015
本日四話目です
「う………んん……」
何だろう、いい匂いがする。
複雑に混ざり合った花のような匂い。
……どこだ、ここ?
俺は起き上がって、部屋を見て思った。
用意された小屋でもないし……
部屋の外にいくつかの気配を感じた
あれ?
俺は身体に違和感を感じた。
どこにも痛みがなかったからだ。
最後の剣の腹での殴打でできたと思ったこぶ。。
直前の膝蹴りでは、最低でもあばらにひび、内臓の損傷くらいは負ったと思う。
だけど、身体を調べてみたが、も何も残っていない。
一番に思い浮かんだのは魔法薬、二番目は魔法だ。
まあ、魔法薬だろう。
連れてきた男たちか魔石からか、それらからお金が入ることは分かっている。
だから、そこから出るものとして、代金を立て替えてくれたのだろう。
また、ステータスカードが見ろと伝えてきた。
念じて手の上に出して、表示させる。
名前 : 黛 颯
職業 : 【魔王】【魔導士】【魔槍士】
種族 : 人族
体力 :E
筋力 :E+
敏捷 :C-
器用 :A-
魔力 :S+
称号
〈魔王〉〈魔神継承者〉〈異世界人〉〈魔神の友人〉
スキル
・戦闘
〈槍術〉〈柔術〉〈脚術〉
・魔法
〈理法(加速・減速・加熱・冷却・重力操作・集硬)〈思考詠唱〉
・生産
〈解体〉
・特殊
〈思考加速〉〈並立思考〉〈魔力操作〉〈柳体〉〈空歩〉new〈心眼〉new〈魔王化〉〈時空庫〉〈言語翻訳〉
能力値に変化はないけど、何というかスキル欄が中々豪華になった気がする。
〈柳体〉の時と同じように横にあるnewを押した。
…空歩…
空気を固め、足場にする。
熟練したものはさらにそれを爆発させ加速させることもできる。
PS
ユニークな手に入れ方だね。
普通は精霊魔法で風を固めるんだよ。
そういう工夫は望ましいね。
これは予想外に理法の汎用性が高いことが分かるね。
でも、理法の新しく出た重力操作って結局、加速、減速の派生じゃないかね。
あ、でも、減速も動いているものに対して、逆方向に加速をかけているイメージだからそんなもんか。
次に〈心眼〉を見る。
…心眼…
視覚を介さない目を開眼し、未来視に等しい予想を可能とする。
PS
アハハ……何というか、これって膨大な経験をもとに、脳とかが最適化されてできるようになるものだよね、これ……
〈並立思考〉で意識的にやってたように見えるんだけど……
無意識で遣るようなものを意識的にやるとか、君の脳はどうなってんの?
むこうと意味合いは同じか。
というか、アハハのところから呆れを感じ取れるのは、俺の気のせいだろうか?
まあ、いいや。
ステータスカードをけしベットへ倒れ込み、大きく空気を吸い目をつぶる。
気を抜くと自然と口がゆるむ。
もちろん、止めようと思えば直ぐに止められるが、止める気は一切ない。
勝つことはできなかったが、今回の戦いでの収穫は相当だ。
今なら、ちゃんと攻撃が通れば、森の主といわれている熊も倒せそうだ。
そう思うと、笑みを止められない。
まだ完全ではないと魔力の面ではいってきている気はするが、今の能力を確実に正しく把握できた気がする。
気配が近づいてきた。
「ハヤテさん、起きてますか?」
扉の前で止まりノックをして声をかけてくる。
「起きてます」
俺は律儀だと思いながら返事をした。
「失礼します」
そういってマルタさんが部屋に入ってきた。
「傷の具合はどうでしょうか?」
「大丈夫です。治療ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「そうですか、良かったです。飲み物を持ってきたので飲みますか?」
「いただきます」
マルタさんは持ってきた水差しから、果汁ジュースをコップへつぎ俺に手渡した。
甘い。
疲れているから、余計にそう感じる。
飲み物を飲んだ瞬間、物凄い空腹感が襲ってきた。
別に動いた後なのだから、不思議がることではないのだが、今まで感じたことのないような耐え難いものだ。
「食事ですね。用意してあるので、いきましょう」
予想できていた。
というとはこれは、治療をした時の副産物みたいなものか。
あの怪我がもう治っているのだから、不思議ではないな。
ただ、治す分は身体の栄養を使うのか、そうなると便利そうだなと思ったが戦闘中では使えそうにないな。
ただでさえ、体力には自信がないのに、それじゃあ直ぐに動けなくなる。
あっているかどうかは分からないが、そう予想を付けた。
後で聞いて見ることにしよう。
俺はベットから出て立ち上がる。
壁に掛けてあるコートを手に取りはおる。
そして、こっちですと促すマルタさんについていく。
昨日きた場所とは違う所に案内された。
扉の向こうには六人と台所の方に一人。
ちょっと前なら、壁を隔てた先をここまで正確に知ることはできなかったが、これも〈心眼〉を得たおかげなのか、得た情報が勝手に視覚化される。
おそらく、情報の大半は魔力からだろう。
後、色は記憶からだろう。
ていうか、これ切れないのかな?
