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002

「……みや」


 考えていたのは何のことだったっけ。

 連続しない思考に浮かんでは消える泡沫のような断片化された景色や、声や。

 それは銀剣の世界の地図だったり、誰かと合わせた剣戟だったり、戦旗の入り乱れる戦場だったり。

 

 ……誰かが笑ってくれていた気がした。

 

「……四埜宮、おいっ!」

「ふごっ」


 鈍い音と一緒に、脳裏一杯に散った火花が夢の景色を彼方へと吹き飛ばした。

 後頭部を引っぱたかれ、その勢いで顔面から机に突っ込んだのだと理解するには、少しばかり時間を必要とした。

 回復する視界とともに、耳にくすくすと笑い声が流れ込んでくる。

 呆れた笑い声。

 笑ってくれていたのではなく、笑われていたのでした。

 

 現実は散文的で残忍だ。見上げればそこには、にっこり笑顔の担任教師殿。

 

「授業を真面目に受けてさぞかし疲れたのだろうが、ホームルームもだーいじな授業だからな? あと少し辛抱してくれ?」

「……すみません」


 よもやネットゲームとネットゲームのための作戦立案で睡眠時間が削られているせいとはバレてはおるまいが、皮肉たっぷりの言葉を愛想笑いで受け流す。

 

 お言葉の通り、既に陽射しはわずかに橙の色を帯び始める時間帯だった。あと10分とせずに、縛られた時間は終了だ。

 おうちに直行して銀剣にログインするのも、おうちに直行して漫画やライトノベルやらをだらだら読み漁るのも自由になる。


 諸葛亮問うて曰く、家に直行する以外やることはないのですか。

 答えて曰く、ない。


 なんにせよ今ひとときの辛抱。

 

 はぁとため息をついて、おそらく一番呆れているだろう後ろの席の人のことをちらりと伺い……思わず瞬きをした。


 机の上に黒い髪が這いずっている。

 真面目で優等生(なイメージだけど、その実は頭に血が上りやすい上に、すぐに手が出て、そのくせ無駄に気高くて面倒くさい)栂坂さんが、突っ伏して完全に沈んでいる。


――見なかったことにした方が良いかな。


 俺ばっかり怒られるの不公平じゃない? と思わないでもなかったが、告げ口などというのもなんだかみっともない感じがするし……後で報復があるやもしれないし。


 などとつらつら思いながら前に向き直ったが。


「ほう……お前達はそろいもそろって本当に仲が良いことだなぁ」


 ……俺は単にちょっと振り向いただけ。何も悪くない。



 ◇  ◇  ◇



「四埜宮くん」

「はい……なんでしょう」


 ホームルームも終わり、少し時間が経ったからか、廊下を通る人は少なかった。もうみんな、それぞれの放課後の居場所に散っていったからだろう。


 とぼとぼと歩く男女二人。


「居眠りをしてしまったのは私が悪いんです。四埜宮くんが居眠りしなかったら見つからなかったのにとか、そういうことは言いません」

「……それは良かった」

「でも、どうしてこう無性に気持ちに収まりがつかないんでしょう。きっとまた四埜宮くんのこと足蹴にすればすっきりする気がするんですけど」

「流石に理不尽すぎるのではないでしょうか……」


 俺と栂坂さんである。

 千早センセに一通りのお小言をいただいた帰りだ。

 職員室から教室への道を、斜め後ろに微妙な距離を保ってついてくる栂坂さん。

 前より、会話は気軽に交わせるようになった気がする。(内容が酷いのはいつものことだけど……)

 だけど、やっぱりこういう距離感というか、なんというかはまだまだ、微妙なままです。


 友達かなぁ、友達なのかなぁ。

 銀剣ならフレンドリストに入っていればお友達! っていう大変わかりやすい基準があって良いのだけど。現実も友達登録制にすればいいんじゃないかな。


 それから続く会話もなく、俺と栂坂さんは教室へと帰り着く。


「全く何やってるのかなぁ、二人とも」


 がらがらになった教室から、だけど、そんな声が俺達を迎えた。

 机に腰を預けて、帰り支度を整えて、いかにも俺達を待っていたという風体でこちらを見た二人。

 裕真と、委員長殿――藤宮さん。


 きょとんとしてしまって、思わず後ろを振り返る、栂坂さんも目をぱちくりさせていた。


「二人ともどうせ夜遅くまで遊んでたんでしょ? ダメだよー、リアルを大事に!」


 そんな大事な固有名詞を伏せて、いかにも優等生っぽいことを言う藤宮さんだけど、これでレギオンマスターを務める一級廃人なのだから、すごく言葉に重みがあった。


「わざわざ待っててくれたの?」

「まぁな」


 俺の問いかけに、裕真はそうだよ、とさも当然のごとく頷いた。


「二人ともなんか煮詰まってそうだし、たまには遊んで帰ろうぜ」

「え、俺帰ってはやく銀剣ログインしたい……」

「遊んで帰りましょうねー、ユキちゃん」

「あ……はい」


 藤宮さんの笑顔に、俺は一瞬で反論を引っ込めた。

 

 もう一度、斜め後ろを伺う。

 ……果たして、栂坂さんが何に煮詰まっているのか、俺には知るよしも無かったけれど、俺が煮詰まっているのは確かなことで。


 たまには気分転換も必要かなとは確かに思ってはいたのだった。

長らく更新できず申し訳ありませんでしたorz


ちょっと短めですが、また定期的に更新していきたいと思います!

お見守りいただければ幸いですー

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