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013

――ブライマル自由都市連合 辺境の村ユミリア

 澄宵月 22の日


 ユミリアにもすっかり来慣れてしまった感がある。

 人もまばらな辺境マップに2人だけ。普通ならゲーム内の恋人同士とかそういった感じの雰囲気だ。

 もちろん、それは一般論であって、ユキとカンナについては全く当てはまらない。むしろ着くや否やデュエル申請のシステムポップアップが上がってくるとかどれだけ殺伐とした間柄だというのか。


 世界はもっと俺に甘くて良いと思う。世界というか主にカンナさんは。

 

「……なんだか寂しそうな顔してますけど、何かありましたか?」

「なんでもないよ。世間の冷たさと戦ってただけ」


 不思議そうに小首を傾げる黒髪の女剣士に、俺はため息をついた。

 優しくして、なんてお願いしたところで生ゴミを見る目で見られるだけだろうしな。世の中には言っても仕方無いことばかりなのだ。


 ため息を継続しながら、デュエル申請のウィンドウに指を滑らせる。時間無制限のデスマッチモード。

 もちろん、と言っていいのかは微妙なところだけど、カンナは突然意味も無くデュエル申請を出してきたわけではない。


――そんな昔のことなんてじっくり話すことでも無いし……。そうだ、言ってたよね、戦い方を教えて欲しいって。もう週末まで時間もないし、ちょうど良いから……。


 そう言い出したのは俺の方だった。


 デュエルシステムを利用しての訓練、なんて言うとちょっと堅苦しすぎる感じがするけど。

 デュエル開始の鐘が高らかに鳴っても、カンナはいつの間にやら取り出した不滅の刃(デュランダーナ)を脇に垂らしたまま、俺の対応を待っているみたいだった。

 

「カンナは、剣道とか武術とかやったことある?」

「無いですよ。中学の選択で弓道をやったことがあるくらいです。ユキも当然無いですよね」

「なんでしょうかその断定」


 お察しの通りインドア人間です。運動神経って何それ美味しいの。

 俺も愛剣、清冽の剣(オートクレール)を実体化させ、もっともオーソドックスな腰だめに構えてみせた。


 もはや反射なのか、間髪おかずに青光りする刃を上段にかざしたカンナに苦笑が漏れる。


「別に攻撃しないよ」

「……どうですかね。ゲスなユキのことですし」


 随分と信用がないものだ。心当たりは山ほどあるので自業自得ですね。

 こほんと咳払いして、誤魔化した。


「銀剣のスキルってさ、とりあえずコールすると発動はするけど、体勢に無理があると発動が遅れたり精度が下がったりするんだよね。片手剣使ってたときは、あまりそのズレを気にせず済んでたけど、私が大剣を使い始めて、苦しめられたのはまずそこだった」


 半年前に大剣という武器を選んだのにほとんど理由なんて無かった。ただ、誰も使っていない武器と言うことで興味を覚えたぐらい。

 そして、大剣を携え赴いた戦場で、誰も使って居ない、その訳を思い知らされることになった。

 大剣の重量に振り回される通常攻撃にも苦労したが、それ以上に酷かったのがスキル。

 スキルネームをコールするとシステム上スキルは必ず発動する。ただ、スキルのあるべきファーストモーションに合うよう、システムが今の体勢を無理矢理補正しようともっていく。その間の隙。片手剣の時にも少しはあっただろうそれが大剣の重量によって顕在化してしまったのだ。


「てんでファーストモーションから離れたところにある大剣を引き戻すのに、普通に一発通常攻撃繰り出すぐらいのラグがあって。それもシステムのオートアシストだから実質防御や回避行動不能。スキルコールしたら、スキルが発動するまでにぼこぼこにされて死ぬのの繰り返しだったよ。

 もう本当に酷くて諦めようとも思ったけど、それも癪で。レギオンを離れたから時間だけはまあたっぷりあったから……とことん練習してやろうと思って」


 ふっと鋭く息を吐き、腰だめの大剣を頭上高く振り上げる。鋭く切り下ろした切っ先の左に、足を使って体の方を回り込ませる。右から来る相手の反撃をガードするイメージ。そこからさらに一歩を踏み出して、わずかに剣の角度を調整してやれば。


死神の鎌(リーパーズサイズ)!」


 瞬間、ほとんどコールと間を置かずに、光り輝いた刃が円月の軌跡を中空に刻んだ。

 突進の勢いを制動し、右足で大きく弧を描いて止まり、顔を上げるとカンナと目が合う。


 ……決まった、とか思ってませんよ、決して。


「カンナのモーションはもうかなり綺麗で無駄が無いと思うけど、そこを意識するともう一段強くなれるんじゃ無いかなって」

「凄いですね、改めて意識して見ると」


 そんなことを素直に言われると気恥ずかしく頭を掻いてしまう。

 普段捻くれたことばかり言われることもあり、これがギャップ萌えと言う奴だろうか。このくらいで萌えを感じさせるとかカンナさん普段どれだけツンギレなの。キレてるのは主に俺のせいな気がしなくもないが。


「でも、言うは易しというか……普段意識できないようなところをどうすれば」

「そう、それでさっき武術とかやったことある? って聞いたんだけど……やっぱり綺麗な体運びとかは、ゲームも現実も同じみたいなんだよね。私は、同じ大剣を扱う武術ってことで、ドイツ流剣術っていうのの動画を見たりして、体捌きを練習したよ」