流石にこれが常時見えるのは、ちょっと迷惑だ。
と思うと視覚情報化されたものは消えた。
………スキルって便利だね、自分の身体じゃないみたい。
あまりにも、簡単にできたので呆気にとられた。
それでも、視覚化されていないだけで、何人いてそれが誰かは分かる。
知覚を強化し過ぎて、戻らなくなっているようだ。
俺は仕方ないので、集中の時にたまにする特定知覚の排除をした。
まさか、これを自分でも自分を抑える為にそれをするとは、考えもしなかった。
そう思って苦笑していると、マルタさんに怪訝そうな顔をされた。
マルタさんに促され中に入る。
そこにいたのはさっき視た通り、カミラさん、グエンさん、ガウルさん、リリちゃん、パティちゃん、シュカちゃんの六人だ。
俺の分とティアさんとマルタさんの座る分の空席がある。
手前の席に座ろうとするが、グエンさんが手招きをして奥の上座に促す。
まあ、いいか。
「傷は大丈夫か?」
「はい。治療してもらいましたから、痛みも残っていません」
グエンさんの質問に答える。
「そいつは良かった」
「魔法薬もしくは、魔法を使ったんですよね?
代金の方はどうしたらいいでしょうか?」
「そんなもんはいらねえよ。
今日闘おうって頼んだのは、俺の方だぜ。
それなのに、治療した時の魔法薬の金を払わせるわけにはいかんだろ」
ん~、これは無理に、渡さない方がよさそうだ。
まあ、今渡せるものなんてないから、お金を得た時に移動商店さんに頼むことにもなる。
手間の方がかかるかね……
「分かりました。ありがとうございます」
「まあ、後。移動商店には、毎回護衛をつけている。
お前さんがいればいきだけになるが、つけている奴らの仕事が減るからな」
「そういうことですか。では、頑張ります」
「頼むぞ。まあ、お前さんがいる時に、盗賊連中が襲ってきたら、運がないとしかいいようがないな」
グエンさんは冗談交じりにいった。
でも、こういうのって襲ってくるようなフラグじゃ……
「……そうですね」
グエンさんとの会話が一段落つくと、ガウルさんが話しかけてくる。
「それにしても、お前すげえな親父とあそこまで戦えるなんて」
「いえ、そんなことはありませんよ。かなり手加減されてましたし」
「おいおい、そういう謙遜はいけないぜ。
というか、手加減してたのは最初だけさ。
最後は完全に本気だった」
俺をたしなめるようにいう。
あー………謙遜をすることは、文化圏によっては、侮辱になることもあるんだっけ。
今回は俺が本気でいっているのが、伝わったのかいらだち等に似た感情をいだいているような感じはしない。
「そうだぜ。親父に〈限界突破〉まで使わせたんだ」
「〈限界突破〉?」
スキルだろうか?
「あれ?お前も最後に使ったのは、同じようなスキルじゃないのか?」
「違うだろうな。こいつが使ったのは〈魔力操作〉と〈理法〉だ。そうだろう?」
ガウルさんのいったことをグエンさんが即座に否定する。
凄いな。
俺の持っているスキルをドンピシャで当ててきたよ。
「いや、親父。それじゃあ、頭が追い付かないんじゃないのか?」
「さあ、どうやったかは知らん。だが、事実だ。
〈限界突破〉を使うには、そもそも身体が弱い」
俺そっちのけで話が進んでいく。
〈限界突破〉というのは、かなり身体に負担をかける技のようだ。
まあ、名前からして、肉体のリミッターを外すとか、こっち的な要素が加わると、一度に使える魔力の制限も外すのかな?
俺はふと魔力を使いきるようなことをするとどうなるのかと思った。
今まで、といっても、まだ一日と少しだが、魔力を使うことによる疲労を感じたことがない。
俺は自分でかけている感覚の抑えを外し、〈心眼〉を使う。
スキルも、意識的に使うコツも、あの戦いの内につかんだので、スムーズに発動した。
グエンさんの肉体は、栄養を細胞がどんどんと取りこんでいた。
さらに注視する。
細胞から魔力が生み出されていのが見えた。
今朝のことだが、シュカちゃんの魔力を見た時、魔物と違い全身に均等にあった。
魔物には、魔石という人にはない器官があった。
それらは、空気中から魔力を吸い取り、魔力に自分の色を付けていた。
ん~、それらのことからか予想すると、怠くなったりするのだろうか?
