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『深追いは無用ってところかなー』

「どうしたの、らしくない」

『隘路で必死で食い止める振りして、抜けたところに火力の集中点でしょ? こっちもやられたらペナルティあるだろうし、ここですり潰し合っても仕方無いかなーって』


 完全に見透かされている。レティシアとの会話に、苦笑せざるを得なかった。

 事実、ゾンビ陣営からの攻撃は薄らぎつつある。この場の指揮権はレティシアが握ったんだろう。最弱のアグノシアとは言え、そのトップレギオンマスターのネームバリューは絶大だ。


「レティシアには読まれてたみたいです」

「まぁ鉄板というか定石通りだからね。読み合いの通じる相手で良かったというべきか」

 

 レティシアが敵側にいて、クロバールの指揮官が隣にいるというのも妙な感じはしたが、イベントならではと言うべきだろう。


 散発にゾンビやらスケルトンやらが押し寄せるだけになった戦場を、俺達はゆっくりと離脱した。

 クエストポイントに到着すると、すぐに次のクエスト目標が通達される。


―無事島からの脱出に成功した。

 だが、カイレシアの率いるアンデッドの軍隊は健在であり、また君たちの仲間の半ばも彼の者の魔術に囚われたままだ。

 彼の者の目的は、ロサディアールを支配し不死者の国へと変えること。

 ロサディアールでの決戦が君たちを待つ。


「まさか、クエストしにきてまで戦争することになるなんてねー」

 

 クエスト状況的には全くゆったりのんびりという感じでは無いのだが、船に揺られての移動時間はどうしても気持ちが緩む。

 船縁に上半身を預けてそんなことを言うネージュに、俺は肩をすくめた。


「水着姿なのはずっと変わらないし、夏気分でいいんじゃない? ドキッ水着だらけの防衛戦。ポロりもあるよ、とか」

「うわぁ……大剣使い気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「うるさいな、別に本気で言ってないからね!」


 剣の巫女(ソードダンサー)とカンナの揃った声に、ふんと鼻を鳴らす。最近気持ち悪いとか言い慣れすぎて心に刺さらなくなってきてしまった。こうやって人は大人になっていくんですね……。ちなみにカンナはアンデッドだらけの世界から脱出して息を吹き返したみたいだった。

 カンナやネージュを始めとした連中がぼんやりと夜の海の景色を眺めている中で、俺とレオハンはインフォメーションウィンドウに浮かべたロサディアールの地図とにらめっこをしていた。


 ロサディアール自体はそれなりに規模のある街でホームタウンにしているプレイヤーも多いみたいだが、いかんせん自国領でも無く、今まで大きなクエストも無かったので土地勘は無い。

 海沿いの港町というブライマル自由都市連合によくある都市ではあったが、ロサディアール海には海賊がよく出没するという設定に基づき、街の半分が要塞化されているのが街の特徴だった。

 ヴェネツィアの支配下でアドリア海の要衝として発展した、ドブロブニクの景色などを彷彿とさせる街並みがインフォメーションウィンドウに映る。

 

「まぁ防衛戦をやるにはうってつけという所だね」

「海から攻められるっていうのはあんまり経験が無いですからね。いや、都市防衛戦も銀剣だとやったことないからアレですけれど」

「ここまで宣戦布告が無かったというのも、運営の意図に反していたというべきなのかね」


 そんなことをクロバールの人の口から言われると苦笑してしまう。

 まさに近々、クロバールとアグノシアとの間で都市防衛戦を伴うであろう全面戦争が予定されているというのに。


「他意は無いから、安心してくれたまえ」

「ま、勝ち負け別にして血が騒ぐのは間違い無いですよね、防衛戦」


 大分昔のファンタジー映画で見た、闇の軍勢に攻め立てられる白の都市。敵軍から街を守り抜くというシナリオは、心を熱くさせるロマンの一つなのだ。


「ほんと、ユキはそういうの好きだよねー」


 横から口を差し挟むネージュをちらりと見やった。


「別にネージュももうちょっと興味を持ってくれても良いと思うんだけど」

「私はほら、戦場を縦横無尽に飛び回るエルフ役なので」

「こんな軽薄なエルフ、私見たこと無いんだけどな……」


 ハイファンタジー的にエルフは博識で思慮深いと思うんだけどね。愚妹から思慮深さを感じたことはこれまで一度たりとも無かった。


『ユキもたぶん今作戦考えてるところだよねー』


 そんな声が耳元に割り込む。言うまでもなくゾンビと化したレティシアからの霊界通信だ。


「……教えないよ?」

『なんでユキはわかってないかなぁ。朴念仁だなぁ』

「なんじゃい朴念仁って」

『せっかくユキと戦えるっていうのにそんなこと期待してないよ』


 そんな言葉に苦笑する。そういえばなんだかんだいってレティシアも、作戦を考え、読み合いで相手の上を行くことに至上の喜びを感じるタイプの人間だった。そうでなければ、俺のレギオン時代の作戦参謀なんて務めていないし、ラウンドテーブルのマスターとして戦争に関わり続けてなんていないだろう。


『面白い地形だね』

「そうだね……船を要素に入れた戦いはやったことないから、ほんと手探りだよ。みんなそうなんじゃない?」

『定石無しの戦いって楽しいよね』

「うん」


 元々はバカンスみたいなつもりのクエストだったけれど、ま、こういうのもやっぱり悪くは無い。



少し間が空いてしまいましたが、お届けします。

クエスト回を抜ければ、また更新速度を上げられそうな予感が自分の中でしています……(何


また、他作品のちょっと宣伝を失礼します!


上原さんは異世界転生できない

https://ncode.syosetu.com/n9890fc/

学園ラブコメ(?) しばらく毎日更新予定です、12万字程度での完結目標。

こちらも応援いただければ幸いです!

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