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011

―ブライマル自由都市連合 辺境の村ユミリア

 清明月 10の日


――ごめん、急用! 後でネージュに場所聞いて行くから!

 

 ……なんて。

 怪訝そうな目のジークとゲルトさん。あの場に居た人を除いて、銀剣の中に大して仲のいい人なんて居ないはずの俺に、どんな急用があるのか、疑問に思われて当然だろう。

 ネージュは……一瞬間を置いてふっと微笑んで見せた。理由に気付いたみたいで、これはこれで面倒くさい。


 そもそも、俺はなんでそんなことを言ってしまったのか。

 カンナがログインしてきて、パーティー抜けたところで、そんなのカンナの自由で、俺も気にすることじゃないはずなのに……。


 すっかり来慣れてしまった、ユミリアの村。

 果たして、同級生の女の子はそこに居た。中心の広場からは少し外れた、木立の根元、地面に盛り上がった太い木の根に腰を預けて、何をするでも無く、片膝を抱え込んで。


「……カンナ」


 声をかけるより先に、俺のことに気付いてはいたらしい。

 こちらをゆっくりと向いた、黒髪が額に揺れ、その下からハシバミ色の瞳がこちらを睨み付ける。


 ……俺、何か睨まれるようなことしましたっけ。


「あの……カンナさん?」

「何かご用ですか」


 素気ない言葉に、俺は愛想笑いを浮かべて、髪をかき回した。


「あ、いや、うん……特に用事があったわけじゃないんだけど、ログインしたみたいだったから」

「ストーカーですか」

「ち、違いますけど……」


 うん。ストーカーですね。ログインしたら駆けつけるとか……。

 自分の発言の迂闊さにため息をつく俺に、カンナも何故かため息をついた。


「……ごめんなさい、パーティー急に抜けてびっくりしました?」

「その……うん。びっくりしたのは確かかな」

「戦争行ってるみたいだったし、知らない人も居たので」

「いや、私も、ごめんね。パーティーに知らない人入れちゃって。ゲルトさんっていう、前のレギオンの知り合いでいい人なんだけど」

「そもそも、私とのパーティーなんて残しておかなくて良いのに……と、というかですね!」


 何故か顔をぱっと赤らめると、カンナはその場に立ち上がって、一層鋭い目でこちらを睨み付けてくる。


「ログインもしてない人が入ってたら固定パーティーみたいじゃないですか! 別にそんな理由も無く組んだだけの一時パーティーなのに、は、恥ずかしい」

「う、うん……その、ごめん」


 カンナさんのご懸念の通り、愚妹には既に誤解されております。

 謝ったところで、いつも通りというべきか。クールな見た目に反して瞬間湯沸かし器な同級生の怒りは静まる気配はなく、俺は機嫌を直して貰う方法を考えた。


 ……後で思い返してみると、何故そんな破滅的な方法に思いが至ったのか。思いつき、閃きを含めた思考過程を記憶しているはずもなく、明らかに悪い電波でも受信したとしか思えないのだけれど。


 ネージュとゲルトさんとのパーティーを既に解散していた俺は、新しいパーティーの要請を、カンナに向かって飛ばしたのだった。


 目の前に上がっただろうポップアップに、カンナはびっくりした顔をして、それから目まぐるしく表情を変えた。ただ、一つ表情を変えるごとに、顔に占める紅潮具合はどんどん上がっていき、最後には真っ赤になって、形の良い眉と目を極限までつり上げた表情で固定された。

 その表情には、もの凄く見覚えがあった。最初の『出会い』というべきか……旧校舎で蹴手繰り倒されて、踏みつけられたときと、ゲームと現実という違いはあれ、全く一緒のもの。


「ど、どういう意図なんですかこれは……」

「どういう意図って……その……」


 言い訳しようとして、自分の致命的な誤りに気付く。

 

 固定パーティーみたいじゃないですかと言われたすぐ後に、パーティーを渡すだなんて。

 戦争が終わったからすぐにパーティーを渡すだなんて。

 まるで、普段はずっとパーティーを組んでいてくださいと、お願いしているようなものじゃないか。


「ああああああああ、えっと、違う! 違うんです! そんな深い意味のあるモノじゃ無くてこれは! その、仲直りの挨拶みたいなもので、その……」

「いくら友達居ないからって、ユキと固定パーティー組むほど落ちぶれてないですからね」

 

 相変わらずの酷い言われよう。というか自分で認めちゃうんだ、友達居ないって……。


 ふん、と鼻を鳴らして、カンナはシステムウィンドウを右手で払う。ポップアップをキャンセルしようとしたのだろうが、その顔が露骨にしかめられた。


「あ……」

「え?」


 パーティーが承諾されました、というメッセージとともにパーティーメンバー一覧に浮かび上がる、Kannaの名前。


「ま、間違えました……」


 なんだろう、このタイミングで、そのミス。気まずくカンナと視線を交わして、それから俺は仕方なく、ごまかしの苦笑を浮かべた。


「ま、まぁ仕方ないよ。わざわざ解散するのも何だし、それにまた変なのに絡まれるとも限らないから……パーティーのプライベートモードトークのがやりやすいし」

「そ、そうですね……」


 ……俯いた、カンナのその表情になんだか、少し安堵の色が見えた気がしたのは、俺の思い上がりだろうか。


 カンナのネームタグの横には、既にレギオンエンブレムの表示は無い。

 レギオンも無く、おそらくクロバールの知り合いには話しかけにくく。こんな辺境の村に一人。全ての感覚を没入させる仮想現実型のゲームでは、ソロというのは、なんとはなしに心細いものだ。俺は元々現実でも一人で居るのが気にならない部分もあり、もう慣れたけれど、それでもレギオンから離れてすぐの頃は……。


 だから、カンナはパーティーぐらい誰かと組んでいたいものなのかなって……その相手が俺というのは甚だ不本意なものなんだろうけどさ。


「ネージュ達と戦争だったんですか?」


 プライベートモードの会話。気は落ち着いたのか、改めて木の根元に座り込んだカンナに、俺は隣の木に背を預けた。


「うん。レティシアやジークも一緒で、クロバールとの戦争だった」

「ツィタディアでしたよね、戦争記録見ました。アグノシアが勝ったみたいですね。おめでとうございます……なんて私が言うのは変かも知れないですけど」

 

 覗った、黒髪に隠れた横顔からはなんの表情も見て取れなかった。


「カンナは……亡命のこと、まだどうしようか考えてる?」


 俺の問いかけに、カンナは少しだけこちらを見上げて、それから……どうしていいか解らないとでも言うように、首を横に振って見せた。



最近レティシアさんばっかだったので、漸くカンナさんの手番です(何


それから、小説家になろう 勝手にランキングに遅ればせながら参加してみました。

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