脳にいく分の栄養もそっちにとられそうだし。
考えごとをしていると、グエンさんとガウルさんが自分たちの何方が正しいかと、いいあった後答え合わせという感じで、俺の方を見てきた。
その視線から、話さないという選択肢はなさそうだ。
俺は〈心眼〉を解除し、知覚能力を落した。
「グエンさんの指摘があってますね。俺が使ったのは〈魔力操作〉と〈理法〉です」
俺の言葉を聞いてグエンさんは、だろうなという顔をし、ガウルさんはくそうという顔をした。。
こういったいいあいは、最後に答えを知れないと面白くないだろうし、もやもや感が残る。
というか、あんな白熱したいいあいをして、片方は正解までいっているのに、それを無視できるほど、俺は神経が太くない。
これで、両方不正解なら、どっちも違います、それは秘密ですくらいはいえそうだけど……
「でも、良く分かりましたね」
「まあ、まあ分かったのは古い知り合いの【魔導士】のいっていたものが、まさにそれだったからな。
それとお前の良く分からん。技も分かったぞ。それもそいつがいっていた」
グエンさんは昔を思い出すようにいった。
指しているのは、〈柔術〉か〈柳体〉のどっちか、もしくは両方だろう。
「どんな人だったんですか?」
「妖森族であるに関わらず、魔力に属性がなく、精霊魔法や種族の固有魔法が使えなかった。
しかし卓説した魔力操作能力と異界の知識を使って理法を作り上げた。
そして、力は弱くても正しく力を使えば、攻撃は弾けるっていって良く分からん、技術を研究していた変わりものだ」
妖森族か。
やっぱり、そういう種族もいるんだ。
……何だろう、全然驚いてないな……
俺は感覚が麻痺しているのか、適応能力が高いのか、分からないがどちらにせよ。
まあ、いるんだろう。
としか、感想が浮かばなかった。
「結局、攻撃が目で追えないから、全く使えなかったんだがな」
グエンさんがそういうと、聞いていた全員がガクッとなった気がする。
「あいつがいうには、知覚系のスキルがないとできないっていってたな」
どうなんだ?という感じにこちらを見て言葉を切る。
知覚系?最後に手に入れた〈心眼〉しか持ってないが?
あ、〈思考加速〉と〈並立思考〉も知覚系かな?
でも、あれ使っても、見えなかったから、最終的には経験じゃないのかな。
俺はそのことをいった。
「ということは、あれか。結局、簡単にできるものじゃないってことか?」
「そうですね。
比較的に使えるようになれば、力の強い者に対して、対抗手段にはなります。
使えれば、簡単に攻撃を防げるともいえるかもしれませんが、相手の動きが読めることが前提です」
「できるようになるのは、簡単って訳じゃないのか」
「そうですね」
結構死ぬ思いしないと、って感じかな?
〈柳体〉の時は死にかけたし。
「まあ、いいか。取り敢えず、お前の考えたわざと同じものを使ってたやつが、いたっていうことを伝えにいくか」
ククッと、声を上げて笑った。
会いに行くときの面白い手土産が手に入ったことで、相手がどんな顔をするか、考えて楽しんでいる顔だ。
それを見ると結構、親しい人なんだと容易に思わせる。
周りで聞いている人たちもそれは知らなかったようで珍しげに聞いている。
カートの音が聞こえた。
扉が開く。
ティアさんとマルタさんが料理と飲み物を持ってきた。
パッと見た感じ、ゆうに十数人前を超えていそうな量だ。
肉が中心となっているが、女性も多いからだろうか野菜も多い。
しかし、思ったのだが、主食と類いのいうものがない。
まあ、米なり小麦なりの栽培には、面積が必要になるからこの村では作ってなかった。
移動商店の規模がどれくらいなのかは、分からないけど香辛料と違って量が桁違いになるから、持ってくるのも無理なんだろう。
とはいえ、様々な味付けをされていて、野菜を間に挟めば十分に食べられた。
俺とグエンさん、ガウルさんが中心に食べ、最初に持って来たものも直ぐに無くなった。
俺が五人前、ガウルさんが六、七人前、グエンさんが九、十人前は食べただろう。
料理が美味しいのもあったが、魔法薬で傷を休息に治した為か、身体が大量の栄養を欲していつもの倍以上は食べた。
「さてと、お前に頼みたいことがある」
食後のお茶を飲みおえて、グエンさんが切り出した。