「……なんだかすごく中二病くさいですね」

「こんなゲームやってる時点でもう十分中二病くさいと思うんですよね」


 カンナに反論する。ゲームの中だろうと、剣で強くなりたいとか本気で考えた時点できっと世間的には中二病なのだ。


 そう、ゲームのことで悩んで、苦しんで、学校を休んだりするようじゃ……。

 

 聞こえたのは、カンナのため息。


「少し、打ち合い付き合って貰っても良いですか」

「うん、モーションの違和感とかあったら言うね」

「打ち合いなら、おしゃべりしながらでも出来ます」


 そんな言葉に、顔を顰めた。

 ……訓練? 修行? に集中して、すっかり忘れてくれるものと思っていたのに。


「元々、戦い方を教えてくれるのはついで。ちゃんと話してくれるっていうことだったんですからね」

「べ、別にそんなこと約束したわけじゃ」

「往生際が悪いです」


 ぴしゃりと言われて、肩をすくめた。

 

 清冽の剣(オートクレール)をまた腰だめに構え直して、いつでも良いよと、カンナに合図する。

 それから、俺はぽつり、ぽつり、渋々と、言葉になりにくい言葉を選び始めた。

 

 苦手なのだ。人に悩みを話すだとか、自分だけの問題を人に押しつけているみたいで。

 だけど、こんな風にわざわざ家にまで訪ねてきて貰ってまで……心配して貰ってまで。表に出してしまったことを黙っているのも、女々しい気がした。


「難しいんだけどね……」


 そんなことをぼそぼそと呟き始めた先から、剣戟が襲いかかってきて、苦笑してしまう。

 それも結構激しいし。


「……あの、ちょっと手加減とか」

「練習にならないじゃないですか」


 そんなことを真顔で言うカンナは天然なのか、なんなのか。


「まぁ、その、なんだろう。オルテウスさんから言われたのは、なんでそんな煽りプレイをするんだって。間接的にそのプレイスタイルのせいで、カンナはエルドールから抜けることになったんだってことで」


 先ほどより強い斬撃を叩き込まれて、思わず数歩後ずさる。

 そのまま鍔迫り合いに持ち込みかねない勢いで、こちらを睨み付ける強い光を宿した瞳。


「だから、あれは私の選択。ユキは関係無いって言ったじゃ無いですか」

「わ、わかってるよ……でも、そう言われた時に、思っちゃったんだ……私は、また間違えたのかな、って」

「……間違えたっていうのは?」

「半年前のこと」


 言葉を切って、少しの間目を閉じた。

 

「……私は、レギオンメンバーを守れなかった。カンナは別に私のレギオンメンバーじゃなかったけれど……キャメロットから抜けていったその子と同じ思いをカンナにさせてしまったのかなって。そう思ってしまったんだ」


 目を開く。その瞬間、襲いかかってくる剣。

 だけど、不滅の刃(デュランダーナ)清冽の剣(オートクレール)と火花を散らす前に止められた。


「レギオンを抜けるのが辛くなかったと言ったら嘘になります。でも、それはその思いも含めて私のものです。ユキが悩むことじゃありません」


 カンナは静かな言葉でそう、


「……だけど、オルテウスさんの訊いたことの一つは、私もずっと訊きたかったことでした」


 不滅の刃(デュランダーナ)の切っ先を俺のことを貫くように差し翳して。


「なんでユキはそんな煽りプレイをしてるんですか。昔は違ったって言うなら……それも、半年前のことが原因なんですか」


 問いかけられた俺は、だけど、力なく首を横に振った。


「もうレギオンとかそういうのは向いていないんだなって思った。それに、色んなしがらみとかレギオンマスターの立場とか、そういうことに縛られて、自分の思うことを貫けないのが嫌だと思った。

 だから、ソロで好き勝手なプレイを始めたんだと思ってたんだけどね。改めて訊かれたら……なんだかわからなくなっちゃって。半年前の俺は、一体何を思っていたんだろう」


 そんな問いかけ、カンナに答えられるはずも無く、沈黙が降りる。

 さぁ、こんな話は良いから訓練の続きを、そう開きかけた口は、だけど、カンナの言葉に遮られた。


「思い出しましょうよ。辛いかも知れないですけど……半年前のこと」


 真っ直ぐな瞳に、見つめられて。


「私は半年前にはユキのことなんて知りもしなくて……知っていたところで、ユキの悲しさを私が感じることなんて出来ないですけど。

 それでも、話せばきっと、って言ってくれたのはユキなんですから」


 真っ直ぐな言葉に、優しく背中を押されて。


「……そうだよね」 


 半年前……。

 そう、あの日も、このくらいの時期だった気がする。

 ゲームの中の季節は夏にさしかかりはじめ、目映い陽射しが照らし、そして時折夕立が来たる。

 

 思い出の中の景色は、雨が、降っていた。 


 

すっかり2週間1更新になってしまっております。

せめて1週1更新まであげたいのですが。なかなか。


続きとあわせて、既出部分のブラッシュアップも少しずつかけさせていただいております。ほとんどは誤字修正レベルですが、大きな改変があった場合はお知らせします。

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