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005

「なんで悠木はこんな無謀なプランを提案したんだ……」

「なんでだろうね……人間判断を誤ることはあるんだよ」


 男子二人で重苦しい溜息をつく。

 もっとも裕真の言う通り、言い出しっぺの俺には何ら文句を言う権利は無いわけなのだけど。


 商店街からは少し離れる、幹線道路沿いのショッピングモール。オープンがニュースになるようなアウトレットモールとかと比べるとこぢんまりとしてはいるけれど、それでも地元の人にとっては貴重な買い物の場だ。


 俺達の視線の先には普段なら決して近寄らないだろう、明るい照明の中綺麗にディスプレイされた、なんかこうふわふわひらひらとした服の数々。それを楽しそうにみやる藤宮さんと、若干引っ張りまわされ感の出ている栂坂さん……まぁ、一応可憐な女の子二人。


 根暗なゲーマー男子はこんなきらきらした空間に居たら溶けてしまいそうです……。

 女性向けのお店に居るというだけで周囲からの視線が刺さる気がしてならないというのに。


「さ。四埜宮くんに中里くん、選んでいいんだよ?」


 ご機嫌に藤宮さんはそんなことを言うのだから。


 銀剣と同じ技術を応用した仮想空間上のショッピングモールというのも最近は拡大してきているらしいが、現実の店舗はまだ健在だ。楽しいショッピングぐらい体を動かして外に出たいという人もやはり多いらしい。

 

 それにしたって。


 ハンガーにかかった服を手にとっては、小首をかしげてみせる藤宮さんと、相変わらず恥ずかしそうに遠慮がちな栂坂さん。

 二人の服装は、白の半袖ブラウスにプリーツスカート。わが高校の夏服。休日一緒にでかけるような関係であるわけもなく、それ以外の服装なんてほとんど見たことがない。あ、休日よく一緒に出掛けてましたね、鎧を着こんで戦場にね。


 そういえば、ゲームの中の二人の服装はどうだったっけ。


 藤宮さん――レティシアは、いかにも魔術師然としたローブを着込んでいた。絹の光沢が美しい、仕立てのいいローブは、神秘的な銀髪と相まってよく似合っていたけれど、現実でそんな服を高校生が着る余地はあるまい。

 栂坂さん――カンナは、白と薄緑のチュニックにスカート、皮鎧。皮鎧は置いておくとして、カンナの装備は参考にできるかもしれない。


 うん、ゲームの中の服装ならなんとなくイメージはつくのだ。なにせユキちゃんだって可愛い女の子。服装にはそれなりにこだわっている。夏場なら……やっぱり白や小花柄のワンピースとか、そう、こういう感じの……。

 

「あ、かわいいね、そのワンピース」

 

 後ろから覗き込んできた藤宮さんの声に思い切り肩を震わせて我に返る。危ない、無意識にリアルでネカマを晒すところだった。


「どっちに似合うと思ったんだろう? 私? 栂坂さん? 中里くん?」

「俺は関係ないだろ……」

「はは……天地がひっくり返っても裕真はありえないよね」

「藤宮さん、どうせ四埜宮くんはユキなら似合うかなとかそんなこと考えてたんですよ」


 なんで栂坂さんはいちいちそういうところでばっかり人の心を見通してくるんだろう。


「四埜宮くんもこういう服着てみたいの?」

「いや……だから、そんなこと考えてないって!」

「どうでしょうかー」


 栂坂さんは、さっき絡んだこと絶対根に持ってますよね……。

 そんな横で藤宮さんはワンピースを照明に翳して、矯めつ眇めつ。


「折角だから着てみようかな」


 俺達が何かコメントを差し込む余地も無く、慣れた感じで店員さんを呼び止めると、試着室へと消えていってしまう。


「ああいうところ委員長は委員長だし、レギオンマスターだよな」


 感心した風な裕真の言葉に、俺も深々と頷く。


「うん、物怖じしないっていうか、堂々としてるっていうか」

「四埜宮くんも昔マスターだったのではなかったでしたっけ……」


 栂坂さんのそんな突っ込みに後頭部を掻きやった。


「昔のことだし、リアルとゲームは別ですよね……やっぱり」

「そうですか」


 特に会話を繋げるでもなく、黒髪の同級生は手持ちぶさたに、服を手にとってはぼんやりとそれを眺めていた。


 栂坂さんにはどんなのが似合うだろう。

 リアルの栂坂さんは、寡黙で、眼鏡のせいもあってクラスの誰もが文学少女っていうイメージをもっているだろうけれど、でも、俺にとってはカンナの……剣士のイメージが強い。


 動きやすそうな……例えばキュロットスカートに、チュニックとか。イメージカラーは何だろう。

 

