017
「ふっ!」
背負い込んだ大剣を、鋭く吐いた息とともに一閃させる。
このレベルのモンスターならスキルを使うまでも無い。重さを運動エネルギーに変えた愛剣は、骸骨戦士の頭蓋からあばら骨までを過たず真っ二つに砕いた。
呆気なくぱらぱらと崩れ去っていくモンスターに、俺は拍子抜けした気分で、大剣を地面に突き立てた。
イベントのキーモンスターかと期待したが、ハズレだったのだろうか。
頭をかきやって、振り返った、そこにはぺたんと地面に尻餅をついたままの、黒髪の女の子の姿。
「……大丈夫? カンナ」
「だ、大丈夫で……」
「……はい、大丈夫じゃないね」
元々、どうにもご本人は認めたがらないが明らかに怖い物が苦手なカンナさん。そこへ、そういうのに割と耐性のある俺から見ても気味の悪かった、普通の人間だったはずの船員さんの変異。
完全にふぬけたようになってへたり込み、普段の眼力はどこへやら。呆然と中空を見つめるカンナに、俺はため息をついた。ここまで深刻なダメージを受けているともはやからかう気にもならない。
追加のモンスターが出現しないか、あたりの気配に耳を澄ませながら、どうにも所在なくあたりをぶらついた。
同級生を立ち直らせるのに特に俺ができることがあるわけでもなく……安心させるために手を握っててあげるとか? 抱きしめるとか?
「いやいやいや……」
どれだけイケメンのつもりなの……そんなことしたら我に返ったカンナさんに殴り飛ばされるだけだし。
ショック療法としては効くのかもしれないけれど、とにかく今俺に出来ることは何もないのだ。
意識をクエストの方に傾ける。
普通の人間だったはずの船員がアンデッドに変異した……あるいは、元々アンデッドが人の皮を被っていたのかもしれないけれど、どちらにせよ、あんな演出があって、クエストに何の関係も無いとは考えにくい。
「……あれか」
少し探索範囲を広げたら、手がかりは割と簡単に見つかった。
土の上にわずかに零したような、きらきらとした砂。わずかな魔力の残滓を放つそれを、俺は慎重に距離を保って鑑定した。
――死蝶の鱗粉
生は死に。死は生に。魂を奪い、魄を縛める、忌まわしき枷。
触れたものの意志を奪い、ロサディアールの■■■■に隷属させる呪法。
「やっぱり、ゾンビパウダーの類い……」
自分の推測が正しかったことに、ふぅとため息をついた。
直接触れていたらどんな目にあったことか。
あの船員NPCは何者かにアンデッドにさせられたのだ。このアイテムを使って。
ならば、このアイテムの主……削り取られたように読み取られなくなっていたフレーバーテキストに書き込まれた名前の誰かこそ、このクエストの黒幕と考えて間違い無いだろう。
この島のどこかに、潜んでいるのだろうか。
それを見つけ出して倒せば、クエストクリアなのだろうか。
「みんな、聞こえる?」
とりあえず情報を共有しておこうと、グループトークにメッセージを送る。
『はーい、ユキちゃん聞こえてますよ』
陽気な調子で返してきたのはレティシア。
「んと、ゾンビパウダーみたいなアイテムが落ちてるのを見つけたんだけど、これが手がかりっぽい。ただ、たぶん直接触ったりはしない方が良いと思う。もし他でも見つけたら注意してね」
『あ、それ私たちも見つけたんだけどねー』
「うん」
『ちょっと手遅れだったかもねー?』
「……うん?」
やけにほわほわふわふわ、投げ遣り調に聞こえなくも無いレティシアの言葉に、俺はかっくりと首を傾げた。
「それ、どういう……」
『ふふふふ……』
ちょっとネジが飛んじゃってる風のレティシアに戦慄する俺の耳にもう一つの声が飛び込んできた。
『ユ、ユキ……た、たすけ……』
間が大分空いてしまって、短めでなんとお詫びしてよいかorz
生きてますよ更新です......!




