃんの方を向く。
「本当に俺でいいの?」
「お願いします」
俺が難しそうな顔をしている時は、祈るような顔をしていた。
だが、俺がそう聞くとほっとした顔になり、頭を下げてそういった。
目をつぶり一呼吸おく。
「グエンさん。必ず守ります」
俺はグエンさんの顔を正面から見てそういった。
それを聞いて、グエンさんはふっと、笑うと。
「よし、マルタ、ティア酒持ってこい」
「……はい」
マルタさんが返事をし、ティアさんは無言のまま部屋を出ていった。
その後は宴会のような雰囲気で酒を飲み続けた。
グエンさん、ガウルさん、カミラさんが俺に次々と飲ませようとしてくる。
最後の方では、ついに断ることができなくなり。
口にするが、〈心眼〉で体内に入っていく、アルコールを加熱して自分で分解させた。
だが、完全にはなかったようで最後は酔いつぶれる形で眠りについた。
三人と意識を手放すのは、ほぼ同時だったと思う。
(スキル・魔法〈理法(隔離)〉を入手しました)
(スキル・魔法〈理法(遮断)〉を入手しました)
(スキル・特殊〈毒素破壊〉を入手しました)
俺はベットで目を覚ました。
………まさか、一日に二回も意識を手放すとは………
俺が寝かされていた場所は、治療の時に寝かされていたのと同じ部屋だった。
意識を失う時体内に残っていた、アルコールも新しく手に入れた〈毒素破壊〉に取り除かれ残っていない。
アルコールというものに即座に意識を混濁させられることなく、徐々に意識がふわふわしていくような感覚は心地よかった。
あの感覚を味わえるとなると、酒を好んで飲むのも分かるな。
ん?
家の外に気配が一つ。
シュカちゃん?
俺は家の外へ出た。
空を見上げると、月と星が見える。
綺麗だな。
大気汚染がないので光が曲がらないので、向こうの世界の空よりも鮮明に見える。
シュカちゃんは庭に置いてある椅子に座り、俺と同じように空を見上げている。
月明かりにてらされて光る髪が風に揺られ、それを手で押さえる。
髪を抑え、白い肌と赤い瞳があらわになる。
闇の中でより浮かび上がるさまが幼さを軽減し、それを見た俺はドキリとしてしまう。
その姿はさながら、一枚の絵画のようだ。
本当に成長したその時は、容姿だけで国を傾けそうだ。
俺が近づいていくと、頭の上の耳がぴくぴくっと動く。
「………ん」
俺の方を見た。
「寝なくていいの?」
「……この時間に起きると聞いた」
「そうなんだ。隣いいかな?」
「………(コク)」
頷いたのを見て隣に座る。
部屋と同じ、甘い匂いがする。
シュカの膝の上に香のようなものがあった。
「どうして……」
「ん?」
「どうして……引き受けてくれたの?」
シュカちゃんの真剣な視線に、誤魔化すということは、できないだろうと感じた。
さて、どうこたえよう。
ハッキリといえば、これといって、これだと思うような理由は思い浮かばない。
シュカちゃんを同情している?
確かに俺と似ているものを感じて、親近感をいだいている。
同行者が欲しい。こちらの世界を知っているものがいるといい。
さらにいえば、それはシュカみたいにかわいい子の方がいい。
………あれ?
俺がそう思っていると、落ち込んだ表情をしたと思ったら、今度は真っ赤になった。
あれ………言葉に出てた?
そう思うと〈毒素破壊〉のスキルが動いた。
「もしかして、その香って自白剤?」
「………ごめんなさい」
ばれるとは思っていなかったのか、シュンとしている。
というか、誰がシュカちゃんにそんなものを持たせたのだろうか?
まあ、いいか。
俺はフッと笑い、空を見上げる。
「………笑うなんて酷い」
拗ねたようにいう。
「ごめん、ごめん。気にしてないよ。ちょっと恥ずかしかったけど」
「………それは私」
「そうだね」
そういって笑いあった。
「………あの」
「なに?」
「………聞かないの?」
多分、シュカちゃんの旅の目的や何故魔王の娘がここにいるのか、とかそういうことだと思う。
「なにを?」
「………あぅ…………」
「まだ、いわなくていいんじゃないの?」
「………興味ない?」
俯いて目を伏せがちにいった。
「そういう訳じゃない、興味はあるよ」
「……だったら」
少し語気が強くなる。
「無理してまで、いうことでもないんじゃないのかな?
まだ、会ったばっかりだし、カミラさんたちに予言を疑っている訳じゃないし、必ずプラスにして見せるけど、少しづつ話して行けばいいんじゃない?」
「………はい」
納得してくれたようだ。
そうだ。
俺は少々悪戯心をいだいた。
「少し近くで星を見てみようか」
「………ん?」
訳が分からないと首をかしげた。
それと、同時に耳も揺れてますます悪戯心が強くなる。
シュカちゃんを俗に言うお姫様抱っこの形で持ち上げる。
膝を曲げ、跳躍の体勢を取る。
〈心眼〉と〈空歩〉を用意し、理法の重力操作で重さを無くし、加速を使い自分の頭上一メートル地点化から、空気を斬り裂くようにし、さらに減速しないように足元で回る空気を作らないように、吹き飛ばすように設定。
さらに、集硬を使い息をする為の空気を集めて置く。
理法の設定を終えると俺は地面を蹴った。
加速を感じさせないように、徐々に加速させていく。
風圧や重力、景色の変化を感じないので、速度がどれくらい出ているかは、まったくわからないが、おそらく音速は完全に超えているだろう。
まあ、減速要因は全て無くしているから、驚くようなことではない。
いや、この世界に来る前の時点で、腕を振るう速度の初速度、音速越えくらいはできたからな。
むしろ、今はとうに数倍を超えているだろう。
俺はもういいだろうという、高度に到達を確認して加速をやめ、減速させる。
集硬で地上と同じ濃度で空気を集め、温度も加熱で調整する。
「ほら」
移動中は景色が見えないように、身体の方へ手を添えていたのをといて、周りを見させる。
「………綺麗」
シュカちゃんはそう呟いた。
周囲に高い樹がはえていて、見ることができない地平線も今なら見える。
見上げるのではなく、横をむいても星が目に入る。
空はドームのように見え、自分たちが星々の群れに紛れ込んだように錯覚する。
「………ハヤテで良かった」
「愛想つかされないように頑張るよ」
「………つかすわけない」
俺とシュカちゃんは、空が白ずんでくるまでそこで星を見た。