「どうかな?」


 また無意識にいくつか服を手にとっていた俺の認識を引きずり上げる、同級生の声。

 視線をやって……そのまま少し、不覚ながら見とれてしまう。

 試着スペースのカーテンの向こうから姿を現した藤宮さんは……それは、綺麗だった。


 夏らしい薄手の白のワンピースから伸びる細くてしなやかな白い手足。布地の上を流れ落ちる、栗色の細い髪。

 元が誰もが認める美少女なのだから当然なのかもしれないけれど、その上に美少女然とした装いは、どこか非現実的な感じもして。


「うん、良く似合ってるよ」


 そんなことを臆面無く言える裕真はやっぱりイケメンだなぁと思いつつ、自分はなんとなく照れくさくて。


「ありがとう、中里くん。四埜宮くんは何か無いのかな?」

「その……えっと、良いと思う」


 逡巡の末に語彙力の欠片も無い言葉をなんとか紡ぎ出す。


「どうもー」


 少し呆れたように、それでも微笑む委員長殿。


「栂坂さんの服は決まったの? あと中里くんからは何か提案は無いのかな?」

「俺はゲーム内美少女の悠木とは違ってそういうもんには疎いもんで……てか、二人とも元が可愛いんだから何着ても似合うだろ」

「うわぁ、イケメン発言」

 

 たぶん告白とか何回も受けてるだろう藤宮さんは、そんな台詞のあしらい方も手慣れたものだが、栂坂さんが普通に顔赤くしてるからやめてやれよ、後気の利いたこと言えない俺の立場が全くないのでやめていただきたい。


「私は別に……」


 栂坂さんは、頬の赤らみを隠すように俯いて……だけど、ふと、俺が服に手をかけているのを見咎めて、ひったくるようにそれを奪い取っていった。


「着てみればいいんでしょう?」


 呆然とする俺を尻目に、くすくすと笑う藤宮さんが手招きをして、女の子二人、またカーテンの向こうへと消えて行く。


「ご苦労なこって」

「……いや、お前も仕事しろよ」

「いや、こういうのはプロネカマのユキちゃんの方がどう考えても向いてるだろ、俺のキャラなんて完全蛮族だぞ」

「何度も言うように俺はネカマじゃないからね。ただ自分のキャラをかわいがりたいだけで」

「はいはい」


 やはり、男同士の会話は気楽で良い。女の子と一緒にでかけるなんて、ゲーム以外に取り柄の無い俺には向いていないのだと今更ながら痛感した。


「や、やっぱり良いですから……」

「今更何言ってるのー、ほら、四埜宮くんも楽しみにしてるよ?」

「ヘンタイ屑ネカマは関係な……」

「はい、オープン!」


 ……何やらカーテンの向こうで揉めつつ俺がディスられてるなぁとは思っていたけれど、ぱっとカーテンが開かれて、栂坂さんが姿を現す。


 デニム地のスカートに、白のチュニック。それに、普段はおさげに縛っている髪を解いて、眼鏡を取ったその姿は……その、まぁ。うん、十分に可愛らしかった。


「……良いんじゃ無いかな」

「もう、ほんとに四埜宮くんは語彙力ー」


 眼鏡を取ったというか、たぶん無理矢理に奪われたんだろう。おたおたと不安そうな栂坂さんに、藤宮さんは何事か囁いて、以降は女子同士のファッショントークへとのめり込んでいく。


――まぁ、一応ミッションコンプリートという奴かなぁ……。


 なんだかどっと疲れた気がして、待合い用の椅子の上にどっかりと腰を下ろしてしまう。

 それは裕真も一緒だった。


「女子は、なんか、すげぇなぁ……」

「そうだな……」


 なんか良く解らないけれど、すごい。

 ぼんやりと当たりを見回す。


 店はまぁそれなりに繁盛しているようで、何人かの女性が服を物色していた。みんな大体制服姿だったりするところを見ると、ちょうど高校生とかそのくらい向けのブランドなのかも知れない。

 

 ……ふと、一人の女の子と目が合う。

 

――……え?


 俺が違和感を覚えたのは……目が合ってからその子が視線を逸らそうともせず、こちらのことをじっと見つめていたからだった。

 ……まるで、視線が合う前からも、俺のことをずっと見ていたかのように。


 見知らぬ制服。同じ高校でも無いボーイッシュなショートカットのそんな女の子に見覚えはなく、知り合いであるはずもない。


「……どうした、悠木?」

 

 表情にでていたんだろう。裕真の声に、俺は一瞬視線を逸らす。


「あ、いや。なんかこっちのこと見てる人が……あれ」


 その一瞬で……女の子は居なくなっていた。




急展開?(そうでもない


CM(

心温まる現代ラブコメ。こちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。

http://ncode.syosetu.com/n4079dy/

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[良い点] フラグ……?気になる! [一言] リアルユキちゃんかと思ってたですww
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