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019

「カンナはさ」

「……はい」


 相も変わらずどんよりとしたカンナの声に、苦笑いというよりもはやため息交じり、俺は手元の薪を炎の中へと放り込んだ。

 ぼんやりとしているうちに、日はあっという間に落ちてしまった。青みがかって透明な、南国の夜空の下は思ったよりも明るかったけれど、流石に手元足下は心許ない。ダンジョン探索用にストレージに放り込んであったたき火に火を灯すと、いかばかりか心が安らいだ気がした。


「なんでお化けとかそんなに苦手なの」

「知りませんよ……怖い物は怖いんです」


 俺の問いかけに、カンナは顔の半分を膝の間に埋めたまま。わずかに覗いたハシバミの瞳の中に、橙の光がゆらゆらと揺れる。


「それもそうだね」

「あと……誰も、怖く無いなんて言ってくれなかったから」


 流そうとしたところに、ぼそりと一言。

 俺はきょとんとして、黒髪の少女の方を見やった。


「……なんでもないです」


 耳に届いた声が幻であるはずも無く。いや、全てが電子信号としてやり取りされるこの仮想世界において、何を幻と言うべきかなんて難しい話であるけれど。

 しばらくどうしたものか悩んで……立ち上がるとカンナの方へと歩み寄った。

 胡乱げに見上げてくる切れ長の目に、どんな顔をしたものか、視線を逸らしながら、俺は、その艶やかな黒髪の上にぽん、と手を置いた。


「よ、よしよし……?」


 それは、おそらく一瞬の――だけど随分長く感じられた間があって。

 

 たき火の明かりの中でもはっきりと分かるくらいにカンナは顔を真っ赤にして弾かれたように立ち上がった。


「ば、ばばば馬鹿にしてるんですか!?」

「ば、ばばば馬鹿にしてないよ!?」

 

 やってしまってから自分のやったことに驚くみたいに、急に動揺が押し寄せてきて、俺は慌ててぱたぱたと手を振った。


「だ、だってカンナが誰もお化けが怖く無いって教えてくれなかったって言うから」

「い、言ってません!」


 あちらも同じく動揺まみれの、そんな抗議はとりあえず無視する。


「よしよし怖く無いよーって……」


 小さい頃、変に大人ぶって、同じようなことを雪乃にやってあげたことがあるような気がした。

 同じくらい小さい頃の栂坂さんが、一人でお化けに怯えて震えている姿が脳裏に浮かんでしまって。

 まぁそれは小さい頃にやってあげるから、なんだか良さげなことに見えるのであって、高校生にもなってやったら、そりゃ馬鹿にしてるようにしか見えないか……見えないですね。


「……馬鹿じゃ無いんですか」


 頬に朱色を残したまま、そうぼそぼそと呟くカンナ。それでも少しは元気が出たように見えたのは、俺の錯覚だろうか。


「きゃー、ユキちゃん優しいー」


 突然の声に、肩をふるわせた。


 それこそ幻聴であって欲しかったが、幻聴であるはずもなく。

 見回した岩陰からひょっこりにやけ顔を覗かせていたのは、確認するまでも無く我が家の愚妹だった。

 

「殺す」

 

 ストレージから大剣を引き抜き、肩に背負い込んで、言葉通りにネージュに引導を渡そうとした俺だったが、その背後から現れた二人に流石に兄妹漫才を続けるわけにもいかず、愛剣をすごすごとしまい込む。

 剣の巫女(ソードダンサー)ことガランサスと、ブリュンヒルデの胡散臭い紳士ことレオハン。後者の二つ名は今考えました。

 ガランサスの眼差しがどこか冷たいのは、気のせいでは無いだろう。


「っていうか、ちゃんと返事してよ、メッセージ送ったのに」

「あれ? あ、そうだ! ちょうどゾンビに囲まれてて必死だったから後で返事しようと思ってて、すっかり忘れちゃってた、ごめんね」


 レティシア達と連絡をとったのと同じタイミングで、ちゃんとネージュにもメッセージを送っておいたのだ。それなのに、この愚妹と来たら。

 肩をすくめて。


「で、ネージュ達はゾンビにはなってないよね?」

「こんな可愛い妹がゾンビになんて見えるかね、ユキちゃん!」

「そうだね、元から頭の中腐ってちゃこれ以上腐りようが無いよね」

「ひどい!」

「そっちこそ。大剣使いは良いとして、カンナを危ない目に遭わせて無いよね?」


 ネージュは良いとして。相変わらず棘の多いガランサスの言葉にふんと鼻を鳴らした。


「そんな、カンナは自分の身ぐらい自分で守ると思うけどね」

「……ごめんなさい」


 なんだかあらぬ方向に流れ弾が飛んでいってしまったけれど、仕方無い。


「……無事なら良かったんだけどね」

「どうにも厄介なクエストな模様だね」


 レオハンの言葉に、俺は首を縦にふった。

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